それぞれの想い
タケルは王宮内にある修練場の前にいた。
「き、緊張する・・・大声で挨拶とかしたほうがいいのかな・・・」
近衛隊長ロランの指示により、今日からタケルのスケジュールに剣術修練が加わった。
オーモン卿の講義をアデール姫と受け、湖でルイーズと精霊魔力制御訓練の後、王宮に戻り剣術修練という流れだ。
「は、初めての場所なんだから、ルイーズさんとか一緒に来てくれたらいいのに・・」
タケルは王宮一階の厩舎のある裏門からほど近い場所にある修練場扉を開けた。
天井はそれほど高くはないが学校の体育館程の広さがある。
そこでざっと30人程が素振りをしたり切り合ったりしている。
「あ・・・土間だ、足元は土だ」
それはそうだ。剣道等は稽古の為、試合の為の板張りの環境である。実戦の為という事であれば当然床は土だ。
ローゼンヌ王国騎士団は近衛隊の下部組織で第一から第三まで三つの騎士団が存在する。
各騎士団は約100名づつ在籍し、ローゼンヌの国境にある二つの砦での警戒と王宮守護をローテーションしており、現在王宮に駐留しているのはハイラム・ガレル公爵が率いる第三騎士団だ。
各騎士団はその団員の実力によりAクラスからCクラスに分かれてそれぞれ修練が行われる。タケルがこれから数か月の間共に修練をするのはこの秋に騎士学校卒業見込みの騎士見習い10名を含むCクラスだ。
「タケル君がこの先剣を交える敵はみな同じ剣術をベースにしている。その剣術を一から学ぶことは必要不可欠であると同時にタケル君自身が抱える問題解決の糸口になると思うんだ」
タケルはロランの言葉を思い出した。
「よし!がんばるぞっ!」
一礼し。修練場に入った。2~3人が一瞬タケルを見たが、特に気にもしていないようだ。
静かな修練場に木剣の音が鳴り響く。所謂”気合”という概念はないらしい。
(あ、挨拶はやめておこっと・・)
騎士達は皆頭から足先まで黒い練習用の装具を着けており、表面は剣道の面布団や小手の様な質感で、要所要所に薄い鉄板が入っているらしい。面は薄い鉄板に丸い穴がボコボコと開いてる簡素な作りで見づらそうだ。
剣は木剣を使っている。
皆で素振りとか同じ動きをするとかという感じではないみたいでそれぞれパートナーを見つけて打ち合っている。
そんな中、長身で短髪の男の指導を受けているらしい10人程のグループがあった。
(騎士見習いの子たちかな?)
タケルは修練場の壁に沿って近づいて行った。
彼らは横一列に並び、男の話に聞き入っている。
男が話し終え、数歩下がると皆木剣を振り始めた。
色々な構えがあるようだが、肩に担ぐのが基本みたいだ。剣道の八相の構えに近い。
そこから更に肩の後ろに引き振り下ろす。これは”担ぎ面”に近い。
また、頭上で両肘をクロスさせて右から左へ、左から右へ水平に振り払う。一瞬”切り返し”に見えたが足腰も極端に捩じり、地面と水平に振るので全く別物だ。
突きの動作は更に独特で右足前、左足後の右半身になり、握った両拳を左こめかみ付近まで上げて地面と平行に前に突き出す。
同じように左半身になり左足で踏み込みつつ剣を前に突き出すという左右逆の突きもある。この場合左足前で右手が前になるので腕がクロスしてややこしい。
脚運びは右踏み込みも左踏み込みもあり、決まりはないみたいだ。
足元がばたばたとぎこちなかったり、両足が揃って一瞬攻撃も守備も出来なくなるような団員もいるが、”練度”にもよるのなのだろうか。
タケルは修練場中央付近の壁に背を向け、団員の動きを集中してずっと追い、知らず知らずのうちにその場に正座していた。
剣を振り子の様に振り、右下から左上へ、左下から右上へと下からの攻撃も見受けられる。
動きのバリエーションがとても多い。
ひとつひとつの動作には腰の回転も加わりとても威力がありそうだが、カタい感じはなく、滑らかな動きだ。
「器用だ」
タケルの率直な感想だ。大雑把で力任せの様なイメージを持っていたが、考え直さないといけないと思った。
「・・・」
見習い騎士達に指導している長身でグレーの髪色の男、第三騎士団剣術指南のパスカル・セロは興味津々で修練に見入るタケルに気づいていた。
