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ブリュセイユ王国剣術VS銃剣格闘

 ケフィの構えは真正面を向き剣を顔の左側に立てて構える”威相”だ。


 アシハール諸国で普及している剣術は数百年前北方から伝わりゴズワール、ローゼンヌ、ブリュセイユのそれぞれの王国で独自の流派として昇華したものだ。

 構えは真正面を向き、左右どちらかの肩に担ぐように構える”肩構え”、同じ姿勢で掌分前に出して剣を立てて構える”威相構え”、足を左右に開き腰を落として構える”不壊構え”があり、盾を使うかどうかで三国に違いがある。


 御前試合では木剣で戦う為決着がつきにくいという理由で盾の使用が禁止されているが、ブリュセイユ王国騎士団の装具は利き腕と逆側の肩に丸形か矩形の盾を装着する。盾を直接手に持たない為、盾を装備しながら諸手の攻撃が出来るのが特徴だ。


 領地の東側に莫大な埋蔵量を誇る鉄鉱石の採掘場があり、鍛冶技術の発達したローゼンヌでは強靭な剣で攻撃も防御も行う為盾を使用する形は無く一番剣道に近い。


 一方ゴズワール王国とゴズワール領ニネ公国では利き手ではない側に盾を持って戦う剣術だ。片手で剣を振り続けるには相当な腕力か重量を押さえた軽い剣が必要になるため”振る”より”突き”が主体の剣術で他二国とは構えから異なる。


「威相・・・」

 驚いた。日本剣道形の四本目打太刀の”八相”とほぼ同じだ。こちらの世界の”威相”は通常右足を前に出すので左足を前に出すケフィの構えは王国剣術とは逆だ。

 ケフィは威相の構えから時折不壊構えに変え左へと回りこみながら間合いの出入りを繰り返す。


「・・・そういうことか。なるほど」

 銃剣道は左腕と左足を前に出した”左半身の構え”で右拳が右腰から胸の間で固定されている為木銃は左手首を起点として左方向には動かせるが右方向に振る事が出来ない。

 加えて直線的な剣術である為に遠間では左右からの攻撃に対応しづらいという欠点がある。

 ユーゴから見て右側へ回り込まれるという事は常に対応しづらい方向へ移動し面積の大きい体の正面を狙われるという事にもなる。

 銃剣道に対抗する為にケフィが自分なりに出した答えだ。


「(対戦を希望したと言っていたな。しっかりと対策も練って来たという事か)」

 構えは剣を立てた威相から時々剣を中段におろし不壊に変える。これは木銃の先端が剣ではなく木剣型である為”斬撃”がないと踏んだ突きに絞った対策だ。


 じりじりと左へ動いていたケフィが急に速度を上げた。

「む!」

 ”死角”に入られたくないユーゴも素早く時計回りに回る。

 ケフィは左前に素早く移動しユーゴは左後方に素早く移動する。

 時には直線的に、時には円弧を描くように、両者の動きは徐々に激しさを増していった。

 足元に土埃が舞う。

 王国剣術にも言えることだが銃剣道は剣道のような”気合”を発しない為技を繰り出す時以外は静かな戦いが続く。

 半長靴が大地を叩くダンッダンッという音、低い雑草を薙ぐザッという音、装具が軋み叩き合うガチャガチャという音が土埃の中に響く。

「たーーー!」

 最初に声を発したのはケフィだ。

 激しい間合いの攻防から自分の間合いと角度を取ったケフィが不壊構えから突きを放った。

「・・・!」

 ユーゴは木銃を握った左拳でケフィの剣先を殴るようにかちあげ体を右に捩じって小尾打ちのモーションに入った。

「っと!」

 初撃を躱されたケフィはそれ以上踏み込むことなく距離を取った。

 来ないのか?という目を向けるユーゴ。

「はー、はー、今以上君に近づくのは危険ですから。特にその技は貰いたくないですね・・・」

 小尾打ちもきっちりマークされている。

「やるな・・・」

 ユーゴは兜の下で口角を上げた。少し楽しくなってきた。

 これまでの相手は練度の差や初めて対戦する銃剣道に翻弄される者ばかりだったが初めて試合える相手だ。

「しかしそう簡単には行かないぞ」

「・・・」

 ケフィは再び激しくユーゴの死角へ回り込む。

 互いに猛烈な速度でぐるぐると回るがケフィの速度をユーゴが上回ってきた。

 鍛えてきた持久力と下半身の筋力差だ。

「(着眼は良いが)」

 この戦法を実行するために修練をして来たわけではないということだ。

 不意にケフィは急停止し、右足から踏み込んだ。

「たー!」

 ケフィの剣はユーゴの木銃のウラ(背中側)を滑って左の手甲に落ちていく。

「!!」

 木銃は刀身とも言える”銃身”を左手で扱いて長さを調節しつつ戦う剣術なので通常剣に装着されている”鍔”というものがない。その為鍔元での受けが出来ない。

 ユーゴは右足を大きく前に踏み出しつつ左手を支点に木銃を左方に直角に曲げケフィの剣を払い落とした。

「!!」

 ユーゴはハッとした。

 普段であればこのまま小尾を打ち込める態勢なのだがケフィのウラを狙った技とユーゴの”いなし”の勢いでケフィは背中側に高速移動していたのだ。突き技とは逆に小尾打ちは敵を正面か右方で捕捉しなければ打てない。

「(ウラを)取った!」

 極端な左半身の構えであるユーゴの背中側に回り込んだケフィは足元を狙って剣を振った。

「(下か!剣が間に合わない!仕方がない一つ貰ってやる)」

 ユーゴはケフィの剣が左足に叩き込まれる瞬間右足に重心を移動させた。

 ガキンッ!

