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勝って騎士団入団です!

 大歓声の中、東からイザークを先頭にCチームが、西からはメリッサを先頭にHチームが広々とした戦場に姿を現した。

 入場直後は仲間と雑談をしながら余裕を見せていたイザークだが、メリッサを視界に入れた途端一変して険しい表情となった。

「お前、どういうつもりだ」

 メリッサと対峙したイザークの第一声だ。

「何がだ?」

 メリッサに代わってすぐ後ろにいたユーゴが聞き返す。

「何故この女が大将なんだということだ!当てつけのつもりか?」

 舌打ちしユーゴを睨みつけた。

「あれぇ? お姉さま だろ?お前こそどうしちゃったんだ?」

 更にルシアンが割って入った。

「人間こういう場面で出てくる言葉がだいたい本心だ。ということは普段は”小ばかにしたお姉さま”だったということだろうな」

「こ、この!・・・」

 イザークは図星を衝かれて反射的に柄に手をかけた。

「そんなに急がなくてもメリッサにきっちり倒してもらえるわよ」

 気の強いドロテも挑発する。

「なんだと!言わせておけば!」

「やめろイザーク、落ち着け!」

 一歩踏み込もうとするイザークだが数人の仲間に後ろから止められた。

「何をしている?!整列しろ!」

「ちぃ!」

 監視員に咎められ全員一列横隊となり正面中央に立つジェラール王に対して敬礼した。

 イザークは鋭い視線をメリッサに刺しながら仲間とともに自陣に後退していった。

「みんなこっちへ」

 ユーゴが皆を集めた。

「おう!」

「あんた嬉しそうね?」

 ニコニコしながら円陣に加わるルシアンにドロテが怪訝そうに問いかけた。

「うん、俺はこのエンジンっていうの好きだぞ。なんか仲間って感じするからな!」

「へぇー」

「私もそう思います」

 ルシアンの言葉はドロテにはあまり刺さらなかったみたいだがメリッサはほほ笑んで同意した。

「えへへ!」

 満足そうに鼻の下をこするルシアン。

 パンッ!

 不意にドロテがルシアンの頭を叩いた。

「な、なんだってんだ!」

「あんたとメリッサを見てたら何かを叩かずにいられなくなったわ」

「そ、そんな無茶苦茶があるかっ」

 メリッサが小さく笑い、レティシアが苦笑いをするいつものパターンだ。

 とてもリラックスできている。

「みんな」

 ユーゴも小さく笑い話し始めた。

「この戦いでやることは分かっているな?」

「勿論!」

「俺も!」

「メリッサをイザークにぶつける ですね!」

「そうだ。開始とともにメリッサを後方に配置したV字陣形で突っ込んでイザーク以外の敵を速やかに各個に捕捉するんだ。いいな?」

「初の五対五ね!」

「初めてこっちから行けるんだな!一発食らわせてやるぞ!」

 皆やる気満々だ。

「それからメリッサ、上段解禁だ」

「!」

「あれ?あの構え禁止してたのか?」

「あ、はい・・・ユーゴが・・・」

「俺が言うまで使うなって言ってあったんだ」

「やっぱりそうだったのね。あんなに稽古してたのにどうして使わないのかしらってずっと思ってたわ。でもなんで?」

「理由はいくつかあるが、奥の手はここぞの場面で使ってこそだからな。それと一番は上段がイザークに対して相性が良いからだ。」

 ドロテの疑問に答えたユーゴは小さくニッと笑った。

 ユーゴとは対照にメリッサの表情は引き締まった。

 間合い、命中精度、打ち終わりの姿勢等、細かな部分がまだ出来ていないのであまり敵に見せたくはなかったのと、銃剣格闘同様この世界の剣術では見慣れない構え、高さと間合い、初めての対戦相手にはより効果があるのでどうしても勝ちたい試合までとっておいたのだ。

「おー!メリッサ、イザークの野郎に一発かましてやれ!」

「かましてやれなんて下品ね」

ドロテがルシアンに冷たい視線を送る。

「じ、じゃあ、どう言うんだよぅ・・・」

「そ、それは、イ、イザーク殿にお、おかましになってくださ・・・」

ぱあんっ!