不思議な姿勢で微動だもせず、修練場にいる団員の動きをずっと見つめている少年に異質な何かを感じて声をかけるのを躊躇っていた。
「(そうだ、あの少年は彼に似ているんだ・・)
そこへ第三騎士団長ハイラム・ガレルがやってきた。
パスカルとハイラムは右手を軽く上げて目と目で挨拶を交わした。
ぼさぼさ頭のハイラムは生真面目なパスカルとは対照的でやや大雑把な性格だ。
「よう、あのおかしな姿勢で座っているのが例のタケルという少年か?」
「ああ、そのようだ」
「??そのようだ?指導をしないのか?」
「うむ・・・彼はもう2時間近くずっとあのままだ」
「はあ?!マジかよ・・・」
「・・・」
「2時間座っている少年をおまえはずっとみていたのか?いったいなんのゲームなんだ」
ハイラムはくっくっと肩を揺すって静かに笑った。
「本人なりになにか思うところがあるのだろうと思ってな。そのままにしている。やる気になったら向こうから声をかけてくるだろう」
「なるほど、それにしてもあの姿勢で2時間?!凄いな色々と。俺だったら5分ぐらいで足が折れてるぞ」
「ふっ確かにな」
パスカルは「そっちかよっ」とも思ったが口には出さず話を続ける事にした。
「なあ、ハイラム、あの少年、誰かに似ていると思わないか?」
「似ている?誰にだ?」
「・・・ロラン隊長だ」
「??・・・まあ目元とかは似てなくもないが、そうか?他人の空似じゃないのか?」
「いや、容姿ではない。大戦のちょっと前、6年前だったかな?ロラン隊長が初めて騎士団の修練場に来た時もああして他の者の修練を一日中ずっと見ていたんだ。確かあの時お前も一緒にいたと思ったんだが・・・」
「?!そうなのか?」
「ああ。あの頃騎士団はまだ一部隊だけでクラス分けもされてなくて大勢が修練場にごった返していただろ?そんな中で修練に参加しないで他の団員をずっと突っ立って見ていた少年がいて変わったやつが入団してきたなって思ったよ。彼を見てて思い出した」
「ふーむ・・でもまあ偶然だろ。別に親族というわけでもないみたいだしな」
(うーん、やっぱり”一本を取る”から”倒す”に変わるとなると両手絞るのをやめないと決定打にはならないな・・・あー、こんなことならじいちゃんに居合も教えて貰っておけばよかったぁ・・・)
見習いの騎士を含めた他の団員達が修練を終え、パラパラと修練場から出ていくが、タケルはまだ座ったまま考え込んでいた。
ずっと座ったままのタケルを皆不思議そうに横目で見ながら修練場を出て行った。
「よっ、お前がタケルだな」
さすがにちょっと声をかけておこうという事になり、ハイラムとパスカルはタケルに近づいた。
タケルはハっとし、立ち上がったが、足が痺れてよろけてしまった。
「なんだ、やっぱり足にきてるのか」
はっはっはとハイラムは声を上げて笑った。
「俺は第三騎士団団長のハイラム・ガレルだ。こいつは剣術指南役のパスカル・セロだ」
「は、初めまして、タケル。クサナギといいます。よろしくお願いします!」
「貴様のことはロラン隊長から聞いているんだが、今日はどうした?楽しそうに思えなくて修練に混ざらなかったのか?」
「い、いえ、つい見入ってしまって、その、見ていたら今度は考えることが多くなってしまって、時間がたりなくなったというか・・・」
「・・・だとよ。どういうヤツなんだ??」
ぼさぼさ頭で無精髭のハイラムは可笑しそうにクックと肩を上下させて自分より10センチ程背の高いパスカルを見やった。
「Cクラスの修練は今日はお終いだ。我々もこれで帰るが、君はどうする?」
「あ、俺も帰ります!また明日よろしくお願いします!」
「うむ」
「失礼します!」
タケルは腰を折って礼をして入口まで走っていき、修練場に一礼して出て行った。
「ふむ。あいつのあの所作は敬礼の種類なのか?」
「そうらしいな。変わったやつだが、礼儀正しく気分は良い。明日からなにか楽しみではあるな」
翌日も修練場に来たタケルはパスカルによって見習い騎士10人の前で紹介された。
