第20話 クールな彼女は打たれ弱い
ロン→他家の捨牌で上がる
ツモ→自力で上がる
テンパイ→あと1牌で上がれる状態
「もーー! クローのばかーー! ばかぁーーー!!」
顔を真っ赤にして、目に涙を溜めながら俺を睨みつけているトーリ。
クールで冷静、凛々しい姿のトーリはどこにもない。随分と大人だと感じていたが、今のトーリは大人の皮を被った小学生だと言われても驚かない。
「クローなんか嫌いっ!! わたしばっかり狙い打ちにして……意地悪……酷いよ……」
「ト、トーリ!? それは戦略であって、意地悪じゃないんだが……」
確かにトーリを何度か狙い打ったが、それはトップを目指す上で必要だったからで、断じて意地悪ではない。
「うぅ……クローなんか……! 五郎丸さん! 八千代さん! もっかい! もう一回っ!」
「お……おう。いいけどよ……時間、大丈夫か?」
「そうねぇ、あまり遅くまで女性を外に出しておくのも……」
「大丈夫っ! わたし、一人暮らしですので!」
何が大丈夫なのか、そして何故こうなったのか。
数時間前に麻雀を開始した時は、こんな事になるとは思ってもいなかった。
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「――――ククク……あンた、背中が煤けてるぜ? ロンッ!!」
「う……うう……」
トップ : 九郎
二 着 : 八千代
三 着 : 五郎丸
ラ ス : 冬凛
何回か半荘を行った結果、俺は何度かトップになる事ができていた。
八千代さんが一番多くトップを取り、五郎丸さんも一度トップを取っていた……のだが……。
「も……もう一回……お願いします……」
今にも泣きそうな、震える目で皆を見つめるトーリ。
トーリは一度もトップを取れていなかった。それどころか二着にもなれていないほど、ずっと三着とラスを行き交っていた。
麻雀には実力だけじゃどうにもならない流れ、運という要素もあるという事を俺は肯定している側なのだが、トーリのこれは……。
「……ねぇ、クロー」
「……はい、なんでしょうかトーリさん」
「三人で私を鴨っているとか……ないわよね?」
「……ねぇよそんな事」
「だ、だってぇ……」
確かに傍から見れば、トーリを鴨っているように見えるかもしれない。それほどまでにトーリの点数、順位は悲惨なものだった。
でも……それは――――
「――――っ!? くふふ……」
(トーリ……分かりやすいっ!!)
この子、分かりやすいんだよ!! 無表情とは言わないが、クールで冷静な彼女とは思えないほどの表情の変化。
今だって頬が緩んで、ウキウキといった擬音が聞こえてきそうなほどだ。
可愛いけど! そのギャップは素晴らしいけど! 貴女が今、あと一歩で上がれる状況になっているのが丸わかり!!
「くふ……ドキドキ……ドキドキ……」
(トーリ!! 心のドキドキが聞こえてくるようだよ! いや聞こえてるよ!?)
分かったらコッチだって対策をする。これは勝負なんだから、手を抜くのも失礼だと思うし。
「……あぁ、えっと……ツモだ」
「……ふぇ?」
そして空気を読まない五郎丸さんの上がり。先ほども言ったけど勝負だから、仕方ないんだけど……流石に少し可哀そうになってきた。
「タンヤオのみ……だな」
「……のみ手に……わたしの跳満が……」
トーリは大きな手が入った時、顔に出る。数局やってそれは皆が分かった事だった。
そのため彼女の様子を見て、ヤバい時は逃げればいいだけ。そしてドンドン点数が下がっていく彼女は、勝つために無理をしなければならなくなる。
危ないと分かっていてもトーリは進むしかない。それを狙い打つのは簡単だった。
「……それロン」
「えぇ……またなの…」
徐々に変わる彼女の表情。
「トーリ、それだ」
「ぅぐ……」
凛々しく大人びていた姿はどこにもなくなり。
「あ~、悪いなトーリ……満貫だ」
「…………ぐす」
目に涙を浮かべ始めたトーリを見て、ヤバいと思ったが後の祭りで。
「――――もーー!! クローのばかーー! ばかぁーーー!!」
この日、ついにトーリは一度もトップを取る事はなかった。
…………
……
…
「なぁ、機嫌直してくれよ……」
「……クローのばか」
現在、麻雀を終えた俺達は駅に向かって歩いていた。
雀荘から駅まで遠いと言う訳ではないのだが、時間が時間という事もあってトーリを送っていく事にしたのだ。
「き、機嫌直せって。こういう日も……あるだろ」
「今まで一回も勝てなかった事なんて、ないわ」
「ゲームと実際やるのでは違うだろ? 場の雰囲気とか、相手の気配とか色々さ」
「そうだけど、いくらなんでも……」
頭を伏せて落ち込むトーリ。慰めてあげたい所だが……なんと言えばいいのだろう。
顔に出ていると教えるか。恐らくゲームでも今日みたいに感情を出してプレイしているのだろうけど、ゲームはそれが相手にバレる事はないからな。
あの可愛いトーリが見れなくなるのは残念だが、今後も一緒にやってもらうには教えないと拗ねてしまうかもだし――――
【頭を撫でて慰める】
【顔に出ていると指摘する】
【もう少し様子を見よう】
――――顔に出ていると教え……待てよ?
頭を撫でる……? あの、女の子の頭ポンポンの事か? あの、成功と失敗の差が激しい頭ポンポンの事か!?
……い、いいのか? いや、選択肢に出て来たからって安心はできんぞ。神、普通に不正解の選択肢を混ぜる奴だからな。
落ち着け、頭ポンポンなんて童貞かつ脇役の俺には無理だ。気味悪がられるのがオチ、黙ってここは顔に出ていると指摘するべきだ。
「……トーリはさ、いい感じになると顔に出るんだよね。今わたしテンパってます! って顔に書いてんのよ」
「そ、そうなの……? そ、それよりこの手はなにかしら……?」
「……て? て…………手ェェェェェ!?!?」
無意識にトーリの頭を撫でてしまっていた。あまりに丁度いい高さにトーリの頭があるから、吸い寄せられるように彼女の綺麗な髪に……!!
ま、まずい! ナンパはまだしも、直接触れてしまっては冤罪だと言い訳はできん!
「ご、ご……ごめんなさいっ!! とても触り心地いい……じゃなく勝手に触ってごめんなさい!!」
「そ、そんなに慌てなくてもいいわよ。別に……嫌ではないわ」
「へ……そ、そうなのか?」
「まぁ、貴方なら……こ、ここまででいいわ。その……またね!」
「あっ……」
俺の返事も聞かず、トーリは急ぎ足で駅の構内へと消えていった。
駅の明かりに照らされたトーリの頬が僅かに赤くなっていたのは、見間違いではなかった。
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→【四季姫の顔合わせ】




