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大将戦~弐~

「くそ!・・・どいつもこいつも何をやっているのだっ!」

 レティシアを相手にしつつユベールは思わず声を上げた。

 チームAはユベール以外全員が倒され戦場から姿を消しており、ユベールとレティシアをやや距離をとって取り囲んでいるのはチームHの面々だ。

 これまでにないチーム作りや作戦と共に急激な成長を遂げるチームHを十分に警戒はしていたがまさか全滅するとは考えていなかった。

 ――しかもこんなに短時間で!・・・。

「く・・・。しかし!」

 しかしまだ負けではない。国王公認のルール変更によってユベールはレティシアとの一騎打ちとなったからだ。大将マークをつけた者同士、つまり例え他のメンバーの戦果がどうなろうと目の前の敵一人を倒したチームの勝利だ。

 ユベールからすれば私財というとんでもないオプションを付けられた戦いだがこういう状況となっては逆に行幸というべきだ。

 ――ユーゴ、バカな奴だ。勝ち続けてきたことで慢心したのか?

 普通に戦えばチームAの勝利だ。シュバリエの微々たる財産はどうでも良いが次期当主レティシアのトドメをさしておけばクルーゼ家の目の上の瘤を根絶出来る。

 ユベールは5M程離れた場所に立っているユーゴに視線を向けた。

 ――何?!。

 驚き二度見した。

 自分の愚策と甘い判断にさぞ唇を噛んで後悔しているだろうとユベールは思っていたのだがユーゴは不敵な笑みを浮かべていたからだ。

 ――何が可笑しい?

「なにがおかしいっ!」

 一瞬カッとなったユベールが渾身の一撃をレティシアに叩き込んだ。

「ぐ・・」

 レティシアは圧倒的な力で押されながらも眉間にしわを寄せ真横にした木剣で受けきり、直ぐに一歩距離を取った。

「レティ!練習通りやれば勝てるぞ!」

「俺と貴様らの練習が同じレベルというのか?!ふざけるな!」

 ユーゴの声に間髪入れずユベールが反応した。

「おい、ユーゴ、そんな事言って大丈夫なのか?」

「そ、そうですよユーゴ、むやみにユベールを挑発するのはどうかと思います。」

 不安そうに小声で言うルシアンとメリッサに対してユーゴは「まぁ、見てろ」というように片目を瞑ってみせた。

「分からないならさっさと終わらせてやる!」

 ユベールは更に目を吊り上げ柄を握る拳に力を込めた。

「おおおおお!」

 ビュッ!

 ユベールがレティシアに打ちかかろうとした瞬間、ユーゴが木剣を振った。

「!?」

 ユベールは鋭い木剣の風切り音に驚き、レティシアに向かって踏み込んだ足を右に逸らして大きく体転し、ユーゴに剣を向けて構えた。

「き、貴様!何を?!」

「ん?ああ、あんまりヒマだったんで素振りをしただけだ。それがどうしたんだ?」

「やーーー!」

 真横を向いた態勢になったユベールにレティシアが打ちかかる。

「うおお?!」

 ユベールは大きく体を開きながらレティシアの木剣を力強く振り払った。

「ち、惜しい」

 ユーゴは大袈裟に残念とアピールする。

「貴様ー!手出し無用のはずだろう!」

「手なんかだしてないぞ」

「!」

 絶句し、目を剥くユベール。

「こ、この!」

 沸き上がる怒りを抑えレティシアに向き直り一歩踏み出した瞬間カァン!という木剣の衝突音が鳴り響いた。

 ユベールは慌てて再びレティシアと距離を取った。

「私?あー、今メリッサと稽古してるだけだから気にしないでね」

 突然ドロテに打ちかかられて剣を出したメリッサは驚き目を見開いたがなるほどという表情に変えて剣を構えた。

 ユベールは獣のような目で睨んだ。兜に隠れているため細かな表情は分からないが返す術のない挑発行為に激怒している事だけは容易に想像できる。

「ユベール!周囲等気にせず目の前の小娘を倒せば終わりだ。ええい!何をしておるのだ!」

 チームAの特別席から怒声が響いた。クルーゼ家当主ラファエルだ。

「そいつは無理だろうなぁ」

「なんだ!・・・です・・・と・・?」

 自分より貴族としての位の高いニルスの反論に一瞬カッとなったがすぐに言葉を直した。

「人間、自分がやることは他人もやると考えるものらしいぞ」

「?」

 言葉の意味を理解できていないラファエルはきょとんとした顔を向けた。

「わからない?んー、そうだなぁ。分かり易く言うと、例えばAとHの状況が逆でユベールよりレティシアの方が実力で上だった場合さ。どういう状況になったと思う?」

「ぎ、逆だったら・・・?」

「そう、もしレティシア以外のHのメンバーが全員倒されていて、レティシアとユベールを取り囲んでいるのが全員チームAのメンバーだったらという事さ」

「ユベールは自分の苦戦が間違いない状況でどういう判断をしてどういう行動をするかということだな」

 隣で話を聞いていたエリアスが答えた。

「ど、どういう行動とは?王の御前なのだ一騎打ちというルールなのだからどうもせぬのでは

 ・・・?」

「そうかぁ?ユベールが負けたらチームAの負けで私財も取られる勝負だぜ?。多分窮地に陥ったユベールは全員でレティシアを倒すように指示を出すはずだと俺は思うな」

「こ、これは異なことを・・・はは・・そのような事をするはずがない・・・」

 国王の御前で決まり事を破れば事後当然咎められる事となる。この若造は何を言い出すのだとラファエルはやや見下した表情だ。

「普通に考えたら王に咎めを受ける様な事をするはずはないけど、追い込まれたら恐らく全員でかかるように指示をだすはずだ。そしてチームAの皆が勝手に乱入した事で自分は無関係だと言い張ればいい。」

