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ルシアン捨て身の一撃

「君はガットって言ったかな?戦わないのか?」

 ユーゴは5~6メートルも距離を開けて動かない少年に問いかけた。

 他は皆雄たけびを上げ、打撃音を響かせ激しく打ち合っている。激戦の中ユーゴの前の少年は対峙して構えたまま一歩も動いていない。


「俺は勝てない戦はしない主義でね。得体のしれないお前とまともに打ち合う気はないんだ。悪いな」

「王国の騎士や家族が見ているのに何もしないのか?」

「チームとして勝利すればいいんだ。俺の役目はお前をおさえておく事であってお前に勝つ必要なんか無い。騎士団のお偉いさんはそういう所をきっと評価してくれるはずだ。お前だって分かっているだろう?挑発しても無駄だぞ。ははは」

 ガットは剣から右手を離して空に向け自信満々に「そうだろう?」のポーズをしてみせた。

 ユーゴだけマークしておけばHチーム等遅るるに足りないというところだろう。

「なるほど。そうか、そうだな。じゃあここで一緒に見物といこうか」

 ユーゴは回れ右をして木銃の床尾を地に着け、少年に背を向けてしまった。

 視線の先では両チームの少年少女が死闘を繰り広げている。

「は・・・はぁ?!」

 目の前の少年が挑んでこないという状況で敵二人を相手にしているレティシアや強敵のアルバンと戦っているドロテに支援に行くという選択肢もあるのだが、目の前の敵を引き連れて行くという事にもなる。些細なミスで一対二が一対三となってしまう可能性もある。ドロテに関して言えば今彼女はアドレナリンが出まくっているところだろう。集中して戦うタイプなのでヘタに近寄って気を散らす事の方が悪手に思える。

「それに・・・」

 初戦こそ他チームを混乱させる目的で一人で全員を倒したが、本当は各個の実力を見せつけたうえでの勝利が望ましい。騎士団入団後、「ユーゴがいたから入団できたのだ」とか「やはり体が小さくては実戦で使い物にならない」等とケチを付けられないようにする為にもここはなんとか自力で乗り越えて欲しい。それには下位チームでなく優勝候補のチーム相手に勝利する事が必須だ。下位相手にいくら勝っても「相手が弱かったからだ」とああ言えばこう言う輩も出てくるでろう事は容易に想像がつく。


「(こいつ・・・マジなのか?)」

 苦戦をしているメンバーの所にユーゴが支援に行けば後を追い乱戦に持ち込もうという算段だったのだが意に反してユーゴは背を向けて高みの見物を決め込んでしまった為動くに動けなくなってしまった。

「(ま、まあ良い・・・。俺の役目はこいつを自由にさせない事なんだから、これはこれで正解だ)」

 自分に背を向けてわざと隙を見せているだけかもしれない。迂闊に攻撃にいけばそれこそユーゴの思うつぼだ。

「(きっと、単にやせ我慢に違いない。味方が倒されそうになれば嫌でも動かざるを得なくなるはずだ。どこまで我慢できるか見届けてやろう)」

 ガットはユーゴを警戒しつつ戦況を見守る事にした。


「農民風情がっ!・・・・やく・・・ちまえっ!」

 頬のあたりを打たれて鼓膜が飛んだみたいだ。目の前の少年が何事か叫びながら斬りかかって来るがキーンという嫌な音にかき消されてよく聞き取れない。ただ自分を蔑み悪口をいっているのだけは分かった。

「うおおおおっ!」

 ルシアンは負けじと反撃するが簡単に躱され打ち終わりを狙い打たれる。

「そんなんじゃあハエも落とせないぞ農民!」

 かといって待っていれば上から横から下からバリエーション豊かなキレのある技で打たれ続ける。

 ルシアンの相手ジリと言う少年はとても技量が高く力も強い。王国剣術の技だけならユーゴでも苦戦するかもしれない。さすが優勝候補筆頭のBチームのメンバーだ。ルシアンは力の差を痛感していた。

「くそ!」

 応戦し力強く剣を左右に振り回すが、ジリはフットワークよく素早くバックステップをしてこれを交わすとルシアンの打ち終わりを狙い再び間合いを詰めて斬りかかる。

 レティシアやドロテが得意とする戦法でルシアンにもこのパターンは分かってきているがどうする事も出来ず反撃の糸口さえ見えない。

 自主練でもよくドロテにこの戦法で打ち込まれたがユーゴ曰く「初心者が僅か1年で苦手を克服することは不可能だから得意な部分を伸ばす事だけ考えて全力で取り組もう」ということで今日に至った。

「(どうしたらいいんだっ!)」

 ガキン!