ドロテがルシアンを叩いた。

「お!おまっ!なんで俺がお前に叩かれるんだっ!」

「よし!メリッサ、景気よく行こう!」

ユーゴが会話のすべてを断ち切った。

「はぁ?!ちょ、ちょっと!・・・」

レティシアが可笑しそうにルシアンをまぁまぁとなだめる。

「さ、メリッサ、いってみよう!」

「え?・・・」

「え?じゃないわよ。昨日レティがやってたアレよ」

「大声上げるアレを私が・・・」

「そうよ。大将はメリッサなんだから当然よ!やりなさい」

「・・・」

「うふ。ニガテなのはわかるけど、私もやったんだから頑張って!」

 メリッサの目の前で拳を握るレティシア。

「わ、分かりました・・・・・・・勝・・・」

「メリッサ、声!しっかりしなさい!大将なんだし、あそこで見てくれている家族に聞こえるように!」

 ドロテはメリッサのか細い声を遮ってやり直しをさせた。

 顔を上げ、振り向くと特別席母と妹の姿があった。距離は20M程で不安そうな顔をしているのもわかる。

「・・・」

 ―ドロテのいう通りだ。大将にならなければ―

 顔をこわばらせるメリッサ。

「全部を変えることはないぞ。普段は優しいメリッサで良い」

 メリッサはルシアンの言葉にハッとする。

「あんたは本当にたま~に良い事いうわね」

 普段はふざけている事の多いルシアンだがドロテの言うように要所要所で長男らしい気の利いたことを言う。

 メリッサは頭を下げてぱんぱんと自分の顔を叩き深呼吸した。

 すーっと息を吸い込む。


「勝って騎士団入団ですっ!!!」


 長身のメリッサが力強く高々と剣を突き上げた。


「おーーーーー!」


 呼応し四人が剣を突き上げる。


 おおおおおおおお!

 おおおおおおおお!


 メリッサの勝利宣言に沸く観客席。


「お姉さま・・・すてき・・・」

 堂々とした姉の姿に尊敬の眼差しを送るフローラ。

「おーーーー!」

 Hチームに続いて拳を突き上げる特別席。

「!・・・」

 自分の知らない姉を見て驚く次女ジュリア。

「調子に乗りやがってぇ・・・」

 険しい表情で口を真一文字に結ぶイザークとCチームの面々。



「はじめ!」


 中央の監視員が右手を振り下ろす。

 Hチームは猛然と敵陣に切り込んでいった。


 レティシア、ドロテ、ユーゴの三人は素早く敵を捕捉して打ちかかった。

 三人とはやや遅れルシアンも敵少年の一人に狙いを定めて突撃した。

「どおおりゃああああー!」

 反撃を受けるがお構いなしに突っ込みアメフトの様なタックルを見舞った。

「うわああああ!」

 ルシアンの無茶苦茶な攻撃で二人の少年は絡み合いながら平原を転がった。


 そして敵大将イザークを前にHチーム大将メリッサが剣を構える。

「メリッサ!返り討ちにしてやる!」

「”お姉さま”ではないのですか?」

「!!!き、貴様ぁぁぁぁ!」

 メリッサの強気の挑発に逆上したイザークが打ちかかった。

 メリッサは腕を伸ばして剣先で弾き、後方に大きく跳んで間合いを切る。

「逃げるなぁ!前に出て戦え!」

 別に逃げたわけではない。懐に入れたくないメリッサの戦い方だ。

 イザークは普段の鼻につく程嫌味な丁寧語はすっかり消え失せ別人のようだ。

「(ジュリアはこういう男だと知っているのだろうか?)」

 イザークの剣を受け、兜から覗く怒りに満ちた眼を見る毎にそんな思いが強くなる。

「何故!何故ジュリアを選んだのです?!」

 打ち終わりの密着状態でメリッサが問いかけた。

「アイツは顔だけはとびきりの美人だからなっ!!」

 イザークは無口なメリッサが突然話しかけてきた事に驚きながらも言葉を返した。

 そしてメリッサの二の腕付近を狙って引き技を放つ。メリッサが受けながら前進し、再び鍔迫り合いの態勢となった。

「それだけですか?!」

「はん?!俺はティエリー家を今以上の上級貴族にしなくてはいけない。美人を連れていた方が人受けが良いからな!」

「そ、そんな事で・・?!」

「それ以上アイツに何があるというんだ?下級男爵家の娘は俺たち上級貴族の肥やしになればいいんだ!なんなら一番下の娘でも良いぞ?アレも美しい顔立ちをしているからな!」

