第16話 主人公の妹は危険な存在?
午後、春の陽気とは思えないほどの天気の良さの中、俺は一年生のオリエンテーション補助を続けていた。
部室棟を始め、屋外に設置された施設の案内は特に問題なく進んでいた。
「脇谷先輩、この学園ってプールないんすか?」
「プールは第二体育館の隣にあるよ、室内プールだぜ」
「…………」
「脇谷先輩! あそこって……」
「あれが弓道場だよ、校舎からは離れてんだ」
「…………」
「脇谷先輩って、彼女いますか?」
「……いねぇよ」
「「「あはは、ですよね~」」」
「…………」
先輩モテモテじゃん! 彼女いないかどうか知りたいとか、そういう事だよな!? なんか馬鹿にされたような笑い方ではあったが。
いや、それよりも大変な事が……大変というか、居心地が悪いと言うか。
「…………」
午前中からずっと、例のショトカ後輩ちゃんに睨まれているんだよ。その目に好意は一切含まれていないから、勘違いのしようはないのだけど。
「……あの、後輩ちゃん? なんでずっと俺を睨んでるわけ?」
「睨んでいませんよ、自意識過剰です」
「いや、ずっとついて来るし……もしかして俺の事――――」
「――――止めて下さい、セクハラです。訴えますよ?」
ここでも俺は被告にされるのか。訴えられては敵わんが、本当に視線を感じるんだよな。
なにかこう、探られているような不快感がある。出来ればご遠慮願いたいのだが、自意識過剰と言われてしまえば何も言えん。
「どうして先輩が……兄さんは何をして……」
なにかブツブツと言ってるし、怖いんだけど。
初めは小動物かと思ってたが、あの鋭い目を向けられ続けた俺は、後輩ちゃんの事を獰猛類としか思えなくなっていた。
触らぬ猛獣に祟りなし。あと少しでオリエンテーションも終わるし、我慢するか――――
【我慢する】
【名前を聞く】
【蓮海に押し付ける】
――――なんで現れるかな? 分かり切った事を選択させるんじゃない。
我慢だ! 我慢一択だ! 蓮海にこの猛獣を押し付ける訳にはいかないし、名前にも興味はない。
顔面重視の後輩なんて知らん。怖いし、原告になりうる素質を持っているし、無視するのが一番――――
「――――酒神さん! 確か二年生にイケメンのお兄さんいたよね? 紹介してよ~」
聞こえない。坂上さん? なんかキツい事いいそうな名字だねって聞こえないッ!!
「紹介するのは構いませんが、貴女ではヒロインになれないと思いますよ?」
坂上さん辛辣!! もうちょっと言い方あるでしょ!? ヒロインになれないとかヒドインって聞こえないッ!!
「え~酷いよぉ~、でも紹介はしてくれるんだ? 楽しみにしておくね! あ、月乃ちゃんって呼んでいい?」
酒神月乃……? 聞こえない!! やっぱりしなくても公太の妹か!? いいや聞こえないッ!!
「構いませんよ」
「ありがと~! じゃあ月乃ちゃん、また後でね!」
俺は我慢を選択した、それは間違いない。結果として情報を得てしまったのかもしれないが、俺が望んだ訳ではない。
後輩ちゃんに絡んでいた女子生徒が去っていくと、急に裾が引っ張られる感覚がしたので慌てて振り向いた。
そこには、獲物は逃がさないと言った獰猛類の目をした月乃ワグマが佇んでいた。
「……なんでしょうか?」
「先輩、私の情報だけを得ようなんて烏滸がましいですよ?」
「……なんの事でしょうか? 貴女の情報なんてありませんが」
「私は酒神月乃と申します。先輩と同じクラスの、酒神公太の妹です」
「……聞こえません」
「訴えますよ?」
「罪状は!?!?」
「個人情報保護法違反です」
自信たっぷりに言う後輩ちゃん。それっぽい事を言っているが、一体こいつは何を言っているのか分かりません。
イメージだが保護法違反って事は……外部に流出させたら違反だろ? それなら罪人はさっきの女子生徒だと思うし、俺は今のところ保護ってると思うんだが。
知りたくもない個人情報を第三者から強制的に与えられただけなのに、罪人にさせられてはたまらん。
まぁ、名前なんて調べれば簡単に分かる事だけど、なんでかこの子に知られるとマズい事になりそうな気がする。
「……脇谷九郎だ。酒神公太とは同じクラスだよ」
「知っていますよ。お昼休みに兄さんに聞きましたから」
(ほんっと何なのこの子!?)
「聞きたいのは名前ではなく、別の事です」
「……なんでございましょうか?」
何が聞きたいと言うのか。別に隠している事もないし、そんな風に興味を持たれる人物でもない気がするんだが。
「貴方は本当に…………いえ、今はいいです。私の勘違いかもしれませんので、もう少し様子を見ます」
うっわ、何その含んだ言い方。俺の嫌いなパターンだ。
意味深とか、そういうの大嫌いなんだよな。そっちが何か思う分には勝手だけど、それを言葉にして吐き出さないでくれないかな?
それで俺をモヤモヤさせてどうするの? 何が目的なの……。
「これからも、よろしくお願いしますね、脇谷先輩」
「……よろしくな、酒神後輩」
なんでか、よろしくしたくねぇ……。
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