 ジリの放った水平斬りを左の頬に諸に受け、顔が右方向に大きく捻じ曲がる。

「がは・・・!」

 血の味がした。

 口内を切った様だ。

 ルシアンの装備している中装”ミドルメイル”の兜は重装”ヘビーメイル”に比べて格段に薄く、軽装”ライトメイル”寄りで顔面を覆う金属も肉厚が薄く、裂傷や骨折をしないという程度の物でしかない。

 慌てて敵に向き直るが今度は右頬を打たれ体ごと左を向いた。

 危険を感じ、剣を振り回すが躱され脳天に一撃貰ってしまった。

「!」

 強烈な打撃にほんの一瞬記憶が飛び、脱力した。

 視力が戻ると地を這う低床の雑草が目に入った。

「うわっ!」

 両足を踏ん張りギリギリのところで体を支えた。

 はっとして体を捩じり剣を立てる。

 ガッ!

 ジリの放ったトドメの一撃を寸でのところで受け止めた。

 豊富な練習量と負けたくない気持ちで自然に体が動いた。

 ルシアンはよろよろと一歩下がり、ジリは舌打ちをして大きく退いた。

「う・・・」

 ルシアンの左膝が僅かに落ちたと見るや、ジリはすかざず間合いを詰めた。

 所謂詰めの甘い敵ではない様だ。

 メンを打たれた。剣を立て、受けの姿勢を取ると肘関節を打たれた。

 強烈な痛みで剣から手が離れそうになる。

 動きが止まると左右のメンを打たれた。

 またも意識が持っていかれそうな程衝撃を受けたが踏ん張った。

 ジリの数度の攻撃のうち一つぐらいは止められて反撃するが、戦闘が始まって一度も体に当てられていない。

 ジリは垂直切り、水平斬り、切り上げ、あらゆる技を使って倒しにきた。

 技量は圧倒的にジリが上だ。

「しぶといやつめ!」

 顔面を防ぐために手元を上げた時、左胴を狙い打たれた。

 脇の継ぎ目を打たれ、激痛で体が硬直する。

 それまでのジリの攻撃は頭中心であったため、下へのケアがおろそかになっていた。

 彼は最初から狙っていたのだ。

 ここぞとばかりジリは剣を激しく叩きつける。

「いい加減に倒れろ!」

「うぅぅぅぅぅっ!」

 ジリの袈裟切りを脳天に受け前のめりになったが、右足を無理やり一歩踏み出し水平斬りを返す。

「はぁ、はぁ、・・・なんて頑丈なやつだ!」

 驚きながら退いて呼吸を整えるジリ。

 ・・・あたまがくらくらする・・・

 スタンドからの大歓声が聞こえるがキーンという耳鳴りが続いていてウワンウワンと頭の中で響いていた。「はー。はー、」という苦しい自分の呼吸音だけが妙によく聞こえる。

 ふとスタンドに目を向けると、特別席の最前列に陣取った弟達が手すりによじ登り身を乗り出して何事か叫んでいた。

 ・・・こんなに近くにいたのか?

