新二刀流?!
「さすがはユーゴだ。全く危なげない!」
ユーゴがケフィに対し、マウントポジションを取った瞬間セルジュはぽんと膝を叩いた。
「そうだな。しかし相手の少年もなかなか良い攻撃だった。長距離攻撃が飛んでこない左へ左へと攻めて近接攻撃の出来ない右側に踏み込んで間合いを詰める。負けはしたがユーゴの剣術に対してはあの戦法が基本になるだろうな」
腕組みをしたエリアスが関心したように言った。
「そうだなぁ。後は体力差だな。着眼は良かったけどあっという間にスタミナが切れたみたいだったからなぁ、いやぁ、惜しかった」
「ん?惜しかった?お前はどちらを応援してるんだ?」
確かにエリアスの言う通りと。皆ニルスの方を見た。
「やだなぁ兄貴、みんな。勿論Hチームを応援してるよ。でもいっぺんぐらいユーゴが負けるとこを見てみたいと思わないか?」
状況によっては不用意で不謹慎な発言だが、無双状態のユーゴをどう攻略するのかは確かに皆興味がある。
「ユーゴの兄ちゃんも他のみんなも強いけど、ルシアン兄ちゃんはまた打たれまくってるぞ」
ソラルの報告で皆ユーゴからルシアンへ目を移すと、相手の少年のペースでガンガン押し込まれていた。
「ほんとだ・・・なんかいっつもルシアン兄ちゃんだけいっぱい叩かれてる感じがするなぁ」
シリルの言うようにルシアンは毎試合苦戦している。しかし何故だか気づくと勝っているという感じだ。
「彼はどうも不器用そうだからな・・・。しかし、なにか一つカタチが嵌ると一気に劣勢を跳ね返すという戦い方だな」
「そ、それって、強いという事でしょうか・・・?」
解説のエリアスにアシルが質問した。
「う~ん・・・わからん。ははは」
「あら・・・」
エリアスが兄の良いところを見つけてくれることを期待したアシルだったがガクっと肩を落とした。
「ルシアンは自分のパワーを生かせる方法を見つけられると良いんだがなぁ」
「兄ちゃん考える前に突っ込む性格だからなぁ」
「うん、何か考えろなんてムリじゃないかなぁ」
長女セシルが双子のシリルとソラルの頭をぽんぽんと叩いた。
「イテ!」
「イテテ!」
「兄さんは物凄く考えて家族を背負っている立派な長男よ!」
「そーだもん!ルシアンお兄ちゃんやさしいもん!」
末っ子チアラも腰に手を当てて双子を睨みつけた。
「わ、わかったよぅ」
「わ、わかったって」
「なるほど。家族間でも意見が分かれる二面性のある少年なんだな」
「う~ん・・・」
エリアスの分析にセシルはちょっと困った顔をした。
「みんな、とにかくこの試合に勝てば兄さん達が全勝で一番になるんだ。信じて応援しよう!」
「チアラはいっぱいおうえんしてるもん!」
「お、俺だってぇ!」
「にいちゃ~ん!がんばれー!」
しっかり者の次男アシルがマイペースは兄弟達をまとめた。
「テメェは相変わらずだな」
「相変わらず強いだろ?!」
「はぁ?相変わらずへたくそだっていってるんだ!」
一方的に打ち込んでいたトマがいったん間合いをとったところでルシアンを挑発するような口調で話しかけた。
「なんだ?急に。なにをそんなにイラついてるんだお前は」
「う、うるさい!」
トマは少し焦っていた。一方的に打ち込んではいるが決定打を与えることができていないからだ。
トマが見る限りシアンはこれまでほとんどの試合で苦戦していた。それでもルシアンが勝ってきたのは対戦相手が皆もう一息というところで詰めを誤ったからだ。それは間違いない。
しかし実際相対してみると違和感がある。
「(なにか・・・おかしい・・)」
自分が一方的に攻め込んではいるがこれまでのルシアンとは違いどこか余裕があるのだ。
「ちょっと言い方を変えるぞ」
「?」
「俺、強くなっただろう?やっとなんとな~く分かって来たんだ」
「!(つ、強くなっただと?)」
そうかもしれない。しかしここでこの場面で肯定なんかしないししたくない。攻め込んでいるのは自分なのだから。
「貴様の剣は俺にかすりもしてねぇじゃねぇか!寝言は寝て言えってんだ!」
「おう!そうだな!そんでもって俺なりに考えてきたことがあるから練習台になってくれ」
「な?!ば、ばかにしやがってぇ!」
怒りを露わにしたトマが一歩踏み出した時ルシアンが奇妙な構えを見せた。
剣を右腕一本で右肩に担ぎ、左拳は腰、ほぼ真正面を向いて右足が前だ。
「ふざけたやつだ。右腕一本で戦おうっていうのか?」
「俺は大真面目だぞ?」
「ふん!じゃあ打って来いよ。(片手では初撃を躱したら次の攻撃が出来ないとわからないらしいな)」
トマは剣をだらりと下げてかかってこいとばかりに無防備な姿勢となった。
「お。じゃあお言葉に甘えて!」
ルシアンは突進し、およそ3メートルの距離を一気に詰め、右腕一本で剣を振った。
ガシィ!
