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近衛隊長ロラン

 コンコン。

 静かな部屋に乾いた音が響いた。

「入れ」

 扉が開くと男が二人挙手の敬礼をする。

「第三騎士団団長ハイラム・ガレル入ります」

「同じく第三騎士団剣術指南パスカル・セロー入ります」

 座っていた長身の若い男が立ち上がり敬礼をする。

 クセのある金髪の優しい目をしたイケメンは近衛隊長のロラン・ヴェルレイだ。

「忙しいところ呼び立ててすまない、かけてくれたまえ」

 ロランは二人を応接用のソファに促した。

「してロラン殿。本日はどのような?」

「以前に一度ハイラムには話したと思うが、例のタケル・クサナギという少年が近衛隊に正式配属となった。ついて現在宮廷に駐留している第三騎士団にて明日から彼の剣術指導を願いたい」

 ロランよりかなり年上に見える無精ひげの第三騎士団長ハイラムは少し間を置いて口を開いた。

「はっ。その少年をお預かりする事はやぶさかではありませんが、ひとつふたつ質問をよろしいでしょうか?」

「うむ、なんだい?」

「はっ。その少年の氏名から、およそ異国の者かと思われますが、どのような経緯で我が国の近衛隊に?」

「すまないが、それは今はまだ言えん。時期が来たら話そう」

 ハイラムは無精ひげに指を当て、ふむと一息つき、次の質問をする。

「では、騎士学校の成績優秀者から騎士団へ、騎士団の猛者の中から近衛隊にという流れを飛び越して、しかも爵位も与えられたばかりで剣術素人が近衛隊正式入隊という前例のない大抜擢の理由をお聞かせ願えないでしょうか?」

「はは、真っすぐな質問だな」

「申し訳ありません、しかし、あまりに特殊な事例故はっきりとさせておかないと反感を抱く者も出てくるのではと考えます」

 希少な巨大戦力である聖騎士の近衛隊入隊は当然の事ではあるが、政略的事情でタケルが聖騎士であるという事自体が伏せられている。

 タケルが”中庭事件”で精霊魔力を発揮した聖騎士という事実は現場に居合わせた全員に緘口令が敷かれていて近衛隊、アデール姫、それに平民のミラ以外は誰にも知らされていない。

「すまない、貴殿の質問はもっともなのだが、それも今は話すことが出来ないのだ」

「ふむ・・・困りましたな・・・私やパスカルは隊長のご命令とあれば、従うまでですが騎士団で預かるという事にななれば、うちに限らずCクラスでの修練となります。Cクラスは見習いを含めた血気盛んな若手の集まり故、特別扱いを受けている素人の少年がすんなりと受け入れられるとは思えませぬ」

 ローゼンヌの騎士団は第一から第三まであり、それぞれ約100名づつ在籍している。

 その100名が実力に応じ、AクラスからCクラスに分かれて修練をしていて、騎士学校を出たばかりの見習い騎士等が振り分けられるのがCクラスだ。実力を認められればBクラス、Aクラスと昇格する。剣術をゼロから学ぶタケルは当然Cクラスからスタートとなる。

