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騎士として

 ヨミル山脈をバックにした戦場に東からCチーム、西側からHチームが姿を現した。


 おおおおおおおおおおお・・・・!


 特別席から端を発したC対Hの応援合戦でがぜん熱を帯び、会場の歓声がさらに大きくなる。

「お!兄貴あれ見ろよ!」

 最初に気づいたのはロシュフォール三男ニルスだった。

「どうしたニルス?」

 ニルスの指さしたのはチームの先頭を歩くひときわ背の高い少女メリッサだった。

「メ、メリッサ・・!」

 メリッサの母マリオンが口元を両手でおさえつつ驚きの声を上げた。

 しっかりと前方を見つめながら堂々と歩くメリッサの左腕には大将の印である赤いリボンが巻かれていたのだ。

「メリッサが・・・あのメリッサが大将・・・!」

 感極まり涙ぐむ母マリオン。

「ユーゴという奴!やってくれるなっ!はっはっは!」

「な!なんということだ!お、おのれぇぇぇ・・・メリッサめどこまでもワシに逆らおうというのか!」

 マリオンとは対照的な反応を見せたのはCチーム特別席の最前列に座っているシモンだ。

「大事な縁談を台無しにするつもりかー!こ、この親不孝者めーー!」

 シモンが今にも手すりを乗り越えそうなほど身を乗り出して叫んだ。


「いいかげんにしろっっ!!!」


 大声が響いた。

 皆が驚き声の主に顔を向けるとセルジュが立ち上がっていた。

「あ、あなた・・!?」

 隣に座る妻イザベルも驚き見上げた。

「チームを背負う大将マークを付けることは家の大変な名誉だ!それを親不孝だと!?貴様は何を考えて大事な娘を騎士学校に送り出したのだっ!?ここに至るまで血のにじむ努力をしてきた子に労いと祝福の言葉はどこにいったのだ!!」

 そのセルジュもまた娘レティシアを思い鬼の形相に涙を浮かべていた。

「な・・・!お、お前には関係のない・・・」

「関係があるとかないとかという事ではないぞ」

 なんとか言い返そうとしたシモンを遮ったのはエリアスだ。

「縁が結ばれる家同士の子がそれぞれのチームを率いて御前試合を戦う。これほど素晴らしい事が他にあるのか?そういう事すらわからない輩が王国に騎士を送り出す家の当主とは恥ずかしい限りだ。発言もそうだが騎士を輩出する家の当主となる自覚がなさすぎる!」

 周囲からは「なんだあの男は」「エリアス様のいうとおりだ」とヤジが飛び、拍手まで起きた。

 ―御前試合等どうでも良い。伴侶を探して来い―。娘を無理やりに送り出したシモンに反論等できるはずもない。

「・・・ぐ・・・」

 後ろから肩を掴まれたシモンが振り向くとリシャールが立っていた。

「リ、リシャール様?」

「あちらの方とエリアス様の言う通りだと思う。私も恥ずかしくなってきた。シモン殿、暫く黙っていてもらえないだろうか?」

「!」

 見回すと本来味方であるはずのCチームの親族からも嫌悪に満ちた視線が集まっていた。

「う・・・」

 リシャールにまで突き放され最早何も言えなくなってしまったシモンは脂汗をかきながらすごすごと後方に下がっていった。



 ――数十分前――

「あれ?ユーゴは?」

 入場前の待機場所で周囲を見渡しながらドロテが聞いた。

 いつのまにか姿がない。

「お兄様ならさっき監視に呼ばれていきました。時間も時間なのですぐにお戻りになるとおもうけど・・・」

「そうなの。なんだろう?こんな直前に呼び出しなんて」

「ユーゴって本当にタフだな。夜通しドロテにヒールしてたのになんでもないって顔してるもんな」

「でも良かったですね!ドロテが回復できて」

 メリッサが傷の治ったドロテにほほ笑んだ。

「ちょっとまだ青くなってるところがあるけどね。一晩で腕もこのとおりよ」

 ドロテは右腕をぶんっと振った。

「おー!」

「ユーゴのヒールは私より全然強力で驚いたわ」

「よかったわね!ドロテ一晩中ヒールしてもらって」

 レティシアがやや剣のある言い方をした。

「な・・し、仕方ないじゃない。ほ、他になにかしていたわけじゃないんだし。そんなやきもち焼くぐらいならはやいとこなんとかしなさいよっ」

「な、な、な、な、な・・!」

 レティシアはあっという間に胸元まで真っ赤になった。

「ま、まあまあ二人とも」

 メリッサが割って入った。

「ユーゴの奴色々持っててうらやましいぞ」

「身長とか身長とか身長とか?」

 何故か三回いうドロテ。

「背の事なんていってないし!おまえだってちびっこだろ!な!?」

 ルシアンがドロテの胸に向かって指をさし、隣に立っていたメリッサの胸に問いかけるように言った。

 ドカッ!

