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第12話 初めて見せた表情






 なんだよこれ、マジかよ。


 俺、いつハーレム主人公になったんだ? 脇役に起こった奇跡だとしても、こんな幸せな体験ができるのであれば脇役でもなんでもいい。



「あはっ……ちょ、ちょっと恥ずかしいね」

「うう……ちょっと所じゃないんですけど」

「そうですか? 私は全然、幸せですけど」

「幸せではないけど、悪い気はしないわね」


 右を見ても左を見ても、なんなら右下にも左下にも美少女が。


 膝をついて両足に腕を絡ませている春香と夏菜は、顔を真っ赤にしつつも力強く腕を絡ませて、頬まで密着させている。


 胸を押し付け両腕に抱き着いているアキとトーリは、平然な顔をしつつ、まるで彼女だとでも言うかのように自然体だった。


 アキとトーリの彼女感、春香と夏菜の完落感。そして俺の鼻は放出感。



「……というかさ、なんであたし達が下なの?」

「仕方ないじゃない。向こうの女と同じ配置にしたんだから」

「ウチは下の方が……ここなら思いっきりくっ付けるし」

「私は上がいいですね。色々と凄いですよ、上は」


 彼女達は何やら話をしているようだが、まったく頭に入って来ない。


 でもこのままじゃヤバいかもしれない。この幸せを手放すのは惜しいが、下手をしたら春香と夏菜に鮮血を浴びせる事になりかねん。



「き、君達……そこまでしなくていいから。離れよう、周りの目も凄い。ほんと一年生の廊下でよかった」


 これがもし二年生の廊下だったら、俺はどうなっていたのだろう。


 今でさえ目が厳しいのに、こんな所を見られたら……想像もしたくない。



「「「「……離れたいの?」」」」

「い、いや……そうじゃないんだけど、ちょっと……人 体的な問題で色々とヤバイ……」



「ざっけんなくろー!! 四方を囲まれてんじゃねぇ!! 真ん中は俺だろ!? その位置は俺の位置だろぉぉぉ!!」

「あははは。なんだろうね? 流石にちょっと……イラっとするかな? うん、ムカつく!」


 我が友人たちが騒ぎ出した。俺も逆の立場だったら憎悪していた……というか公太、お前のそんな爽やかにイラつく顔、初めて見たわ。


 俺はついに主人公の嫉妬を買ってしまった。主人公とぶつかったら勝てるわけがないぞ!



「いいわ! もっとよ! もっと雰囲気を出して、もっと信頼する女の顔を見せつけるのよ!」

「信頼ってなんなんですかね? どう見ても雌の顔ですよ。後輩になんてものを見せてるんですか?」


 盛り上がる陽乃姉さんと、冷静かつ冷めた目をしている月ちゃん。


 そして月ちゃんと同じような目を見せる後輩たち、心の声が聞こえてくる。


((((いったい、何を見せられているのだろう?))))


 分かりませんっ! なんでこんな事になっているのか僕にも分かりません!



「あ、あの~任木田先輩……? この後は、どうするのでしょうか……」

「む、向こうも姫たちを買収していたとは……」


 何やらブツブツと口を動かす任木田先輩だが、考え込むだけで何も言わない。


 ある意味、地獄の時間。客観視して見てくださいよ? 仕方なしに寄り添う姫たち、変わらない状況、周りの目、止まった時。


 もう引き分けでいいから、時間を動かしましょ――――



「――――てかさ、その男のどこがいいの? すっごいフツーな顔だし。よくくっ付けるね?」

「あはは! 確かに! 磨いても光らなそー。あなた達も可哀そー」


 止まっていた時間を青依先輩と百桃先輩の言葉が動かした。その発言に赤音先輩と真白先輩も続く。


「色々と、任木田君の方が上なのは間違いないですね。特に顔ですかね」

「向こうの男には契約でもくっ付きたくないわ。隣に置くのが恥ずかしいもの」


「「「「…………」」」」


 う~む。確かに俺は任木田先輩に比べればアレだが、中々とハッキリ物申す姫様たちだな。


 しかし、ほんと四季姫には申し訳ない。これが俺じゃくなく公太であれば、嫌な思いをさせる事も、そんな複雑な表情をさせる事も…………ひぃっ!?!?



「うっわ~、そういう事をサラッと言えちゃうのが凄いね」

「ほんと、可哀そうな先輩だね。こうはなりたくないかな」

「人を外見でしか判断できないんですね。色々と残念です」

「彼だって先輩にくっ付いてほしいなんて思ってないわよ」


 こわ……目が笑ってない夏菜とアキ。春香とトーリに至っては、鋭い目で先輩を睨みつける始末。



「彼の事を悪く言わないでくれるかな?」

「見たままを言っただけでしょ?」


 あの春香が怒ってる?


