第5話 彼氏役
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「――――ありがとうございました」
人生初のアルバイトではあったが、今の所はなんとかなっていた。
引っ切り無しにお客はやってくるが、混雑していると言う程でもない。客層も穏やかな人が多いためか、少しばかり会計などに手間取る俺に文句の一つもなかった。
「ありがとうございました。またお願いします」
なにより、隣で笑顔を絶やさない女神様よ。アキがいるお陰か、店の雰囲気が明るいものになっている。
誰がどう見ても看板娘。その看板娘を狙っているのか、若い男性もそれなりに来店していた。
「また番号聞かれました……」
「あ~、今日何回目だ? 三回目……?」
「五回目ですね」
断る方も大変だろうな。色々と理由を付けて優しくお断りしているそうだが、中には何回も来店して聞き出そうとする奴もいるらしい。
お父様がいない時を狙っているようだったから、告げ口を考えたのだが、それはしてほしくないらしい。
どうやら昔、一度父親に相談したそうだ。そうしたら厳つい店主が表に常駐するようになり、売り上げが落ちたとか、なんとか。
次にもしそのような事があったら、そもそもアキを裏に下がらせるという事も考えているらしい。アキが裏に回ったら、それでも売り上げは落ちそうな気がするが。
なんとかしてあげたい所だけど……父親がダメとなると――――
【十和子さんに相談してみる】
【俺が彼氏役を引き受ける】
【少し強めに断らせる】
――――アキの性格上、強く言う事なんて出来るだろうか? 出来たとしても、父親の目を掻い潜ってまでも会いに来る豪胆な男に効くだろうか?
十和子さんに話せば……やっぱり父親の耳に入るよな? それはアキも望んでいない事だし……。
しかし彼氏役は……どうだろう。上手くできる自信はない。生まれてこの方、誰かの彼氏になった事などないのだから。
いや、でもアキのためだ。選択肢を信じて、聞くだけ聞いてみるか。
「……なぁ、アキ」
「はい? どうしました?」
お客さんがいない今がチャンス! アキはいい子だから、笑ったり貶したりはしないはず!
「お、俺が……彼氏をしようか? あ、じゃなくて彼氏や――――」
「――――えぇぇぇぇぇぇ!?!?」
うおっ!? アキ驚きすぎ! 目を見開いて慌てふためくアキ、こんなに大きな声を出した所も初めてだ。
やっぱ言い間違えたからだよね!? まずい、あれじゃただの上から目線の告白だ。彼氏になってやってもいいよ的な? オラオラ系っていうの?
まずいぞ!? アキはオラオラ系やチャラチャラ系が嫌いそう。断られて気まずくなってしまったら、俺の職場の居心地が悪くなる!!
「――――なんだッ!? どうしたんだ秋穂!?」
本当にマズ……旨そうなカレーの匂いを漂わせた木一さん登場。そりゃ愛娘があんな大声出したらビックリするのは当然だ。
本当にうまずい。父親に娘をナンパした事を知られればクビ。職場の居心地が悪いどころか、俺は職を失ってしまう!!
「どうしたんだ!? 脇谷君になにかされたのか!?」
「……あっち行ってて」
「え……?」
「ほんと、あっち行ってて。今、大事な所だから」
「え……でも、そんなに赤くなって……」
「行ってて」
「え……っと」
「行って」
「はい……」
再び木一さん退場。カレーの残臭がなぜか切ない。
それよりアキだ! せっかく見つけたアットホームな職場、時給は安めだけど失う訳にはいかない。だってまかないが揚げたてのカレーパンなんだ!!
「アキ……? あのね?」
「……クーちゃん、さっきの話ですけど……」
おぉ、頬が紅葉しておる。さすが秋姫……ってそんな事を思っている場合じゃない!
「ご、ごめん変なこと言って! 彼氏がいるって分かればさ、ナンパも減るかと思って……」
「そう……かもしれないです」
やっぱ居心地悪そう! もしかしてどうやって断ろうか考えてる!? クラスメイトだしね、同僚だしね、気まずいよね!?
「だ、だからね!? 嫌なら他の方法を考えるけど、彼氏役をね……務めさせてもらおうかなと……」
「あ、あの! 本当に私でい…………彼氏……役?」
「そうそう! 振りだよ振り! なぁんにも考えずに俺を使ってもらえれば……!」
「……むぅぅ」
紅葉が終わり、葉が落ちるが如くアキの顔から色が落ちていった。
なんだ? 寒い……? 俯くアキから冷気が出ているかのような錯覚を覚えた。
怒らせた……? そう思ったのだが、顔を上げたアキの表情は、再び鮮やかな笑顔となっていた。
「じゃあ宜しくお願いしますね? 彼氏……役っ!!」
なぜか役を強調された。勘違いすんなよという意思表示だろうか?
「えいっ……ねぇダーリンさん? 今度、デートしませんか?」
「ダーリン!?!? いやアキッ!? 近くないか!? 仕事中だぞ!?」
徐に俺の腕に抱き着いてきたアキ、手慣れたものなのか恥じらっている様子はない。
こんな所をお父様に見られたら、クビだけでは済まないかもしれない!
「なんて、冗談です」
「し、心臓に悪い……」
アキは即座に離れ、やって来たお客様の対応をし始めた。
時折こっちを見ては妖しく微笑むアキ。その微笑みはどことなくいつもと違い、ドギマギしてしまう。
本番では、ちゃんとできるようにしなくては……。
――――
――
―
「――――今日はありがとう、脇谷君」
「お疲れ様です、店長」
バイトを終え、着替えを済ませた俺に木一さんが声を掛けてきた。
「次にお願いするのは……そうだ、秋穂から連絡するって話だったな」
「すみません、なんか……面倒ですよね?」
曜日も決まっていないし、雇い主としては使いづらいだけだろうな。恐らく木一さんも、お手伝い感覚で俺を雇ってくれているに違いない。
「まぁ、秋穂が我が儘を言うのは珍しいからな……」
「そうなんですか?」
「娘を持つ父親の宿命だな。嫌われたくないんだよ」
「あはは……分かるような、分からないような……」
「でも君を連れて来た時は驚いたぞ? てっきり酒神君を連れてくるものだとばかり思っていたからな」
「酒神……公太の事ですよね?」
「ああ、去年は彼にお手伝いをお願いしていたんだ。てっきり今年も……だと思ったんだが」
「公太が、秋穂さんとバイト……ですか」
「でも秋穂があんなに楽しそうに働いているのは初めて見たからな! 父親として複雑な所はあるが……これからも頼むよ? 脇谷君」
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願い致します」
公太が、アキと一緒にバイト……か。
なんだよ、すげぇシックリくるじゃん……。
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