第9話 接客担当
「――――ただいま三十分待ちとなっていま~す!! 整理券を貰ってない方は、此方に並んで下さ~い!!」
照り付ける太陽、滲み出る汗、途切れない客足。
予想以上の反響を見せた海の家は大混雑していた。シャワールームもあるのだが、ほとんどの客が飲食目的。
俺は調理に回される暇もないほど、店先で客の管理をずっと行っていた。
「お前、誰に入れた?」
「俺は春ちゃん! お前は?」
「俺は夏ちゃんだなぁ」
店から出てくる客から時折聞こえる会話。春とか夏とか、何の事だと思ったのだが、そんな事をずっと考えている余裕もないほどには忙しかった。
「秋ちゃん……ヤバくね?」
「冬ちゃんの方がヤバいだろ」
何度か店から出てくる客の会話を聞いていて分かったのは、間違いなく接客をする彼女達が関係しているという事だけだった。
それなりに他の会話も聞こえてくるのだが……ハチさんってなんだろう?
(ってあの団体、また並び出したぞ?)
さっきから見覚えのある人が何人もいると思ってたのだが、どうやら何回も入店している人達がいるようだ。
新規+リピーター、そりゃ混むわな。
食事目当て……? 調理担当の八千代さんの料理は美味しいけど、そんな食べられないと思うのだが。
となればやはり、四季姫狙いなのだろう。興味を引かれた俺は、手が空いた隙を狙って店内の様子を覗き見た。
「いらっしゃいませ~」
「おススメはこちらですよ」
「ご注文はお決まりですか?」
「オーダーお願いしま~す」
せかせかと働く四人の美女の姿が見えた。
みんな水着姿にエプロンという、何かを掻き立てられるような恰好をして給仕していた。
当然、その美女には男の目が集まっているようだが、彼女達は特に気にする様子もなくニコニコと楽しそうに働いている。
ちなみにスタッフには、簡単なネームプレートが渡されていた。俺は九、彼女達は春夏秋冬だ。
「ねぇ君! 良かったら仕事終わったら遊ばな――――」
「――――お客サマァ? 当店スタッフへのお声掛けご遠慮いただいておりますゥ。あの注意書きが見えねぇのか? アアッ!?」
「ひぃぃぃ!? す、すみませんっ!!」
五郎丸の圧よ。あんなクマゴリラに睨まれたら裸足で逃げ出すよ。
五郎丸さんがいるから皆も安心できるのだろうな。みんな笑顔、特にいい笑顔をしているのは――――
【春】
【夏】
【五】
【秋】
【冬】
――――んふふ。みんな可愛い。笑顔が凄くいい。
しかし笑顔は素晴らしいのだが、ちょっと頑張りすぎというか……。
「これとかおススメですよ?」
春香は相手の目を見ながら、柔らかい笑顔で接客している。客の目がハートになってるぞ。
「お水のお代わりいかがですか?」
夏菜、ちょっと客に近くないか? 客がデレデレしてるのに気づいていないのか?
「お待たせ致しました~」
アキ……なんでそんなピッチリしたエプロンを? 体のラインが……客が嫌らしい目で見てるぞ!
「畏まりました。少々お待ちください」
んん!? トーリは相変わらずクールだと思ったけど、去り際にウインクした!? 客が呆けてる!
「「「「ありがとうございました~」」」」
そして店を出る客に精一杯の笑顔。
男客たちのほとんどがニヤニヤとしており、小さな箱に何かを入れた後で、楽しそうに会話しながら店を出て来た。
「握手券とかねぇのかなぁ」
「どこのアイドルだよ」
「売ってたら買うだろ?」
「そりゃ買うよ」
そう言いながら男達は再び列に並ぶ。また入るのかよ……。
アイドルか。学園でも人気なアイドル的存在の彼女達は、外でもやはりアイドル的な人気があるようだ。
……なんだか、ちょっと面白くないぞ。ただのバイトなんだから、そこまでしなくたっていいのに。
なんなら学園以上に、男に愛想を振りまいているじゃないか。
「お~い! 整理券まだぁ?」
「あ……すみません! ただいま!」
もう見るのはやめよう。これ以上見ていてもモヤモヤするだけだ。仕事だから頑張ってる、そう思う事にしよう。
何も考えないようにして、休憩時間まで仕事だけに集中するのだった。
――――
「ねえみんな、気づいた?」
「クーちゃん、覗いてましたね」
「なんか、険しい顔してなかった?」
「やっぱり外は暑いんじゃない?」
「どうだろう? 怒っているようにも見えたし」
「つまんね~って感じにも見えました」
「怒ってる? 私達に? 言われればそう見えたかも」
「もしかして、嫉妬……じゃないかな?」
「なるほど。他の男に愛想を振りまくのが面白くなかったのね」
「でもそれ……嬉しくない? 意識してくれてるって事でしょ?」
「嬉しいです。でもやり過ぎないようにしないと……」
「だね。ちょっとやり過ぎたのかも。投票の事ばかり考えてたから」
「午後からは普通に頑張ろうかな、疲れたし」
「うん、ちょっとしんどかった……」
「どうでもいい人に笑顔を見せるのは疲れるわね」
「クーちゃんがお客さんとして来ればいいのに」
「「「ほんとそれなぁ」」」
「すみませ~ん!!」
「「「「あ、は~い!!!!」」」」
――――
――
―
休憩時間。昼食を食べ終えてボーッとしていると、八千代さんがやってきた。
相変わらず何という爆発ボディ。とても母と同級生とは思えない……は置いといて、何か心配事でもあるのだろうか? 顔が少し曇っているようだが。
「さっき夏菜ちゃんがね、お客さんに足を踏まれたみたいで、救急箱を取りに一人でコテージに行っちゃったのよ」
「え? 足を……大丈夫なんですか?」
「ちょっと擦り剝けた程度みたい。ここにある薬を使うように言ったのだけど、他にも忘れた物もあるからって戻っちゃったのよ」
「そうなんですか。なら、俺ちょっと見てきますよ」
「ええ、お願いね」
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