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最終戦に向けて

「なあ!俺たち王国騎士なんだよな?!な?!」

「うっさいわねぇ、さっき説明したでしょ?。全勝はウチとAだけ、BはウチとAに負けたから2敗でCは3敗、Dが頑張ってるけど2敗。残り全チーム2戦だけどウチの次の相手Fは棄権してるからその次のA戦で負けても6勝1敗で確定よ。何度も言わせないで!」

「ドロテ、そんな怒った言い方でも口元がニヤけてるぞ」

「こ、こういうカオなのよっ!」

 騎士団入団を決めたHチームの天幕はにぎやかだ。

「Cは俺たちに負けた後4人だったからなぁ、ちょっとかわいそうではあったよな」

「そういうことを言わない!」

 メリッサに一瞬目をやったドロテがルシアンを小突いた。

「あ、悪ぃ・・・」

「有難うドロテ、私なら大丈夫です」

 CチームはHチームとの戦いでエースイザークを欠いたまま対A戦を戦い惨敗したため騎士団入団が絶望となったのだ。

 CチームはAチームに負けた事で騎士団入団が断たれたのだが実質Hチームが、メリッサが引導を渡したと言っても過言ではない。

「・・・」

 メリッサは大丈夫ですと笑顔で返してはいたが誰の目にも作っている笑顔であると映る。

「メリッサ、イザークは上位チームの誘いを断って自分のチームを作って挑んだ結果脱落したんだ。悔いはないと俺は思う」

「そ、そうだぞ。ユーゴの言う通りだ。ほんとならA,B,Cの3チームが騎士団入りだったんだろうけど、俺たちが強くなりすぎて計算狂っちゃっただけだからメリッサが気にすることはないぞ!はっはっは!」

 ぱぁんっ!

「な、なにすんだっ!」

「あんたはフォローも微妙なのよっ!こういうことはユーゴに任せておきなさい!」

「なん・・!・・・そ、そうかな・・・?そ、そうなのか?・・・」

 チラっとメリッサの顔を確認するルシアン。

「うふ。有難う。心配してくれていることはちゃんと伝わったわ」

「そ、そうか!そうだよな!」

「メリッサはこいつに甘すぎるのよ」

「でも、メリッサの最後の近い間合いの腕への攻撃凄かったな!あんな技練習してたんだ?」

「あれは・・・ユーゴと練習していたといえばそうですが・・・あの場面は”あ!腕!”って言う感じで自然に出たというか、反応しただけというか・・・」

メリッサは自分自身も不思議だという顔だ。

「反応しただけ?」

「ぷ。なにそれ?このあんぽんたんみたい。あはは」

ドロテはルシアンをからかって笑ったが対B戦でアルバンと戦った時メリッサが言ったような不思議な感覚が自分にもあったのを思い出した。

「(でもそんな感覚はあったわね・・・あれはなんだったのかしら?・・・)」

考えてもメリッサ同様うまく説明できない。「多分こういうのが修練の成果というものだろう」そう思うことにした。


「あ、そうだ、最終戦まで時間が空くのは好都合だ。この時間を利用してヒールしておこう」

「ヒール・・・ですか?」

 レティシアがドロテを見やって怪訝そうな顔をした。

「私ならもう大丈夫よ?まだちょっと痣が残ってるけどユーゴが寝ずにやってくれたおかげでもうなんともないわ。これぐらいは御前試合が終わったあと自分でなんとかするわ」

 ドロテは立ち上がって腕をぐるぐる回した。

「いや、ドロテじゃない」

「?」

「こっちのやんちゃ坊主だ」

 ユーゴはルシアンの右肩を掴んで引っ張った。

「うあ!!・・・」

 ユーゴに少し引っ張られただけに見えたルシアンが声を上げて後ろにひっくり返った。

「えええ??」

「ルシアン、どうしたの?!」

「だ、だいじょうぶですか?!」

「あんたまさか治ってなかったの?」

「は、ははは・・・」

 苦悶の表情で起き上がるルシアン。

「ヒールするから動くなよ」

 ユーゴはルシアンの右肩に両手を当てて集中した。

「ユーゴい、いつから分かってたんだ?」

「C戦開始直後だ。ほとんど剣を振らずに体当たりばかりしていたからな。たまたまメリッサとイザークの決着がチームの決着という試合だったから良かったが次は大一番だからな時間まで大人しくしてるんだ」

