第八話
俺の啖呵を皮切りに戦闘体制に入った俺たちであったが、そこでシルヴァが重要なことに気づいた。
「ちょっと待ってください、ここで戦う気ですか?郊外とはいえ、街の広場で?」
確かに失念していた。こんなとこで戦っていたら速攻AIGISが飛んでくるだろう。
「完全に忘れてた。なんかいいところ知らないか?」
「いいところ知らないかって……。締まりませんね、もう。少し先に行けば汚染区域との緩衝地域があります。そこなら周りを気にする必要もないでしょう」
環境破壊や核兵器で居住不可になった土地の近くか、緩衝地域なら汚染の侵食を防ぐために広く設けられてるし、少し暴れても問題ないな。
「OK、じゃあそこでやろう」
「今から戦う相手と連れ立って移動というのもおかしな話ですが、仕方ないですね。わかりました」
呆れるシルヴァと共に俺は移動するのだった。
ーーーーー
10分ほど歩くと、緩衝地域についた。目の前には荒野が広がっており、所々に廃墟が存在する以外は何もない。なるほどここなら存分に戦えそうだ。
「さて、じゃあ始めるか。それとも《白銀》様はまだ準備が必要か?」
「挑発には乗りません。そういうのが貴方の手口だと分かっていますから」
少しでも、冷静さを崩せないかと思って挑発してみたが、効果はないか。少しの油断もなくシルヴァはこちらをみている。
「あーあ、最初の方は動揺してて面白かったのになぁ」
「御託はもう十分ですか?そちらから来ないなら、先手はいただきます」
そういうやいなや、シルヴァはとてつもないスピードでこちらに突っ込んでくる。そしてその勢いのままに掌底を放ってきた。なんとかガードしたが、重いな。
「ったく、少しは手加減してくれよ。身体強化も一流とは聞いていたが、ここまでとはな。冗談きついぜ」
戯けたようにいう俺だが、シルヴァは俺が攻撃を防いだことに驚いているらしく、目を見開いていた。
「まさか、防がれるとは。私の攻撃を防げるほどの身体強化……、貴方は一体何者ですか?」
「はは、ただの子悪党だよ。それにこれぐらい防げないと、お前に喧嘩なんて売れねえだろ」
「それも、そうですねっ」
話しながらもシルヴァは再び突っ込んでくる。今度は蹴りか。俺は蹴りをいなしつつ、今度はこちらから攻撃をしかけるがあっさりかわされた。
「おいおい、こっちはギリギリだってのに余裕でかわしやがって」
「そっちこそ、軽口が叩けるくらいですから、まだまだ余裕みたいですね」
「はっ、そうだったらよかったけどな!」
会話をしながらも、俺たちは攻撃の応酬を続ける。しかし強いな、身体強化のレベルが半端じゃない。俺もそれなりに鍛えてきたつもりだったが、それでも差が大きい。今はなんとか攻撃の予測や、カウンター主体の戦い方をすることによって誤魔化しているが、俺の方は少しずつ削られ始めているのに対して、相手はほぼ無傷。このままだとジリ貧であるため、俺は大ぶりな攻撃で相手を引かせた後に、一度距離をとった。
「どうしたんですか?もしかして、もう諦めたんですか?あれだけの啖呵を切っておいて?」
今度はシルヴァの方から、俺を挑発するような言葉を投げかけてくる。余程、ここ数日俺に揶揄われていたのを気にしていたのか、立場が逆転して心なしか楽しそうだ。ムカつくので、ここは一つ意趣返しと行くか。
「そんな風に煽っていいのか?そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ?」
「なんですか?私はもう貴方のくだらない揶揄いには耳を貸さないと決めたんです」
「へー、じゃあ言わせてもらうけどよ。お前さっきから俺のこと犯罪者呼ばわりしてるけど自分はどうなんだ?違法娯楽施設を満喫してたし、俺の家でゲームも楽しんでたよな?」
「なぁ!?」
「自分のことは棚上げか?それともあれは捜査でしたとでも言うつもりか?いやいや、《白銀》様は面の顔が厚いなあ!!」
俺が、非常にムカつく顔をしながら言うと、シルヴァは先程の耳を貸さないと言う言葉はどこにいったのか顔尾を真っ赤にしている。
「貴方ねえ!もう怒りました!数日間お世話になった恩もあるから少しは手加減してあげようと思っていたのに、そのような態度を取るなら容赦しません!」
あちゃあ、火に油を注いじまったか。冷静さは失ってそうだが、むしろこっからのがやばそうだな。まぁ手加減されて勝っても面白くないし、いいか。
「上等だ。こっからは俺も本気で行かせてもらう。吠え面かくなよ!」
「その余裕がいつまで続きますかね?知っていますか私の本来の獲物はこれなんですよ」
不敵な笑みを浮かべたシルヴァが取り出したのは、剣……?