「ハイラム団長、タケルに限ってはその心配は無いと思う」

「?何故でしょう?」

「タケルは”剣術”に関しては素人だが、強いのでな。恐らくCクラスあたりでは彼に太刀打ち出来る者は皆無だろう」

「???」

 ハイラムとパスカルは顔を見合わせる。

「おっしゃっている意味が良くわからないのですが・・・」

「私も隊長と同意見だ。あの少年ならば大丈夫であろう」

 それまでロランの後ろに立って会話を聞いていたアルベールが困惑する二人に声をかけた。

「アルベール殿までそのような・・・」

「17歳の剣術素人の少年にだれも敵わないと?」

 第三騎士団剣術指南のパスカルが不思議そうな顔をして質問した。

「うむ。Aクラスともなればいい勝負になると思うが、C、Bあたりでは彼にはまず勝てまい」

「?!・・・」

「彼の実力は、近衛隊全員が認めている」

「!!!なんと・・・」

 近衛隊は各騎士団から選ばれたエリート集団である。その全員から支持されているという。

 ハイラムとパスカルは本音を言えばあまり気乗りしない案件であったが、タケルという少年に興味が湧いてきた。

「左様に強いという事であれば、剣術指南など必要ないのでは?」

 パスカルの意見はもっともだ。そこまで強いなら近衛隊の猛者と一緒に修練したら良い。

「理由は二つある。一つはタケルがこれから相まみえる事になる剣術をもっと知る必要があるので基本から教えてやって欲しい。もう一つは彼には決定的に足りないものがあってね、このまま実戦に出すのは危ういので、もう一段上がる手助けをしてやって欲しい」

「・・・」

 ハイラムは考え込んでしまった。タケルという異国から来た17歳の少年はつい先日爵位を授かり、剣術素人でありながら最強の近衛隊全員が認めるほど強いと言う。しかしなにかしらの問題があり即戦力ではないらしい。

「ハイラム殿、百聞は一見に如かず だ、一度少年を見てみては如何かな?」

「お二人がそこまで仰られるのであればそのようにいたしましょう。ですが、直接相手をするのはCクラスの団員ですので、手加減はないと思われます」

「けっこうだ。よろしく頼むよ」

「はっ!」

 ハイラムとパスカルは席を立ち、挙手の敬礼をして退出した。


「ずいぶんと怪訝そうなな顔をしていましたな」

 苦笑いのアルベールが言った。

「まぁ無理もないかな。いずれは表に出ることだがタケルが聖騎士だという事はできるだけ伏せておきたい。当面は仕方のない事だ。彼らも分かってくれるだろう」

「ふむ、単身敵陣に放り込んだような感じもしますが、大丈夫でしょうかな?」

「アル、タケルならやってくれるだろうと私は思っている」

「隊長はあの少年を随分買っているのですな」

「ふふ、そうだな。タケルは毎回精霊魔力を使い切って気絶しても文句ひとつ言わず特訓に食らいついてくる。大した根性、忍耐力、集中力だとは思わないか?」

「むう、言われてみれば確かに・・・」

 タケルは普段から不平不満を一切口にしないので気づかなかったが、ロランの言う通りだとアルベールは思った。

「いきなり物凄い魔力を発揮したと思えば加減が出来ず、初陣で敵騎士二人を倒しながら基礎から剣術を学ぶ必要があるというあきれるほど極端な能力はどう成長していくのか私はとても興味があるんだ」

「なるほど・・・魔力領域も桁違いでしたな」

「それに超の付く程真面目で素直な少年だ。普段ぼーっとしている印象だが大事な所ではキメてくれる。タケルを見ているとなにかこう、ワクワクしないか?」

「ふ、隊長はあの少年を気に入っておいでですな」

 楽し気に話すロランを見てアルベールも相好を崩した。

「ああ、そうなんだ、何故かな?初めて出会ったような感じがしないんだ」

 ロランとタケルは兄弟の様だとアルベールは思った。そういえば目元が少し似ている様な気もする。

「・・・いや、まさかな・・・」

「どうしたアル?」

「いえ、なんでもありません」

「?そうか、では騎士団での修練を組み込んだ今後のスケジュールをタケルとルイーズに伝えてやってくれ」

「承知しました」



 近衛隊執務室を出たハイラムとパスカルは階下にある修練場に向かっていた。

「どう思う?ハイラム」

「どうも何も、命令だ。受け入れるしかない」

 第三騎士団剣術指南のパスカルは第三騎士団団長のハイラムと同い年の42歳。

 175センチと中肉中背のハイラムより10センチほど背が高い。グレーの髪は短く整えられていて生真面目な雰囲気がある。

 無精ひげでボサボサのハイラムとは対照的だが共に前大戦を戦ったベテラン騎士だ。

「アシハール平原最強と言われているロランがああまで言うんだ、腑に落ちない点も多いが実際見て確かめるしかないな。明日からと言っていたな、初日は俺もCクラスの修練に顔を出すが頼んだぞパスカル」

