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決戦

 曇りの無い白刃が御空を突く。

 茜色の陽を受けた刀身は神々しく光り輝いている。

 鍔と柄に黄金の勇壮な装飾が施された剣を天に向かって高々と突き上げているのはブリュセイユ王国国王ジェラール・オードランだ。

 ジェラール王の脇には時期王国騎士団団長ユリウス・ロシュフォールと騎士学校剣術教官ガスパー・ランバートが控え、周囲を5名の護衛が取り囲んでいる。

 更にその背後には巨大な観客席があり数万の観衆が平原で剣を構える若き十一人の騎士達を固唾をのんで見つめている。


 飛び立つ白鳥の羽音が合図であったかのように王の剣は振り下ろされた。


「はじめーーーーっ!」


「おおおおお!」



 カーーンッ!

 先陣を切り剣を合わせたのはルシアン・モレルとトマ・ラファエリだ。

 どちらも腕っぷしには自信があり、剣士というよりは闘士という体格だ。

 お互いに挨拶をするかのように木剣を叩き合いルシアンがやや見上げる格好で顔面を突き合わせた。

 肩幅は同じぐらいだが、身長はトマの方が10センチ程高い。

「相手してやるぜ!女と戦うよりちったぁマシだからなあ!」

「今からでも代わってやるぞ?ドロテやメリッサと戦ったらやさしく倒してもらえるぞきっと」

「!!貴様ぁボコボコにして畑に埋めてやる!」

 トマは素早く下がりながら剣を振り下ろした。引き面だ。

「たああ!」

 ルシアンはトマの引き面に引き面を合わせた。

 カーン!

 互いの剣が互いの兜に打ち下ろされた。



 メリッサ・アルネゼデールはロッド・ラージュと対峙していた。

 ロッドはメリッサの長距離砲を警戒、かなり遠い間合いを保ちつつ左へ左へジリジリと移動していた。

「・・・」

「・・・」

 上段のメリッサはロッドを追いゆっくりと時計回りに動く。

 ロッドが半足前に出るがメリッサは動かない。

「・・・」

 様子を見ながらもう半足前に出る。

 メリッサはロッドに体の方向を合わせるだけで動かない。

「・・・」

 ロッドは小刻みに間合いの出入りを繰り返すが動きのないメリッサの間合い≪攻撃範囲≫を読めず攻めあぐねていた。

「(・・・分かりにくい構えだ・・・どれぐらいから打てるんだ?・・・)」

 イザークとメリッサの対戦は見ていたが実際に対峙すると長身のメリッサの切っ先は遥か上空にあり、両足の幅も一般的な剣術の肩構えよりとても狭い為射程が予測しづらい。

 ロッドはメリッサの手元足元に細心の注意を払いながら左へ左へと回る。

 攻撃特化型のルシアン対トマとは対照的に口数の少ない二人の対決は静かな間合いの攻防からだ。



 イヴァン・ナセリは一目散にドロテを目指し駆け寄ると一呼吸も置かず打ちかかった。

 普段は間延びした口調でのんびり屋だが迷いのない鋭い攻撃だ。

 これをドロテは下からすりあげ飛びのいた。

 そこへマティス・ディールが襲い掛かる。

 ドロテは剣を立てて受けるとイヴァンを目でけん制しながらすぐに距離を取った。

「ようやく私の実力を認めたのね」

「・・・」

「・・・」

 倒せば勝利となる大将に複数人付けるのは常套手段だが他の一人の相手に二人でかかるというのはそういう事だ。

 目の前の一見瞬殺出来そうな小柄な少女はあのアルバンを一騎打ちで倒した。

 イヴァンとマティスは今の段階でアルバンと戦って勝てる見込みは薄いと自覚している。

 しかし”残念な末娘”に遅れをとっているとは認めたくない。

 ドロテの言葉にイヴァンは眉間にシワを寄せ、マティスは小さく舌打ちをした。

 何か言い返せば全て言い訳のように聞こえてしまうからだ。

 ドロテは挟撃されないようにイヴァンとマティスが一直線に重なるような位置へ移動する。

 逆にヴァンとマティスは挟撃できる位置取りをする為走る。

 ドロテは不利な状況にならないよう更に走って移動する。

 3人は有利な形を作るため剣を構え、平原を激しく動き回った。



「小賢しい策を練って来たみたいだが肝心の戦う相手がお前では意味がないんじゃないのか?」

 Aチーム大将ユベール・クルーゼは地面に木剣を突き刺し左手を腰に当てレティシアに見下した言葉を投げた。

「小賢しい手で祖父ジュールの命とシュバリエの財産を奪っておいてどの口が言うのです?!私はこの日、この時を十年待っていました。あなたを倒し、名誉と取られたものを取り返します!」

 レティシアは鋭い視線を飛ばし剣を構えた。

「ふん、親のしたことなど知ったことじゃあない!勝手に仇にされて迷惑な話だが将来の汚点にされたらもっと迷惑だ。お前らの小さな財産に等興味もないが勝って何事もなかったということにしてやる!覚悟するんだな」

