第3話 専属マネージャー
蓮海を連れて空手道場にやってきた俺は、着替える前に道場の先生である北浜海二に、蓮海の事を紹介していた。
今気づいたが、この北浜先生から滲みだす優しさオーラは、どこか蓮海に似ていると思った。
そんな先生は、いきなり爆弾発言をして俺達を困らせていたが。
「こんにちは九郎君……おや? 彼女さんを連れて来たのかい?」
「……こんにちは先生。彼女じゃなくて、見学希望者ですよ」
先生、やはりオジサン。そういう質問は気まずくなるからやめて欲しい。
「あはは……彼女だって。そう見えるのかな?」
良かった。蓮海はとりあえず嫌そうにはしていない。まぁ心の中でどう思ってるのか分からんが、もし顔に出されていたら立ち直れん。
しかし、そう見えるのかと聞かれてもなんて答えれば。下手な事をいってしまうと大変な事になりそうだし――――
【だったら嬉しい】
【先生の冗談だろ】
【適当に逸らかす】
【聞こえない振り】
――――だったら嬉しい……を選びたい所だが、これは選べん! 恥ずかしすぎる。どんな顔してそんな事を言えばいいのか、全然分からない。
モテる奴はスッと言うのだろうけど、言いたくても言えない! 噛む自信がある、吃る自身がある。
言葉だけじゃダメだろう。言い方、雰囲気、表情。色々と合わせる事が出来なきゃ、下手をしたら気持ち悪がられてお終いだ。
すまん蓮海、いつか俺が成長したら言うから。今回は適当に逸らかそう……。
「ど、どうだろうねぇ? まぁ蓮海は美人だから、悪い気がする男はいないだろうけど」
「……へっ?」
「ん……? あれ……逸らかした……あれ?」
あれ? 蓮海の顔がどんどん赤く……!?
「じょ、冗談には冗談で返してよぉ……恥ずかしい……」
「えっ!? いやだから、逸らかしたよ……?」
蓮海は真っ赤になって顔を両手で覆ってしまった。これ、蓮海が本気で恥ずかしがっている時の仕草だ。
美人という本当の事を伝え、尚且つ世間一般論で回答したのだけど。あ……俺も男だから、俺も悪い気はしないと言ったようなものか!?
「あ~、君達? ここはデートスポットじゃないのだけどなぁ?」
「い、いやそんなつもりは!? あの先生! この子が見学したいって言うので連れてきました! いいですよね?」
「もちろんそれは構わないよ? でもその前に、彼女さんを落ち着かせてからにしてね?」
「だ、だから彼女じゃ……」
その後、蓮海が落ち着くまで適当な話をし続けた。この空手道場の話、蓮海が興味を持っていたエクササイズ方面などを重点的に。
同じ目的で通っているアラサーOLさんが来ていたため、その方を交えて談笑したりしたのだが、その時の蓮海の目がどこか厳しかったのはなぜだろう。
――――
――
―
「――――おお~。似合ってるよ、九郎くん」
「そ、そうか? 自分ではそうは思わないけど……」
アラサーOLさんとの会話もそこそこに、いよいよ空手着に着替えた俺は蓮海の所へ戻った。
それを見て小さく拍手をする蓮海。あまり意識した事がなかったのに、こうもジロジロと見られると何故か恥ずかしくなってくる。
「新鮮だからかな? うん、普通にカッコいいよ?」
「かか……カッコよくなんてないだろ!? なに言ってんの!?」
「う~ん……普段の仕返し?」
指先を口元に当て、首を傾げる蓮海。本当にこの子は分かってらっしゃる、自分の魅力というものを。
しかし道着を纏った俺はまさに武人。甘い誘惑になど負け可愛いなぁほんと。
「えと……じゃあ俺、組手してくるけど……ほんとに見てるの?」
「うん、見てる」
「……面白い物じゃないと思うぞ?」
「それは見てみないとなんとも。それに、結構見学の人いるみたいだよ?」
「……あれは子供の付き添いの振りをした、北浜先生狙いのマダム達だ」
「あぁなるほど! あの先生モテそうだもんね~」
モテそうと言うかモテるんです。あのアラサーOLさんですら女の顔をして声を掛けていた。
もしかすると彼女は先生目当てだったり? 先生、独身だしな。
「女性会員が多いのは、そういう理由なのかな?」
「かもな~。なに、蓮海も先生狙い?」
ダメですよ先生、犯罪です。訴えられますよ。四十台のオジサンなんだから……あれ? めっちゃ先生と目が合ってんな? まさか心が読める!?
「あはは、歳が違い過ぎるでしょ。あたしは九郎くん狙いだよ」
なんて可愛い事を、惚れてまうやろ…………なんだって?
「お、俺ねらい……?」
「うん? …………って違う違う! 九郎くんに誘われて九郎くんを見に来ただけなんだから九郎くん狙いって事だよ分かった!?!?」
「お、おう……分かってる、分かってるよ……」
そんなに精一杯否定しなくても……。別に勘違いしたりしないよ、哀れなピエロにならないように、そこだけは心掛けている。
え? 勘違いさせちゃった? ごめ~んそんなつもりなかったんだけど~。ウケる~、これだから非モテは……ちょっと優しくしただけでこれだよ。なんて女性に言われるのは避けたい。
「……じゃ、行ってくるな」
わたわたと慌てる蓮海に苦笑いしつつ、頭を空手一辺倒に切り替えた。余計な事を考えるのは相手をしてくれる人に失礼だしな。
――――
――
―
「――――ありがとうございました!」
めっちゃ余計な事を考えてしまった。いい練習、いい運動にはなったが、集中できていたかと聞かれると……。
めっちゃ視線を感じるんだもん。そりゃ空手を見るために来たのだから、視線を感じるのは当然なんだけど。
慣れないといけないな。果たして蓮海ほどの美人に慣れる事ができるのかは疑問だけど。
「お疲れさま! 凄かったよぉ~、はいタオル」
「お、おう。ありがとう……」
うわ、なんだこのタオル、めっちゃいい匂いするんだけど。あれ? これ、俺が持ってきたタオルじゃないな……。
「準備してきて良かった~。やっぱり結構、汗かくんだね」
「これ……蓮海が持ってきたの?」
「そだよ~? これだけ汗をかくなら、ダイエット効果も期待できるかも!」
専属マネージャーみたい。トコトコとタオルを持って走り寄って来た蓮海、ヤバすぎ。サッカー部に取られなくて良かったぁ~。
無理だよ、慣れる訳ない。この可愛さは反則でしょうよ。
「はい、これ。スポドリで良かったかな?」
「これも……用意してくれたの? マネージャーみたいだな」
「あはは、九郎くん専属だね。でも見てたら、あたしもやってみたくなったかも」
俺ではなく、アラサーOLさんの事を見て興味が出たらしい。
しかしマネージャーか。勇気を出してあの選択肢を選ばなかったら、蓮海は今頃サッカー部の公太の元にいたのだろうか?
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