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聖騎士アミラの名のもとに!

「ま、まさかジリがやられるとは・・・」

 ガットは狼狽え、ジリの所に行こうと一歩踏み出したが、ルシアンが膝を着いたのを見て思いとどまった。

「(あ、あの農民も相当なダメージを受けていて動けないみたいだな。ならまだ状況は変わらない)」

 大歓声の中ガットが二人の監視員に抱えられ退場していったがルシアンもまた相当なダメージを負った。

 戦場に残ってはいるが行動不能となっているのでBチームが一人多いという有利な状況は変わらない。

 ガットはちらりとユーゴを見た。

 彼は自分に背を向けたまま左手に持った木銃を地に下ろし、右手を腰に当てたまま微動だにしていない。

「なんなんだ?・・・こいつは・・・」

 ルシアン対ジリの戦いではルシアンが勝利したが他のHチームのメンバーは皆打ち込まれて苦戦をしている。しかし奇妙な武器を手にした敵エースは仁王立ちのまま戦況を見守り続けているのだ。

 ジリは自分に背を向けたままのユーゴに言いようのない不安を感じていた。

「(隙を見て攻撃するべきなのか?いや罠かもしれない、わざと隙を作って誘っているとしたら・・・)」

 無意識に足が数センチ前に出た。

 チームの作戦としてガットは”ユーゴを抑えておく役割”だが一人倒されてしまった事で浮足立ち迷いが生じてしまっていた。

「おい、大人しく見てろよ。ウチは今”苦戦しているだけ”だ」

「う・・・」

 ジリはまるで心を見透かしたかのような背中越しのユーゴの言葉に驚き金縛りにあったように動けなくなった。


「(ルシアン、やってくれたわねっ!)」

 ドロテは必至の形相でアルバンの鋭い剣撃を躱しながらルシアンを見やる。地に両膝を着き右肩を押さえながら大きく肩で息をしている。

「私だって!」

 カーン!

 ドロテはアルバンの垂直切りを剣の左面ですりあげ右方向に大きく移動した。

「うぬっ!?ジリめ、やられたのかっ?!」

 ドロテが距離を取ったのを見計らい振り向くアルバン。

 ジリが監視員に引きずられるのが一瞬見えた。

「ちぃ!遊んでいられなくなったか」

 ドロテに向き直り睨みつけるアルバン。

「は!遊んでいたですって?!全力で捕まえられていないクセによく言うわねっ!」

「ほざけっ!」

 アルバンが巨体を揺らし襲い掛かる。

 ドロテは後方に跳躍してアルバンの水平斬りをやり過ごすとすかさず突っ込み右胴に切り込む。

 金属音を響かせるがアルバンはなにごともなかったかの様に打撃後自分の左方向に移動するドロテを追って左に旋回しながら剣を振りかぶり垂直に落とす。

 ドロテは右足で急ブレーキをかけ、突進しながらアルバンの剣をすりあげて威力を殺し脇をすり抜けた。

 ゴロンと一回転して背後に回り中段に構えて体制を整える。

「こ、この!チビがちょこまかとっ!」

 持久戦になり、ルシアンに敗れたジリと同じくアルバンも剣と体のキレがやや鈍って来ていた。

「あら?」

 アルバンが剣を構えたまま攻撃をしてこない。

「(スタミナが切れたのかしら?なら、チャンスだわっ!)」

 ドロテはジグザグに移動し、体でフェイントをかけながらアルバンの懐に飛び込んだ。

「たーー!」

 左胴を狙う。剣道でいう”逆胴”だ。

「むんっ!」

 ドロテの逆胴に対し、同じく逆胴を合わせるアルバン。

 ”相打ち!”

 バキン!

「!」

 ドロテの左胴が命中するも、アルバンの右胴で吹き飛ばされた。

 横に回転し脇腹を抑えながら起き上がるドロテ。

「ぅぅぅ・・」

 装具の上からでも体の芯に衝撃が伝わりダメージを受けた。

 体格に大きく差がある相打ちはドロテにとって著しく不利だ。

 起き上がって中段に構えるドロテを確認するもアルバンは動かない。

「持久力を上げる修練を積んで来たみたいだな。認めてやるぞ、チビ!。だが、お前がかかってこない時間体力回復に勤めれば対処できる。持久戦も結構だがあまりに戦いを長引かせるとお前たちの方が困るんじゃないのか?」

「・・・」

 ドロテはチラリと目だけ動かしレティシアを見る。

 レティシアは少年二人を相手にして平原を激しく移動しながら戦い続けている。

 確かにアルバンの言う通りだ。

 しかし攻撃はルシアンとメリッサの役目だ。きっと何とかしてくれるはず。

「そうね!でもチームとして私は私の役目を果たす!」

 前に出るドロテ。

 ドロテの動きに合わせて剣を振り下ろすアルバン。

 ドロテはアルバンの間合いに入る前に急停止。

 冷静にドロテの動きを見たアルバンも剣を途中で止めた。

 ドロテは一瞬間を置いて突っ込み逆胴を放つ。

 同じくアルバンも逆胴だ。

 バキン!

