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聖騎士

 王宮事件後、タケルはローゼンヌ王直属の近衛隊に配属された。

 配属と言っても暫くは、近衛隊隊長のロラン・ヴェルレイの”預かり”という事になった。つまりはタケルが精霊魔力のコントロールが出来るようになるまで見習いという事だ。

 自宅からの通い、(実際はタケルが居候しているクルーゾー家からの通いだが)が許されたので、昼までは薪割り、水くみ、畑仕事を手伝って、午後から王宮に出向き、魔力のコントロールの指導と解説、この世界の現状を学習するというサイクルになった。


 今日は初登校?初登宮?王宮だけに・・・。

 王宮には銅板で出来た許可証で正門から入る。まだ”お客さん”扱いのようだ。

 王宮内の通路を通って吹き抜けの中庭に来た。

 先日の戦闘時、タケルが放った竜巻で壁や2階3階を支える柱は表面がボロボロで整備されていた石畳や花壇も見る影もなく最早工事現場の土場と化していた。

 補修の職人さんらしき人達が黙々と作業している。

 ここで自分が戦ったのがなにか夢だった様な不思議な感じがする。

 中庭を横目に見ながら通り過ぎ、階段を上る。

「お!少年、今日からか、がんばれよっ」

「よ!有名人」

「今度中庭の補修手伝って行けよっ」

 途中、”先輩騎士”から沢山声をかけられた。物々しい見かけに反して皆一様に気さくだ。

 さすがに体を酷使する戦士の集まりだ。体育会のノリに近い。

 不安は大きいが、受け入れて貰えている雰囲気でタケルは少しほっとした。


 コンコン・・・

 2階にある近衛隊執務室の扉をノックした。

 何か学校の職員室に入るときの様な妙な緊張感がある。

「入れ」

 室内からロランの声がした。

 扉を開けて一礼し入室するタケル。

「し、失礼します。タケルクサナギです」

「よく来た」

 専用の机に向かって座っていたロランが立ち上がり、にこやかに迎えてくれた。

「隊長の言われた様に礼儀正しい少年だな。ふふ、確かに中庭を破壊した様には見えんな」

 隣に立っていたイカツい壮年の男が微かに笑って言った。

「隣にいるのは副長のアルベール・カッセルだ」

「よろしくな、少年」

 眉ともみあげが気になるがっしりとした、如何にも副長という感じだ。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

「そうカタくなるな。アルは見かけよりずっと優しい男だ」

 アルと呼ばれた男はタケルに向かってニっと口角を上げた。

(ひぇっ!)

 応接用の椅子に座っていたルイーズも立ち上がった。

「では行くとしようか、タケル君こっちだ」

 4人は近衛隊執務室を出て、一階に下りて正門とは反対方向に歩いていく。

 途中プレートメイルを装着した兵士と沢山すれ違った。

 皆すれ違いざまに敬礼していく。

 ナンバー1、2と聖騎士が同道しているせいか、声をかけてくる兵士はいなかったが、皆タケルの肩や頭をポンポンと叩いて走り去っていく。

「修練場、食堂、厩舎があるのでな、ここらは宮廷内で一番賑やかしいのだ」

 物珍しそうにキョロキョロしているタケルにアルベールが説明した。

 少し歩くと裏口に出た。

 厩舎前に行くと四人の兵士が待っていて敬礼をした。

 敬礼は日本の自衛隊と同じ様だ。右手を額あたりにかざすのは利き手に武器を持っていないことを示すということからきているらしい。

「タケル君、この四人は近衛隊の、左からピエール、ニコラ、ベルナール、ダニエルだ。この少年がタケルだ」

「よろしく」

「よろしくな」

「よろしく」

「がんばれよ」

「よろしくお願いします」

 状況がまだ良くわからないがとりあえず挨拶を交わす。

「では全員乗馬」

「は!」

「君はこの馬を使いたまえ」

 ピエールが一頭の馬を引いてきた。

「え?いや、あの俺は・・・」

 既に全員乗馬して待っている。


「なんと?!馬に乗ったことがないのか??」

 アルベールが少し驚いた様に言った。

「あのっ・・・はい・・・」

「あれだけ修練を積んだ剣技があって馬に乗ったことがないのか。農民ならともかく、珍しいな。昨日一緒にいたミラという少女が言うには家事も畑仕事も全然だという事だったが、なにをして生活していたのだ?」

「え~と、その(高校生でした)・・・」

「異世界から来たというのは本当みたいだな、まあいい、ルイーズの後ろに乗っていけ」

「は、はい」

「後ろに乗れ」

 タケルはピエールの補助でルイーズの後ろに乗った。

「す、すみません」

「よし、行くぞ」

「しっかりつかまっていろ」

(・・・え、えーと・・どこにつかまったら・・)