「さ、さすがユーゴ、はは・・」

「あんたそんな大事な事なんで黙ってたのよ!」

「そ、そりゃあ・・・」

「痛々しい女子を差し置いて自分も痛いなんて言えなかったんですよね?」

「え?」

「・・・」

 メリッサの言葉に無言でぷぃっと横を向くルシアン。

「ドロテを先に治してほしかったのよね?ルシアンってそういうところとっても優しいから」

「え?」という表情でドロテがルシアンを見た。

「お、俺は別に・・・」

「はいはい。なんか御馳走様。うふ」

「わ!私は・・・その・・・」

「二人の女子を同時に黙らせるとはなかなか色男だな!ルシアン」

「お、俺はそんなんじゃあ!・・・い!いてて!」

 ルシアンはユーゴにいぢられた為、急に振り返り肩を捻ってしまった。

「ほら!じっとしてろ」

「ううう・・・」

「あは」

「ユーゴ、今度ルシアンが動いたらモクジュウで殴っちゃって良いわよ」

 ドロテはユーゴの木銃を手に取った。

「こ、殺す気か・・・」

「それにしても、これ、見れば見る程変わった形してるわよねぇ・・・。ここのところなんて、どうしてこんなへんてこな形状なのかしら?」

「そこは引き金を模した部分だからという事とそこから少しだけ下に曲がっている事で銃剣道特有の攻撃が出来るという二つの理由があるからだ」

「引き金?」

「特有・・ってなんだ?」

「そうだなぁ・・・」

 どう説明したものか。ルシアンに右手を当てながら少しだけ間をおいてからユーゴは話し始めた。

「元々は先端から魔法の様なものを発射する鉄器で、縊れている銃把のところに発射をする為の突起が着いているんだが木銃は発射機能を無くした格闘の修練用だからそういった部分が削られた形状で作られているんだ」

「へー」

「・・・なんだかわかったような分からないような・・・」

「ははは。本来は弓の様な遠距離攻撃用の武器なんだけど接近戦となった場合に備えて考案されたのが銃剣格闘なんだ。そしてそこから競技へと発展したのが銃剣道だ」

「それって、どう違うの?」

「銃剣格闘は”鉄器”を持っている事を想定してサイズの近い”短木銃”を使った、より実戦的な動きをする格闘技だ。対して”床尾打ち”のような危険な技を禁じ手とした”直突だけの競技”で実際の銃よりも銃身の長い”長木銃”を使うのが銃剣道なんだ」

「槍とはだいぶ違うのですね」

「そうだね。槍と大きく違うのは槍程長くない為に”叩く”という攻撃がない事と、突いた後床尾を肩に当てて押し込めるところかな」

「押し込む?」

「うん」

 ユーゴはルシアンから手を放してドロテから木銃を受け取って構えた。

「突いた後床尾を右肩の付け根か胸付近に当てて体重をかけるんだ。こうすることで相打ちになっても当たり負けがなく、トドメを刺せる」

「なるほど!槍とか剣の突きは手と腕の力だけだからトドメまでいかないことがあるけどそうやって自分の体に押し当てて体重をかけられれば強い力が伝えられるわね」

「それであんなバタバタぶっ倒せるんだな!」

「ふーん、で、これは?長木銃?」

 ユーゴから木銃を受け取ったドロテが座ったまま木銃を立てて下から眺めた。

「そうだけどこれは剣術に合わせてそれよりももう少し銃身を長くして床尾を大きく重量を増してある特別製だ」

「おー、そこも威力を増してあるんだ!」

「そうだ。そうなんだが・・・」

「なんだが?」

「・・・剣術に対して有利になるように銃身を長くした分小回りが利かなくてね・・・時々銃身が邪魔になったりして少し扱いにくい事があるんだ。かといって短くすると距離的優位がなくなってしまって遠い間合いでは突きしかない銃剣格闘は剣術に対して厳しくなる」

「そうか?初戦のアレはしょんべんちびっちゃうぐらい凄かったし、無敵か?って思ったぞ!?」

「しょんべん言うな」

「痛!お前だって・・・」

 ドロテがルシアンを小突く。

 いくら騎士学校がエリートの集まりだといっても所詮皆15~6歳の学生だ。経験豊富な騎士団、本物の兵士相手では厳しいだろう。中学生までやっていた剣道を独学で稽古しなおして剣術、格闘に応用するか、この木銃を更に改良するか、ユーゴは迷っていた。