 再び同じ技で相打ちとなり地を転がるドロテ。

「く、ぅぅ!・・・」

 アルバンの水平斬りが脇の継ぎ目に入り苦痛で顔を歪めながらも前に出る。

 ドロテは三度逆胴を放つモーションで間合いを詰めるが今度は更に踏み込み、アルバンを通過してウラに回る。

 ドロテはアルバンの左後方から思い切り横に剣を振るが「読んでいた!」とばかりアルバンも大きく体を捻じ曲げ水平斬りを放つ。

 ガーン!!

 またしても相打ち。

 しかしアルバンの一撃は胴ではなくドロテの顔面を捕らえていた。

「あ・・・・う・・・」

 あまりの衝撃で一瞬意識が飛んだ。

 コンマ何秒の空白だろうか?気づくと白い雲が見えた。やけに視界が広い。雲と自分との間に長方形の金属物が浮かんでいる。ドロテのアイガードが弾け飛んだのだ。

 3回、4回地を転がったがその勢いのままタイミングを合わせて立ち上がる。

 左のこめかみ辺りに激痛が走り目になにか液体のような物が流れ込んだ。ピリピリとした刺激が襲う。

 頭が、足がふらつく。平衡感覚がおかしい。

 腕に赤いモノが飛び散っていた。額を切った様だ。

 あわてて中段に構えるがアルバンとは距離がある。

「い、意外に憶病物ね!」

 負けん気だけは騎士学校一だ。負傷しながらも相手を挑発するドロテ。

「意外に慎重だと言ってくれるかな?焦らなくてもこういう状況になるのが実力の差というものだ。はっはっは」

「~~~!」

 ドロテはダメージで震える足を気力でむりやり抑え込み間合いを詰める。

「やあああああ!」

 水平斬りと見せかけて振り上げた剣を中段に戻し気合と共に突きを放つ。

 アルバンもまたドロテの突きに突きを合わせる。

 相手の技を待ち、その技に同じ技を合わせられるのは長い期間修練を積んできた証だ。

 ドカ!

「うあ!」

 相打ちで喉元を突かれたドロテは右手が離れ後方に体重が掛かる。

 倒れはしなかったが万歳の態勢になる。

 対してアルバンは微動だにしない。

 ドロテは振り上がった剣に右手を戻し逆胴を放つ。

 腰が入っておらず軽い打撃音が響く。

「ふん!無駄だというのがわからないのか?!」

 やや遅れてアルバンも逆胴を放った。一瞬遅れたのは余裕からだ。

 ドロテは体がくの字に曲がったまま弾き飛ばされた。

「ぁぁぁ・・・ぅぅぅ・・・」

 もう幾度倒されただろう?ドロテは脇腹を押さえながら華奢な体をその細い足でよろよろと持ち上げる。

「ま、負けるもんか・・・まけるもんか・・・負けてたまるもんですか・・・!」

 ドロテは呪文の様に呟き剣を構えた。


「あなた・・私はもう見ていられません・・・」

 特別席のイザベルはセルジュの肩に頭を寄せ顔を手で覆い下を向いた。

「あの子らは皆昼も夜も休日も返上してこの1年頑張って来た。今日は晴れ舞台なのだ。理由は色々あろうかと思うがドロテ嬢もメリッサ嬢もご両親が来られていない。例え敗れても私達が見届けてあげよう。なぁに、いざとなったらユーゴがきっとなんとかしてくれるはずだ」

「・・・そうね・・・そうですわね・・・あんなに頑張っていましたものね・・・」

 イザベルはセルジュの手を握りゆっくりと顔を上げた。


「・・・兄貴、ドロテの動き・・・」

「うむ、お前も気になっていたか?」

 ロシュフォールの次男と三男が腕組みをし、正面を向いたまま会話を始めた。

「ああ。体格差、身長差がデカすぎて頭に攻撃が届かないのは分かる。分かるが攻撃部位があまりに偏りすぎている。ドロテは胴ばかり狙っているが重装の敵に対して有効とは思えない。それと・・・」

「それと、効かないと分かっていて何故危険を冒して同じ攻撃を続けるのかわからん。だな?」

 ニルスの言葉の先をエリアスが繋げた。

「うん」

 頭部に攻撃が届かないのは仕方が無いが、腕や足等胴以外にも攻撃部位はある。何故自らの頭をさらさないと攻撃できない胴にこだわるのか?兄弟には理解できないでいた。

「俺ならあんなにダメージを負いながら更に危険を冒して胴を狙いに行ったりしない」

「同感だ。それにドロテは超が付く頑固者だが決して頭が悪い娘じゃない」

「なにか・・・あるのか・・?」

「・・・」

 エリアスは右肘を膝につき、右拳に顎を乗せて逡巡する。

 ---危険を冒して同じ部位を叩き続ける・・・---。

「あ・・・!」

「まさか・・・?」

 ハッとして兄弟は顔を見合わせた。


 左わき腹にはキンキンと激痛が走っていてこめかみは割れて流血している。

 自身の剣は敵の胸から上には届かず、通常攻撃は全く効かない。鍛え上げたスタミナも尽きかけていた。

 満身創痍で危機的状況だが、むしろ気力は充実しており色々物が良く見え、良く聞こえる。

 常人ならばとっくに心が折れているところだろう。しかしドロテには降伏や棄権などの考えは全くなかった。

 ”強靭な精神力”

