第10話 体育祭・借り物競争
秋姫と春姫を強くし過ぎた感
我が出場競技の一つ、借り物競争。実力だけではなく、運の要素も非常に関わって来る競技だ。
俺の出場競技は、この借り物競争と二人三脚。そして四人綱引きという力が物をいう競技。
力なら任せろ……と言いたい所だが、実際はやりたい人が少ないが為の選出だった。
後は全員参加の騎馬戦と全員リレー。まぁやるからには、全てでトップを狙いたい。
「では次の組、前へ出て下さい」
そしてついに俺の番。A組からF組の全六名。
なんでだろうなぁ~? こうしてスタート位置に着くと、どいつもこいつも足が速くて借り物が得意そうな顔をしていやがる。
「位置について……よぉい……――――」
――――パンッ!!
「A――――うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「B――――だらららららららら!!!」
「C――――え? めっちゃ頑張るやん」
「D――――きしゃしゃしゃしゃ!!!」
「E――――ぐぅぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「F――――ギィィィィィィィィ!!!」
雄たけびや奇声を上げながらライバルたちが全力で走り出した。
鬼気迫る表情で、お題が書かれている封筒を目指して走り出す。そういえば前の組も皆やる気に満ち溢れていたな。
やる気になるのは良い事だし分かるが……ちょっと異常じゃないか?
「くろーーー!! もっとやる気出せよぉぉぉ!! いいお題の封筒がなくなっちまうぞぉぉぉ!!」
馬鹿みたいに大声を上げる馬鹿みたいな央平が馬鹿みたいな事を叫んでいた。
いいお題の封筒? なんだそれ……簡単なお題という事だろうか? しかしそれにしては張り切り過ぎなような。
「六分の一の確率でぇぇぇぇ!! ピンク色のお題があるんだぁぁぁぁ!!!」
「ぴ、ぴんく色のお題!?」
「去年はぁぁぁ!! 俺、引き当てたぁぁぁ!! 美人の先生と腕を組んでゴールしろぉぉぉって!! ただ美人の先生いねぇんだよぉぉぉぉ!!! クソがぁぁぁ!!」
「「「「なんだと真中ッ!! ここにいるだろう!?!?」」」」
数人の美人? 教師に詰め寄られた央平が逃げ出したのを見た後で、意識を封筒に切り替えた。
でもしっかり見たよ。荒木先生が居ました。荒木先生、まじで武人だよ? あいやいや、美人だよ。
そして辿り着いた封筒設置場所。すでに二人が到着しており、選べる封筒は四つ。
【褪紅封筒】
【蒼穹封筒】
【真紅封筒】
【純白封筒】
ピンク! ピンクはどれ!? 桃色だってば!! 漢字分からねぇぇぇ!! いやこの漢字、記憶にあるぞ? 思い出せっ!!
ん……馬鹿か俺は!? 選択肢ではなく実物を見ればいいだけだろ――――
「――――きしゃしゃしゃしゃ!! ピンクは頂いた!!」
「きさまぁぁぁぁぁ!! その声はD組だな!?」
取られた! ピンク色が!! ちっきしょーー!!
【蒼穹】
【真紅】
【純白】
やっぱりあの難しい漢字がピンクか! そう言えば蓮海に教わった記憶が……! くそ!! あの時は脳内がピンクだったから!
ならば近い色で……これだッ! よくよく考えればピンクの中にピンクなんてベタな事はするまいっ!
「A――――金縁メガネを掛けてゴール!? 学校に金縁!?」
「B――――黒板……黒板って、あの黒板? あれ外せんの?」
「C――――ん……え、マジで……!? おほぉぉぉ!!」
「D――――ホモと……ホモぉぉぉぉぉ!? いやぁぁぁぁ!?」
「E――――校長先生二人……二人!? 校長って二人いんの!?」
「F――――美人な荒木先生…………ん? 美人? 美人……?」
周りは阿鼻叫喚。ゴールさせる気のないお題もあるようだが。
俺は、引き当てた……ああ引き当てた!! これが……ピンクお題ッ!!
