強さの秘密
「ユリウス、ガスパー、面白い決勝となったな!」
ジェラール王は楽しみで仕方がないという顔をしている。
「はい。ランク1位と最下位の決勝戦は騎士学校開校以来初で御座います」
「そうかそうだな。毎年摸擬戦を見てきているがこのような対決は記憶がない。それに女子が3人というのも珍しい」
「おっしゃる通りでございます」
「ガスパー、お前はどちらが勝つと思うか」
「Hチームだと思います」
ガスパーは王の問いに間を開けず答えた。
「ん?まさか狙ってあの者たちをHにランクしたのではあるまいな?」
「ははぁ・・・。勿論左様で!とお答えできれば格好もつくというものですが、どうも・・・」
ガスパーは地肌の頭をポリポリと掻いた。
「はっはっは。別に責めているわけではない。お前にしては珍しく予想を大きく外した事が可笑しくてな」
「面目御座いません・・・入学当初の奴らは本当に初心者で間違いなく最低ランクだったのです」
「そうか。もしもこのまま全勝で優勝したならば何故急激に強くなったのかあの者たちと話をしたいものだ。で、ユリウスはどうだ?」
「私は・・・。私はAチームに勝って欲しいと思います」
「なるほど。ユリウス、一つ提案だが、賭けをせんか?」
「師匠、私は時期騎士団長、師匠は剣術教官なのですよ。ふ き ん し ん です!」
ニッっと微笑みかけるガスパーに仏頂面のユリウスが答えた。
「お主はカタいのぉ、ヒイロカネよりカタいの!。なにも”石焼の館”で賭け札を買ってこようといっているわけではないのだ。わしとお主だけのただの小さな遊びだ」
「むぅ・・・良いでしょう・・・それで何を賭けるのですか?」
ユリウスは目を閉じ、暫く考えた後返事をした。
「なに、たいしたことではない。お主がAが勝てばお主のいう事をひとつ何でも聞こう。もしHが勝ったならわしのいう事をひとつ聞いてもらう。どうだ?簡単な事だろう?」
ユリウスはガスパーのつるつるの頭をじっと見つめた。
「(遊びと言いながら範囲が広すぎる・・・。なんでもと言っている時点で遊びの範疇をこえているのではないか?)」
ユリウスは視線をガスパーの頭から顔面に変えた。
「なんだ?その目は・・・」
「いえ・・・分かりました・・・」
「はっはっは!良い!ガスパーが欲しがるものがなんなのか私も興味があるぞ!」
ジェラール王は楽しそうに笑った。
「しかしユリウスよ、”勝って欲しい”とは妙な言い回しだな。その心はなんだ?」
ジェラール王はユリウスの含みのある言葉を聞き逃さなかった。
「はい、確かにHチームは強いです。しかしもしこのまま彼らが優勝すると王国騎士の在り方、これまでの強さの概念が根底から覆されてしまうかもしれないという懸念があります。良き方向にということであれば変わる事も必要ですが、これまで学校運営、騎士団の強化がうまく進んでいる現状を変えたくはないとも考えますのでこのような答えで失礼いたします」
「む?・・・・」
ジェラール王はどういうことか?という表情でユリウスに顔を向けた。
「陛下、私から説明いたしましょう」
口を開きかけたユリウスをガスパーが制した。
「うむ、申せ」
「陛下もすでにお気づきでしょうが、Hチームの強さは突出した体力。スタミナです。装具を着込んでの戦闘は何も装着していない場合とは比較にならないほど体力を消耗します。15~6歳の学生ではあっという間にスピード、キレが無くなってしまいます」
「うむ。それは分かっている」
「通常騎士を目指す者は幼少期より剣術の基礎を教わり、技術を習得し磨いていきます。そしてその途中騎士学校に入学し、素質のあるものが選ばれて王国騎士団に入団します。その後騎士団内での修練と実戦を経験して徐々に長時間の作戦行動に耐えられる体力を身に着けていく。こういった順で頑強な騎士へと成長していくものです」
「そうだな。私も通って来た道だ、異論はないがそれがどうしたというのだ?」
「しかし、彼らはその発想から違うのです。強い完成された騎士になるという大きな目標の前に騎士団入団という、いうなれば中目標に向かって特化した修練を積んできたのです」
「なるほど。技術の向上を飛ばして体力強化を突き詰めてきたわけか」