「いや、刀か……?」
「よく知っていますねこれはかつて極東の方で使われていた刀と呼ばれる武器をエレメントによって再現したものです。収納もできて嵩張らないから便利なんですよ?——では行かせていただきます、さっきまでと同じように行くとは思わないでくださいね!」
「わざわざ、解説ありがとよ。にしても——」
「これ以上話しているとペースを乱されそうなので行かせていただきます。さっきまでと同じように行くとは思わないでくださいね!」
俺が話そうとするのを遮ってシルヴァがエレメント製の刀を構えながらこちらに向かってくる。全くせっかちなやつだ。にしても刀か、不思議なこともあるもんだな。そう考えながらシルヴァを迎え撃つため、俺は能力を発動した。
「えっ」
シルヴァは彼女の刀を迎え撃った俺の手にあるものを見て驚愕の表情を浮かべている。
「奇遇だなシルヴァ。俺も刀を使うんだ」
「しかし、刀なんて今じゃほとんど知られていないはずでは……?それにいったいどこからその刀を?」
「刀を知ってるのは、俺がさっき言ってた極東出身だからだな。どこから出したかは——企業秘密だ」
「なるほど、黒髪は珍しいと思っていましたが、極東の出身でしたか。刀の出どころは、まぁ今聞いても仕方がないですし、貴方を捕まえた後にゆっくり聞かせていただきます」
そう言ってシルヴァは再び仕掛けてくる。しかし、先程よりはキツくない。シルヴァも刀の使い方が上手いが、技量ならこっちの方が上らしい、シルヴァは驚いているようだ。
「いったい今時、どこでそんな腕を!?」
「ははは、ちょっと伝手があってな」
「またそれですか……」
呆れるシルヴァを他所に俺は再び能力の発動準備をする。今のところ身体強化のレベルと刀の技量で互角、このまま打ち合っていても埒があかないため、昨日考えた戦法の一つを使うとしよう。俺は一度強烈な一撃でシルヴァを吹き飛ばし、彼女に手のひらを向ける。
「何を——」
「さぁ、くらいやがれ。変換!」
そう言って俺は困惑するシルヴァをよそに、強烈な光を手から生み出す。もちろん自分は目を閉じて回避している。そしておそらく現在目をくらませているだろうシルヴァの方へ斬りかかった。
「なるほど、目潰しですか」
しかし、確実に届くだろうと思っていた一撃は、しっかりと目を開いているシルヴァによって防がれていた。
「勘弁してくれよ。どうやって回避した?」
「ふふ、企業秘密です。それより今の光に、先程のどこから出したかわからない刀……、貴方の能力が少し分かってきました。信じ難いですが創造系のしかもかなり自由度の高い能力」
流石に鋭いな。これだけで能力を看破されるとは。
「ご明察。俺の能力はエレメントを様々な物に変換する能力だ」
まぁ、それだけではないがわざわざバラさなくてもいいだろう。隠しておけば切り札になりそうだしな。
「なるほど、げーせんで出していた外套や現物の食材もそれで作っていたのですね」
「そういうことだな、便利な能力だろ?」
「そうですね、非常に厄介な能力です。どうやら出し惜しみしている場合ではないようですね」
そういうと同時にシルヴァの周りでエレメントがうねり始めるのを感じた。いよいよ能力の発動か……。
俺とシルヴァの戦いは佳境に入ろうとしていた。
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