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ドロテの災難~弐~

「旦那様、ドロテ様をお連れしました」

「うむ。入れ」

 扉を開けた次女と入れ替わり挨拶をして顔を上げたドロテは一瞬ギョっとした。

 窓際で父フランクと共に薄いブルーの果実酒の入ったグラスを持っていたのは騎士学校教官ガスパー・ランバートだったからだ。

 ―—な!何故ここに教官が?!

「おおドロテ嬢、邪魔しておるぞ。卒業式典からあまり日が立っておらぬがそのような衣装を着ていると見違えるな。あのアルバンとの激闘を制した騎士とはとても思えぬぞ」

 ガスパーは赤を基調としたドレスのドロテを褒めた。

「馬子にも衣裳といいますか、わっはっは」

 フランクは上機嫌だ。

「あ、有難うございます教・・ガスパー様。本日は私にどのような御用でしょうか?」

 お前は考えている事が顔に出すぎると常日頃フランクから小言を言われているドロテは必至で平静を保ちながら質問した。

「ガスパー様は小隊編成についてお前と話をしたいそうだ」

 ―—小隊編成について私と話?

 ドロテの配置についてはフランクを交え既に第四十一小隊長と話は付いている。

「そうなのだ。既に各方面物事が決まった後で申し訳ないのだがここに来て騎士団編成の大枠に変更点が出て来たので其方の同意を得たいのだ」

 ――騎士団編成の変更?今??同意???

こんな直前に編成変更など普通では考えられないという事はドロテにも解る。そのうえ新入団の自分の同意が必要だという。

 ドロテの頭は疑問でいっぱいとなった。

「し、しかし先ほどちらと小耳にはさんだのだがドロテ嬢は今日は大事な要件があったのではないか?」

 怪訝な顔をして入室するドロテを制するかのようにガスパーが言った。

「え?あ、はい、でも御心配には及びません。待たせておきますので」

 騎士団に連れて行く使用人の選定の事だろうか?だとしてもそんなことをガスパーが気にする必要は無い。ドロテは不思議に思った。

 下の者は後回しになる事が常である階級社会で何も言わずともいくらでも待たせておくのが普通だ。

「ド、ドロテ嬢、フランク殿とこうして話をするのは久しぶりでな昔話で盛り上がっていたところなのだ。そ、それに小隊配置の話は少し長くなるかも知れぬので先に用を済ませてくると良い」

「・・・?」

「ドロテ、ガスパー様がこうおっしゃっているのだ。お言葉に甘えて先に選定を済ませてまいれ」

「は、はい・・・では後ほど・・失礼いたします」

 ドロテはガスパーのどこかたどたどしい話し方と態度に違和感を覚えつつ退出した。


「ドロテお嬢様、侍女の候補者十名は”舞踏の間”に集められております」

「わかったわ・・・」

――何かしら?気に入らないわね・・・。

 ドロテは眉間にシワを寄せて長い廊下を歩いていた。ガスパーは妙にたどたどしい話し方だったし少し小鼻を膨らませたりしていてよくよく思い返してみると笑いを堪えていたかのようでもあった。

「ドロテ様が参られました」

 ”舞踏の間”に入るとドロテは側仕えの一人から候補者の氏名、年齢、続き柄、学歴、出身領が書かれた羊皮紙を受け取った。候補者達は羊皮紙に書かれた順番で白壁の前にやや俯き加減に整列している。

 ドロテはアミラから業務を引き継いだ執事のマルセル・ラージュを側近として連れて行く事を決めていて集められた者の中から一人だけ身の回りの世話をして貰う侍女として連れて行くつもりだ。御前試合優勝チームの一人で騎士学校次席、しかも聖騎士アミラ・ロシュフォールの孫という事もあって予想以上に多くの応募があったのであらかじめマルセルに十人まで候補者を絞らせていた。

「イレーヌ・ブーケ二十歳、男爵家次女、王国文官大学院卒バリス領・・・」

「イレーヌ・ブーケと申します。おめにかかれて光栄に存じます」

「ごきげんようイレーヌ」

 ドロテは羊皮紙に書かれている情報を読みながらひとりひとり正面で立ち止まり挨拶を交わし容姿を見て行った。顔つきや佇まいも重要な選定要素だ。

「ベアトリス・プリエ十八歳、長女、王国文官大学院卒ロシュフォール領・・・」

 ―—ベ、ベアトリス?!