トマはだらりと下げていた剣を振り上げ、ルシアンの剣を摺り上げた。
ルシアンの剣はトマの剣を滑り、地に落ちる。
逆にトマの剣は頭上に振り上げられた。一見無防備に見えたトマの姿は初めからこれを狙った構えだったのだ。
「ふはは!!」
剣を振りかぶったトマは勝利を確信し全力で振り下ろした。
「ええええぃぃ!!」
「たぁぁぁぁぁぁ!!」
しかしトマの剣より二呼吸ほども早くルシアンの左拳がトマの右わき腹にめり込んだ。
「がは!!・・・」
―何が起きた?!―
トマは一瞬驚いたがルシアンの左手甲が脇腹をえぐっているのが見え、状況を理解した。
「く!」
手首を返し、空振りした剣を跳ね上げる。
しかし、またしてもルシアンがトマを上回るスピードを見せた。
「やああああああ!」
左拳を命中させ、体が右に捩じれた反動を利用してトマの首を狙って右片手突きを放ったのだ。
「~~~!」
これにトマも素晴らしい反応を見せた。
瞬間、切り上げをあきらめ、ルシアンの突きを躱す事を選択したのだ。
ビュッ!!
ルシアンの剣はトマの首を僅かに擦って突き抜けた。
「!!!」
トマは全身の毛穴から大量の汗が噴き出るのを感じた。
だがルシアンの攻撃はこれで終わらない。
「オラァァァァァ!!」
空振りの反動を利用して再び左手甲をトマの脇へねじ込んだ。
金属が金属に当たる音、肉への衝撃音、形あるものが壊れる音。
「うが・・・・」
トマの顔が苦痛に歪み動きが止まる。
「うおりゃああああああっ!」
ルシアンは左拳を引き、棒立ちのトマに対し一呼吸溜めて全力の次弾をこめかみに叩き込んだ。
兜を破壊されたトマは白目を剥いて地面と平行に吹き飛んだ。
相撲、剣道、柔道等、日本の格闘技は同じ方向の手足を前に出すのが基本だ。小柄な日本人が効率よく体重を使う為に考案された戦い方なのだろう。しかしボクシング等の拳による攻撃は左右どちらの足が前にあっても振り抜くことが出来る。
ルシアンは右足を前に出すことで右手に持った剣、握りこんだ左拳をどちらもスムーズに繰り出すことが出来、常にトマの先をとれていたのが勝因だ。
「みたかーーっ!二刀流!」
ルシアンはユーゴに向かって拳を突き上げた。
「ぶ・・・」
以前に剣を両手に持って戦う剣術があると話したことがあり、ルシアンはそれを覚えていたようだ。
しかしそれを二刀流と言ってよいのだろうか?。
「う~ん・・・」
ユーゴは難しい顔でルシアンを見つめた。
「兄さん・・・なんか無茶苦茶ですね・・・」
兄の強引な勝利に弟アシルが思わず呟いた。
「一見無茶苦茶だが剣も拳もキレがあって重い攻撃だ。きっちり決め切ったし、単なる思い付きでできる動きじゃないぞ」
「確かに・・・それに以外に器用なのかもしれないな」
ニルスも同意した。
「そうなんですか?」
「ルシアン兄ちゃんすごい!」
エリアスの解説にセシルとチアラは自分が褒められているかのような笑顔を見せた。
「こらーっ!ルシアン!」
今の攻撃はこの方が良かったか?拳はこう繰り出した方が良いのか?などとブツブツ言いながら素振りを繰り返すルシアンにドロテが叫んだ。
「お?おおう?」
突然大声で呼ばれたルシアンが驚いて振り返ると舞うように二人がかりの攻撃を躱すドロテの姿があった。
「余裕ぶっこいてるんじゃないわよ!ヒマなら手伝いなさいっ!」
「おー!もうちょっと戦いたいと思ってたとこだ!いくぞーーーーっ!」
返事をするが早いかルシアンは走り出した。
「げ。マティスぅ、なーんか一人こっちに走ってくるぞ」
「なに?!俺はこのままドロテの相手をするからお前はそっちを」
「いやぁ、もう来た」
「は?!」
「どぉ~~~りゃぁ~~~!」
両手を目いっぱい広げたルシアンが猛烈な勢いで突っ込んできた。
「うお!!!」
「な、なんとぉ!」
「えええええ?!」
迎え撃ってきたイヴァンの袈裟斬りをものともせず右肘で向こう向きのマティスの首を、左手でイヴァンの頭を掴み、ついでに二人の向こう側正面にいたドロテも巻き込んで豪快に押し倒した。
「どーーだああああ?!必殺三刀流!!」
勢いよく立ち上がったルシアンが叫んだ。
「(ルシアン・・・さすがに三刀流とは言わないぞ・・・)」
ガクっと腰が砕けたユーゴ。
「むぅ・・・き、器用だな・・・」
「前言撤回する・・・」
全員目が点となる応援席。
「あーーーーーほーーーーーかぁぁぁぁぁっ!!!」
ルシアンに続いて立ち上がったドロテがルシアンの兜に自分の兜をぶつけて全力で吠えた。
「見た見た?!俺の攻撃!ウデを上げただろう?」
「脳みそのレベルはダダ下がりよね!」
「なんでだっ?!」
「なんでよっ!?」
「お!」
激しく言い争っている最中にルシアンがドロテの剣を腕ごと持ち上げた。
ガキン!