「!」

「レティシアにトドメを刺しておけば尚良しだ。ユベールが指示を出したと証言する者はひとりも居なくなる。」

「なるほど・・・。私財を賭けた一騎打ちは無効となる可能性は高いが取られかけたものを守り、クルーゼにとって厄介な時期シュバリエ家当主を屠り、チームAは全勝で御前試合を終わることが出来る・・・と?」

 フランクぽんとが手を打った。

「他の者は試合に負けるわけにはいかないとか他家の問題で自分達には関係ないとか言い訳しておけば皆大した罰を受けることもないだろうな。実際シュバリエとクルーゼの問題だから」

「そ、それは状況が逆だったらという架空の話で今ユベールが一騎打ちに集中できない事とは関係が・・」

「無いと本気で思っているのか?」

 慌てて否定するラファエルにエリアスが冷たい目を向けた。

「さっき言ったろ?人間自分がやることは他人もやるもんだと考えるって。他領の民の文化に驚いたことはないか?自分の生活習慣が他人と違うとわかって時驚いた事はないか?」

「あ・・・」

 以前他領の茶会に招待を受けた時茶に砂糖を入れていた皆を不思議に思って見ていたら、逆に砂糖を入れずに飲むのを驚かれた事をラファエルは思い出した。その領民は皆茶に砂糖を入れて飲む習慣があり、それは当然だと思っていて苦い茶をそのまま飲む事はしないという事だった。

 ――自分がする事は当然他人もするものと考える・・・。


「ちょっとまえに畑でこゆびけがしたときシリルにそんなんじゃハナほじれないなって言われたけどひとさしゆびでしてるからかんけいない!っていったらふとすぎてハナに入らないだろ?ってびっくりされた!」

 ――・・・ソ、ソラル、それはどうでもいい・・・。

 セシルとアシルが困った顔をして額を押さえた。


「ユベールからしたらいつ総がかりで攻撃されるか分からず神経をすり減らしながらレティシアに対していると思うな」

「ひきょうものがひきょうなことをされるんじゃないかってビクビクしてるってことだな!」

 はいはーい!と元気よく手を挙げてソラルが大人の会話に割り込んできた。

「ぷ・・・」

「くっく・・」

 ユリアスとニルスが笑いを堪えて下を向いた。

「はふ・・!もごもご・・」

 血相を変えたセシルとアシルが二人がかりで慌ててソラルの口を塞ぐ。


 ユベールがレティシアとの一騎打ちで有利になればなるほど、追い詰めれば追い詰める程逆に危険が迫ってくるという状況で果たして集中して戦う事ができるのかという事だ。

 今のニルスの言葉通りであるならば最終的にチームHが全員でユベールに攻撃、トドメを刺すと考えられる。

 まさかの予想にラファエルは言葉を失い、口を開けたままゆっくりと戦場に体を向けなおした。


「手を出さず重圧をかけるか。あれではいかにユベールでも戦いに集中出来ぬな。ユーゴ・シュバリエ本当にやりおるわ。実に引き出しが多い」

 ガスパーは心底関心したように数年前に髭をキレイにそり落とした顎を撫でる。

「お主ならどうする?ユリウス」

 視線を正面に保ったまま隣に立つ長身の次期騎士団長に問いかける。

「は。私なら背後から攻撃を受ける事前提で突進してシュバリエの娘を全力で討ちます。敵大将を倒せば勝利なのでその後に自分が倒されようと関係ありません。チームの勝利も戦利品も手に入ります。それにこの観衆の中自チームの大将が倒された後敵の大将を攻撃など騎士として恥ずべき行為で厳罰です。陛下と結んだルールにも違反し貴族としては生きてゆけぬでしょう」

 Hチームが全員でユベールを攻撃するという選択はレティシアが窮地に陥ったとユーゴが判断した場合だ。窮地と思わせる隙も与えず倒しきる自身のある者だけが取れる戦法だ。

「・・・聞いた相手が悪かったな。その通り過ぎてつまらん・・・」

 ガスパーは小さくため息をついた。

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めておらん・・・」

 ガスパーは半目でじろりと睨んだ。

「しかしチームHは威嚇だけでその選択はしないと思われます。領地を取り戻す為にわざわざ仕掛けたのですから。欲しいのは完全勝利のはずです」

 これにはガスパーも「うむ」と同意した。全てを取り戻す戦いで全てを放棄する戦法をとるはずはない。

「となれば、上手く戦いを誘導しているとはいえユベールを倒すにはまだ足らんな」

 ガスパーは楽し気に目を細めた。







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