謁見~四~
「せ、精霊魔力だと?!」
騎士団が出動する程の事例は少ないが領地を巡る争いは今回に限ったものではなくよくある事だ。それなのに何故聴取でわざわざジェラール王が出てくるのか?何故騎士団長や護衛の兵がこんなに多くいるのか?何故宮廷で要職にある貴族が多く集められているのか?「編成式前のこの忙しい時期に!」表情には出さないが貴族達は不満をもって成り行きを見ていた。
しかし「ジェラール王の精霊魔力を使った」という言葉に皆目の色を変え色めき立った。
「いつ精霊魔力を発現したのか、以前から能力があり隠してきたのかという些末な事柄は問わない。私が其方への問いはただ一つ」
ジェラール王は玉座から立ち上がった。
「異国人である其方はブリュセイユ王国の剣となる覚悟があるのか否かだ」
フェリクスとユリウスがジェラール王の両脇を固め、ユーゴ達を囲むように控える騎士達と広間の両側に整列する兵が一斉に柄に手を掛けた。王の問いに否定的な答えは即敵とみなされる。
エリアスとニルスは勿論ユーゴが否と答えることは無いと思っているが王国に使える騎士として態度として示さなければならない。
不意にユーゴが立ち上がり三歩前に出たところで再び片膝を着いた。
「陛下、私は異国の地で途方に暮れていたところを義父に助けられました。そして素性も定かでない私を家族として迎え入れてくれました。故郷に帰る術はなく最早その気持ちも無い私にとって家族の住むこの地こそが故郷です。全力でこの国の防衛に尽力したいと思います」
「うむ!其方の決意嬉しく思うぞ。ユーゴ・ミナカタ・シュバリエは今この時からブリュセイユ王国の聖騎士
だ!」
おおおと畏怖に近い声が広間に木霊した。
「お、お待ちください陛下、自身が発言したように素性も分からぬ者であります。簡単に信用しては・・・」
「ではバチスト、如何なる手段を用いても構わん。ユーゴと戦い勝利して見せよ」
「!・・・そ、それは・・・」
バチストは一歩二歩と後ずさった。
「聖騎士に対抗出来るのは聖騎士だけだという事を其方も分かっておるはずであろう?絶大な力を持つ聖騎士が向こうから飛び込んできて私の配下として働くという事になんの問題があると言うのだ。不服と申すならば代わりを連れてくるがよい」
「・・・考えが及ばず…申し訳ございません・・・」
一人の聖騎士は小国の全ての戦力に匹敵する為戦争抑止にもなっている。言わば核兵器と同列なのだ。
大戦後聖騎士を失ったブリュセイユ王国は8年の間それをひた隠してきたがユーゴの出現によって大きな不安要素が取り除かれる。世界で数十人しかいないと言われている聖騎士はどの国も喉から手が出る程欲しい存在だ。
派閥というものが関係しているのかもしれないがバチストはその発言からどうやら”クルーゼ側”の貴族で要注意人物だとユーゴは感じた。
「本日は良き日となりましたな陛下」
それまで一度も発言しなかったガスパーがジェラールに声をかけた。
「うむ。荷をひとつ下ろせた様な、満足しておるぞ」
「しかしそうなりますと少々困ったことになりますぞ」
「困った事とは何だガスパー。聖騎士を得て困る事などなかろう」
ジェラールは少し口角を上げて冗談等言うなという顔をガスパーに向けた。
「小隊の編成についての事で御座います陛下。ユーゴは今季騎士学校を卒業した身であるので放っておくと慣例通り獲得に名乗りを上げた下位の小隊に配置される事になってしまいます。恐れながら聖騎士をそのまま下位小隊に配置するのは如何かと存じます」
騎士学校の卒業生は獲得意志を現した第三十一以下の小隊の中から選んで入隊することが出来るが三十以上の小隊には入ることが出来ない決まりだ。第三十から上は実力者で占められていてそれなりに厳しい作戦に参加する小隊の為騎士学校を卒業してすぐの新兵ではついて行く事が困難だからだ。