「今日から数日の間お前らと一緒に修練に参加するタケルだ」
「タケル・クサナギと言います。初心者ですがよろしくお願いします」
「???」
「初心者?!」
タケルが挨拶すると、すぐさま全員が反応した。
「は、はい・・・」
「そうだ。タケルは初心者なので剣の持ち方、素振りからだ」
「教官、よろしいでしょうか?」
一人の見習い騎士が手を挙げた。
「なんだ?ジャン」
パスカルにジャンと呼ばれた右頬にバッテンの切り傷がある少年騎士は如何にもやんちゃ坊主という感じだ。
「そいつ・・タケルは騎士団に入隊するんですか?!」
「うむ、ここで数日間修練の後タケルは近衛隊入隊が決定している」
「!!!」
「!!!」
「ちょ、ちょっと待ってください、騎士学校での成績上位者のみが騎士団加入となるはずです!何故剣の振り方も知らない初心者が、しかも近衛隊なんですか!!?」
近衛隊は騎士団Aクラスの猛者の中から昇格する選ばれた少数精鋭のエリート集団であり、全ての騎士の目標だ。そこへ騎士学校も騎士団もすっ飛ばしていきなり初心者が入隊となれば当然の反応である。
ジャンの言葉に見習い騎士たちは全員が同意の表情だ。
(な、なんかマズイ雰囲気だな・・・)
タケルが精霊魔力を発現させた聖騎士であることは近衛隊以外には伏せられている。
「納得できませんっ!」
全員が「そうだ!」という険しい表情をしている。
「上の決定事項だ。貴様らがとやかくいう事案ではない」
「上と言われるのは近衛隊なのでしょうか?」
ジャンに変わって一人の女性騎士が質問した。
「そうだ。ロラン隊長直々の決定事項だ」
「!!!」
「うぐ・・!!」
「・・・!!」
自分たちの最終目標であり、憧れのロランの名前を出されてはこれ以上誰も反論できない。
「わかったな!では各個に修練を始めろ。タケルはこっちへ」
「は、はい・・・」
その場はどうにか収まったがタケルに向けられる視線は一様に厳しい。
見習い騎士達とは4~5メートル程離れた場所でタケルはパスカルから剣の持ち方と振り方の基本を教わった。
剣道は”握手をするように差し出した右手はタマゴを持つように、左手は雑巾を絞るように”等と教わったが。そういったことは無く、両手で握る。両手の間隔はやや近く握り拳一つ分ぐらいだ。
構えは右足を前に出し剣は右肩に担ぐように構える。スタンスはかなり広く、肩幅を超える。
剣の振り方は大きく分けて4種類あるらしい。
まず、担いだ状態から前に踏み出しながら腰より下まで振り下ろす垂直切り。
次に一旦両手を頭上に上げてヘリコプターの回転翼のように左右に振る水平切り。
そして担いだ状態から右下に切っ先を下げて左上に振り上げ、その流れのまま手首を返して左下から右上に振り上げる斜月切り。
最後に突きだが2種類あり、剣道と同じく両手で突く諸手突きと、一旦両手をこめかみ付近まで上げて水平に突き出す返し突き。これは右足前と左足前、つまり右半身から繰り出すものと左半身から繰り出すものの二通りある。
振り方は昨日見学していたのでだいたい理解はしていたものの垂直切りと諸手突き以外は剣道には無い動きで、とても難しい。
剣道は、”胴打ち”という動きがあるが、あくまでも上からの打ち下ろしで真横に振る動作ではない。
居合の抜刀術で鞘から剣を抜く際真横に振るが、抜刀と連携した技で構えから刀を横にして振る技は無い。
「むぐ・・・!」
慣れない剣の軌道で関節が軋み、使ったことのない筋肉が千切れそうで苦しい。
(こ、これはかんたんにはいかないぞ・・)
教官のパスカルの手本はとても滑らかでスムーズだ。硬い力任せの感じは全くない。
とにかく関節が思ったように上手く稼働してくれないので体の各部位の動き、剣の軌道を確認しながらゆっくりと振るところから始める事にした。
「(む、これは・・)」
タケルのゆっくりとした動きにパスカルは目を見張った。
上手くできないと言ってタケルのように丹念に各部位をチエックしながらの素振りをする者は初めてだ。
もし日本人がタケルの動きを見たら太極拳のそれに見えるかもしれない。太極拳の稽古は実戦とは異なり、ゆったりとした動きだ。これはゆっくりとした動きで正しい姿勢や体の各部位の動きを身に着けるためだ。
