第七話
そして当日、約束の場所に向かうと昨日、一昨日とは違い既にシルヴァが待っていた。
「悪い、待たせた。それにしても、だいぶ早いな。俺も早めにきたつもりだったが、そんなに楽しみだったか?」
俺は少し戯けてみるも、シルヴァは真面目な表情を崩さない。
「茶化さないでください。あなたが大切な話があると言ったように、私も今日は真面目な話をしにきたんです」
シルヴァは鋭い目でこちらをみている。昨日までと露骨に態度が違うところを見ると俺の正体がある程度露見したか?
「真面目な話か。俺がシルヴァのデバイスに細工をしたことにでも気付いたのか?」
「なっ!?」
「あれ?違かったか?じゃあもはや調査中のデバイス盗難の犯人が俺だってことまでバレてるのか」
まぁ、正直バレてない方が不思議だったしな。我ながら不審すぎた。そんなふうに一人で納得しているとシルヴァが驚愕の表情でこちらをみていた。
「な、あ、あなた……」
「どうした?もうバレてるもんだと思っていたが、まさか違ったのか?」
「それは——薄々気付いてはいました、でも」
「なんだやっぱりバレてるんじゃないか」
「でも、そんな簡単に言うことですか!?こっちがどんな気持ちで……」
「落ち着け、確かにデバイスに細工をしたのは俺だし、盗難の犯人も俺だ。でも直接シルヴァに関係あることか?それとも通報でもするのか?」
俺はシルヴァの正体に気付いているが、惚けて聞いてみる。既に決定的に敵と認識されているかどうかを測ろうとしてのことだったがこの様子だと、大丈夫そうだな。
「それは、その、えっと」
まだ悩みが見えるシルヴァに俺は決定的な一言をかける。
「ま、関係ないわけないよな。何故なら本来お前は俺を捕まえなければいけない立場にいるからだ。なぁ、政府最高権力者の娘にして、AIGIS所属特務官《白銀》ことシルヴァ=アストレア様?」
「え……?どうしてそれを……」
「どうしてって言われてもなぁ。逆にバレてないと思ってるのが不思議だわ。シルヴァ、お前めっちゃ有名だぞ?白銀の髪に整った容姿でわかりやすいし」
シルヴァは目を見開いて驚いているが、俺からしたら何故バレないと思っていたのかの方が不思議だ。意外と天然だったりするのか?
「そんな……。でもじゃあ何故私を違法な施設に連れて行ったり、違法娯楽物を見せたりと危険なことを?」
「そうそう、それが今日の大事な話につながってくるんだよ。シルヴァ、俺と手を組まないか?」
「手を、組む?」
「そうそう、今の世の中ってつまんないだろ?大手を振ってゲームをすることすらできないし。だから俺たちでひっくり返してやろうっていう提案だ。どうだ、面白そうだろ?」
シルヴァは初め、ぽかんと口を上げて呆然としていたが、やがて俺の言っていることを理解したようで鋭くこちらを睨みつけてきた。
「馬鹿なことを言わないでください!ましてや貴方は犯罪者、私の正体がわかっているのならそんな世迷言は出てこないはずです!」
「そうかぁ?でもお前、俺のことまだAIGISに報告してないんだろ。してたら今頃俺は包囲されるだろうしな。もちろんそんな気配があるなら俺もさっさと逃げててたけどな」
「それは、貴方の事情を聞く余地があると思っていたからです!悪い人ではないと思っていたのに、失望しました!」
「おいおい、そう言ってくれるなよ。デバイス盗難のことか?あれは余ってるやつから盗っただけで、俺は偏ってる金を足りない方に流しただけだぜ?ま、ゲーム買ったから得したのも事実だが」
「偏っている金を足りない方へ?一体どう言うことですか?」
「特権階級の無駄に高性能なデバイス盗っただけで、盗まれたら困るような一般階級のは盗んでないってことだ。むしろ闇市の人間とはいえ一般階級に金を流してるから慈善事業だな」
「それは——でも誰が相手であろうと盗みは犯罪です!それに高性能なものを選んで盗んでいたと言うのなら私のものを盗まなかったのはおかしいはずです!」
「シルヴァのを盗まなかったのは勘だな。これを盗まない方が面白いことが起きる気がする、そう思って届けたんだ」
「そんな馬鹿なことがあるはずないでしょう!」
「でも実際俺は盗んでないし、そして持ち主はお前だった。どうだ?俺の勘も馬鹿にならないだろ?なぁシルヴァ、さっきの続きになるが、おかしいと思わないか?」
誤解も解けたところで改めて俺は説得に入る。
「何がおかしいと言うのですか?」
「今の社会だよ。格差は依然として広がり続け、一般階級は現状を抜け出すために働くことすらできない!娯楽も禁止、外を歩いているのはもはや死人と言っても差し支えない!こんな世の中が正しいと思うか?それとも自分はAIGIS所属のエリートで政府最高権力者の娘だから、そんなことはどうでもいいのか?」
「そんなことは思ってません!大体あなたは他人のことなんて気にしてないでしょう、ここ数日の振る舞いを見ていればわかります!貴方にそんなことを言われる筋合いはありません!」
「はっ、よくわかってるな!そうだ俺にとってはどうでもいい、自分が楽しければそれでいいからな。だが今言ったことは事実だ。お前はそれを見過ごしているままでいいのかって俺は聞いてんだよ!」
そう、こいつほど真面目な奴が現状に疑問を持たないとは思えないのだ。だからこそ説得する余地がある。
「そ、それは、でもどうするっていうんですか!オルディネ政府は強大です!まさか世界中を敵に回すつもりですか!?」
なるほど疑問は抱いているが、オルディネを変えようにも現政府の力が強すぎると思っているのか。まぁ、内部に食い込んでいるだけに見えるものもあるんだろう。だが、そんなことは関係ない。
「あぁ、そうだよ、世界をひっくり返すんだ。ちょうど退屈してたし、いい暇つぶしになるだろ。それに俺とお前が組めばできる気がするんだ。勘だがな」
「また適当なことばかりを言って!思い返せばあなたは初対面の時も私を騙くらかして!そうやって口八丁手八丁で人を思い通りに動かすのがあなたの手口だと言うのはもうわかってます。そんな人の言うこと信じられません!」
「俺の勘が馬鹿にならないのはさっき分かっただろ?それでも信用できないと言うのなら——」
「信用できません!それでどうするおつもりですか!!」
「そうだな、なら仕方ない。証明してやるよ!オルディネ政府の象徴とも言える最高戦力《白銀》様を打ち倒してな!」
「なっ!?正気ですか!?」
「あぁ、正気さ。それにお前はAIGISの捜査官で俺は犯罪者、そっちこそ俺を捕まえなくていいのかよ?」
俺が本気なのが分かったのか、シルヴァは一度目を閉じ、再び開いた時には目の色をかえ、そして口を開いた。
「……いいでしょう、やれるものやってみなさい。特務官の肩書はあなた程度が打ち破れるほど甘くはありません。その傲慢さを矯正してあげます」
「はっ、そっちこそ足を掬われないように気をつけるんだな!」
こちとら、昨日遅くまでお前の対策を考え続けてたんだ。厳しい戦いにはなると思うが、負ける気はない。
そうして俺は雰囲気の変わったシルヴァを前に、戦闘姿勢に入るのだった。
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