 イザークは長身のメリッサを下から強引にかちあげ、自分の間合いで左右の水平切りを放った。

 メリッサは剣を立てて軽快に受け、反撃のメンを落とす。

 イザークはこれを左下方に弾き落とし右半身の態勢で肩をぶつけた。

「うっ!」

 メリッサは衝撃で一瞬首が後方にはね跳んだがなんとか踏みとどまった。

「妹の為にさっさと負けを認めろ!破談になってもいいのかっ?!」

 ――縁談を盾に脅迫しようというのか?。精神的に揺さぶろうという作戦なのだろうか?――。

 どちらにしてもメリッサにはどうしてもこの男を好きになれない。

「(こんな男と結婚してジュリアは幸せになれるのだろうか?)」

 沸々と怒りが湧いてきた。

「あなたは、ジュリアを幸せにしようという気持ちがあるのですかっ?!」

 メリッサは剣をイザークの首に押し当て渾身の力で左方向へ押し込んだ。

 イザークはメリッサを中心に振り回される格好になり膝が半分オチたが、すんでのところで踏みとどまり、水平に思い切り体を捩じって胴を打った。

「何度も言わせるな!貴様の親とてそれを望んでいるのだろう!!!」

 胴には命中したが鍔元での打撃だ。間合いが近すぎて大したダメージとはならなかった。


 長身の剣士は往々にしての手足の長さを生かした遠間からの攻撃が得意だ。そしてその長い手足が仇となるために近間での打ち合いに脆い。

 一旦距離をとるとメリッサの懐に入るのは容易ではない。イザークが常に近間で攻撃しているのはその為だ。

 イザークはメリッサに大きな構えを取らせないよう常に近い間合いを維持し、必死の形相で連続攻撃を仕掛けてくる。

 イザークの剣はさすがに鋭いがユーゴには遠く及ばない。

 力強さもあるがルシアン程重さを感じない。

 御前試合で急激に技量を上げたメリッサはイザークの技をほとんど見切っていた。

「く、クソ!!」

 なかなか自分の技が通らないイザークは焦り、口惜しさ、怒り、色々な感情の混ざった眼でメリッサを見上げた。

「そういうお前はいったい何がしたいんだ!」

「!・・・」

 メリッサはイザークの問いに答えられない。

 ―彼なりに家を背負い期待を一身に受けて必死なのだ・・・―。

 正直イザークの態度と手段は自分にはうけいれられない。しかし、目標に向かって自分を信じて突き進む

 姿はHチームの仲間とも重なる。

「(それに比べて私は・・・)」


「メリッサ嬢、どうしたのだろう?」

 特別席でメリッサとイザークの戦いを見ていたセルジュが呟いた。

「?互角に打ち合っているようですけれど・・・」

 イザベルが怪訝そうに夫の顔を見た。

「セルジュ殿、鋭いな」

 真剣な表情で戦場に顔を向けたままニルスが言った。

「い、いや、私は剣術はシロウトですから細かなことは分かりかねます。しかし、しかしなにか・・こう・・メリッサの動きが・・・」

 理を入れた様にセルジュは剣術に関してはからっきしだ。しかしメリッサの動きが気になるのだがどう説明したら良いのか分からない。

「メ、メリッサに何かあったのでしょうか?」

 マリオンが心配そうな顔をし、フローラも不安そうに母を見た。

「メリッサとイザークは一見互角に見えるが、メリッサの方が常にザークの技の先にいるので実はメリッサのペースで戦っている。なのでそのうちメリッサの技が決まってくるのだろうと期待して見ているのだがどういうわけかどんどん大人しくなってきてしまっているのだ」

 剣道的に言えばメリッサの方が常に”先の先”、”後の先”を取っているということだ。

「あ・・・あの子・・・」

 エリアスの説明に思い当たる節があるのだろう。マリオンの表情が変わった。

「何か思い当たるのかね?」

「・・・あの子は・・・主人がああいう性格ですので・・・常に他人の顔色を伺う子供でした。大きくなってからはそういった事で人にも自分自身にも疲れる様になったらしく自室に閉じ籠る事が増えました・・・。あの子にとって良かったのか悪かったのか主人がパーティ等に強引に出席させたりしていたものですからずっと閉じこもるという事はなかったのですが・・・」

「今、戦っている相手について何か考え始めてしまっていると?」

 セルジュの言葉にマリオンは小さく頷く。

「あの子は元々こういうところに来て打ち合うような、斬り合いをする様な子ではないんです。きっと物凄く悩みながら頑張ってきたのだと思うんです!」

 マリオンの目には涙が浮かんでいた。誰かに話しかけるという風ではなく、ずっと心に持っていた言葉を解放した。

「その話は分かるし、そうだろうなぁって想像もつくけど、御前試合をずっと勝ち続けてきてるんだぜ?昨日のBチーム戦の活躍なんてなかなかどうして剣術初めて一年とは思えなかったぞ」

 ニルスの発言にセルジュもイザベルもそうだと頷いた。

「ふむ・・・考えられることは、これまではチームの皆に引っ張られてきて我武者羅に戦ってきた。それでこれはHチーム全員に言えることだが、これまで見てきて誰しもが感じているようにこの御前試合の数試合で急激に技量が上がってきている。そして技量が上がったことで余裕がでてきたんだ。その余裕が良い方向に向かえばいいのだが、メリッサの場合余計な事を考える時間ができてしまったという事だろう」

「あ・・・」

「なるほど・・・」

「さすが兄貴、納得だ。でもこのまんまじゃあ・・・」

「ど、どうにもならないのでしょうか?あんなに頑張ってきたのよ?」

 夏季休暇中という短い期間ではあったが激しい稽古を見てきたイザベルは夫の手を強く握った。

「・・・おちつきなさい。もし仮にこの試合に負けたとしても騎士団入団が立たれるわけではないのだ。それに、私達にはなにもできない」

「そ、それはそうです・・・そうですけれど!・・・」

「何かきっかけがあれば変わる事もあるのだが・・・」

 顎に手をやりエリアスが言った。

「きっかけといいますと?」

「メリッサは相手の事に気がいってしまって自分達の事を忘れてしまっている状態だ。皆で騎士団に入るために歯を食いしばって頑張ってきたとか、大将としてチームを背負っている、という今自分が置かれている状況を思い出す様な事だな」


 その時、それまで大人たちの話を黙って聞いていたフローラが席を立った。

「ど、どうしたのです?フロー・・・!」

 フローラは母の伸ばした手をするりと躱し戦場と観客席を分ける手すりをくぐって前に出た。


「私・・・私!お姉様が騎士団の制服を着た姿が見たいですーーーー!」





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