第5話 冬姫の番
本日2話目
「――――はい。どうぞクロー」
「お、おう。ありがとう……」
次の日の昼、再び屋上にて。
今日はトーリのお弁当の日。渡されたお弁当箱は二段弁当箱で、いかにも男子のお弁当と言った感じだった。
俺のためにわざわざ購入してくれたのだろうか? トーリは一人暮らしだから、家に男物の弁当箱なんてないと思うのだが。
「八千代さん直伝だから、味は保証するわよ」
「おお、それは楽しみだ」
八千代さんのご飯は美味しい。俺が食べてきた家庭料理の中では、文句なしに一番美味しいと言えるほどには。
五郎丸さんが羨ましい。美人だし、大きいし、料理も上手なんて反則だ。
トーリから渡された弁当箱をオープン。
……これは凄い。これ手作り? 店売りじゃねぇの? これとか、どうやって作るのか想像も付かないんだけど。
めちゃくちゃ手が込んでそうだな。時間かけてくれたんだなぁ。
「頂きます……もぐもぐ……」
「ど、どうかしら?」
自信はあっても緊張はするのか、トーリらしくない様子で味を尋ねてきた。
正直……めちゃくちゃ美味い。これは高校生が昼休みに何百回と食べる弁当のレベルを超えている。
申し訳ないが、味だけなら夏菜や春香より遥かに……? 遥かより春香? なんか頭が混乱するくらい美味い。
しかしどう伝えれば……――――
――――美味しいという言葉しか浮かばねぇ。トーリが喜ぶような言い方、不安なんか吹き飛ぶような伝え方を色々と考えたが、いまいちピンと来ない。
黙って、ありのままを伝えるのが正解か?
「……めちゃくちゃ美味い。毎日でも食べたいくらいだ」
「そ、そう? 別に私は……毎日でも構わないけど……」
「いやそれはダメでしょ」
「うんダメだね」
「絶対ダメです」
嬉しそうにニヤつくトーリの言葉に、厳しい目をした三人が即座に否を唱えた。
こればかりは慣れないな……最初の一口は、なぜか全員の注目が集まるのだ。
あまり食べている所、というか咀嚼してる所をジッと見られるのは苦手だ。
「とりあえず安心したわ。八千代さんに聞いて、クローが好きなものを詰め込んだのよ?」
「ああ、どうりで……そういう事か」
「クロー、開けた瞬間に目を輝かせたわよね。子供みたい」
どこを見ても好物だったのだ、ニヤつきもしてしまう。
まるで母親が子供を眺めるような眼差しで、トーリは俺の食べている所を眺め始める。
その二人の向かい側に腰を下ろす三人は、どこか非難しているようなジト目をしていた。
「……卑怯だよ」
「だよね、好物を知っているとか」
「です。クーちゃんの好物……あっ」
「あってなに秋穂」
「いえ、別に」
「まさか秋穂さん……」
「いえ、別に」
小さく話す三人の声は微妙に聞こえないが、アキがニヤニヤしているのが印象的だった。
「クロー。次は何を作ってほしい?」
「次? また罰ゲームする予定なのか? 是非お願いします」
勝負師のトーリが負ける前提というのが珍しいが、作ってくれると言うのなら大歓迎。
「好きだから……」
「はへ?」
「だ、だから! そんな子供みたいに目を輝かせてくれる所を見るのが好きなのっ! 別に目を輝かせてくれるなら誰でもいいわ!」
「だ、誰でもいいのか……?」
「……いいわけないでしょ、ばか」
意味分からん、自分で言ったのに。ソッポを向いてしまったトーリに首を傾げながらも、楽しいお昼休みを過ごす事ができた。
――――
――
―
その日の放課後。俺はみんなと一緒に陽乃姉さんの元を訪れていた。
今日は秘密の話をするからと、生徒会室ではなく何かの準備室。生徒会室に比べると狭く、この人数が入ると些か窮屈だ。
「おほぉ! なんじゃこの部屋……幸せな匂いがっ!!」
隣で騒ぐ央平の気持ちは分からないでもない。だってマジでいい匂いがするんだもん。
この部屋に長い事閉じ込められたら、性癖が歪んでしまうかもしれないほどに強烈だ。
ただ央平、四季姫の目を見ろよ? マジでゴミを見る目だぞ。
彼女達は優しいから視線だけに留めるかもしれないけど、この部屋にはあの御方がいるんだぞ?
「おい真ん中、キモい事を言ってると叩き出すわよ?」
「す、すみません酒神先輩!!」
鋭い視線の陽乃姉さん。揶揄でもなんでもなく、本気で叩き出されるから注意だ。
酒神陽乃監修、生徒会長当選アピール大作戦。
そこに集まった同志は総勢九名。あのボウリング大会と同じメンバーだ。
「役者は揃ったわね? 来週の5日間、生徒会役員立候補者のアピール合戦が開始されるわ」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
一同沈黙。陽乃姉さんの目と雰囲気が、一切の言葉を発する事を許していない。
「高校生の選挙なんて、要は人気よ。公約より人気、生徒にとったらただの祭り事。政だけに」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
誰も笑えない、笑わない。そもそも俺と央平は祭り事と政を掛けた事は後から知った。
「生徒の人気を集める。それにアナタ達の力を貸してもらいたいの」
陽乃姉さんの真剣な目が皆を見渡した。
男子人気は四季姫+陽月姫、女子人気は主人公酒神公太。その他雑用で脇役とモブの俺と央平。
全学年を網羅した完璧な布陣。懸念があるとすれば、三年生の男子人気……つまり陽乃姉さんなのだが。
「……具体的に、何をすればいいのですか?」
「簡単よ。アタシと一緒に校内を回ってもらって、笑顔を振り撒いてくれればいいだけ」
春香の問いに陽乃姉さんが答える。笑顔という言葉にトーリが反応した。
「……笑顔、ですか」
「そうね。アナタなら……男子の目を見て軽く微笑めば一撃だわ」
確かに。あまり学園内では微笑まないと聞くトーリ、そのギャップに抗える者が何人いるか。
どこか考え込む春香とトーリ、代わりに陽乃姉さんと話し出すのは夏菜とアキ。
「ウチは構わないけど、ダメって言われたらやらないよ?」
「ですね。まずは聞いてみないと」
「……ダメ? 聞いてみる? 何の事よ?」
俺も何のことを言っているんだと思ったが、夏菜とアキが振り向いて俺と目を合わせた。
その様子に気づいた春香とトーリの目も俺に向けられる。
「九郎、いいの?」
「ダメならしません」
「そっか、確認しないとね」
「微笑んでいいのかしら?」
……どういう事だ? なんで俺の許可がいるんだ?
そもそも頼んだのは俺なんだけど……許可というより、お願いする立場なんだが。
「お願いします」
「「「「……はぁ」」」」
めっちゃ溜め息を吐かれた。心なしか四人に睨まれているような気もする。
どうやら選択を間違ったようだ……そう言えば最近、出てこないな。
「九郎、それはないんじゃないかな?」
「お前、俺でもなんとなく分かるぞ?」
「九郎先輩、鈍感主人公みたいですね」
公太と央平、それから月ちゃんから呆れた様な目が突き刺さった。
本当に俺は間違ったようだが、仕方ないんだよ。選択肢が出てこなかったんだから。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【匂いで勝負】