 勝てば官軍負ければ賊軍。どの世界でも同じだ。

「関係ないですって?!祖父が斬殺されたとき大喜びで飛び跳ねるあなたの姿を忘れたことはない!勝って祖父の墓前で地に頭を叩きつけてやる!」

 レティシアは一気に踏み込み中段から鋭いもろ手突きを放った。


「ち!」

 ユベールは剣を引き抜きざま左上に跳ね上げる。


 レティシアは跳ね上げられた剣を首筋に向かって振り下ろす。


 ユベールはこれを左腕一本で右方向に弾き手首を返してレティシアの右面に水平切りを放つ。


「!!」

 両足をめいっぱい開いて地面ギリギリまで腰をおとし空振りさせる。ブンッ!という尋常ならざる風切り音がレティシアの頭上を通過した。


 体が流れたユベールの胴を狙い水平切りを放つ。


「む?!」

 ユベールは右回りにくるっと一回転しながら退き、躱した。


 両者距離を取って構えたまま動きを止めた。


「はー、はー・・・」

 呼吸を整えるレティシア。

 呼吸の乱れは一連の運動によるものではなく、強者を相手にしている緊張からだ。


「・・・」

 対してユベールは軽い衝撃を感じていた。

 修練の手合わせでもほとんど印象に残っていない少女が僅かな時間ではあるが自分と同等に打ち合ったのだ。

 ちらりと周囲に目を向けた。

 トマ、ロッド、イヴァン、マティス、余裕で戦っている者は一人もいない。

「そうか、そういうことか」

 冒頭の観衆を巻き込んだ策もそうだがHチームはこの御前試合に勝つ為にずっと実力を隠し通してきていたのだと理解した。

「認めてやる。だが、俺はお前達とは違う。上級貴族だ!エリートだ!絶対に負けん!流してきた汗の差を見せてやる!」

 レティシアとユベールは同時に足を踏み出した。



「君のせいでクルーゼ家とシュバリエ家の騒動に巻き込まれた私達はすっかり脇役になってしまいました」

 3メートル程距離をとりアイガードを上げて話しかけたのはAチームで一番冷静でキレ者のケフィ・ニールだ。

「そうか。それは悪かったな」

 ユーゴも木剣を地に立てアイガードを上げて会話に応じた。

「陛下公認の特別ルールになってしまって大将同士の戦いに介入できないので我々が戦ってもチームの勝敗にはなんの影響も及ぼしませんが、だからといって指をくわえて見ているだけで決勝を終わってしまっては今後に響きます。相手はして頂きますよ」

「望むところだ。手加減はしないぞ」

「はは。手加減しない?君はずっと対戦相手に手心を加えてきてますよね?」

「ん?(俺が加減して戦ってるとみているのか?)」

 ユーゴはやや左上に視線をやり考える素振りを見せた。

「これは・・・自覚がないのですか?あれだけ強さを見せつけておきながら決してトドメを刺さない戦い方に違和感を覚えていたのですが・・・不思議な人ですね」

「・・・」


 確かに他の生徒はこの御前試合において倒れた相手の顔面を潰すような攻撃を平気でする。ドロテにしても躊躇なくアルバンの腹をえぐっていた。

 ユーゴのいた平和な日本では自衛隊ですら本気で人を殺す稽古はしないし、余程特殊な環境にない限り教わる相手もまた人を殺傷した経験のある者等皆無だ。この世界の住人から見ればユーゴの剣術はスマートすぎるのだろう。殺気がなく競技の域から出ていない様に感じたのかもしれない。


「・・・そう見えるのか、俺は手加減してるつもりはないんだが、良い事を聞いた。今後の参考にするよ。有難う」

 ケフィは更に不思議そうな顔をした。

「本当に変わった人ですね・・・実は君との対戦は私が望んだことです。他の皆は”負け戦に手を挙げるのか?”と不思議そうでしたけど、私は君を尊敬しています。素人だらけのチームを一年でここまで鍛え上げた君と是非剣を合わせてみたかった」

「それは光栄だ。君たちのような序列の高い貴族は極端に敗北を嫌うが良いのか?」

「勝つこと前提の物言いはちょっと癪に障りますが・・・どうやら君がシュバリエ家の養子で元は平民というのは本当みたいですね。貴族についてよく知らないようなのでお教えしましょう。敗北イコール死なのです。運よく命が助かっても騎士の道を進むことが出来なくなるかもしれない。なので戦場で数百体数百となればまた話は違ってきますが勝てない戦いは極力しないのが基本なのです」


 そして勝者からすればトドメを刺さず生かしておけばどんどん敵を増やしていくことになる。息の根を止めて敵を減らしていくことが頂点に立つ道なのだ。


「・・・」

 古来日本の剣豪も果し合いをする前に弟子を先に戦わせて相手の技を見るという事があったそうだ。勝てない戦いはしないというのは生き残るために当然の事なのだろう。

 自分の敵を減らすという事が大前提なら辻斬りといった不意打ちも当然アリだ。強敵がこの世から消えたら自分が一つ上に立てるのだ。


「ケフィだったな。君は良いのか?負けるかもしれないぞ」

「はは。君が相手にトドメを刺さないという事はわかっているのでこの戦いに恐怖はありませんよ」

「・・・な、なるほど。勝っても負けても安全に経験を積める稀な戦いということか」


「ユーゴ・シュバリエ!行くぞ!」


 アイガードを下ろし剣を構えたケフィに対し、ユーゴも木銃を突き出し半身に構えた。


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