第十話
「還元」
そう言って俺は触れているシルヴァの刀に対してもう一つの能力を発動する。その瞬間、刀は微細なエレメントの粒子となって空気中に舞う。
「っ!?」
驚愕のあまり硬直するシルヴァの隙を逃さず、俺は勢いのまま彼女に突っ込み、姿勢を崩したところで首の近くに刀を置いた。シルヴァも一瞬の硬直の後、すぐに対応しようとしていたが間髪入れずに突っ込んでいた分、ギリギリ押さえ込むことに成功した。
「今のは一体………?あなたの能力はエレメントを物質や別のエネルギーに変換する能力では?」
シルヴァは今起きたことがまだ理解できていないのか、驚愕の表情でこちらをみている。
「まぁ、それも能力の一つだな。だがエレメントからの変換ができるなら、逆ができたって不思議じゃないだろう?」
「……なるほど、あなたの本当の能力はエレメントと物質、エネルギーの相互変換。片方の力しか使っていなかったのは最後の最後で私を欺くためということですか」
「その通り、これくらいしないとお前には勝てそうになかったからな」
そう、俺の本来の能力はシルヴァの言ったようにエレメントからの変換とその逆、物質やエネルギーをエレメントへと変換する能力。デバイス追跡機能の無効化や食材の変換はこの能力の応用というわけだ。
最初こそ隠すつもりはなかったが、途中でシルヴァが刀を使ったため、これは切り札になりうると思い、使用を控えていた。それに、シルヴァの能力相手だと還元の方はあんまり意味なかったしな、相手が炎や電気、物質によって攻撃してくるなら還元で無効化ができるんだが。
「それで、まだやるか?これ以上はお互い限界も近いし、できればお前みたいな美少女相手に傷をつけるなんてしたくないんだが?」
俺の目的はシルヴァと手を組むことだし、このまま首を切るわけにはいかない。このまま続けると負けるのは俺だろう。頼む諦めてくれ!そう祈りつつシルヴァに視線を向ける。
「そう……ですね。そもそもあなたが本気だったら私はもう首を切られているでしょうし、駄々こねても仕方がありません」
「ということは?」
「はぁ、あなたの勝ちということです。まさか本当に私が負けることになるとは」
「っしゃああああああ!特務官討ち取ったりいいいいいい」
俺は思わず歓喜の声をあげる。すると感心してるような目であったシルヴァがだんだんと呆れの表情に変わっていく。
「あまり調子に乗らないでください!そもそも最後の一撃なんて私が刀を止めていなかったらあなたの手は今頃半分なくなってたんですよ!」
「あ〜、まぁあれはシルヴァなら止めるかなって。言ったろ俺は人を見る目には自信があるんだ」
「またそれですか!」
「ははは、でも勝ちは勝ちだろ?大体さっき俺の勝ちだって言ったのお前だろ」
「うっ、それはそうですけど」
「どうもこうもないっての、で?どうなんだ?」
「どう、とい言いますと?」
「おいおい、忘れたのかよ。手を組むのに値するか証明するって話だったろ?」
「確かにそんなことは言ってましたけど、私が負けたら手を組むとは一言も——」
「おい!じゃあなんのために俺は戦ったんだよ!こちとらお前のバカ力でぼろぼろなんだよ。報酬よこせ!!!」
「あぁ!またバカ力と言いましたね!女性に向かってその物言い、やはり一度矯正する必要があるようですね!!!」
そう言って再び能力を発動させようとするシルヴァ。
「上等だ!!そっちがその気ならお前が降参って言うまでこっちも諦め、な——あ?」
ヤケになってシルヴァに応戦しようとした俺だが、途中で腹部に違和感を覚える。血?シルヴァにはこんな致命傷になりうる攻撃は喰らってないはず、ならなぜ?
「え……、キョウヤさん、その傷は」
「いや、俺もわからないんだが——」
俺たちが状況がわからず、混乱していると乾いた音が鳴り響く、これは銃声?