「わかった」



「今日はなかなか売れないわねぇ・・」

「そうだね、でもこういう日もあるよ」

「あんたはいつも能天気ねっ」

「ううう・・・」

 ミラの一言はいつも心に突き刺さる。

 タケルとミラは”エマーブル”の軒先で野菜を売っていた。

 ”エマーブル”はタケルがお世話になっているイネスとミラが切り盛りする大衆食堂だが、午後からは営業はせず、畑で採れた野菜をこうして店先で売るのだ。

 金銭的な余裕はないが、ゆとりのある生活スタイルでイネスさんらしいとタケルは思っている。

 今日はオーモン卿の授業が無く、最近は魔力修練も順調で早めに終わったのでタケルは久しぶりに野菜の販売を手伝っていた。

「よっ調子はどうだい?」

 そこへ顔見知りがやってきた。

「あ、ダニエルさん、お疲れ様です!今日も有難うございました!」

 近衛隊でタケルの魔力修練時警戒監視してくれているダニエル・シスレ25歳だ。

「ダニエルさん、野菜を買ってくれるんですかっ?」

 満面の営業スマイルのミラ。

「い、いや違うんだ、隊長からの伝言があってね」

 ミラの勢いに押されるダニエル。

 ミラが男だったらきっと名うての騎士となったに違いない。

「なんだぁ・・・残念~」

「は、はは、すみませんダニエルさん。で、伝言って?」

「順調に進んでいる座学と魔力修練の時間を短縮して、その分剣術の修練を入れるということだ。なので湖から戻ったら剣術修練場行くように」

「剣術修練!わかりました、頑張ります!」

「お、おう!」

 ダニエルはタケルの澱みのない真っすぐな返事に清々しさを感じた。

「隊長が褒めていたぞ」

「え?俺ですか?」

「ああ、タケルは根性と忍耐力が凄いとな。俺もそう思うよ」

「え!?あは。いやあ、それほどでも・・」

 思わぬ賛辞に照れるタケル。

「ぼーっとしてて能天気だけどねっ」

 ミラが口をはさむ

「うぐっ・・・」

「はは、隊長はそうも言ってたな」

(どういう評価なんだろう・・・)

