第8話 裁判担当?
「絶対に離さないでね!? 信じてるからね!? あたしを見捨てないでっ!」
「み、見捨てねぇよ」
泳ぎ疲れて各々が海から上がり、休む者やビーチバレーで遊ぶ者がいる中、俺は泳ぎ疲れていない春香を連れて再び海に入っていた。
お互いに足が着き溺れる心配のない所で、泳げない春香に泳ぎのレクチャーをしていた。
繋いでいる手には痛いほど力が込められていた。力を抜けと言っているのに、分かっていても難しいようだ。
どこかで泳げない人を足の付かない所で練習させるのは、しがみ付かれて危険と聞いたのでこれ以上沖に出るのは危険だろう。
……しがみ付かれるか。イカン、邪な気持ちが湧き上がってしまう。
「そうそう、足を延ばして……海はプールより浮くはずだから」
「う、浮かないよ!? 沈んじゃう!?」
確かに沈んでいる。体に余計な力が入っているからだと思うが……というかもしかして、泳ぎの練習って海でするものじゃないんじゃないか?
波があって泳げない人には微妙なんじゃ? さっきから、春香の口に海水が入りそうになってるし。
「……なぁ春香。今度プールで練習しようか? 海での練習って微妙なのかもしれない」
遊びに来てまで練習なんてしたくないだろう。そう思い手を放そうとした時、足を着いた春香が慌てた様子でしがみ付いてきた。
「プ、プールは行くっ! でも今も教えて欲しい……せっかく手を繋げたのに……」
ギュッと俺の腕にしがみ付いて来るものだから、感触が色々とヤバかった。
そっちに意識を持って行かれてしまい、春香が何を言ったのか耳に入らなかったが、とりあえず練習はしたいようだ。
「わ、分かったから! とりあえず離れよう? これじゃ練習もできない」
「もうちょっとだけ……」
なにがもうちょっとなのだろう? 俺としてはラッキーしかないが、春香は気づいていないのか?
身長的に、視線を落とすと柔らかそうなアレが……形を変えて押し付けられてる。
「……やっぱり秋穂さんみたいに大きいのがいいの?」
「はっ!? えっと……何のことだ?」
見上げる春香は少しムスッとしていた。どうやら見すぎていたようで、惚けたのだが春香が何を言いたいのかは分かっていた。
「あたしの胸は……だめ?」
「だめなんてことはない……ですよ」
まさか追及されるとは思ってもいなかった。春香としても思わず口から出てしまった事で、逸らしたい話題だと思ったのだが。
「……触ってみる?」
「なん……だとっ……!?」
【犯罪】
【訴訟】
【有罪】
だめだ。どれを選んでも訴えられる気しかしない。正式な書面を交わさないと、そんなこと言っていないと言われればそれまで。
紙とペンと印鑑を用意しないと……どこにある? 一度戻るか、コテージにはあったはず――――
「――――なんてね、冗談だよ。そういう関係じゃないもんね」
そうテンパっていた時の冗談宣言。ほんと、いつか春香にはハニートラップを仕掛けられて、人生終了させられるかもしれない。
「……そういう関係なら……どうなるの?」
「う~ん、そういう関係なら……そういう事もするんじゃない?」
頬を染めつつ、どこか期待するような目をする春香。
そうか、そういう関係なら訴えられないのか? いいや嘘だ! 前にやった恋愛ゲームで、彼女に訴えられていた彼氏の描写を見た事があるぞ!?
そもそも、そういう目的でそういう関係になるのも違うよな。
「いつかね……じゃあ、練習の続きをお願いしてもいい?」
春香はそう言うと腕から離れ、俺の手を引き少し沖まで進みだした。
初めは怖がっていたのに、自分から沖に進むとは練習の効果が少しは出たのだろうか?
「手は離さないでね?」
「いいけど、ここなら足が着くだろ?」
「着くよ。離れたくないだけ」
恐らく言い間違いだろうが、離れたくないとか言われるとそういう関係を意識してしまう。
ほとんど手を離すことなく泳ぎの練習をし、なんなら海から上がってみんなの所に行くまで手を繋いでしまった俺達は、当たり前のように冷やかされた。
――――
――
―
初日だと言うのに遊びまくった俺達。移動の疲れと遊んだ疲れで、かなり早い就寝時間となった。
大人たちは遅くまで語らっていたようだ。酔っぱらった父さんと五郎丸さんに麻雀に誘われたのだが、流石に疲れたのでお断りを入れて爆睡した。
そして次の日。
早々に朝食を済ませた俺達は海の家に移動し、アルバイトとしての説明を受けた。
今日は一日お仕事の日。主な仕事内容は調理と接客になるらしい。料理が得意だとかは関係なく、四季姫は全員が接客担当。
接客が得意そうなのはアキや夏菜。トーリが少し心配なのだが大丈夫だろうか?
さらにナンパとか大丈夫かと思ったが、どうやら何かあった時のために五郎丸さんも接客を担当するそうなので安心だ。
ガタイがよく強面で、黒髪ロングのゴリラのようなボディーガードがいる中、ナンパ禁止の海の家でナンパする猛者がいるとは思えない。
ちなみに俺は、炎天下の中で入店客の管理と調理担当。昨日は大盛況だったらしく、今日も混雑が予想されるとの事だ。
そして開店時間。最初の団体客を通した時、店内から四人の明るい声と野太い声が響き渡った。
「「「「いらっしゃいませ~!!!!」」」」
なんか妙に張り切ってるなと思ったのだが、それは良い事だと特に気にしていなかった。
しかし俺は知らなかった。海の家に来る前に、彼女達四人と父親の六斗がコッソリやり取りをしていたことなど――――
『――――って事で、海の家人気No1に輝いた子には特典と……九郎と明日の休憩時間が同じになるという副賞が与えられます!!』
『『『『…………』』』』
『……やっぱ副賞が微妙? で、でもメインの特典はちゃんとした――――』
『『『『――――頑張りますっ』』』』
『そ、そう? 五っちゃんには許可を取ってあるから! あまり意識しないで、遊びの一環だと思ってよ』
みんな副賞狙い。休憩時間は一、二時間だとしても、その間は二人きり。
まず二人きりにはなれないであろうと思っていた所に湧いて出たチャンス。六斗は気づいていないが、皆が意気込んだのが分かった。
『君達には明後日に行われるビーチクイーンコンテストにも出て欲しいなぁ』
『それはちょっと……恥ずかしいです』
『うん。大勢の前に立つのはちょっと……』
『そっかぁ。まあ無理強いはしないよ! でもクイーンになれば、九郎も惚れちゃったりね~なんて』
『『『『…………』』』』
鈍感な父親が用意した可愛らしいイベントが、あまり争う事をしなかった彼女達の闘争心に火をつけたのだった。
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次回
→【嬢と黒服】