「左様にございます。そしてこれは見事に当たりました。その理由はこの摸擬戦が真剣を使わず、命のやり取りまでいかないギリギリの規則の中で行われる”仮の戦い”で、ある程度打撃を受けても致命傷とはならず本来の戦よりも長い時間を要する持久戦だからです」
「斬れない剣で戦う”時間のかかるいくさ”を想定してそれだけの為に一年間修練してきた成果ということか」
「おっしゃる通りです。そしてもうひとつ。彼らは女子が3人という不利な条件を克服するため装具を破壊するという驚くべき方策を実行しています」
「なんと?!・・・ああ、あのアルバンがどう見ても非力で小柄な娘に倒されたのはそういう事であったのか」
「はい。実際に確認したわけではありませんので確かな事は言えませんが、恐らくはそうではないかと」
「むう・・・あれはどう考えても不自然で不思議に思っていたのだ。なるほど・・・考えたものだな」
ジェラール王は低く唸った。
「彼らは既に王国騎士団入団を決めておりますが、果たして実戦において能力を発揮できるのかという懸念があります。更には今後Hチームの様に装具の破壊を狙う事が主流となるでしょう。しかし装具の変更などは出来かねます。装具を学生の自由に作らせていては資金に余裕のある者が有利となりますので摸擬戦で実力を推し量る事が難しくなってしまいますので・・・」
ユリウスがガスパーに代わって話を続けた。
「今後こういった修練、戦いを経て騎士団に入団する者が増えると質の低下に繋がってしまうのではないかと考えます。先達より教えを請い技術を磨き順を追って強い騎士へと成長していく。こうした流れ、伝統が大事なのです。確かに彼らの作戦、活躍は素晴らしい。しかしそれにより大きな代償も払うことになるかもしれない。私はこう愚考いたします」
「なるほど。貴公の言わんとすることは理解した。しかしこのようなユニークな方策、作戦を発案する頭脳は是非ともほしいところだ。それに入団後使い物にならなければ誰であろうと所属小隊の序列を下げていくのだ必ずしも全体の質の低下とはならぬのではないかな。今の話を聞いて逆に奴らがどのような騎士になっていくのか興味が出てきたぞ。ふふ。そのまま受け入れるのだ」
「は!御意」
「陛下、実は彼らについてもうひとつ気になることが」
「なんと、まだ何かあるというのか?」
「これは私の推測でしかないのですが・・・」
「構わぬ、申してみよガスパー」
ガスパーは一呼吸おいて話し始めた。
「もしかすると・・・」
「もしかしたら戦う相手を誘導しているのかもしれない」
「?!」
「どういう事だニルス?」
弟の発言の意味が分からず首をかしげるエリアス。
「なんだそれは?」
同時に特別席の後方で覚えのある声がした。
皆が振り向くとそこにはフランク・ロシュフォールと妻オルガの姿があった。
「あ・・・!」
「父上、母上!いらしたのですね?」
聖騎士アミラの息子にしてブリュセイユ王国最大規模の領地を誇るロシュフォール家当主の登場にセルジュ、イザベル、マリオンが慌てて立ち上がった。子供たちも何事かと続いて席を立った。
「お、お目にかかれて光栄に存じます。セルジュ・シュバリエと申します」
セルジュに続いて皆一通り挨拶を済ませるとフランクは「良い」と、手で合図をして末あるように促した。
「ニルス、話の続きを聞かせるのだ」
「え、え~っとなんだったっけな」
「ニルス!」
父親に説明するのがよほど面倒なのかはぐらかそうとしたニルスをフランクが一喝した。
「は、はいはい・・・冗談だって、戦う相手を特定しているっていう話ね」
「まさか、そんなことが出来るのか?」
「あ、あくまでも推測でしかないとまず言っておくよ」
「はやく話せ!」
まったくせっかちだなぁと一つ文句を言ってからニルスは話し始めた。
「まず初戦でユーゴが一人でEチームを全滅させたことで数的優位の他チームは誰に二人をつけるかで迷ったと思う。直後の対戦となったDチームはH対Eの試合を見たうえで万全の準備をして一番の強敵ユーゴに二人を送ったがこれを瞬殺されてしまう。そしてその後の対戦チームはユーゴに二人つけても無駄だと認識した。次の対戦相手Bは大将レティシアに二人つけた。これはチームで勝利する近道で妥当な作戦だと思う。そしてアルバンは一番倒しやすいと思った小柄なドロテに行った」