「あ、明日から予定が変わるから今日は早めに上がりになったのかな?」

「そんなところかな」

「ロランさんやさしいっ」

「ふんっ、甘いんじゃないの?隊長さんっ」

「おやおや、一番きつい隊長がここにいるようだ」

 ダニエルは可笑しそうに肩をゆすっている。

「ちぇ・・、ルイーズさんもたいがい厳しいんですけどね」

 はぁ、と肩を落とすタケル。

「そうかい?」

「ルイーズ様はローゼンヌただ一人の聖騎士様だものっ人一倍責任感が強いのよっきっとそうだわっ」

「お、良い事言うねミラちゃん」

「そ、そうなのかな??」

「なんだ、納得していないのか?タケル」

「う~ん・・・なんていうか、俺、ルイーズさんに嫌われてる?のかな・・」

「え?!タケル、ルイーズ様に何かしたのっ?!」

「あ、いや、そうじゃないけど」

「・・・確かにルイーズはタケルの事となると妙に頑ななところがあるな。ルイーズがタケルに厳しいのは隊長の事が関係しているのかな・・・」

「??隊長が?なんです?」

「ああ、いや、なんでもない、気にしないでくれ」

 ダニエルは少ししまったという顔をした。

「え?!気になります!教えてください!」

「いやあ、まあ、そのうち分かるだろうし・・」

「ダニエルさん!」

 ダニエルの両袖を掴んで迫るタケル。

「わ、分かった、分かったから、ただその、ここではちょっとな・・」

 ダニエルは周囲を気にして見回す。

 ”エマーブル”は王宮にほど近い王都の中心地にある。一日中賑やかで人の往来が途切れることがない。

「タケル、中で話そう」

「あ!ずるい!私も!」

 ミラもついて来てしまった。

「ミ、ミラは野菜を売らないと」

「嫌よっ私も話聞きたいもの」

「あらあら~しかたがないわねぇ、私が代わるわ」

 駄々をこねるミラを見て仕方なく思ったのか奥からイネスが出てきた。

「お母さん有難う!」

「す、すみませんダニエルさん・・」

「まぁいいさ。気軽に話せるような内容ではないが王宮にいる殆どの者が知っている話だ・・・」

「そうなんですか?!」

 人のいない店内に入って3人は椅子に座った。


「タケルは隊長の事をどれぐらい知っているかな?」

「え?どれぐらいと言われても・・・殆ど何も知らないです・・」

「そうか、そうだろうな。じゃ、最初から順番に話そう」

 ダニエルはひとつ小さく咳払いをすると静かに話し始めた。


「21年前、ロラン隊長の母上が臨月を前に突如行方がわからなくなってしまった」

「え?!」

「ヴェルレイ家は王国内で最大領地と領民を持つ伝統的な公爵家だ。その長男が生まれる直前に母が姿を消したのだ、それは王国を巻き込み上を下への大騒ぎとなって大捜索が行われた。しかし、どれだけ探しても痕跡すら見つからず、ジョルジュ王も家長である父パトリックも酷く落胆したそうだ」

「どうしてお母さんは居なくなったの?」

「それは今でも良くわからないんだ。ヴェルレイ家は円満でみんな長男の誕生を心待ちにしていたそうだ」

「ロランさんが今健在という事はお母さんは見つかって戻ったんじゃないんですか?」

「うむ、そこなんだが、実は数日後、赤ん坊だけ発見されたんだ」

「ええ?!」

「赤ん坊は、母親が失踪当時身に着けていたショールで包まれていて手にはパトリック卿が贈ったネックレスが握られていた事からヴェルレイ家の長男として迎え入れられた。勿論ヴェルレイ家の嫡男であるという確たる証拠はなくて、疑う者もいたが成長するにつれてパトリック卿に顔だちがとても似てきたのでそれ以上追及する者は居なくなった」

「・・・」

「赤ん坊はどこで発見されたんです?」

「小麦畑の先にある丘だ。今は戦没者慰霊碑になっているが、当時は誰が建てたか分からない小さな祠があった場所だ」

「え!!!」

 驚いた。タケルが転移した場所だ。

「どうした?タケル?」

「い、いえなんでもないです、続けて下さい・・・」

「それで、パトリック卿はとても喜んで赤ん坊を大切に育てた。ロランはヴェルレイ家の期待に応えるように類稀な剣の才覚を発揮し13歳で既に現在の騎士団のCクラス程の実力があった。ロランへの期待度はますます上がっていって、国王ジョルジュ様に続く精霊魔力の発現をみな心待ちにしていた」

「ロランさん凄い・・」

「うん・・・」

「そんな時ゴズワール王国が宣戦を布告した」

「アシハールの戦いですね・・・」

「そうだ、当時ロランは騎士学校在学中であったが、本人の強い希望もあって初陣を果たした。国王が戦死するという衝撃的な戦争で国中が暗く沈む中若干15歳にして敵騎士団長を討ち取る等驚異的な戦果を挙げたロランは国民の希望の星となった」

「ロランさんて、スーパースターなんですね」

「・・・しかしそんな時神のいたずらか精霊の気まぐれか、父パトリック卿の再婚相手との間に生まれた妹ルイーズに精霊魔力が宿ったんだ」

「えええ・・・タイミングが・・・」

「うむ、・・・ルイーズが聖騎士として覚醒した途端、ロランを取り巻く環境が一変した。それまでロラン一色で彼の栄華にあやかろうとしていた者達がみな一斉にルイーズに向き始めた。それはそうだ、唯一の聖騎士であった国王亡き後、ローゼンヌ王国を導いて行けるのは新たに聖騎士となったルイーズだと誰しも考えるはずだ。潮が引くように人が離れて行き、遂にはパトリック卿は家督をルイーズに譲るとまで言い出した。それでもロランは剣の修練を続けた。それどころか激しさを増して行き、王国史上最年少の17歳で近衛隊昇格を果たした。更にその名声は他国にまで及びアシハール最強騎士と言われるまでになり、20歳という若さで近衛隊長に上り詰めた。その後も剣に打ち込むも精霊魔力は発現せず、いつしか人は彼を”失われた騎士パージュ・シュバリエ”と呼ぶようになった」