 頭がぼーっとしてきていて目前の敵はぼやけてしまっているがどういうわけだか特別席にいる弟達ははっきりと見える。

 目に涙を溜めてみたこともないほど大きな口を開けて自分を見ているのは末っ子のチアラだ。

 そのすぐ後ろにはルチアが手すりから落ちない様に支える母アリシアが居た。

 アリシアは右手でチアラを抱きかかえ、左手はチアラの小さな左手をぎゅっと握りしめ目を閉じていた。

 背を丸め、頬をルチアに当てて涙をこらえているように見える。

「母さん・・・」

 騎士学校入学が決まり家を出た日、弟達にはにこやかに声を掛けたが母とは目すら合わせなかった。

 父を裏切った母をどうしても許せなかったからだ。


 ~何故母は父を裏切ったのか?~

 自分の中にいるもう一人の自分が問いかける。

「(そんなの分かり切っている。俺の為だ。俺を騎士学校に入学させる為だ)」

 ~では何故俺は母に対して怒りを向けているのか?~

「(父を裏切ったからだ!)」

 ~俺を裏切ったわけではないのだろう?~

「(・・・)」

「分かってるさ!わかってるよ!そんなのっ!」

 じゃあ俺はどうしたら良い?

「それは・・・一番良いのは・・・母と一緒に父の墓の前で謝るんだ。不甲斐ない長男でごめんなさいって・・・」

 そうだよな?その為にすべきは?

「(まず目の前の敵を倒すことだ!)」

 そのとおり!

「(でも、なんでみんなそんな泣きそうな顔をしてる?何を必死で叫んでるんだ?)」

 俺が弱いからじゃないか?

「(俺が弱い・・・からか?!)」

 そうだろう?

「(俺か?)」

「俺の、俺のせいかーーーーっっ!!」

 ルシアンは体に鞭を入れ、両膝に無理やり力を注ぎ、雄たけびと共に顔を上げた。


「はは、最後の叫びか?断末魔か?このまま見ていて良いのか?ユーゴ。あの農民やばそうじゃないか、そろそろジリに倒されるぞ。今いかないと・・・」

「うるさいっ!」

「?!・・・」

「うちのメンバーはみんなてめぇらの何倍も練習してきたんだっ!敵を目の前にしてなにも出来ないてめぇとは根性が違うんだっ!そこで大人しく黙って見てろっ!!!」

「・・・!」

 ユーゴとは十分に距離をとっているガットだったが気迫に押されてさらに一歩退いた。

「なんだ?」

「ユーゴ?」

「お兄様?!」

「誰だ?!」

「ユ、ユーゴ?」

 ユーゴの大声に敵も味方も反応した。

 普段は真面目で丁寧な口調のユーゴが激しく啖呵を切ったのだ。


 ルシアンはにっと笑うと打撃で緩んだアイガードを自らむしり取り放り投げた。

 ジリの打撃を受けて腫れているがその眼には闘志が溢れている。

 兜で顔が隠れているため分からないがBチーム全員の口角が僅かに上がった。

「さすがユーゴ・・・よく分かってるな」

 これは自分や皆に対する叱咤激励だ。負けん気が強い者に程より響く一言だ。

「ふん、奴の一言で気合がはいったのか?だが、やる気だけで勝てるなら騎士学校なんて必要ないんだ!」

 ジリが鋭い水平斬りを放つ。

 ガキッ!

 ルシアンが受け止めた。

「!」

 引き際に左からの水平斬り。

 ルシアンはこれも鎬部分で受ける。

「なに?!」

 間髪入れず踏み込みながら垂直切りを放つもルシアンは兜ギリギリのところで受け止めた。

「はぁ、はぁ・・バカなっ!」

「おおおおおおおっ!」

 ルシアンはジリの三連打を受け切って見せ、鍔迫り合いから気合と共に突き飛ばした。

「何故だ?突然技量が上がった?いやそんなことがあるはずがない!」

 体制を崩しながら構えなおすジリ。

 ジリを睨みつけながら少しづつ間合いを詰めていくルシアン。

 ジリの攻撃を受けられるようになったのはルシアンの技量が上がったからではない。疲労でジリの剣が鈍くなったのだ。

 耐えに耐え、我慢に我慢を重ねた成果が今形となって表れた。

「(ホントにユーゴは凄い。バッチり練習通りになったぞ)」

 ルシアンは改めてユーゴの読みの深さに舌を巻いた。

 次はどう倒すかだ。

 自分は受けたり躱したりは苦手だ。しかし攻撃には自信がある。

「だったらこれしかないなっ!」

 ルシアンは突進し、肩構えから剣を水平に下すと突きを放った。

「ふん!オマエは攻撃が見え見えなんだよっ!」

 ジリはルシアンの突きを上方に弾き飛ばした。

 ルシアンの剣は手を離れくるくると回転しながら宙に舞う。

「やーーー!」

 ルシアンの剣を弾き飛ばしたジリの剣は直上からルシアンの頭に振り下ろされた。

 ガッ!