「先輩には分からないよ、彼のいい所なんて」

「分からないよ、分かる訳ないじゃん」


 こんな不機嫌そうな夏菜は初めてだ。


「中身も含めて、私にとっては彼の方が上です」

「中身が良くても……ちょっと私には無理」


 アキがムキになっているなんて。


「不愉快。単純にムカつくわ、何も知らないくせに」

「あらそう? 本当の事を言われて怒ったの?」


 怖い。単純に怖いよトーリ。


 こっちも初めて見た、完全なる怒気。その怒りを表すかのように、捕まれている四か所に感じる圧が強くなった。


「「「「なんですって!?」」」」

「「「「なによっ!?」」」」


 完全に戦闘モードになってしまった八人。俺のために怒ってくれたのは嬉しいが、この後はどうすればいいのだろう。


 アワアワする任木田先輩に見切りをつけ、救いを求めるように後ろを振り向いた。



 【公太に助けを求める】

 【月姫に助けを求める】

 【央平は役に立たない】

 【陽姫に助けを求める】



 目に入ったのは、ポカンとする央平とちょっと引いている月ちゃん、ニヤニヤする陽乃姉さん。


 ダメだこいつら……と弱弱しく視線を公太に向けると、一瞬動揺を見せたがシッカリと頷いてくれた。


 そのまま公太は月ちゃんに耳打ちをする。何をする気なのか分からないが、公太の主人公力に任せるしかない。


 月ちゃんは一瞬驚きを見せたが、怪しく笑うとこちらに近づいて来る。


 そのまま俺の正面に回り、怒気が吹き荒れている戦場に核爆弾を投下した。



「せ~んぱいっ! ぎゅーーっ!!」

「ゲぺッ!? いってぇ……つ、月ちゃん?」


 なんと俺に抱き着くように、空いていた胸に飛び込んできた月ちゃん。その際、勢いを付け過ぎたのか彼女の頭が俺の顔面にヒット。


 発展途上の胸が胸にムネっと押し付けられ、痛みと共に鼻孔をもの凄くいい匂いが通り抜けた。


「「「「ちょっ!? それはずるいっ!!」」」」


 一瞬にして怒気が消えた四季姫。急に現れた味方(月姫)になぜか敵対心を見せ始める。


 許容量を超えた頭は混乱し、何が起こっているのか全く分からなくなった所で、唯一の安全地帯だった背中側にも不穏な気配を感じた。


 直後、背中に感じる柔らかな感触。その柔らかな感触の奥に感じる、ドクドクと時限爆弾的な鼓動。


 どうやら背中にも爆弾を設置されたようだ。



「いい九郎? 絶対に、絶っ対にこっちを向くんじゃないわよ」

「ひ、陽乃姉さん!? な、なにをして……」

「お姉ちゃんよ!! これは仕方ないの、仕方ないのよ……」


 後ろにいたのは陽乃姉さん。姉さん……こんなにデカかったのか。前にいる月ちゃんとの大小サンドウィッチ。


 もう一歩も動けない。前後左右下、どこを見ても感じても幸せしかない。



「み、みなさ~ん!? 信頼です! これが信頼です! 6対4! 酒神陽乃陣営の方が信頼の数が多いのです!」


「「「「は、はぁ…………えっ!?」」」」


 公太の宣言にポカンとする後輩たち。それでも公太は強引に進めていく。


「ですので僕達の勝ちです! いいですね!? だって見てよ、こんなにも信頼が渦巻いて……ん? って九郎!? 鼻血鼻血!!」


「……え? あれ……?」


 なにか生温かい物が流れ出たのを感じた瞬間に、月ちゃんから小さな悲鳴が聞こえてきた。


「うん……? ひっ!? せ、先輩!?」

「つ、月ちゃん? 顔から血が出てるよ……?」

「いえ……先輩の鼻から出た血が、私の顔に垂れてるんだと思います」



 徐々に血まみれになっていく月ちゃんの顔、まさにブラッドムーン。月の綺麗な夜に、大きな鉈を握ってそうで怖い。


 ポタポタと垂れる俺の血を、なぜか慌てることなく受け止める彼女。どうやら放心状態にあるようだ。


 流血騒動でアピール合戦は中止に。苦虫を潰したような表情で去っていく任木田先輩と色姫。


 それを見た陽乃姉さんがガッツポーズのち勝利宣言。


 そして唖然とする後輩たち。勝利宣言に盛り上がる事なく、予鈴が鳴るまでポカン状態。


 俺は四季姫たちに連れられ保健室に直行。鼻にガーゼを詰め込まれた。


 勝利宣言はしたようだが、勝ったのだろうか? ある意味、体を張ったのだから勝ってくれなきゃ困る。


お読み頂き、ありがとうございます


次回

→【三馬鹿の誓い】

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[気になる点] 【悲報】央平は役に立たない 選択肢がひどいww [一言] そんな信頼があるかwwww うらやましいww
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