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第1話 勉強会の次は運動会

勘違い編、後半






「じゃな~九郎、頑張れよ~」

「またね、九郎。手伝う事があったら、いつでも声を掛けてよ?」


「……ああ、また明日」


 央平と公太が教室を出て行くのを見送り、俺は小さく溜め息を付いた。


 俺は二人とは一緒に帰れない、やる事があるからだ。


 中間テストが終わり、夏休みまでにある大きなイベントの一つ、体育祭。秋頃に開催される球技大会とは違う、まぁ運動会のようなものだ。


 そして体育祭も球技大会も、クラスの代表となるのは学級委員長。黙って体育祭実行委員とか作ってくれればいいのに。


 というか、今更だけど俺が学級委員長なんだな。こういうのはやっぱり、主人公である公太がなりそうなもんだけど。


 事実、この前公太に聞いたのだが、一年生の時は学級委員長を務めたらしい。


 この事実もまた、一つの違和感として俺の心に残っていた。



「はぁ、めんどくさ。でもまぁ……いっか」


 なんと言ってもパートナーが、夏担当の愛川夏菜だ。


 愛川と一緒に仕事できるのなら、面倒な雑用も楽しい時間に変わるのだから。



「脇谷く~ん! お待たせ! 待った?」


 そしてやってきた副委員長、相変わらずの弾ける笑顔っぷりだ。


 ちょっと手洗いに行くと言う愛川を待っていたのだが……そのセリフってデートで使われるセリフじゃなかったか?


 え……つまりこれって、デートなんじゃね? 放課後デート。



 【全然待ってないよ!】

 【こっちも今きた所!】

 【待ち遠しかったよ!】



 だよね!? 現れるって事はそういう事だよね!?


 となれば返答は嫌というほど学習済みだ。どの恋愛ゲームでも、ほぼこの返答を主人公は行っていた!



「こっちも今きたところだ!」


「……ん? 脇谷君もどこかに行ってたの?」


「……え? いや、ずっと教室にいたけど……」

「え~なにそれ? 君はどこから来たの?」


 し、しまった! よく考えたらここは駅前でも何でもなく、教室じゃないか! 教室で待ち合わせていたとしても、今きたってのはおかしい!


 イカン! 軌道修正せねば!



「いや~本当は、待ち遠しかったんだ!」


「あ……そんなに待たせちゃった? ごめんね」

「えっ!? いや違う!! 暗い感情じゃなくて、明るい感情! 愛川の事、ウキウキしながら待ってたから!」


「……ほんとかなぁ?」

「ほんとほんと! それに全然待ってないから!」


「あはは、そんなに慌てなくてもいいのに。分かってるよ!」


 屈託ない笑顔を向けられてホッとする。結局、全ての選択肢を選んだ形となってしまった。


 ゲームと違い、修正できるのはいいな。もちろん吐いた唾は呑めない事もあるだろうから、慎重にならざるを得ないが。



「じゃー行こっか! 脇谷君!」

「おう」


 笑顔のままの愛川と肩を並べて廊下を歩く。今日は体育祭に向けて、各クラス代表の簡単な顔合わせがあるのだ。



「楽しみだね! 体育祭!」

「そだな~。公太もいるし、トップを狙ってみたいよな!」

「脇谷君もいるしね!」


「……俺? 俺はその他大勢だぞ?」

「ウチの中では運動できる人だよ?」


「そ、そうか? まぁ愛川もいるしな」

「任せてよっ! 優勝旗は我がC組のものだぁ~! 頑張ろうね!」


 ほんと人懐っこい笑顔のお陰で、凄く話しやすい。クリクリと大きな目で見つめられるとドキドキするが、嫌な気分には全くならない。


 すれ違う多くの生徒にも声を掛けられており、愛川の人の好さが伺えた。



「愛川って友達多いよな」

「そうかな? そんな事ないと思うけど」

「少なくとも俺には、あんな気軽に挨拶できる友達は少ないぞ」


「……ん~まぁウチの場合は、公くんの事もあるから」


 そう言うと、愛川の人懐っこい笑顔に陰りが見えた。悲しみとまでは言わないが、愛川らしからぬ苦笑いを浮かべていた。


「ほら! 公くんってモテるから! 仲を取り持ってもらおうとする女の子がね」


「……ああ、なるほど。幼馴染の愛川に近づいて来るのか」

「そそ! 外堀を埋める的な? だからまぁ……挨拶はしても友達と呼べる人は、そんな多くはないかな?」



 【慰める】

 【何とも言えない】

 【話を逸らす】



 初めて見た、愛川の沈んだ笑顔。ちょっと触れれば消えてしまいそうなほどの儚い笑顔は、愛川には似合わないと思った。


 愛川のような性格なら、人も近づいて来やすいのだろう。話しかけやすいと言うのが、仇となっていると言えばいいのか。



「……そんな辛そうに笑うなよ」

「え……?」


「アキだって蓮海だって、トーリだって友達だろ? 俺だって、央平だってそうだぜ? もちろん公太もだ」

「う、うん」


「みんな純粋に、愛川と友達になりたいから一緒にいると思うよ? 打算なんてなくてさ」

「そ、それは分かってる! 分かってるの! そうじゃない人もいるって!」


「そうそう! ごく一部なだけで、やっぱり愛川には友達が多いんだよ」


 こんな明るくていい子なんだ、そんな愛川があんな顔をする必要はない。


 中には愛川の言う通り、公太目的の人もいるのだろう。でも大多数は、単純に愛川の人柄に惹かれて近づいてくるはずなんだ。



「そっか! なんかありがと脇谷君!」

「おう! 愛川はそうやって笑ってる方が可愛いよ」


 ポカンとする愛川。徐々に表情がニヤニヤし出したのを見て、やってしまったと確信した。


「……ひょっとしてウチ、口説かれているのかにゃ?」

「なっ!? そんなつもりは……ただ見たままをだな!?」

「にゃはは~、赤くなってるし~。ウチって可愛い? 可愛いの?」


 うわ、その八重歯めっちゃ可愛い。ていうか、コイツ!


「赤くなってんのは愛川だろ! 可愛いけど!」

「そ、そんな事ないもんっ! 可愛い言うなっ! ていうか見るな~!!」

「聞いてきたのは愛川だろ!?」


 手で顔を覆い隠して照れる普段らしからぬ愛川の様子を見ていると、再び自分の顔が赤くなったのが分かった。


 流石、四季姫の一角。こんなフランクに接してくれる愛川だが、学園の中でトップクラスに人気な女子の一人なのだ。


 どこかぎこちなくなった俺達の歩みは遅くなり、集合時間に遅れたのは言うまでもない。


 ほんと、遅刻コンビ。まぁ愛川の明るさのお陰で、待たされた他クラスの代表から毒気が抜かれたのは助かった。


お読み頂き、ありがとうございます


次回

→【有罪判決】

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