第7話 なにか忘れているような……
8人と言う大所帯になってしまった勉強会。これだけの人数が集まれば、図書館やファミレスなどで勉強する訳にもいかなくなっていた。
大きくスペースを占拠するのも憚られたし、勉強と言っても話すのだから、8人も集まればそれなりに煩いのでは? と思ったからだ。
中々決まらない場所に、やっぱり各々で勉強しようかと言いかけた時、酒神後輩の鶴の一声で開催が決定したのだ。
『――――では、酒神家で勉強しませんか?』
8人くらいよゆー、らしい酒神家。すげぇな、俺の部屋なんて4人も入れば暑苦しくなるだろう。
元々、公太に教えてもらいたかった俺は二つ返事。央平は愛川とアキが参加する事を知って、公太に必死に懇願してOKを貰っていた。
問題は蓮海とトーリだったのだが――――
『九郎くんが行くならお邪魔しようかな』
『クローが行くなら行ってもいいわ』
との事。
俺が行かなければ行きたくないとか可愛い奴らめ。と思ったのだが、よく考えれば二人と知り合いは俺だけなのだから当然か。
……というか、あんだけ言い合ってたのに夏秋と春冬は知り合いじゃないのか?
そして迎えた次の日。つまり土曜日だが、学校はお休みだ。
そのため俺は、昼食を済ませた後で蓮海とトーリと駅前で合流し、事前に教えてもらった酒神家へとやって来たと言う訳だ。
「――――っと、ここだよな? ……でけぇ家だな」
目の前にある一軒家は、周りにある住宅の二倍ほどの大きさがあった。大豪邸とは言えないのかもしれないが、十分に豪邸と呼べる家だと思う。
主人公のご両親は、やはり主人公だという事か。
「それよりクロー。さっきの話、覚えているわよね?」
「そうだよ九郎くん。あたし達、頼れるのは九郎くんしかいないんだから」
「わ、分かったよ…………ならなんで来たんだ」
「なにか言ったかな?」「なにか言ったかしら?」
「いや、なにも……ほら、行こうぜ」
どこかゾクっとする蓮海の目と、射抜かれるようなトーリの目。どうやらこの二人に逆らう事はできないようだ。なぜか身の危険を感じる。
二人が言った話というのは、別に大した事ではない。知り合いが俺しかいないから、座る位置を出来るだけ近づけて欲しいという事だった。
そのくらいならお安い御用だ。むしろこっちからお願い致しますよ――――
【蓮海の髪型を指摘する】
【そういえば央平は?】
【彼女達の私服を褒める】
【さっさと家に入ろう】
――――なんてこった! さっきから何かモヤモヤすると思ったらそういう事か!
彼女達の私服、見るの初めてじゃん! 褒めなきゃいけなかったはずだ! 恋愛ゲームでも必ず私服を褒める描写があったもん。
そう言えば蓮海の奴、駅前で会った時から何かモジモジしていたのはそういう事か! トーリもなんかチラチラ見てると思ったら。
髪型……? え、切ったのかな? 確かに微妙に違うような……いや、髪型はリスクがデカい、パスだ。
「んん? どうしたの九郎くん?」
「なによ急に立ち止まって? 早く行きましょう?」
急に立ち止まった事を不思議がった二人が、怪訝そうに声を掛けてくる。
ここで言っておくべきだろう。みんなの前で褒めるなんて事は、俺に出来っこないからな。
「あ~その、二人とも今日の服……いいな、可愛い」
「へっ?」「えっ?」
「……なんと言うか、女性の服の事はよく分からないけど……その、二人の性格とか雰囲気にピッタリだと……思います」
蓮海は……ハイウエストスカート? うん、大人っぽい服装。トーリはデニムパンツスタイルの……うん、ボーイッシュ。
知らねぇよ女性の服をなんて言うかなんて。似合っていればいいだろう。可愛ければいいだろう!
「あ……ありがとう。……ふ、不意打ちは卑怯だよぉ……」
「い、いきなりそんな事を言われても……困るわ……」
蓮海は手で目を覆って俯いてしまい、トーリは頬を朱に染めたまま目をキョロキョロと彷徨わせ始めた。
ちょっとストレート過ぎただろうか? いやいや、似合ってるから似合ってると言ったんだ。
間違いって事はないと思うけど……言う事は出来ても反応を貰う時は緊張するな。
これは恥ずかしがっているだけだよな? ジロジロ見てしまったし、キモいとか言われたら立ち直れないぞ。
「うぅ……」
「も、もういいっ! さっさと行くよクロー!」
「……トーリ、ちょっと子供っぽさが顔に出始めてるぞ」
「う、うるしゃいっ!!」
トーリに背中を押された俺は、そのまま酒神家の門を潜った。
愛川とアキの私服も楽しみだなぁと思いながら、ドアホンプッシュ。
「――――いらっしゃい脇谷! と、蓮海さんと向空さんも」
「よう酒神! 今日はよろしくな」
「「…………」」
うおっ……なんて洒落た服を着こなしやがる。普段からこうなのか!?
公太とはもっと深い仲になった方がいいな。今度、一緒に服を買いに行ってもらおう。
公太のセンスがあれば、女子受けバッチリに違いない。その証拠に、後ろにいた蓮海とトーリは顔を赤くしているし。
「先に2階に行っていてくれるか? 飲み物を準備してくるから」
「おう。じゃあお邪魔します」
そう言うと爽やかスマイルを残した公太は、奥の部屋へと消えていった。
「じゃあ失礼して……どした二人とも? 行こうぜ?」
(うわ、二人ともまだ顔を赤くしてやがる。やはり公太の私服にやられたか)
「あぁ~……やっぱ酒神は服のセンスも凄い良いよな」
「……? そうなの? ごめん、見てなかったな」
「酒神君、いたの……? 気づかなかったわ」
「……はぁ? いただろ目の前に……って、じゃあなんでそんなに顔赤いの?」
なぜか二人に睨まれる。俺は靴を脱いで一段高い所にいたから、低い所にいる彼女達は上目遣いだ。
破壊力が高すぎる。頬を赤くした美少女の上目遣い睨み。
そんな二人を見てこっちが顔を赤くして狼狽えると、どこか満足したような表情で二人は笑うのだった。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【やはり何か忘れているような】




