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興繕の翼

 上段のメリッサはとても落ち着いていた。

 なんだかとても不思議な感じがする。

 摸擬戦の初戦は驚くほど体が軽かったが心がふわふわしていて大歓声の中「自分はここで何をしているのだ?」と、傍観者のようにただ広大な草原の中に立ちすくんでいた。幸いユーゴ無双でなにもすることは無くチームの勝利で終わった。

 Dチームとの二戦目はなんとなく試合に入って練習通りに剣を出していたらいつの間にか勝てていた。

 二戦目までは目の前の敵だけしか認識できず、チームの皆の状況等とても把握できる状態ではなかった。大声援もゴォーーと耳鳴りみたいで魂が肉体に入っていなかったかのようだったのが、勝ち進むうちにだんだんとクリアになってきた。

 この最終戦では目の前の敵を観察しながらユーゴ、ルシアン、ドロテ、レティシアの状況、状態を把握できている。特別席のフローラやルシアンの弟達の話声が明瞭に聞き取れる。


 相対するロッドは肩構えから時折剣を中断まで下げたり上げたりしながら間合いを測っているのだがメリッサは動じない。

 これまでのメリッサであれば相手の僅かな動きに反応して退く、或いは左右どちらかに回り込む等していたはずだ。

 ”動く必要はない”

 自分でも本当に何故だかわからないのだが自信満々にそう判断していた。


 剣を頭上に高々と上げたメリッサの上段の構えはほぼ正面を向いている。手ほどきしたユーゴ自身の上段はかなり横を向いた半身の構えだったが「メリッサは正面向きのほうが威圧感がある」とほぼ正面向きとなった。


 ――上段は火の位。どっしりと構え、一撃で仕留めるという強烈な気を常に放出し続けて圧倒して倒す――


 ユーゴにそう教わったが「そんなの私には無理・・」とずっと思っていた。

「でも・・・」

 摸擬戦を戦う中でなんとなく分かって来た。

 心を覆っていた霧が徐々に晴れてきてそれまでぼんやりとしか見えなかったものが鮮明に見える様に、分かるようになってきた。


 ――この相手は自分を、自分の構えを恐れている――


 見下ろして決して退かない、僅かでも自分の領域に入ってきたら迷わず打つ。反撃を恐れることなく打つ。


 メリッサはゆったりと構え、両肘の間から冷静に相手を見ていた。


 距離をとったり近づいたりと打ち込む機会を作ることが出来ないでいたロッドが僅かにメリッサの領域に侵入した。

「~~!」

 メリッサはセンサーに反応したかのように前に出た。

 肩構えのままのロッドに特に隙は無かったが力いっぱいの剣を構わず振り下ろした。


 ギンッ!

 メリッサの強烈な一撃がロッドの右肩上にある剣の鍔元に命中した。

「うぐ・・・」

 ロッドはまず相手の初撃を受けるか躱すかして懐に潜り込もうという算段だったが二階からの強烈な一撃で次の動きが遅れてしまった。

 一撃放ったメリッサはロッドに体をぶつけて弾き飛ばした。

「むぅっ!!」

 打たれはしたが十分な態勢で受けたロッドはメリッサの体当たりに合わせて後方に大きく跳んで威力を殺した。


 双方再び構えなおした。


「あ、あんなに遠いところから打てるのか!?」

 ロッドはこれまでに経験した事のない長距離からの攻撃に驚愕した。

「しかもこの威力・・とても女子の打撃じゃあない・・でも・・・」

 難敵であると認識させられる一撃だったが、もう一つ確認できたことがあった。

 それはやはり攻撃は片手ということだ。

「これなら最初の狙い通り躱すか下方に弾くかすれば二撃目はほぼ無い。」

 狙って弾かなくても打ち下ろされた剣が体のどこかで止まらなければ次の攻撃手段は無くなる。

「それにこいつは技が少ない。斬り上げも得意なようだが片手での攻撃の後両手で持ち直すにはどうしても時間がかかる。まずは上からの攻撃の対処だ。勝機はある」

 ロッドは肩に剣を担いだ状態で一度両の掌を緩め、深く息を吐くと再び力強く剣を握り、やや腰を落とし気味にジリジリと前に出た。


「!」

 サササ・・・・という鋭い、低草を切る様な音が聞こえた。

 突然ギアを上げたロッドが肩構えのまま突っ込んできたのだ。

「ヤァ!」

 当然メリッサの間合いが先だ。素早く反応したメリッサが二階から打ち下ろす。

「たーーー!」

 メリッサのメンに合わせ、ロッドも剣を振った。

 やや遅れて振られたロッドの剣は空中でメリッサの剣を捉え、左下方に弾き落とした。

 剣道でいう”打ち落とし”。高等技術だ。

 相手の剣を空中で捉え、打ち落ちし、そのまま自身の剣を相手のメンに当てられれば最高難易度の大技だが、身長2Mのメリッサにはさすがに届かない。

 ロッドはメリッサの剣を撃ち落とし、更に振りかぶりながら一歩間合いを詰めた。

 打ち落とされたメリッサの剣先は足元だ。


 一撃入れて動きを止め、連打から押し倒してしまえばいくら身長差があろうと関係はない。


 ――貰った!――


 ロッドが勝利を確信し、渾身の袈裟切りを見舞おうとした瞬間腹部に衝撃が走り壁にぶつかったかのように体が止まり、上半身が前に出てくの字に折れ曲がった。


「ぐぉ・・・!(し、しま・・・)」

 ロッドは剣技に集中していた為にメリッサの足技を忘れてしまっていた。


 メリッサはロッドのどてっぱらに見舞った右足を一度地面に着け、もう一度今度は更に高く振り上げた。

 カッ!!


 メリッサ二発目の右前蹴りはロッドの剣の柄頭を捉え、蹴り飛ばした。

 ぶんっ!ロッドの手を離れた木剣は回転しながら空気を切り裂き回転しながら夕焼けで赤く染まる空に飛んで行った。


 メリッサはそのまま右足踏み込みで切り上げる。

 ロッドの兜が急激に天を仰ぐ。

 メリッサは更に手首を返し、上空に舞い上がった剣を右上から叩きつけた。

 上を向いたロッドの頭は今度は右下方にガクっと落ちた。

「やあああああああ!」

 そして全力の体当たり。


 兜が取れて転がり、ロッドは草原にだいの字となって倒れた。


「・・・は?!」

 数秒後意識が戻ったロッドが握った拳にはどちらにも剣の感触が無く、喉元にメリッサの木剣が突き付けられていた。


「く、くそぉぉぉぉっ!」

 ロッドは仰向けのまま両拳を地に打ち付けた。


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