「キョウヤさん、危ない!!」
しかし、今度は俺の体に銃弾が届くことはなかった。咄嗟にシルヴァが刀で弾いて、銃弾を防いでくれたようだ
「あ、ああ。助かった、これ以上はちょっとやばいかったかもしれん」
すでに腹に穴が三つほど空いている、これ以上受けると本格的に致命傷だ。
「待っててください、今治療を」
「シルヴァ様、ご苦労様です。しかし治療の必要はありません。そこにいるのは政府に仇をなす犯罪者なのですから」
シルヴァが治療のために俺に近づこうとしたところで、俺たちの後ろから声がかかった。驚いて振り向くと、そこには青と白を基調とした軍服を着込む集団がいた。中心にはピンクの髪をした一際立派な軍服を着る女がいる。まさか……
「ユリス一級捜査官、それに他の皆さんもどうしてここに……」
「ルドルフ様から命がありまして、シルヴァ様の戦闘が確認されたので応援に行くようにと。シルヴァ様ほどのお方に応援が必要なのかとも思いましたが、まさか貴方が追い詰められるほどの相手だったとは。しかしこれだけの戦力であれば心配ないでしょう、あとはお任せください」
そう言って武器を構えるAIGIS連中、まずいな、俺を殺す気か?
「なぜ武器を?彼はもう動けません、捕縛するのではないのですか?」
「いえ、シルヴァ様をこれだけ追い詰める相手、油断はできません。それにルドルフ様より生死は問わないと伺っています。犯罪者であるアレに容赦はいらないでしょう」
「しかし、彼の行ったことはそこまで重い罪ではありません」
「シルヴァ様、何を仰っているのですか?犯罪に重いも軽いもありません。ましてやこいつはAIGISに対して戦闘を起こしています。容赦はいらないでしょう」
「でも……」
シルヴァが止めようとするも、ユリスとかいうやつは耳を貸さない。まずいな、俺の能力は治癒には使えない、このままだと本気で死ぬ。なんとかシルヴァの協力を取り付けなければ——そうだ!
「ちくしょう!後少しで《白銀》の洗脳が可能だったというのに!AIGISめ邪魔をしやがって!!」
「洗脳?確かに様子はおかしいですが、シルヴァ様ほどの方がまさか……」
「なっ!?」
驚くシルヴァ。そう、ここで俺を庇うシルヴァの立場を悪くしないように洗脳ということにすることで、献身的な俺にシルヴァは感動。めでたく俺の仲間に!と、俺は何やら思い悩んでいるシルヴァにウィンクで合図を送る。しかしシルヴァはそれに気づくと先程まで曇っていた目を、めちゃくちゃ呆れた目に変え、こちらに向けてきた。あれ?そして何やら小声で呟いている。
「はぁ……。負けは負けですし、仕方ありませんね。それにこっちの方が——楽しそうですし」
そして吹っ切れた表情になると俺の方に向かうAIGISの前に移動し口を開いた。
「ユリス捜査官」
「は、なんでしょうシルヴァ様」
「彼はもう瀕死、それに殺す必要があるとは思えません。ここは退いてはくれませんか」
「シルヴァ様、先ほども言ったように相手は犯罪者。慈悲は無用です」
「犯罪者なら殺してもいいと?」
「社会に仇をなしているのです。死んで当然でしょう、それが政府の方針のはずです」
「では特務官としての命令です。ここは退きなさい」
「シルヴァ様、何を」
雰囲気の変わったシルヴァにたじろぐピンク頭。これはいけるか?
「聞こえませんでしたか?退きなさいと言ったのです」
再び命令を下すシルヴァにピンク頭はしばらく無言であったが、やがて口を開いた。
「……いえその命令を聞くことはできません。我々はルドルフ様の命によりここに来ております。それにシルヴァ様もこの犯罪者のせいで少し判断が鈍っている様子。いくらシルヴァ様といえど、ここで退くわけにはいきません」
そして強い目でシルヴァを睨みつけた。
「そうですか。では仕方ないですが、私が思う正義のためにも無理矢理通させていただきます」
「無理矢理?——まずい!総員レジスト態勢!!!」
「あなたたち程度がレジストできるとでも?——破調」
そう言ってシルヴァは戦闘体制に入るAIGISに対して、俺を苦戦させた能力を発動するのだった。
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