―――美人な巨乳と手を繋いでゴール――――
あの子しかいねぇ!! いや、荒木先生も巨乳だが……ダメだな、お題とちゃう。
俺は全速力でC組のテントへと走り出した。
「――――アァァァァキィィィィィ!!!」
「は、はい!? ク、クーちゃん!?」
「はぁ……はぁ……」
アキは目を見開いて驚いていた。周りのクラスメイトも何事だと騒然とするが、公太と央平だけは分かったかのようにニヤニヤしていた。
妄想が膨らんで息継ぎを誤ったか……く、苦しい。
「はぁ……はぁ……アキ……俺と……俺と来いッ!!」
「あぅっ……は、はい……どこへでも行きます……」
美人、デカい、完璧。アキの手を取り、真っ赤になったアキを強引に連れ出した。
周りから囃し立てる声が聞こえてきたが、無視して緑色のハチマキをオシャレに着けているアキを、太陽の下に引きずり出す。
ちょっと強引すぎたかも……高揚感とか色々なもので、冷静を欠いていた。
「ご、ごめんアキ……強引すぎたな」
「…………カッコいい」
「……アキ?」
アキがポーっとしている。目は合っているのに、聞こえていないのだろうか? まさか日射病じゃないよな?
「アキ、具合わるい?」
「……ううん、だいじょぶ……連れってて、クーちゃん……」
「え……おう、ほんとに大丈夫か?」
「うん、だいじょぶ……」
そういうアキだが、繋がれた手はしっかりと握られているのに、体には力が入っていないのかフラフラだ。
完全に引っ張っているというか、引きずっている感じになっているが大丈夫だろうか。
「強引クーちゃんやば……どこに連れて行かれるんだろ……」
「え!? いや……ゴールだけど?」
「ゴール……? ゴールイン? 私とクーちゃんが……」
「ア、アキ? 本当に大丈夫?」
アキのペースに合わせて走ったので少し遅れたが、余裕の一着だった。他の選手はまだ借り物すら出来ていない様子だ。
「――――はい。確認しますよ、九郎先輩」
「……ん? おお、月ちゃん」
記録係の腕章を付けた月ちゃんが、一着のフラッグを持ってやってきた。
ちなみに月ちゃんは一年C組の代表で、代表はこうして記録係の役割を与えられることがある。
俺の次の仕事は、二年女子の二人三脚の記録係だったな。
「え~と……美人な巨……なっ!?」
「しィィィっ! いいから! 聞こえちゃう!! 間違ってないでしょ!?」
月ちゃんの非難する目が痛い。仕方がないんだ、これは命令されてこうなったのであって、他意はない。あるけど。
月ちゃんは、お題を通りの借り物をした事を生徒会の人に報告する。
『二年C組、お題通りの借り物だという事を確認しました』
内容を言われない事にほんと救われます。女の子としても恥ずかしいもんね。
「……それで、いつまで手を繋いでいるつもりですか?」
「え? ああいや、これはっ」
「あっ……」
月ちゃんの言葉に慌ててアキと手を放すと、ボケーとしていたアキの表情が変化を見せた。
俗に言う、大好きな玩具を没収された子供の様な目……なんだって? アキは俺の事を玩具だと思っているのか? 小悪魔め。
「……クーちゃん、もう終わりですか?」
「終わり……だよ? アキのお陰で一着になれたよ、ありがとう!」
「いえ……こちらこそ、ありがとうございました」
なぜかお礼を言われてしまったが、アキは嬉しそうなので良しとしよう。
月ちゃんのジト目を無視して、俺達はクラスのテントに戻る。
「ところでクーちゃん。お題って何だったのですか?」
「うっ……まぁえと……美人で可愛い子……だったかな」
「……ですか。私より美人も可愛い子も沢山いるのに、私だったのですか?」
「そ、そうだよ? アキがピッタリだったんだ……」
「……クーちゃんの中では、私が一番って事ですよね?」
な、なんて答えれば……? と思い、アキをチラ見すると……なるほど、からかっているのか。
アキの小悪魔仕草も大分わかってきた。いつまでも狼狽える俺ではないぞ!?
「まぁな! アキより美人は中々おらんよ!」
「あぅぅ……そ、そうですか。嬉しいです……」
ふふふ、今回は俺の勝ちのようだなアキ! ここまでキョドっているアキも珍しい。
真っ赤になってしまった秋穂を連れてクラステントに戻ると、当たり前のように冷やかされた。
いや、実に楽しかったよ。ありがとうピンク。
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