第12話 ミス・海の家
ご想像通りです
トーリの酒乱騒動があったが、それすらも一つのイベントとして楽しんだ俺達は、ノンビリと談笑を続けていた。
肉などは焼き終わり、みんなはデザートに移行している。この楽しい時間も終わりが近づいていた。
「秋穂がラーメンの注文を間違えて、焼きそばを運んでラーメンと言い張ったのには笑ったわ」
「五郎丸さんも焼きそばを見て、どう見てもラーメンじゃねぇか! って援護してたよね」
「あはは。でもあのお客さん、少し可哀そうだったかな」
「でもあの人、冬凛ちゃんのお尻を触ろうとしていたんですよ? だから五郎丸さんに相談したんです」
「はぁ!? なにそれ!? 本当なの!?」
「冬凛さんって足が長いから、触りやすい位置にあるんじゃない?」
「あのね……というか、春香だって髪を触られそうになってたわよ」
「うそ? 信じらんない……明日は髪上げよう」
やはり色々とあったようで、ここにきて愚痴が爆発している四人。
明日もフルタイムでバイトある。なにか対策を考えた方がいいんじゃないだろうか?
「五郎丸さんに相談してみるか?」
「「「「う~ん……」」」」
相談というか報告はするという事になったが、どれほど効果があるのかは分からない。
禁止されてても、ダメな事でもやる奴はやるのだから。五郎丸さんや他のスタッフの人に目を光らせてもらうしかないな。
「そうだ。ねぇ九郎くん、ちょっとこっちに来て?」
「あ? ああ、いいけど」
春香に手招きされ春香の傍に。すると春香は、徐に頭を差し出した。
「……春香? なんで急に頭を垂れるの? 面を上げい」
「違くて! 髪を撫でてくれないかな?」
「はぁ? まぁ、触っていいなら……喜んで」
春香の頭に手を置き、軽く撫でてみた。もう風呂は済ませていたのか、ビックリするほどサラサラなのだが。
俺なんてガビガビだぞ、潮風のせいだと思うが。とても同じ人間の髪とは思えん。
「あ~そういう事か! 冬凛も先に撫でてもらえば? お尻」
「なっ!? そんなのいや……ではないけど、ダメよ!」
「クーちゃん、私の胸も――――」
「「「――――だからそれはダメっ!!!」」」
何の事か分からなかったのだが、まぁ楽しそうにしているし良しとしよう。
そろそろ引き上げる時間だろうか。そんな事を考えていると後ろから大人たちの声が聞こえてきた。
「はぁ~い注目~! 人気スタッフ投票イベントの結果発表を行いま~す」
中央に設置されているバーベキューグリルを挟んで、俺達と大人たちは左右に分かれていた。
大声に振り向くと、グリルの近くで父である六斗が箱を抱えて立っているではないか。
というか人気スタッフ投票とはなんだ? 俺は何も聞かされていないのだが……父が勝手に行ったイベントなのかと思ったが、違うようだ。
近くに座る四人が緊張したのが分かった。どうやら彼女達は知っていたようだけど。
「投票数はざっと数百から千かな? これは凄い事だよ! 他にも海の家はあるのに、うちが一番賑わったんじゃないかな?」
「うちとか言ってるけど、お前は何もしてねぇだろ」
「そう言わないでよ五っちゃん! 俺は集客に貢献したと思うけどな~。もちろん、一番の功労者はスタッフの皆だけどね!」
六斗は話しながら、箱から紙を取り出しては集計している。その隣では母の三枝子が集計を手伝っていた。
どうやら四季姫四人も含めたスタッフ達で、誰が人気なのか競っていたようだ。今日はスタッフが少なめだったらしいが、それでも十人以上いた。
凄く綺麗な女子大生もいたなぁ。でも彼女達なら上位に食い込めるとは思うが。
「メイン特典は豪華景品! 副賞は九郎と休憩時間にデートですっ!」
「は、はぁ? そんなん誰が喜ぶんだよ」
取って付けたような副賞。景品だけ受け取り、副賞は辞退する彼女達の姿が目に浮かぶ。
いや待てよ? 強制デートって事だろ? 嫌でも拒否できない……いや、嫌なのは悲しいけど。
彼女達は優しいから、断れないんじゃ? ってことは大手を振って四人の中の誰かとデートできる!?