一見スローな、およそ格闘技と思えない太極拳の動きは、見た目とかなり異なり、足腰に想像を超える負荷がかかり、体幹が強くないとスムーズな体重移動が出来ない難しい格闘技である。
タケルは無意識のうちにこれを取り入れたのだ。
パスカルはもちろん太極拳等知る由もないのだが、熟練の剣士にはタケルの動きが簡単ではないと分かる。
パスカルはしばしの間タケルの動きに見入った。
「おいおい・・アイツ本当に初心者みたいだな」
しかし見習い騎士達にはそうは思えない様だ。
「ち、なんだってあんなヤツをロラン様が・・・!」
ジャンがタケルを睨みつけた。
「レオン、俺はちょっと席を外すのでちょっと見ていてくれ」
「了解しました」
パスカルに指名された真面目そうな少年は素早く敬礼をした。
パスカルと同じくグレイの髪色でやや長い前髪を右から左下に流している。
パスカルが居なくなった後、レオンがタケルに近づいてきた。
「僕はレオン・カルダン16歳。公爵家だ。君は?」
「俺は、タケル・クサナギ17です。男爵です(だったはず・・)」
「はぁ?!男爵ぅ?!しかも17って年上かよっ!」
突っかかるような反応で割って入って来たのは右頬にバッテン傷があるジャンだ。
「お前っ!どんな手を使ってロラン様に取り入ったんだっ!!」
「て、手といわれても・・」
「いくら積んだ!?」
「いくら?積んだ??」
「カネに決まってるだろうとぼけやがって!」
「そんな、金なんてもってないよ」
「やめなさい、見苦しい」
ひとりの少女が止めに入った。さっきジャンと一緒にパスカルに質問した子だ。
「なんだエディ、お前は納得してるのか?!」
「納得なんてしていないわ。そもそもタケルが決めた事ではないでしょう。彼に文句を言うのは筋違いではなくて?意見があるならロラン様に直接お聞きしてはどう?」
「な?!て、てめぇ」
正論を突かれて口籠る。
「それに、あなたはロラン様がお金で動くと思っているの?そんな方だと思っていたの?」
「!!・・・ちっ!どけっ!」
ジャンはエディにわざと肩を当てて離れて行った。
「私はエディット・カレリーナ。伯爵家よ。よろしく」
「タケルです。よろしくお願いします。あの、有難う」
「別に礼なんて要らないわ。くだらない事で修練を邪魔されたくなかっただけよ。それから、あなたの待遇についてはジャンと一緒で私も大いに疑問を感じてるわ。良かったら理由を聞かせていただけないかしら?」
「それは僕も聞きたいね」
と、レオンだ。
「えっと、ごめん、それは今は答えられないんだ・・」
「それはロラン様の指示なの?」
「うん、まぁ・・・」
タケルの歯切れの悪い返答に鋭い視線を浴びせてポニーテールの少女は踵を返した。
「ロラン隊長の決めた事だし、なにか訳があるんだと思うが、今の状況では僕も君を擁護することはできない。話す気になったら言ってくれ」
随分と嫌われているみたいだ。それにしてもいくら特例だからと言っても少々反応が過剰ではないだろうか?
(がんばるしかないな・・)
そうだ。違和感はあるが頑張るしかない。
修練用の防具を着けて”自稽古”を始めた見習い騎士達を横目にタケルは黙々と基本の素振りを繰り返した。
暫く剣を振っているとちょっとした異変が起きた。
不意に木剣が跳んできてタケルの足に当たった。
「いてっ!!」
足を抑えて痛がっていると、一人の見習い騎士が木剣を取りに来た。
「ああ、悪いなぁ、すっぽ抜けた」
「・・・いえ、大丈夫です」
当たった箇所はあっという間に晴れ上がり血がにじんだ。
簡単には折れない硬い木材で作られている木剣が諸に当たれば相当痛い。
暫くすると今度は後ろから思い切り突き飛ばされた。
「うわっ!!」
突然の事で受け身も取れず前方に頭から転がった。
床は土で顔や手足に擦り傷が出来た。
「そんなところでトロトロ剣をふってると邪魔だっ!」
ジャンが言い放ち、一瞬ニヤリと笑った。
(!これは・・・もしかして俺、嫌がらせ、虐めを受けてる?!)