「ロランさん、そんなに凄い人だったんだ・・・でも”失われた騎士パージュ・シュバリエ”なんてひどい!」

 ミラが立ち上がって声を上げた。

(なんとなくこっちに来てからの俺に似てる・・・)

 天才とか希望の星ではないが、精霊魔力の発現を除けば初陣で敵指揮官を討ち、近衛隊入隊。ロランの人生を端折った様な展開だ。

「近衛隊の隊長になった途端一度はルイーズにすり寄って去っていった様な者達がまた手のひらを反してロランに近づいたりしている。正直腹に据えかねる事も沢山あると思う。俺だったらあっという間にヘソ曲げてグレちゃうと思うが、そういった感情や雰囲気を一切表に出さず凛としている。ホントあの年齢で凄いと思うよ」

「ロランさんかっこいい~。お兄様って感じがする~」

(それには同意する)

 ミラがうっとりとした表情で組んだ両手の上に顎を乗せた。

「ミラは女性好きとかじゃなかったのか・・・」

「な、なによそれっ?!そういうのじゃないわよっ!」

 一瞬で天使から悪魔の顔になるミラ。

「はは、ミラちゃんは年上好みなのかな」

「そ、そうよっ」

「あ、あの、俺も年上なんですが・・・」

 ミラはふんっ!と言って横を向いてしまった。

 苦笑いのダニエルとタケル。

「唯一の救いは妹のルイーズがロランを心底尊敬していて常に彼を立ててサポートしている事だ。そんなロランの苦労や努力を間近でずっと見てきたルイーズには、君の幸運や待遇に納得できない事が多少なりともあるんじゃないのかな・・・」

(ああ、そういう事だったんだ・・・)

「多分・・・ダニエルさんの言う通りだと思います・・・俺はとても人に恵まれている・・・」

「なに、タケルが何か悪い事をしているわけじゃないし、何より隊長自身が望んでいることだ。ルイーズを悪く思わないでやってくれ」

「そ、そんな事、俺は少しも思ってないです」

「タケルがルイーズ様の悪口言ったら私が許さないんだからっ」

(はいはい・・・)

 思わぬ話まで聞けた。やっぱりこの世界に来てしまった秘密はあの慰霊碑にありそうだ。


「だいたいこんなところだ・・・俺はそろそろお暇するけど、俺がしゃべった事は隊長やルイーズには内緒にしといてくれよなっ」

「しゃべったりしません、ダニエルさん教えてくれて有難うございました」

 ダニエルは店を出て行った。

「ミラ、俺もちょっと出かけてくる」

「??どこ行くの?王宮?」

「いやちょっとね、夕飯にはもどるから。じゃ」

 ”エマーブル”を出て店先で野菜を売っているイネスに一言声をかけて走り出した。

 祭壇の丘。自分の期待する様な変化はないだろうと思ってはいるがやはり気になる。


 小麦畑を抜けて祭壇の丘に着いた。

 日中はまだ暑いがこの時間は少し気温が下がってとても過ごしやすい。

 夕日が照らす祭壇は異国情緒を更に醸しだすが移転した時となにも変わらずそこにある。

 振り返ると小麦も夕日を受けて黄金色に輝いている。イネスさんによればもうすぐ総出の収穫が始まるらしい。

 祖父、祖母、秋穂の顔を思い浮かべる。

 帰りたいは帰りたい。

「でもなんでだろう?ここで頑張らないといけない気がするんだ」


 いつか帰れるその日まで。


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