 ドロテのノールック右面打ち≪右フック≫が入る。

「おおお・・・!」

「どぉこぉにぃ向かってしゃべってるのよっ!」

「ド、ドロテが先につっかかってきたんじゃないか・・・」

「ぷ。うふふ」

「あはは・・」

 いつものようにおかしそうに笑うメリッサと苦笑いのレティシア。

「そうだメリッサ、これを渡しておくわ」

 レティシアは赤いリボンをメリッサ差し出した。

「これは・・・ど、どうして?わ、私に大将なんて無理よ」

「いいじゃない、相手はイザークなのよ、これまでのうっ憤を直接叩き返してやりなさいよ」

「いらないなら俺にくれっ」

「ややこしくなるからあんたは黙ってなさい!」

 ドロテの二発目の左が入りうずくまるルシアン。

「騎士団入団が決まる大事な試合に私が大将だなんて、ダメです。もし負けてしまったら・・私は大将というタイプではないですし資質がありません・・・それにユーゴがなんというか・・・」

「お兄様には私が言うけどきっと賛成してくれると思うわ」

「で、でも・・!」

 メリッサはリボンを握ったレティシアの手を両手でそっと押し戻した。

「いいね!」

 そこへ戻ってきたユーゴがメリッサの背中を叩いた。

「実は俺も今回はメリッサを大将にしようと思っていたんだ」

「そうこなくっちゃ!」

「で、でも!私が負けてしまったら!」

 大将の負けは即チームの敗北となる。騎士団入団のかかった一戦で自分が大将マークを付けて戦う等メリッサは考えもしていなかった。

「メリッサは気づいてないみたいだけど、相当強くなったんだぞ。俺はメリッサが負けるところを想像できない。もしかしたらこの中で一番強いのはメリッサじゃないかと思ってる」

「う、嘘です・・・」

「嘘じゃないさ」

「うん、私もちょっとそれ思ってたわ」

「レティまでそんな・・・」

「そうねぇ、負ける気はしないけど勝つイメージはしにくいわ」

 ドロテも同調した。

「もしこの試合で負けても、この後三連敗したってウチはまだ騎士団入団の可能性は残る。負けたって良いじゃないか。もし負けちゃったら責任は1/5、勝ったら喜びは5倍って考えよう」

「いいこと言うなユーゴ」

「はは。チーム戦っていうのはそういうもんだ。それに言いたいことを言えずに腹に溜まっているものがたくさんあるんじゃないのか?ここで全部吐き出して皆で騎士団に入ろう!」

「そうよ、メリッサが直接対決であの感じの悪いイザークをぶっ倒して騎士団入団よ!ふんっ!」

 鼻息荒く拳を握るドロテ。

「散々言いたいことを言ってきた親父を見返してやれ」

「お父様を見返す・・・」

 眼を瞑りルシアンの言葉をかみしめるメリッサ。


 ―理不尽に家を追い出された。殻に閉じこもった自分にいつも優しく味方してくれた母とフローラはどうしているのだろう?この先どうなるのだろう?

 ―もし自分が強くなったらバラバラになりかけている家族をまとめる事が出来るのだろうか?

 ―強くなった自分を見たら自分勝手な父も少しは話を聞いてくれるようになるかもしれない。

 ―フローラが溺れた事件から態度の変わったジュリアも見直してくれるかもしれない。

 ―そんな都合よくなるだろうか・・・?

 メリッサは目を開けてルシアンを見た。

「?」

 ―あの日、宿舎に泣いて帰った日、ルシアンはだめだったら俺のところにこいと言ってくれた。

 黙って自分を見つめる仲間を見回す。

 ―レティはうちは空いてる部屋がたくさんあるから好きなだけ居たら良いと言ってくれた。ドロテは一緒に行ってぶん殴ってやると怒ってくれた。

 ―皆黙って自分が口を開くのを待ってくれている。

 ―初めてできた仲間、友達。

「友達に・・・頼ってばかりじゃダメですね・・・騎士としても姉としても・・・」

 聞こえない様に呟いてレティシアの手からリボンを取った。

「お!」

「私、やります。全力でイザークを倒します!」

「そうよ!あの気持ちの悪い流し目野郎なんてぎったんぎたんにしちゃいなさいっ!」

「ちょっとドロテ、将来義弟になるかもしれないんだからほどほどに、よ」

「そ、そうだったわね、ご、ごめん・・・」

「はは!でも試合では姉貴として強さを見せつけてやるんだ!」

 メリッサはルシアンを見て大きく頷いた。


「ところでお兄様どんなお話だったの?」

「ああ、呼ばれたのはこの次、つまりC戦の次の試合の事だったんだが、昨日の時点でFチームが棄権したので対Aが最終戦で、ちょっと時間が空くが午後からだと言われた」

「そうなんだ?!」

「え?ということは・・・」

「この試合私たちが勝てば全勝同士の決戦ね!」

「お、俺たちが決勝戦・・・!」

 ぶるっとみを震わせたルシアン。

「なによ?あんた怖気づいたの?」

「そんなわけあるか!うおおおお!燃えてきたぞ!」

「熱いやつだ。はは」

「暑苦しいわねっ、あっちいきなさい!」


「Hチーム、時間だ」

 監視員がやってきた。

「よし!いくぞ!」

「おーーー!」



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