 鈍い金属音と共にユーゴの左足が持ち上がった。


 ユーゴは何事もなかったかのように左足を地に戻すと素早く退いて距離を取った。

「な!?」

 今度は打ったケフィが驚き目を見開いた。

 ユーゴは左足の力をわざと緩め力を逃がしたのだ。

「(咄嗟にあんな事が出来るのか?!)」

 ケフィは打ち終わった体制のまま距離を取ったユーゴを茫然と見ていた。


「あ・・」

 思い出したかのように剣を構えるケフィ。

「そ、それもその剣術の技なのか?!」

 あまりの驚きで戦っている最中というのも忘れて咄嗟に質問をしてしまった。

 今のはユーゴ個人のセンスによるものなのか?修練の成果なのか?そもそもその剣術はどこの国のもの何処で誰にで習った?メリッサや他の者の見慣れない構えも君が教えたのか?はたまた同じ種類の剣術なのか?聞きたいことは山ほどある。

 あらゆるジャンルの徒手の格闘における蹴りに対する一般的な”受け”を剣術に応用しただけなのだがケフィにはまさかの技だった。

 そして同時にダメージが全くないなどというはずはないのだが眉一つ動かさないユーゴに恐怖を感じた。


「俺に勝ったら教えてやる」

「し、承知した!」

 どこか嬉しそうな返事と共にケフィは前に出た。

 一度だけ素早く左にフェイントを入れて再び右、ユーゴのウラに剣を滑らせた。

 これをユーゴは同じ様に左へいなした。

 ケフィの攻撃は数秒前と全く同じだが今度はユーゴの左脇下を狙ってモーションに入った。

「・・・!!」


 しかしモーションにはいったところでケフィはうめき声をあげ、動きが止まった。

 ユーゴの左回し蹴りがケフィの右脇と右膝関節に連続で入ったのだ。

 しかもユーゴの正面に引っ張り出されるというオマケ付きだ。

「(忘れていた!・・・)しま・・・」

 脇への一撃で一瞬呼吸が止まり、膝への一撃で下半身がオチた。

「(同じ攻撃は)二度はない!」

 ユーゴの右手に握られた小尾が唸りを上げてケフィの左面に襲い掛かる。


「~~~!」

 ケフィは咄嗟に地に両ひざを着けて躱した。


 ゴオという尋常ではない風切り音が頭上を通過する。


 ―か、躱せた!!・・・―。


 しかし何故かユーゴの右手甲と小尾が視界から完全に消えていない。


 視界に残った小尾がみるみるうちに大きくなってきた。


 バックブロー。

 通過直後に引き戻って来たのだ。


「!!!」

 ゴ!!!


 強烈な一撃を受け、一瞬真っ暗、否、真っ白になり気づくと体が斜めになっていた。


 ドカ・・・!

 全身を地に打ち付けた。


 兜の中に土が入って来た。

「!・・・(まずいまずいまずい!)」

 敵を見失った。どちらを向いて倒れたのか分からない。

 ザっという草を踏みつける音が頭の方で聞こえた。

「~~~!」

 ケフィは渾身の力で大地を押した。


 立ち上がり顔を上げるとユーゴが直突のモーションに入っていた。


 凶悪な切っ先が真っ直ぐこちらに向かって来る。


 咄嗟に右腕を伸ばし、迫りくる木銃に手甲を当て数センチだけ下方に軌道を変えた。

 切っ先を自身の纏う装具の一番固い場所に誘導したのだ。

 剣は木製だ。少々当たり所が悪くても突き刺さる可能性は低い。そして体重をかけて押し返せば攻撃側の手首にダメージを与えて弾き飛ばすことが出来る。


 はずだった。


 ゴ!!。


 木銃の切っ先がケフィの胸にぶち当たり衝撃で首が前後に激しくズレた。

「がは・・・・」

 全体重をかけたにも拘らず押し負けて大きく後方にのけぞった。

「(何故だ?!・・・)」


 ケフィは上半身態を大きく反らせながらくるりと一回転し、なんとか踏みとどまった。


 ユーゴは無防備に真っ直ぐ下がったケフィを更に追い、連続の直突を放った。

「やーーーーっ!!」

 ド! ド! ド!


 両足が宙に浮いた。

「な・・・・?!」

 最後の突きはケフィを軽々と持ち上げた。


「(そ、そういうことか!・・・)」

 ケフィは再び地に叩きつけられるコンマ数秒前、ユーゴの打ち終わりの姿勢を見た。

 幅の広い小尾を胸に押し当て、体重を乗せていたのだ。

 槍の突きとは異なるトドメを刺す突きだ。


 ユーゴは仰向けに倒れたケフィに馬乗りになり両ひざで両腕を押さえつけた。所謂マウントポジションだ。

 そして小尾を頭上に振り上げ止めた。


「はぁ、はぁ・・・参った・・・。僕の負けです。さすが強いですね、僕なんかでは全然及びませんね・・・」

 こうなってしまってはどうにもならない。ケフィはあきらめ、全身の力を抜いた。


 先に立ち上がったユーゴはケフィの手を取り引き起こした。

「いや、良い戦法でとても参考になった。それにもしこれが剣を当て合う競技だとしたら、先に有効打を当てた君の勝ちだ。ま、”試合に勝って勝負に負けた”っていうやつだな」

 もしこれが剣道対銃剣道のような異種剣技戦だったとしたらケフィの勝ちだったに違いない。ユーゴの嘘偽りのない感想だ。

「試合に勝って勝負に負けた・・・ですか。面白い言葉ですね。覚えておきます」


 兜を取ったケフィは爽やかな笑顔を空に向けた。



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