「なにをしている?ここだ」

 ルイーズはタケルの手を掴んで自分の腰に回した。

「ひゃ、ひゃい!」

 声が裏返ってしまった。

「???」

 プレートメイル越しとはいえ若い女性に抱き着くなんて・・・。

「ではいくぞ」

 ドギマギしているタケルを無視して急発進する。

「わーーーーーっ!!」

「・・・いちいち手のかかるやつだ・・・」

 ルイーズに叱られてしまった。

「す、すみません」


 10分程森の中を走ると、木々がなく、ぽっかりと空が見える場所に出た。

 中心には池があり、周囲はだいたい400メートルのトラックぐらいだろうか。

 一行は馬を降りて繋いだ。

「ニコラはここで警戒を。馬をみておくのだ」

 アルベールが指示をした。

「は!」

 他は池にむかって歩き出した。

 50メートル程歩いて池のほとりに到着すると、アルベールが指示をして3人の兵士が周囲に散っていった。

「タケル君、ここに来た理由は分かるかな?」

「ここなら俺の魔力がまた暴発しても被害がないからです」

「お、察しが良くて助かるよ。その通りだ。ここには滅多に人は来ないが念には念を入れて警戒監視の為に四人連れてきたのだ。君が精霊魔力を使う所を他に見られたくはないのでね」


「では始めようか、ルイーズ、手ほどきしてやってくれ」

「はい、兄様」

 ルイーズはタケルに一振りの幅広の剣を渡した。

「構えて」

 タケルは中段に構えた。

「ほう」

「やはり構えは綺麗だな」

 5メートル程離れた場所からロランとアルベールが見守る。

「次に全身から体の中心に力が溜まる様にイメージするのだ」

「・・・(んーと、丹田に気を集めろということかな??)」

「次に、集まった力を腕へ、腕から両手へ、両手から剣へ流していくイメージだ」

「・・・」

「そして最後に切っ先に魂を込めろ」

「・・・」

「あ・・」

「どうした?ルイーズ」

「彼の精霊力を僅かに感じたのですが・・・」

「ああそうか、ではすこし離れてみるんだ」

「はい兄様」

「???(なんの話だろう)」

 ルイーズはタケルから5メートル程離れ、ロランとアルベールに並んだ。

「兄様、まだ駄目な様です」

「そうか、ではもう少し離れてみてくれ」

「はい」

「タケルは引き続き集中だ!」

「は、はいっ」

 ルイーズはタケルから更に10メートル程離れた。

「まだだめの様です」

「なんだと?!!」

「どういう事だろうか?」

 ロランとアルベールが顔を見合わせる。

「ルイーズ、感じなくなる距離まで離れてみてくれ」

「・・・はい」

 ルイーズは少し離れては立ち止まりタケルに意識を向けるという行動を繰り返してとうとう池の反対側まで行ってしまった。

「隊長、これは・・?!」

「おいおい、本当か?!なんということだ!」

「??あ、あのっ・・・」

 何が起きているのか?タケルにはさっぱり分からない。

 ロランは二人を呼び寄せた。


「いいかいタケル君、聖騎士は皆精霊魔力を発揮出来る。しかし、聖騎士同士は互いの魔力が相殺し合って、近距離ではその力を発揮できないんだ」

「え・・」

「なので、今ルイーズには彼女が精霊魔力を発揮できる位置まで下がってもらったのだが、予想外の結果になった」

「情報が少なすぎてはっきりしたことは分かっていないのだが、通常は10メートル程離れると互いに力を発揮できるらしいのだがな・・・」

 アルベールも顎に指をやって考え込むそぶりを見せた。

「私は前大戦時はまだ騎士学生で、ルイーズに至ってはやっと力が発現したばかりだったので聖騎士がどういうものなのかルイーズが成長して初めて知った事が多いんだ。そこで当時いた聖騎士と共に戦った経験のあるアルベールの意見も聞こうと思って一緒に来てもらったんだが、彼にとっても想定外の事態らしい」

「は、はぁ・・・」

「更に驚くべきはどうやら君の方は力を発揮できるらしいということだ。そうだな?ルイーズ」

「ええ、恐らくは・・・」

「ルイーズ、とりあえず彼の修練を続けてくれ」

「承知しました」



 その日結局タケルは魔力を発動させることは出来ず、撤収となった。

 王宮に戻ると近衛隊執務室で”座学”となった。


「先ほどの修練での説明と重複するかもしれないが、魔力について話をしよう」

 応接の椅子に座ってロランが説明を始めた。ルイーズはロランの隣に直立。アルベールは執務机にもたれて腕組みして聞いている。

「君の世界には魔法というものが存在していないそうなのでそこからまず説明しよう」

「はい、お願いします」

「魔法は日常至る所で使われている。薪に火を付けたり水を凍らせたり、風を起こしたりだ。殆どの民が使える。あとはそうだな切り傷の治療等かな。ただ、相手を殺傷する程の炎や、コップに注ぐ事が出来る程の水を出現させたりは出来ない。そういった事が出来るのは聖騎士だけだがその聖騎士も数がとても少なくて、どんな精霊魔力を使えるのかは殆ど分かっていない。これは各王国が聖騎士の存在自体を隠しているからだ」