「ちょっとまてニルス、アルバンが他の一人とレティシアに対するとかユーゴに対するという選択肢もあったはずだと思うが」
エリアスが異を唱えた。
「たしかにそうだけど、もし兄貴がBのリーダーなら自分が女子の大将に男二人で斬りかかるかい?プライドが高ければ高いほど無いよな」
「アルバンが一人でレティの相手をするというのはどうかな?大将を倒すのが手っ取り早いのではないかな?」
セルジュが質問した。
「うん、でもいくらアルバンでも持久力のあるレティシアを倒すのに時間をとられるかもしれない。そうなるとユーゴが他を攻略してしまう恐れが出てくるからエースのアルバンが足止めされるような選択はしなかったんだと思う」
「なるほど・・」
「それから強敵のユーゴにアルバンが一対一で行くというのも多少リスクが伴う。なので、既に異常なほどの持久力を見せていたレティシアを二人が弱らせておく、ユーゴにも無理に攻撃させずその場に止めておく、そしてアルバンが一番組みやすい敵をさっさと倒してさらに数的優位を作り出してからユーゴに相対する。多分こういう事だったんじゃないかな?しかしそれを予想してたやつがいた」
「ユーゴか?!」
「おそらくはな。予想したというか誘導したというべきか。そしてC戦はメリッサを大将にしてイザークが直接戦わざるを得ない状況を作った。」
「ま、待ってくれ!ということはこの試合は・・・!」
セルジュが狼狽えて立ち上がった。
「そう!レティシア対ユベールの一騎打ちだと思うぜ。よくは知らないけど、さっきの件といい、クルーゼ家とはなにかしら因縁があるみたいだしな」
「そうだな。ユーゴは相当頭がキレる。何か手を打ってくるだろう」
エリアスは顎に手を当てて目を瞑った。
「レティをユベール様と戦わせるなんて・・・」
ニルスとは対照的にイザベルは不安そうにセルジュを見やった。
「ユ、ユーゴがユベールをなんとかしてくれたら・・・」
「それは難しいというか出来ない。6体5だからなHチームは対戦相手を選んで戦うことはできない」
「ううう・・・」
エリアスの言葉にセルジュは力なく席に座った。
「しかし、戦う相手を誘導したとしてもそんなに戦局が変わるのか?」
それまで黙って聞いていたフランクが後ろの席から口を挟んだ。
「そ、その通りだ、フランク様の言う通りだ。いったい何故?」
「考えてもみろよ、ドロテとレティシアはこれまで誰かに師事した事は一度もない。ルシアンは畑で拾った剣を振っていただけだという。メリッサに至っては騎士学校に入る前は殆ど自室に引きこもっていたらしい。つまりはユーゴ以外は全員初心者のチームなんだぜ?そのチームを一年で御前試合で勝てる様にしなければいけない」
「そうか。人数が一人少ない事で回避される可能性のあるユーゴに頼るのではなく、それぞれが戦う相手を特定して修練を積んできたということか」
エリアスの発した結論に皆「あ!」と顔を上げた。
「ドロテは躱す事に重点を置いた戦い方で打たれながらも相手の剣の芯を外して、倒されても直ぐに立ち上がれるように”受けて”いた。大きい相手との戦いを想定して修練を積んできたとわかる。メリッサはそれまでは遠距離攻撃だけと思ったが、対イザーク戦では多分彼の得意技なのかな?、意表を突いた至近距離の突きを二度も躱したうえに強烈な腕への剣撃で返してフィニッシュまでもっていっている。途中なにか動揺はあったみたいだけどくっついて戦うクセのあるイザークに対して戦いづらそうなそぶりは全くなかったからな」
「むう・・・、それでどうしても想定した相手を誘導する必要があったのだな・・・」
セルジュもフランクも唸るしかなかった。
「ああ、今回はどうあってもレティシアにユベールを誘導すると思う」
普段はいたずらや悪ふざけが好きな末の弟という感じだが、剣のセンスはエリアスより上かもしれない。
「なあ!兄ちゃん遊んでる人か勉強出来る人かよくわかんないひとだな・・・モゴモゴ!」
セルジュが大慌てでソラルの口を塞いだ。
「あ!あははは!・・・・・」
頬を見たことのない大きさの汗が落ちる。
「あは。とにかくそう悲観することはないと思うぜ、きっと勝算はあるんだろ」
ニルスの解説が終わった時、決勝を戦う騎士達が戦場に姿を現した。