 思わず声を上げそうになったが寸でのところで口を押えた。

 顔を上げると久しぶりの笑顔がそこにあった。

 ベアトリスと初めて会ったのはドロテが九歳の時で二級上の幼馴染だ。最初はツンツンした感じであまり良い印象ではなかったのだがどこか自分に似たところがある彼女と徐々に打ち解けて行き親友となった。

 ドロテが十三歳の時右腕に大怪我を負った事故の後何度か見舞いで屋敷に来てくれていたがベアトリスがロシュフォール領とは王都を挟んで反対側にある全寮制の文官大学に入学してからは距離的な事もあって手紙のやりとりだけで一度も会えなかった。こうして顔を見るのは三年ぶりだ。

 ブリュセイユ王国の文官大学院は三年制で騎士学校は一年なので二級年上のベアトリスの文官大学院卒業とドロテの騎士学校卒業が重なったのだ。

 ――なんで手紙に書かなかったのよっ!初めて出会った時から王宮に入れるよう勉強を頑張るって言っていたのにどうしていち騎士の侍女なんかに応募してくるの?!

 言いたいことが溢れてきたが他の候補者の手前必死で平静を装った。

 元々端正な顔立ちの落ち着いた娘だったが佇まいにも品が増し大人の色気も加わってすっかり”お姉さま”になっていた。そしてその目は潤んでいて今にも抱き着いてきそうだが彼女もまた必死に衝動を抑えているのが解る。

 ――バカなんだから!・・・私にサプライズを仕掛けて置いて自分の方が我慢できない顔してるじゃないっ!

 ドロテは知っている。彼女は昔から落ち着いたお姉さまキャラのくせにオアクシデントやイレギュラーにとても弱くこと恋愛に関してからかったりすると途端に取り乱しておどおどし始めるとても可愛らしい性格であることを。ユーゴの世界ではツンデレと言うらしい。

 ――こんなのもうベアトリスで決定じゃないっ!他の皆には悪いけどあとは流して終わりにするわ。早くベアトリスの手を取って話をしたい!

「ごきげんよう、ドロテ様。よろしくお願いいたします」

「ごきげんよう」

 心は既にここには無かったが逸る気持ちを押さえて他の候補者に挨拶をしていった。

「アシル・モレル13歳、次男、メリル領・・・」

 確認作業をしていくドロテの動きが最後の十人目を前に急に止まった。

「・・・アシル?・・・アシルアシル・・・」

 床に目を落とし考える。

 はて?どこかで聞いた様な気がするが思い出せない。

 羊皮紙に目を戻す。

――農民?

「じ、次男?!はぁ?」

思わず素が出てしまった。

 ”侍女”の募集のはずだ。

「!!!」

 顔を上げたドロテは思わず両腕を上げてのけ反った。

 そこにはガチガチに緊張した顔のルシアンの弟アシルが立っていたからだ。

「なななな!?・・・・なぁぁんでアンタがここにいるのよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 ドロテ全力の絶叫がロシュフォールの屋敷を突き抜けた。

叫び声を聞いたガスパーが声を押し殺して大笑いしたのは言うまでもない・・・。


ブックマーク登録、評価有難うございます。

幼少のドロテを主人公にした「最強騎士の孫娘は小柄で華奢でも騎士道を突き進む!」というタイトルの短編を書きました。

この部分に登場するベアトリスとのお話ですがこちらも読んでいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

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