シュバリエ家強襲~弐~
ユーゴが自分の能力に気づいたのは賊に襲われていたイザベルとレティシアを助けた時だ。襲い掛かってくる賊に銃で直突を見舞った際弾丸の装填されていない銃から偶然”何か”が発射されたのだ。
ユーゴはその能力が災いの元となるかもしれないと危惧し、他者に話す事はしなかった。
その後発せられるエネルギーの様な物を魔弾と名付け、シュバリエ家で下働きの仕事をしながら隠れて自身の能力を検証し、分かったことがいくつかあった。
魔弾は条件が揃うとその軌道が視認出来る事がある。小径(サイズを言い表す言葉が他に思いつかなかった為とりあえずユーゴは弾丸と同じように考える事にした)では気温や天候によって見えるときと見えない時があるがサイズが大きくなると光を屈折させるようで帯状の蜃気楼の様な見え方をする。
小径魔弾は射程が長く貫通力が高いが破壊力が小さい。大径魔弾はその逆で射程は短いが広範囲に攻撃できる。例えば直径1メートル程の大岩を小径で撃つと10ミリ程度の貫通孔があき、大径では砕け散るといった具合だ。
そして発射する度に体力に近い何かが体から抜けていき、撃ちすぎると数十キロも走った後の様な疲労に襲われる。時にはベッドから起き上がれないほど具合が悪くなる事もあった。
それから小銃ではなく金属製の得物なら魔弾の様な物を発射出来る事も分かったのだが、どういうわけか一~二発撃っただけで得物は粉々になってしまう。魔弾は5.56ミリ弾程度のものから84ミリ砲弾ぐらいの物まで撃ち出せたが小銃以外の剣や鉄棒に大きな気を込めると発射出来ずに砕け散ってしまった。
この世界に転移した直後は役に立ちそうにない小銃などどこかに埋めてしまおうと思ったが小銃なら何発撃っても砕ける事が無いと分かったのでいざという時の為に自室で大切に保管していた。
何故自分にこのような能力が備わったのかは分からないが、祝勝会でのドロテや皆の話でもしやと思う事があった。
「ひのもとにうまれしもの、そのちをひきしものおおいなるかごをあたえられん」
こちらの世界の住人は子供でも知っている言葉だそうだ。
日の大神の日生れ、つまり日曜日に生まれた者の中から精霊魔力を発現する者が現れるとのではないかと言われていると聞いた。
ユーゴはどの精霊日の生まれかというレティシアの問いには答えそびれたが日曜日生まれ、日の大神の日生れだ。
しかし”ひのもと”というのは”日の大神の日”ではなく”日本=ひのもと”なのではないかと瞬間的に思った。
――つまりは日本人の血を引く者という意味ではないのだろうか?自分がこちらの世界に来られたいじょう他に転移してきた者も居ると考えるのが自然だ。そしてこちらの世界で結婚し子を作れば血は薄くはなって行くが何代か後に転移者と同じ資質を持った子が生まれる事もあるはずだ。ということは祖母が聖騎士だというドロテは日本人の血を引いているということなのかな?
