月姫VS陽姫
勘違い編の閑話として投稿
――――中間テスト前日
「九郎、零さないで食べるのよ?」
「こ、零しませんよ……子供じゃないんですから」
「そうかしら? 勉強もできないし、アタシから見れば手の掛かる弟って感じね」
「「…………」」
「……酒神先輩には本物の弟がいるじゃないですか、妹も」
「――――ッチ」
「ひぃ!?」
「……今なんて言った?」
「……ひ、陽乃お姉ちゃんには……弟がいるじゃないですか……」
「フフっ……いるわよ? 立派で手の掛からない、弟と妹が」
「「…………」」
酒神家ダイニングにて、我、蛇に睨まれたカエルと化す。俺はどういう理由か、酒神姉に気に入られたようだ。
揶揄うつもりで呼んだお姉ちゃん呼びを大層気に入ったらしく、先ほどの様に強要してくる。
間違って他の呼び方を取ろうものなら、あの眼!! この人、絶対何人か眼力で処した事あるよ。
テーブルの反対側に座る弟と妹は助けてくれない。申し訳なさそうな顔をする公太に、なぜか不機嫌そうに睨みを効かせる月ちゃん。
妹と姉が作ってくれた素晴らしい料理も、味が分からない。
「……姉さん。九郎先輩は子供じゃありませんよ?」
「分かってるわよ、子供扱いなんてしてないわ」
「……ひ、陽乃ねえ。九郎もさ、困ってるから……」
「はぁ? なんで困るのよ?」
そうだ、頑張れ二人とも! 俺はこの方には逆らえない、もう心に上下関係の烙印を押されてしまった。
この御方を止められるのは、家族である君達だけだ!!
「いや、だってさ? 本当の姉弟でもないのに、姉呼びを強要するのは……」
「そうです! 姉呼びなら私達がいつもして――――」
「――――うるさい」
「「むぐッ……」」
強いこの姉ェェェ!! 公太はまだしも、あの月ちゃんまでもが言い包められるとは。言い包めるというか、言葉の圧で抑え込むと言うか。
(仕方ない、自ら犯した罪だ。我が断罪を持って――――)
「――――ねぇ九郎。近所に昔から仲の良い、血の繋がらない年上の女がいたとして、アンタはお姉ちゃんって呼ぶのをおかしいと思う?」
えっどういう事? その、分かってるわよね? って目が怖い。
「えっと……幼馴染の人なら、呼ぶんじゃないですかね?」
「そうね。実際、夏菜はアタシの事を陽乃姉と呼ぶわ」
「で、でもですね……俺と先輩は、そういう関係じゃ……」
「あぁん? なに、そもそも不満なわけ?」
「い、いえ!! 光栄であります!!」
「そうよね? ならこれからもお姉ちゃんと呼びなさい」
「はいっ! お姉ちゃん!!」
「うふっ……良い子ね九郎」
もういいや、ど~でも。陽乃姉ちゃんも何でか嬉しそうだし、嫌がってないならどうでもいいや、もう。
しかし初めてできた姉が、こんな強烈な姉とは。いや、もしかして普通なのか? お姉ちゃんなんて、こんなもんなのかもしれないな。
「そ、それより九郎先輩! どの料理が一番美味しいですかっ?」
「全部おいしいよ? 本当に、全部! なぁ公太!」
「……そ、そうだね。俺は――――」
余計な事を聞くな月ちゃん!! 目の前にある料理……ナポリタン、ポテトサラダ、野菜スープ。恐らくどれかは姉が作り、どれかは妹が作ったはず。
こんな状況で、もし陽乃姉ちゃんが作った物以外を選んだら……想像すらしたくねぇ!!
【ナポリタン】
【ポテトサラダ】
【野菜スープ】
……なんだ? なんか視界にゴミが見えるな。飛蚊症か? いや、麻雀ゲームや恋愛ゲームのやり過ぎで視力が落ちたか。
なぁんも見えない。ほんっと、なぁんも見えなくてツレぇわ。
「九郎、どれが一番なのよ?」
「先輩、どれが一番ですか?」
「……一番とか決めなくて良くない? 全部おいし――――」
「――――あぁん?」「――――はぁ?」
やっぱりこの二人、姉妹だよ。怒るとソックリ、もう本当にソックリ!
あれ? 公太はどこ行った? 皿も無くなって……アイツ!? まさか俺を置いて逃げやがったのか!? なに脇役みたいなムーブしてんだよ!?
「九郎?」「先輩?」
「……あぁ、選択肢が消えねぇ……」
「どっちが美味しいのよ?」「どっちが美味しいですか?」
やっぱりそうなんじゃん! どっちかが姉で、どっちかが妹なんじゃん! 仲良く共同作業してくれよっ!!
……ん? んん!? どっちかという事は……もしかして、どちらでもない料理がある……? お母さんの作り置きとか?
賭けるしかねぇ……!!
「…………や……野菜スープ……?」
「「…………」」
ど、どっちだ? ここまで緊張する選択は初めてかもしれない。
見比べるとマジで美人姉妹。でもマジで強面姉妹。二人ともに表情に変化は見られない、喜ぶ事も残念がる事もない。
という事は……お母さんを引き当てたか!? 三分の一の奇跡!!
「……引き分けね、月乃」
「そうですね、姉さん」
(よし! やっぱりお母さんだ! 間違いない! 案外、お父さんだったり――――)
「――――まぁ二人で一緒に作った物を一番だと言われるのは、悪い気分じゃないわね」
「……味のベースを作ったのは私ですけど」
「味を調えたのはアタシよ?」
うぅうん! まぁ! 結果オーライじゃないか!? 結果、優劣は付けなかったという事。言い方を変えれば、二人ともに一番だと伝えた様なものだ。
選択肢の申し子と呼んでいただこうか。
ふはは、恐れるに足らん。もっと難しい選択肢を用意して欲しいものだ――――
「――――じゃあ九郎。ナポリタンとポテトサラダなら、どっちが美味しい?」
「野菜スープが一番は分かりました。では、二番はどれですか?」
【ナポリタン】
【ポテトサラダ】
ムズカシィィィィ!!! やめて、マジで。みんな一番でいいじゃん。
聞こえない振りをして急いで啜り食らい、公太の部屋に逃げました。部屋でのうのうとナポリタンを食べていた公太に、肩パンをしたのは言うまでもありません。
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次回
→【四季姫のイメージ】