なんにせよ、テンションが上がって参りました。彼女達も嫌がっている様子はないので、気にせずに楽しめそうだ。
「ちなみに明日は隣で音楽ライブイベントも企画してるから、今日より混むと思うよ」
今日以上に混むって、ヤバいでしょ。明日は土曜日だから、夏休みが関係ない人たちも来るのだろうし。
「お~地味に九郎に入れている人もいるな……ってなんだコイツ!? 五郎丸に投票してやがんぞ!?」
「おお!? 俺の男らしさに惚れた女性がいるようだな!」
「……いや、四十台男性に丸がついてる」
「…………」
寒気がした。そういう人もいるのは分かっているけど、あまり想像したくない世界ではある。だって五郎丸さんだよ……。
「……あれ? おかしいな……」
どんどん紙を取り出しては集計していく六斗。どうしてかは分からないが、徐々に焦ったような表情に変わっていく。
しかしどうして集計してから結果発表をしないのだろう? 流石に数百ともなれば時間が掛かるし……少し待つのに飽きてきたんだが。
本当にイベント企画会社の人間か? 段取りが悪すぎだろ。
「「「「…………」」」」
でも隣で真剣な表情をしている彼女達を見ていると、飽きましたなんて顔はできない。
商品はあるようだが、よくそこまで緊張感を維持できるな。よほど凄い商品なのだろうか。
「……夏……冬……八……八……春……八……秋……八……あれ……?」
なぜか徐々に顔色が悪くなっていく父。仕舞には手まで震え始めた。
そして、長いようで短かったのかもしれない集計が終わった。
「け……結果はっぴょー……」
未だかつて、こんなにテンションの低い結果発表の掛け声は聞いた事がない。一番の盛り上げ所なのに何やってんだ?
「「「「……ゴクリ」」」」
息を飲む四人。ニヤニヤする五郎丸と八千代。顔面蒼白な六斗、疲れた顔をしている三枝子。
「え~と……な、なかった事にしようか? やっぱ優劣を付けるのはよくないと思うんだ」
「おいおい!? ここまで待たせてそりゃないだろ!?」
五郎丸さんの言う通り、何を言い出すのか。自分で企画しておいて、流石に勝手すぎるでしょ。
「ですよね…………じゃぁ……人気No1に輝いたのは…………!!」
春香か!? 夏菜か!? アキか!? トーリか!? それとも美人なお姉様達の誰かか!?
「…………八」
「はぁ? はちってなに?」
「No1は……八千代!! 南雲八千代ッ!!」
「へ?」
「「「「ええええええェェェェェ!?!?」」」」
「あらあらまぁまぁ……困ったわね~」
四人の叫び声が夜空に響いた。驚愕の表情で八千代さんを見る四人と、とても困っているようには見えない八千代さん。
四人と俺は慌てて集計された紙に近づいて、内容を覗き込んだ。
『大人の色気ヤバい』『汗が色っぽい』『デカッ!?』『料理さいこー』『あれで人妻?』…etc
俺達の海の家は調理場が見える構造になっている。接客していない八千代さんを見る機会は多分にあった……あったのだが……。
高校生や大学生の彼女達を差し置いて、アラフォーの美魔女がNo1とは!? 二位に倍近い差を付けての大勝利を飾っていた。
「あらあら、ごめんねみんな~。大丈夫、息子に手を出したりしないわ」
「デ、デートはするんですか?」
「まぁせっかくだし? 彼には聞きたい事もあったのよね~」
「「「「八千代さ~ん……」」」」
明日、俺は人妻とデートする事になりました。
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