これまでの人生でそういった経験のないタケルでも流石におかしいと感じる。
「なるほど・・・」
タケルは体に付いた砂を振り払い立ち上がって警戒しつつ無表情で再び剣を振り始めた。
タケルに対しては皆多かれ少なかれジャンと同じような感情を抱いており、他の者も見て見ぬ振り、或いは「いい気味だ」というような表情でタケルを一瞥した。
座っていたタケルの頭にわざと木剣を当てる等、パスカルが戻ってきて修練が終わっても気づかれないように嫌がらせは続いた。
(ったく・・中学生かよ・・・)
「タケル、今日一日やってみてどうだ?」
パスカルが声をかけてきた。
「はい、なかなか難しいですがコツコツやっていこうと思います」
「ふむ・・そうか・・しかし、悪いがお前にはあまり時間がないみたいでな。ロラン隊長からは1か月という期間を指示されている」
「え?!一か月ですか?」
「ああ。なにか次の予定があるみたいだが、聞かされていないのか?」
「い。いえ・・何も」
「どちらにしても他のやつらは1年の間騎士学校で鍛えられてからここにきている。近衛隊配属が決まっているお前がやつらと同じレベルになるまでここで修練を積むというわけにはいくまい」
パスカルの言うとおりだ。彼らとの差が縮むまでここにいられるはずがない。
「・・・そうですね・・・」
「なので多少無理は承知で明日からは防具を着けての修練をしてもらう。いいな?」
「分かりました」
(一か月で概ね覚えろということか・・・結構ハードだなぁ・・・)
その日の修練を終え、タケルは帰宅した。
「あらあら~おかえり~剣のお稽古はどう?タケル」
夕方、帰宅したタケルをイネスとミラが迎えてくれた。
ちょうど食事の用意もできていた。
「あー、なんていうかまだ始めたばかりだし、ぼちぼちかな。はは」
「タケルは敵の親分をやっつけちゃうぐらい強いのにどうして”見習い”なの??」
ミラが配膳しながら不思議そうに聞いてきた。
・・・その質問はごもっともです・・・。
「俺はその、剣術に関してはほんとにシロウトだから」
「・・・ヘンなのっ!」
要領を得ない返答なのはわかっているが全部を説明するのはなかなか面倒なので仕方がない。
夕食を食べ終えたタケルはお茶を飲みながらほっと一息ついた。
「あら~?何かあったの?」
修練中見習い騎士達に受けた傷は聖騎士の自己回復によってとっくに消えているのだがタケルの表情を見てイネスが問いかけた。
「い、いや、最近ちゃんと毎日帰ってこられるようになってよかったな~って思って・・・」
今日一日大変な目に遭ったがこれはこれで本心だ。
剣の修練の前に行っているルイーズとの精霊魔力の特訓でも意識を失うことは無くなり、制御できるようになったし常時巨大竜巻を3本発生させられるようになり、次の段階に進んでいる。
「ほんとそうね~ちょっと前までミラもすっごく心配してたのよ~」
「ちょっ!お、お母さんっ!そんなことないんだからっ!」
え?っとタケルはミラを見る。
「ち、違うんだからねっ!」
ミラは顔を赤くして狼狽え、食べ終わった食器を持って台所に消えていった。
「うふふ。ミラったら、タケルの前ではいつもあんなだけどほんとよ。すっごく心配してたのよ」
「そ、そうなんだ・・」
イネスさんはそういうがタケルにはちょっと想像つかない。
「イネスさん、俺って、ミラにどう思われています??」
嫌われている感じはないけど、そんなに受け入れて貰えてる感じもあまりない。
「ん?ミラはあなたの事がとても好きよ。今日のタケルはああだったとかこうだったとかあなたの話ばっかりしているわ」
イネスは思い出しながらふふっと笑った。
「ええ?!そ、そうなんですか??」
「あらあら~。わからないの?」
「は、はぁ・・・」
「じゃ、どうして私があなたを受け入れたと思う?」
「えっと、お腹を空かせて元気のなかった俺を見てイネスさんが気の毒に思ったからかな・・・」
「う~ん、それもあるけど~、タケルがミラと一緒に初めてここに来た時、ミラがすっごく楽しそうな顔をしていたからよ」
「え・・・そうなんですか?!」
「そうよ~。戦争でお父さんを亡くしてからあんな笑顔のミラを見たのは本当に久しぶりだったの。どうしたんでしょ?って思ったら後ろにタケルが立っていたから、一緒にお食事どう?って声をかけたのよ」
「そうだったんですか・・・」
「うふ、だから私はタケルにとっても感謝してるの。色々と考えすぎなくていいから、いつまでもここにいてね」
驚いた。このままここにお世話になってて良いのだろうか?なにか恩を返さないとといつも考えていた。(親って、凄いな、色々と見透かされてる)
タケルは母親の愛情を知らないが、イネスの言葉に胸の奥からなにか熱いものがこみ上げてきた。
「あ、有難うございます、あ、あの、裏でちょっと剣を振ってきます!」
「うふ。頑張ってね」
多分タケルは赤い顔をしている。いまの顔を見られたくなくてちょっと逃げてしまった。
(それでもいつかなにか恩は返したい!返さないと!)
満点の星空の下タケルは黙々と剣を振るのだった。
いよいよ西洋剣術の中で剣道少年が躍動します。
文章で動きを表すのはとても難しいですが、がんばって書いていきます。
よろしくお願いします!