第7話 夏姫の番
そして金曜日、つまりお弁当週間最終日。
今日は当たりが確定している夏菜のお弁当。起きた瞬間からこの時間が楽しみで仕方がなかった。
楽しみではあるのだが、今日で終わりという事実は凄く悲しい。
そしてそんな事など知らないであろう、夏菜が挙動不審気味に重箱を取り出した。
……重箱!? えっ……さすがにデカすぎるんじゃ。俺ってそんなに食うイメージがあるのだろうか。
「ず、随分とデカいな」
「その……ふ、二人分だからっ!」
二人分って……俺と夏菜のって事だよな? なるほど、夏菜は花見スタイルできたのか。
重箱を真ん中に置き、紙皿に好きなものを取って食べて下さいと、そういう事だね?
それもいいなぁ~。学校では中々味わえないスタイル! ちょっとテンションが上がってきた……あれ? でも紙皿はどこだ?
「……夏菜? 紙皿は?」
「あ……あははっ! わ、忘れてきちゃった~」
このドジっ子め。しかし首を傾げてテヘペロする様子が可愛くて怒れない!
少しだけ恥ずかしいけど、一緒に直接重箱から食べるしかないか。
「だ、大丈夫! こうすればオッケーだからっ」
「へ……? へぇぇぇぇ!?!?」
夏菜っ!? ま、まさか!? それは男を必ず処す、必処す技ではっ!?
「は、はいっ!! あ、あ~ん」
「「「はぁっ!?!?」」」
繰り出された元気娘からのお弁当あ~ん。俺の驚きに遅れて三人も驚いたような声を上げた。
夏菜は、それはもう真っ赤。よく見ると箸を持つ手も若干だが震えている。
今更だけど、夏菜って恥ずかしがりだよな。いつも元気でそんな印象を受けなかったけど、最近はよく顔を赤くしている気がする――――
――――俺だって恥ずかしさはあるけど、そんなテンパりすぎな夏菜のお陰か冷静になれた。
「……食べるよ?」
「ど……どうぞっ!」
夏菜から差し出された物を一口。その瞬間に広がる、俺好みの濃い目の味つけ。
夏菜は最初から最後までずっと顔を赤くしていて、心配になってしまうほどだ。
「はい……次はこれ……あ~ん……」
「あ、あ~ん……もぐもぐ…………うん、マジで美味い」
「ほ、ほんと? ありがとう……」
恥ずかしそうに顔を伏せる夏菜を見ると調子が狂ってしまう。
月ちゃんで経験済みだから平気だと思ったんだが、あの時は意識していなかったから大丈夫だったのだと思い知らされた。
あ~んする人でここまで変わるのか。いま俺、完全に食欲より嬉し恥ずかし。
「あ……あははっ! ちょっと時間かかっちゃうから、後は自分で食べてねっ!」
「お……おう、そうか」
「そ、そんな残念そうな顔するなよぉ……またしてあげるし……」
夏菜から箸を受け取ると、途端に食欲一色となってしまった。しかし俺は残念そうな顔をしたのか、それはちょっと恥ずかしい。
濃い味付けは冷えたお弁当でも箸が進む。俺は夏菜たちが何かを言い合っているのを無視して、一心不乱に弁当を食べ続けた。
「ちょっとそれはズルすぎないかなぁ!?」
「ですです! それは一歩先に進んじゃってます!」
「ちょっとお弁当以外の所で勝負するのはねぇ……」
「だ、だって仕方ないんだもんっ! 好物も知らないし、温めるって小賢しく頭も回らないし、あざとく指を怪我もしないし!」
「こ、小賢しい……」
「あ、あざとい!? あ~んする夏菜さんの方があざといよっ!」
「まったく……純粋に味で勝負したのは私だけじゃないの」
「うう……うるさいうるさ~いっ!! やったもん勝ちだぁ!!」
楽しそうな声を出す彼女達に聞き耳を立てつつも、なんかヤバそうなので不介入を貫いた。
そして食べ終わり、幸せ週間はおしまい。四者四様のお弁当に舌鼓を打ち、各々違う反応を見せてくれるものだから楽しかった。
――――
――
―
その日の放課後、公太と一緒に屋上へ。
静かな所を探してここに来たのだが、わざわざ屋上に来なくてもよかった気がする。明らかに何か秘密の話をしますといった感じになってしまった。
それは公太も同じなのか、微妙に苦笑いしているような気がする。
「なに九郎? もしかして俺、告白されちゃう感じ?」
「んな訳ねぇだろ! なに言ってんだよ」
公太なりの気づかいなのだろう。恐らく俺が変に緊張している事を見抜いて、わざとお道化たに違いない。
「それよりどうだった? 屋上でのひと時は」
「それは最高だった。終わったのが悲しいぜ」
「……九郎が頼めば、また作ってくれると思うよ?」
「かもしんねぇけど、面倒だろ? 図々し過ぎるのもな」
「……あのね九郎、彼女達は……って、これは俺が言うべきではないな」
なにか言い含んだ公太だったが、話すつもりはないようだ。
そもそもここに来たのは雑談をする為ではないし、本題に入らなければならないのだが……ワンクッショ入れるか。
「とりあえずこれ、返すよ。ありがとな」
公太から借りていた屋上のカギを取り出し、公太に差し出した。
しかし公太は、それを受取ろうとはしなかった。
「それは預けとくよ! 俺にはまだ必要ないし」
「まだ必要ないって……たまに屋上で黄昏てるんだろ?」
「黄昏てるって……いま暑いし、他にやる事もあるから」
「まぁ、そういう事なら預かっておくけど」
差し出したカギをポケットにしまい込み、再び公太に視線を送った。
色々と考えてきたが、いざ公太を前にすると恐怖を覚えてしまい、言葉が出てこない。
黙っていようかとも思った。公太は何も言って来ないし、気づいていないのかもしれない。それどころか、俺の勘違いって可能性もある。
勘違い……奪ったのではなく、言うなればコピーしたんだという都合のいい解釈。
ただ聞かなければ、俺はこのままモヤモヤしたまま過ごす事になる。
それに俺のせいで公太が変わってしまったのであれば、やっぱりこのままではダメだと思うんだ。
これからも仲良くしていきたい公太に、隠し事はしたくない。本来は彼のものだというのであれば、俺が持っていていいものではない。
「……なぁ公太。最近……お前に何か変わった所はないか?」
「九郎もそんな事を言うのか? 最近、月乃がそればっか言うんだよ」
「……どうなんだ?」
「変わった所……まぁ、確かにちょっと……な」
言い含めながら目を逸らす公太。やはり何かが公太の中で変わったのだろう。
それは、やっぱり――――
「――――選択肢。見えなくなったのか?」
「…………」
ジッと俺の目を見つめる公太。その口からどんな言葉が紡ぎ出されても、俺は受け止めなければならない。
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