 ―なにかしら対策しなければこの先は通用しないかもしれない―。

「”単に剣術”という事ならな・・」

 ユーゴは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。


「なぁなぁドロテ」

「もう!今度はなによ?チームの勝敗の事ならさっき何度も説明したわよ」

「そ、そうじゃない、そうじゃなくもないか?」

「知らないわよ」

「王国騎士団って、給料いっぱい貰えるんだろ?どれぐらい貰えるんだ?」

「あ、ドロテそれ私も知りたいわ」

 珍しくレティシアものってきた。

「そりゃあ、領民から税を集めたり辺境で警備を任されたりして王国から軍事費を貰っている領主や大きな商売をしている商人なんかを除けば”給料”としての収入は王国騎士が一番高給だけど騎士団でも序列で違いが出るから、加入した小隊によるわ」

「数字が若い小隊が一番お給料が良いってことよね?」

「まぁそうだけど・・・」

「じゃ、じゃあ、第一小隊から誘いが来たら一気に大金持ちだな!」

「それは絶対にないわよ」

 眼を爛々と輝かせるルシアンに冷めた目で言い切るドロテ。

「なんでだよ?お前の兄貴二人とも第一小隊なんだろ?同じチームのよしみで入れてくれるかもしれないじゃないか」

 はぁ、とドロテはとひとつため息をついた。

「良い?騎士学校から入れるのは一番下の七十七小隊から三十一小隊までと決まっているの。三十小隊から上は功績を積み上げたり戦場で戦果を上げないと入れないの!」

「そ、そうなんだ・・・」

「それでその、三十一から下の小隊の勧誘された中から選んで入隊するのですよね?」

「そうよ」

「・・・」

 メリッサがすこし浮かない顔になった。

「どうしたんだ?メリッサ」

「ということは、騎士団に入ったらみんなバラバラになっちゃうんですよね・・・」

「そうねぇ・・・」

「そんなの、みんな一緒に入れてくれる小隊が良い!って言っちゃえばまとめて入れてくれるところがあるかもだぞ?」

「それはありえないわ」

「なんでだよ?」

「一つの小隊は最大12人と決められているもの。5人も一度に新人を受け入れられるほど空きのある小隊なんてないわよ。定員いっぱいのところに5人はいったら5人出されちゃうんだし新人の為にそんなことしないわよ」

「えー・・・。融通の利かないとこだなぁ・・・なんでそんなことになってるんだよ・・・」

「競争させるためだろうな。例えば定員いっぱいの第三十一小隊が新人を一人入れるとしたら、一人出される事になる。その出された者は下位の小隊に拾われる。当然上位から下ってきた者だから拾った下位小隊は戦力の増強になるので上を目指せる。押し出された者が行く小隊が無くなれば引退か地方騎士団に落ちるということだろう」

「厳しいのね・・・」

「強い組織を維持するためには必要なんだろうね」

「そうね。それから更に第十小隊から上は単独任務を与えられる特別な小隊だからめったなことでは編入できないのよ。分かった?」

「わ、分かったよ・・・まぁ、全員は無理かもだけど二人ぐらい一緒に入れてくれるとこがきっとあるって」

「・・・そうですね・・・」

「話はだいたい分かったわ。それで話を戻すけど、一番下の小隊に入ったとしてどれぐらいの収入なのかしら?」

「そうねぇ、金貨40枚ぐらいかしら?」

「よ、よんじゅうまいっ!!」

「こ、こら!立つんじゃない!」

「痛ぇ!!!!」

 ルシアンは驚きすぎてユーゴにヒールしてもらっているという事が一瞬で頭から抜けてしまった。

「お、俺たち一生懸命頑張って働いたって1年で金貨一枚ぐらいなのに40枚も貰えるのか!お、俺はそれで十分だぞ」

「金貨40枚っていうのは一か月分よ?」

「はぁぁぁっ?!」

 また立ち上がるルシアン。

「痛ーーー!」

「・・・あんたってほんとにばかねぇ・・・」


「Hチーム全員いるか?」

 歩哨が一人天幕に入ってきた。

「全員います」

「Aチーム対Hチームの試合は最終戦に変更された。恐らくは15の時の鐘が鳴るぐらいになるだろう。少し時間があるが準備しておくのだ」

「分かりました」

 ユーゴが答えると歩哨は天幕を出て行った。

「運営としても全勝同士の試合を最後にしたいだろうからな」

「今さっき10の鐘が鳴ったばかりだから随分と時間がありますね」

「うちにとっては好都合だ。しっかりヒール出来る」

「このあんぽんたんが動かなかったらね」

「わ、分かったって・・・しっかり治して全勝優勝してやる!」

「あはは。頼りにしてるわよルシアン」

「ま、任せとけ!初戦のユーゴみたいに全員まとめて倒してやるぞ!」

「みんな、最終戦にあたってちょっと相談というか、お願いがあるんだが・・・」


 リラックスした雰囲気の中、ユーゴがやや硬い表情をして姿勢を正した。





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