「まさかな・・・」
呟いたユーゴは一瞬ドロテを思い浮かべてふっと口角を上げた。
向かい合って座っているユベールとラファエルがニヤリと笑ったユーゴを見て「ひぃ!」と小さく跳びあがった。
半時程でクルーゼの屋敷に到着した。
若い頃騎士団の上位小隊に所属しレティシアの祖父ジュールと一騎打ちをしたとはとても思えない程顔色を失って震えているラファエルを馬車に残し、ユベールだけを連れて馬車を降りると屋敷の者を起こして全員外に出せと指示した。
「な、何をするつもりだ?」
「言う通りにしろ。死人は出したくない」
ユーゴが銃口を向けるとユベールは慌てて屋敷へ走っていった。
暫く待っているとぽつぽつと窓辺に灯りがともり、玄関から使用人のような風体の者が二人出てきたがわけがわからないといった様子で何事か話しながら屋敷を出たり入ったり繰り返していた。
「だろうな・・・」
ユベールは落ち着いた説明が出来ず半ばパニックになりながら叫びまわっているのだろうと容易に想像がつく。
「おい」
ユーゴは馬車を振り返り、撃たれた足を押さえて小さくなっているラファエルに声をかけた。父と同年代で王の側近を務める上級貴族だが自分達を闇討ちしようとした卑怯者に敬語は必要ない。
ラファエルは返事なのか悲鳴なのか判別できない声を上げた。
「屋敷の右にある建屋はなんだ?人はいるのか?」
「あ、あそこはら、来客用のは、離れでさ、先ほどまでき、騎士達が使っておったがい、今は誰もいないはずだ」
恐怖と足の痛みで上手く話せないラファエルが脂汗をかきながら必死で説明した。
ユーゴは無言で膝打ちの姿勢を取り、銃口を離れに向けた。
意識を集中すると心臓の鼓動が早まり右手に向かって熱い物が流れてゆく。体の中心から肩を経由して手にエネルギーが流れていく感覚がある。
魔弾の口径や貫通力を上げるには少し”溜め”が必要でどちらを選んで撃つかはイメージで決まる。口径と貫通力両方を上げて撃つ事は出来ない。一度だけ大径で貫通させるイメージを持って撃ってみた事があったが直後ひどい頭痛に襲われた。自分の魔力量が足りないのか、修練すれば撃てるようになるのか、ロケットランチャーの様な物を鍛造して使えば撃てるのかは分からない。
ユーゴの体がぼうっと弱い光を放ち髪が重力に反してふわっと浮き上がった。
1、2、3、4、5。
5秒溜めた。
銃の口径の問題なのか自身の限界なのか分からないがこれ以上溜めても威力は上がらない事は分かっている。
実際には引き金を引く動作はしないがイメージすることで発砲出来る。
ドンッ!
至近距離で巨大な太鼓を叩かれた様な音が響いて”気圧”が馬車に当たり大きく揺れ、馬が前足を上げて嘶いた。
「わーーーー!」
ラファエルが恐怖で悲鳴を上げた。
ユーゴを中心に半径2メートル内の下草が一瞬で圧し潰され、同時に89式の銃口から特大の魔弾が発射された。
離れの1/4を吹き飛ばすとその轟音が合図となって屋敷の至る所に灯りがともった。
ドンッ!
屋敷の外にいくらか人が飛び出してきたタイミングで狙いを本宅に変え、二階の東端を吹き飛ばした。
「や、やめろー!やめてくれー!」
自身の富と権力を象徴するかのような豪華絢爛たる自慢の屋敷を吹き飛ばされたラファエルが泣き叫ぶがユーゴは射撃姿勢を崩さない。むやみに人の命は奪わないがここで手心を加えたらいつまた暴挙に出てくるか分かったものではない。クルーゼ家に関係する出来るだけ多くの人々の目の前で力の差を見せつけてシュバリエ家への敵対行為を抑止することが狙いだ。例えラファエルに絶望的に学習能力がなく同じ企てをしたところで抱える騎士が言う事を聞かなければ今日の様な事は起こらない。
屋敷に二発目を撃ち込むと先に外に出た者達の頭上に瓦礫が降り注いだ。
「うわわ!なんだこれは?!」
三発目で更に多くの住人達がパニック状態で飛び出してきた。
何かを叫びながらユベールが出てきたのを確認したユーゴは特大の魔弾を次々に撃ちこみ煌びやかな上級貴族の屋敷を瓦礫の山へと変えた。
屋敷から30メートル程離れたところにユベールを中心に着の身着のままの三十数人が集まっていて、或る者は口に手を当て、或る者は地に両膝を着いて迷彩服のユーゴを茫然と眺めていた。
どさっと何かが倒れる音がしてユーゴが振り向くと眉尻を下げ鼻をたらし赤子の様な泣き顔となったラファエルがいた。
金はいくらでもある貴族だ。家の一つや二つ直ぐに建てられるだろう。一人も殺さなかったのは武士の情けだ。
「今日は馬小屋ででも寝て頭を冷やすんだな」
四つん這いで大口を開けたラファエルは凍り付いたように前を向いたままだった。