隙をつきドロテの後方から打ってきたマティスの剣を防いだ。
「たあああ!」
ルシアンの腕の中でくるりと体を回転させたドロテがマティスを蹴り飛ばした。
「自分の剣を使いなさいよっ!」
再び体を回転させてルシアンに向き直ったドロテが怒鳴りつけた。
「だってさ、俺の腕よりドロテの剣が上にあったから・・・」
「危ない!」
ルシアンの反論途中、ドロテが今度はルシアンに前蹴りを放った。
「のわっ!!」
「うぉ・・・!」
背後から迫って来たイヴァンをルシアンもろとも蹴り飛ばしたのだ。
「ひ、ヒドいぞドロテ!」
地を転がるルシアンが不平を叫ぶ。
「おまえが言うなっ!」
ドロテはルシアンに蹴りを入れた反動を使って反対方向に走った。その先には起き上がって剣を構え待ち受けるマティスがいた。
「やああああ!」
「おおおお!」
全力で突っ込むドロテを肩構えのマティスが迎え撃つ。
ドロテはマティスの間合いに入る直前で急停止し空振りさせ、がら空きのメン、こめかみに剣を叩き込んだ。
「ぐ・・!フェイント」
マティスは下から剣を跳ね上げるが、ドロテの剣は既に上にはない。
ドロテは空いた胴に水平切りを放った。
ダメージはさほどないがガキン!という金属音がした。
「くそ!」
マティスは振り上げた剣をドロテの頭を狙って再び振り下ろす。
常に先を読み、攻撃の先を行くドロテは悠々と半身となって躱し、マティスのこめかみに二撃目を放った。
可動部が損壊し、ズレたアイガードがマティスの視界を遮った。
「う、うわー!」
パニックになったマティスがめちゃくちゃに剣を振り回すがドロテは間合いを切ってやり過ごし、マティスが片手を剣から話して兜に手をやった瞬間踏み込んだ。
「やあああ!」
水平切りが左胴、数秒前と同じ個所に命中し、小さな金属片がはじけ飛んだ。
ドロテは小さな体で突っ込み渾身の体当たりを見舞う。
パニックとなって構えの出来ていない姿勢の悪いマティスの体制を更に崩し後方へ押し込んだ。
ドロテは畳みかける。
両刃の木剣を横にしてマティスの首元へ突き出した。
「ぐっ!」
マティスは体を捩じってこれをギリギリで躱す。
しかしドロテはそこからさらに円弧を描くように剣を右胴にもっていく。
ドロテが放った水平切りは数秒前の攻撃により損壊した箇所に数ミリ違わず命中しドッ!という肉を叩く鈍く重い音が響いた。
「がは・・・」
マティスの呼吸が止まり、動きも止まった。
「う・・・」
ドロテの動きも止まる。
マティスの右胴に食い込んだ剣が抜けなくなったのだ。
「!!!」
「~~!」
一瞬で状況を理解した双方が同時に動いた。
マティスは左手でドロテのアイガードをこじ開け、右手の剣を器用に逆手に持ち替えて振りかぶる。
ドロテは抜けなくなった剣を放棄し、腰に刺してあった短木剣を左手で引き抜く。
「やああああああ!」
「たーーーーーー!」
上から振り下ろされるマティスの剣、下から突きあがるドロテの短木剣。
ほぼ同時に放たれるもダメージを負ったマティスの剣が後れをとった。
ドロテは半身で躱し、マティスの首に短木剣を突き刺した。
シュッ!
直撃ではなかったが皮膚を引き裂き鮮血が飛び散った。
「うあああああっ!!!」
マティスは剣を放り出して首元を押さえながら草原を転げまわった。
「くそぉぉぉぉぉ・・・・・!!」
戦闘不可能と判断した監視員がドロテとマティスの間に割っては入った。
勝利したドロテが振り返るとルシアンはイヴァンにのしかかっての動きを封じていた。
はっと視線を感じたルシアンはアイガードを上げてドロテに向かって片目を瞑ってみせた。
「似合ってないわよっ!」