 偉大な祖母聖騎士アミラから受け継いだ最強の資質だ。


--絶対に勝つ!--


 重心をやや下げて中段に構える。


--自慢の孫になって帰ってくるとおばあ様の墓前で誓ったのだから!--


「やあああああああああ!!!」

 残った力を絞り出し、突進する。

 ガキン!

 ドロテの逆胴が命中した。

 しかしアルバンは最早回避の類の動きは一切せず。まともに受けた上で攻撃を繰り出す。

 この小さいちっぽけな敵は待っていれば頭を差し出してやって来るのだ。

「馬鹿めっ!」

 まさしく飛んで火にいる夏の虫。

「ぐぅぅ・・・!」

 アルバンは剣を豪快に横一文字に振りぬき。小さな虫はうめき声を上げて弾け飛んだ。

 しかし弾け飛んだ小さな虫は空中でニヤリと嗤った。

 そして地を這うドロテには見えた。

 アルバンの左胴に僅かに光が抜けるのを。

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 両手両足で獣の様に地を蹴り、突進すした。

「面倒な奴だ!お前にはもう飽きた!」

 間合いに入ったドロテにアルバンは渾身の垂直切りを放つ。

 刹那ドロテは左足を踏ん張り、体を左に開きギリギリで躱した。

 アルバンの剣がドロテの額を擦り通過する。

 同時にドロテは木剣を手放す。

「なに?!」

 アルバンは予期せぬドロテの動きを認識したが反応は出来ない。

 ドロテは腰に取り付けた短木剣を素早く引き抜き、柄尻に右手を添えて体重を乗せて一気に突き出した。微かな勝利の光に向かって。

 ドカッ!

 巨大な鉄の壁の僅かな綻びに短木剣の切先が突き刺さった。

「ああああああああああああああああああ!」

 普段からは想像もつかない低く唸るような叫び声を上げながら更に肩甲骨と鎖骨の間に柄頭を当てて全体重を乗せて押し込んだ。

「がはぁぁぁぁ・・・?!!!」

 どろっと絵の具の様に真っ赤な血が溢れ、短木剣の柄を伝い緑の草原に滴る。

「き!きさ・ま~~っ!」

 アルバンは空振りした剣を返し、右手一本で真横に払った。

 カーン!

 ドロテは顔面に剣を受け短木剣をアルバンの鎧に残し倒れた。

「ぅぅ!」

 ひしゃげた兜の首元から鮮血が流れる。

「うおおお!ぐはぁ・・・!」

 アルバンは突き刺さった短木剣を必死で引き抜こうとするが、分厚い重装が噛み込んでピクリとも動かない。

「な、何故だ~!何を!・・したぁ~っ?!ぬおおおお!」

 アルバンは苦痛に歪む目でドロテを睨みつける。

 まさかの攻撃に理解も対処も追い付かない。

 立ち上がったドロテは間を置かず無手のまま突っ込んだ。

 体中が激痛で悲鳴を上げる。武器は無い。

 だが!

「(今ここで絶対に決める!)」

 アルバンは左手で突き刺さった短木剣の柄を握ったまま右手一本で剣を振りかぶる。

「~~~~!」

 アルバンもまた激痛で声も出せない。

 武器を持たずに領域に入って来る敵の頭上に無言で剣を落とす。

 ドロテは両腕を額の直上でクロスして受ける。

「たあああああああっ!!」

 パーン!という鈍い金属音がし、両腕の装具が破壊されパラパラと飛び散った。

「~~~~~~!」

 同時にアルバンもまた顔を天に向けて声なき声を発した。

 ドロテは自分の両腕を犠牲にしてアルバンの胴に突き刺さっている短木剣の柄尻目掛けて渾身の前蹴り”フロントキック”を放っていた。

 短木剣はアルバンの肉を切り裂き深々と突き刺さって背中側の装具を押し上げた。

「あ・・・・あ・・・・あ・・・・・!!!」

 アルバンは大きくのけ反った後両膝を折ってドスンと顔面から地に落ちた。

 土下座の姿勢のアルバンの周囲に鮮血が広がる。

「チビチビって・・うっさいわね・・・」

 ひれ伏したアルバンをドロテは仁王立ちで見下ろす。


「なめるんじゃないわよ・・・私は、私は誇り高き聖騎士アミラの孫だ!!」


 天に向かって吠えた。


 亡き祖母に届けと。






          ~毎週土曜日更新します。よろしくおねがいします(*‘∀‘)~


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