第8話 主人公の番?
「――――選択肢。見えなくなったのか?」
「…………」
季節は初夏。これから本格的な夏が始まろうという季節。
若干不快な暑さをしているというのに、俺は暑さなど感じる事なく公太の反応を待った。
ここで公太が、選択肢が見えなくなったと言えば俺はどうすればいいのだろう? また激突すれば元に戻るのだろうか。
昨日、ずっと考えていた。選択肢が現れてからの事を。
選択肢が現れてから、俺の周りには女子が集まりだした。そのように選択をし続けたんだから、それはそうなのかもしれない。
ただ、もし選択肢を奪っていなかったら、考えてみた。
遅刻なんてしなかったら、夏菜とは会わなかった。
商店街に行かなかったら、アキとは会わなかった。
二人とはクラスメイトだし、いつかは知った仲にはなったのだろうけど、いま二人が近くにいるのは、あの出会い方が大きかったのではないかと思う。
公太に冷却スプレーを渡さなければ、春香と出会っていたのは公太だった?
雀荘の外に出て面子探しをしなければ、トーリと出会ったのは公太だった?
クラスメイトではない彼女達との出会い、接点。あの選択をしなければ、二人が俺の傍にいるなんて今はなかったかもしれない。
たられば。普通はそう考えるだろうけど、選択肢という主人公の力の影響なのだから。
あの時、公太とぶつかっていなかったら、選択肢を奪ってなどいなければ……彼女達は今、公太の周りにいたはずなんだ。
そしてついに、公太が口を開いた。数秒も経っていないのに、まるで長い時が流れたようにも感じられた。
「…………うん? なんて言った?」
……ちょっと拍子抜け。なんでこの場面で難聴主人公が適用されてしまったのか。
「だから……選択肢、見えなくなったんじゃないか?」
「……選択肢?」
「そう、選択肢」
まず言えた事で、心が少し軽くなった。俺は隠す事をやめて、進む事を選んだ。
あとは公太の出方次第。返せとか言われたらどうしよう。一応、土下座の準備はできているのだけど。
「……えっと、選択肢ってなんだ? み、見えなくなった?」
「ああ。表示されなくなったんじゃないか? 目の前に、選択肢が」
どこか戸惑うような様子を見せる公太に、更に分かりやすく伝えてみた。
あんな邪魔くせぇ……いえ嘘です、ありがとうございます。ともあれあんな眼前に表示されたら、誰だって気づく。
もしかしたら無くなったと思っていないのか? 表示されない時もあるし。
「目の前に選択肢……哲学的な話か?」
「て、哲学? いやそうじゃなくて……もしかして最近表示されてない感じか?」
哲学的……なんとなく意味は分かるけど、現実に俺には表示されているしな。
ぶつかってから数ヶ月。選択肢が現れる頻度的に、全くなくなれば気づきそうなものだ。
「……ごめん九郎。何を言いたいのか……」
「れ、恋愛ゲームの選択肢だ! 分かるだろ!?」
「恋愛ゲームの……まぁなんとなくは。でも俺、やった事ないんだよ」
「マジで!? やった方がいいよ? ハーレムルート最高だから!」
「そ、そうなのか? じゃあ今度貸してよ」
「おう! おススメのをいくつか……」
……って俺は何を言ってんだ! おススメなんてしている場合じゃねぇ!
いやおススメはしたいけど。お前にソックリな主人公もいるし! でも今は置いておこう。
「じゃなくてさ! その恋愛ゲームの選択肢が、見えなくなってない?」
「恋愛ゲームの選択肢……ああ、そういう事か!」
やっとご理解頂けたようだ。この感じだと、もしかして公太には表示された事がない? 秘密の力という事で、知らんぷりしている可能性もあるけど。
「恋愛においての選択、行動って事だろ? それなら俺もさ、見えるようになるかもしれない」
「れ、恋愛において? えと……見えるように? 今までは、見えなかったのか?」
「そうだねぇ。今まで恋愛なんてした事……というか興味がなかったから」
ん? んん? んんん? ごめん、なに言ってんのか分からない。
とりあえず今までは見えていなかったという事か? なら俺は奪っていない? となればコピーという事ででもなさそうだが。
「俺にも浮かぶのかな? どんな行動を選んで、どんな言葉を選択すればいいのかが」
「浮かぶ? と、とりあえず公太、お前には今まで選択肢は見えてなかったんだな?」
「そうだね。今までは見えなかったよ」
言質とりました! お、俺は悪くないね? つまり公太の変化に、俺は関わっていない!
やっぱりあの選択肢は、神からの贈り物か俺の頭がイカれたって事か!
良かったぁ頭がイカれただけで……とりあえず、俺は友人から奪った訳じゃない!
……あれ? じゃあ公太の変化ってなんだ? 何かが変わったんだよな? だから俺は違和感を覚えたんだよな?
てっきり、その変化は選択肢を選べなくなった影響かと思っていたのだが。
違和感を抱くほどの主人公の変化。しかしその変化は、選択肢は関係ないようだ。
選択肢=主人公の力というのは、俺の勘違いか? それとも公太は主人公じゃ……いやいや! それはあり得ない。
念のため、もう少し探りを……。
「公太さ、始業式の日……俺とぶつかったじゃん?」
「ああ! あの日な! あれは悪かったなぁ」
「いや俺も悪かった! でさ、あの日から……お前も変わったんじゃないか?」
「ははは、九郎も鋭いなぁ。まぁ正確には……春休みかなぁ」
春休み……というか、やはり変化したのか。それも周りだけではなく、本人すらも自覚している変化だと。
春休みと言うのなら、俺と公太は知り合いですらない時期。
どこが変化を……とジロジロ無意味に公太を眺めていると、恥ずかしそうにする気色悪い仕草を見せ始めたので視線を逸らした。
「そこまで分かってくれてるなら……さ。俺も九郎に……相談というか」
「相談……そういえば、そんなこと言ってたな」
てっきり……選択肢が見えなくなったんだ、どうすればいい? 的な相談だと思っていたのだが、その線はなくなった。
もうなんでも相談してくれ。我が選択肢で悩みなど解決してあげるよ!
「ほら、九郎って四季姫――――っと、ごめん。ちょっと待ってくれ」
「お? おう」
公太はスマホを取り出し通話を始めた。敬語で話しているから、年上との通話のようだ。
四季姫って言ったよな? 彼女達が関係する相談なのか?
「はい、分かりました…………悪い九郎。部活の先輩に怒られた、早く来いってさ」
「そ、そうか。悪かったな、付き合わせて」
「そんな事ないよ! 俺の相談はまた今度、聞いてくれよ! じゃあまたな!」
「おう! また!」
屋上から出て行った公太を見送り、小さくため息をついた。
とりあえず俺は、色々と考えすぎていたのかもしれない。もちろん、公太が何かを隠している可能性はあるのかもしれないが、公太はそういう奴じゃないと思う。
……まぁでも、俺が四季姫との接点を公太から奪った事に変わりはないのかもしれないが。
悪い公太。もう俺、彼女達がいなくなるなんて、出会わなかったらなんて……考えたくもないんだよ。
彼女達の笑顔、仕草、声。それがなくなるなんて、嫌なんだよ。
だから、本当に申し訳ないんだけど、許して欲しい――――
【選び続ける】
【選ぶのを止める】
――――選び続ける事を。俺はもっと、彼女達と一緒にいたい。
……ってお前!! すげぇ久しぶりだな!? 今までどこに行ってたんだよ!?
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【選挙は人気が全て】