それ以上は実力で上がって行くしかないのだが聖騎士のユーゴが下位小隊に配置されると必然的にその小隊全員が聖騎士の能力が必要な作戦に参加する事となってしまう。しかしこれでは小隊の騎士が逆にユーゴの足を引っ張る事になりかねない上にその小隊の騎士の能力以上の作戦に参加させてしまい小隊全員の士気を下げてしまうかもしれないと言うのがガスパーの指摘だ。
「ふむ・・・確かにそれはまずいな」
「陛下、私に考えがあるのですがよろしいでしょうか?」
右手で顎をさすりながら試案するジェラールの前にガスパーが片膝を着いた。
「ほう、申してみよ」
「・・・」
ジェラール王とガスパーの会話はユーゴ達には聞こえなかったが途中驚いた表情をしたユリウスがガスパーの隣に膝を着き、フェリクスまでも一瞬「は?!」と裏返った声を上げて会話に入った。
―—何が起きている?・・・。
エリアスとニルスが顔を見合わせた。
王を交えた四人の会話は十数分に及びジェラール王とガスパーが笑顔に、フェリクスとユリウスが頭を抱えたところで全員所定の位置に戻った。
こちらを向いたジェラール王とガスパーは心なしか笑顔でフェリクスとユリウスは何故か眉間にシワを寄せ苦い顔をしている。
「ユーゴとレティシア、其方らは配置先小隊は決まったか?」
「は、はい?!」
レティシアは唐突に王に名を呼ばれて軽く跳びあがった。「わ、私でしょうか?!」という顔をしている。
ユーゴとレティシアはセルジュの方を見た。
いくら誘われた中から好きな小隊を選んで良いと言われても派閥や人脈等が関わってくるだろうし正直ユーゴとレティシアにはどの小隊が良いとか悪いとか判断がつかないのでセルジュに任せているのだ。
「も、申し訳ございません陛下、編成式が迫り騎士団より督促を頂いておりますが、その、実はまだ決めかねておりまして、直ぐに返事をいたします」
セルジュが汗を流しながらひれ伏した。
「そうか、ならば丁度よい。二人の配置先はこちらで決める故全ての誘いに断りをいれておくのだ」
「は?!・・・承知いたしました」
セルジュにしてみれば渡りに船だ。畏れ多いが王が決めてくれるというのであればどの小隊に配置されたとしても角は立たない。
「以上だ。ユーゴ・ミナカタ・シュバリエの他は下がって良い。ご苦労であった」
バチストは謁見の終わりを宣言した。
ジェラール王が側近と共に袖に消えユリウスが壇上から降りて来た。
立ち上がったレティシアは心配そうにユーゴの袖を少し掴んだ。
「ユリウス様ユーゴは?・・・」
イザベルが不安そうに聞いた。
「案ずるな。編成式でユーゴを我が王国の聖騎士として知らしめる為にこれから国庫に精霊剣を取りに行くだけだ」
「精霊剣・・・ですか?」
ユーゴが聞きなれない名を聞き返した。
「精霊魔力を効率よく伝える事が出来る緋色金で打たれた聖騎士用の剣で聖鍛冶師でなければ質の高い剣に仕上げられない希少な剣だ。残念ながら現在我が王国には聖鍛冶師がおらず、新規に鍛剣は出来ないが十数年前に打たれたものが数振り国庫に保管されている。今から私と一緒にそこへ行き自分に合った精霊剣を選べ。その後王国専属鍛冶師と相談して柄を発注するのだ。仕上がった剣は編成式で陛下より下賜される」
「そうなんですね。分かりましたユリウス様よろしくお願いいたします」
さっきの四人の会話も気になるしまたしても出て来た新しい言葉”聖鍛冶師”についても説明を聞きたかったがまずは精霊剣だ。それにこの緊張する広間から早く皆を出してやりたいとユーゴは思った。
「そういう訳だセルジュ殿、部下に送らせる」
「承知しました。ではユリウス様ユーゴをよろしくお願いいたします」
「うむ」
ユーゴを広間に残しセルジュ、イザベル、レティシアの三人は王宮を後にした。