「戦略上の理由ですか?」

「そうだ。聖騎士の数イコール国力だからだ。聖騎士はその能力により単騎で数千人を相手にできる超越した存在で、戦時下において、自国の聖騎士の数が他国にバレてしまうことは極力避けたい。これにより、どの王国も迂闊に攻め入ることが出来ない」

「聖騎士が一人多いだけで物凄い戦力差が生まれるという事か・・あ、それでこの前みたいに数人で入ってきてコソコソと、という事が起きるんですね」

「その通り。察しが良くて助かるよ。それで、聖騎士の特性については先ほど外で話した通りだが、聖騎士が複数一定範囲内に存在すると魔力が相殺されて自己修復以外の力が発揮出来なくなるんだ」

「じゃ、聖騎士対聖騎士では、魔力ナシの普通の騎士と変わらない勝負になるということですか?」

「そうだ。なので如何に絶大な力を開放できる聖騎士であっても己自身の修練は怠らないのだ」

「でも、自己修復ヒールは出来るんですよね?結局聖騎士は倒せないということじゃ・・・」

「方法は二つだけある。一つは首を刎ねる。もう一つは魔力の源とされる心臓を潰す」

(うわ・・・そ、そんなこと出来ないよ~~!)

「じゃ、聖騎士同士が戦ってるところにみんなでわ~っと行ってやっつけるとかは?」

「それもアリといえばアリだが、戦場でそうなった場合、両軍が入り乱れてどちらの聖騎士も生きてはおるまい」

 前大戦を経験しているアルベールが言った。

「な、なるほど・・・」

「先ほども説明したが、聖騎士はどの王国でも超希少な存在で、簡単には失いたくないのだ。なのでよほどでない限り君の言った様な状況にはならない。そういった混戦に持ち込むか否かは指揮官次第だけどな。難しい事だがそういった事態も想定されるので騎士団の数も重要になってくる」

「そして最終的には聖騎士同士の一騎打ちでシンプルに剣の優劣で決着となる、なので剣の修練もきっちりやっておくのだ少年。聖騎士は王国の命運を握っているといっても過言ではない」

「は、はい・・・ガンバリマス・・・お話はだいたいわかったんですが、精霊魔力はどういった人に発現するんですか?」

「それもまたよくは分かっていない。しかし、ゴズワール王国から得た情報でしかないが一説には血縁とも言われている」

「・・・そうなんですか」

「そして異界から来た少年が精霊魔力を発現したのだから別の要因も新たに加わったということだな」

「・・・」

「それから先程とても重要な事が分かった」

「支配領域・・・ですね」

「そうだ。これまで聖騎士のお互いが力を相殺する領域はだいたいこれぐらいだろうと特に気にもしていなかったのだが、君の魔力支配領域エリアは我々が認知していた距離の40~50倍にも及ぶ。驚異的と言える。しかもこれは敵味方を問わず、全ての聖騎士に効果が及ぶのでそのメリットとデメリットは想像を超える」

「一切口外してはならん。これは極秘事項だ、良いな少年」

 アルベールの鋭い眼光にタケルはゴクリと喉を鳴らした。

「わ、分かりました」

「君は読み書きができないそうなので、通常ならば歴史の勉強と剣の修練も兼ねて騎士学校に入れるのが一番手っ取り早いのだがな・・・読み書きについてはまた考えておこう」

「俺が、精霊魔力のコントロールを出来ないばっかりに・・・すみません・・」

「この前の中庭事件の様に稽古中君が”気合”だったかな?を入れた途端に騎士学校が全壊等となれば笑い事ではすまされないからな。まあ仕方がない」

 言いながらロランはニヤリと笑った。

 これにはタケルもどう反応して良いか分からず、下を向いた。

「お、お手数をおかけします・・」

「なに、君は超が付く巨大戦力だ、これぐらいの手間はなんともないよ」


「今日はこれで終わりとしよう。明日以降は厩舎前に集合してルイーズと近衛隊の5人で精霊魔力の修練をするように。終わったらまたここに来るんだ。以上、解散だ」


「有難うございました・・・」

 タケルだけ先に執務室を後にした。

「は~~~・・・なんだかどんどん大変なことになっているような・・・聖騎士か、でもどうして俺なんだろう??・・・」

 帰路、重い足取りのタケルだった。



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