「!?」

 ルシアンは首を捻って肩で受けた。

「うあああ!」

 アイガードの無い頭部への直撃は避けたが首に近い部位に衝撃が走りうめき声を上げるルシアン。

「馬鹿めっ!そんな所で受けたらもっとダメージが・・・」

 ジリは二撃目を狙って振りかぶろうと両腕に力を込めるも何故か彼の剣は持ち上がらない。

「?!」

 ルシアンは右腕をジリの剣に絡め、肩と肘でガッチリと抱え込んだのだ。

「貴様!は、はな・せ・・!」

「へへ・・・つ、つかまえたぜぇ・・・・」

「う!く!この!はーなーせーっ!!」

千載一遇の大チャンスだ。放せと言われて放すはずはない。それにもう恐らく右肩は使い物にならない。

「うおおおおおおおおりゃああああああ!!!」

 ルシアンは打撃で腫れあがった目を更に細めると、右足を大きく踏み出し、渾身の左胴打ち”左フック”を放った。

 重装の左手甲がジリの右胴に炸裂し、ハデに金属片がキラキラと宙を舞った。

「うお!き、貴様!」

 強烈な一撃でジリの下半身が浮き上がり左方向にずれる。

 ルシアンは右肩でジリを吊り上げた状態で目いっぱい体を左方に捻り、必殺の二発目を放った。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

ドーーーーーンッ!!!

 ルシアンの左手甲が肉を叩く鈍い音を響かせ、装具を失ったジリの脇にミシミシとめり込んだ。

「が・・は・・・・・・!!」

 ジリは白眼を剥き両手がだらりと下がり剣が地面に落ちた。


「な・・・・・!!」

 特別席のロシュフォール兄弟が驚き思わず立ち上がる。

 ルシアンが右腕を緩めるとジリはずるずるとルシアンの体を撫でながら沈んでいき足元にひれ伏し動かなくなった。


「みーーたーーかーーーーーーーっっ!!」


 静まり返る大観衆。

 ルシアンは特別席に向かって大きく拳を突き上げた。

「や、やりおったっ!!」

 勢いよく立ち上がるセルジュ。

「に、にーちゃーーーんっ!!!!」

「にいさーーんっ!!」

 ルシアンの兄弟たちは泣き顔を笑顔に変えて揃って拳を突き上げ返した。

 アリシアは手すりの上から飛ぼうとしたチアラを寸前で抱え込んだ。

 イザベルとメイドのシルビィは手を取り合って飛び上がった。


 おおおおおおおおおおお!!

 おおおおおおおおおおお!!


 劣勢を一撃でひっくり返した少年に大観衆がどよめく。


「あ、あいつは一体何を・・??!」

「ルシアンはジリがトドメを狙って頭を攻撃してくることはこれまでの戦い方で分かっていたんだ。万全に万全を期す為、弾かれたと見せかけてわざと剣を放り投げこれ以上ない隙を作り頭に誘導し、肩で受け、腕を回して抱え込んだんだ」

「ね、ね、兄ちゃん凄かった?凄かったよね?!」

 モレル家の三男シリルと四男ソラルがエリアスの袖を引いた。

「ん?ああ、お前たちの兄は凄い男だ」

「わああ!」

 エリアスの言葉にふたりは飛び跳ね歓喜の舞を舞った。

「そしてあの重装パンチか!それにしても敵のトドメの一撃をわざと首で受けるなんてマトモじゃないぞ・・・」

「うむ・・・彼にしてみればそれ以外に方法がなかったのだろうが見事にハマったな」

「で、でも失敗すればそれで終わりの捨て身の攻撃だよな・・・物凄い根性だとしか言いようがないな。あんな奴騎士団にもそうはいないぞ」

「うん?お前、農民に騎士が務まるものかと言っていなかったか?はっはっは」

「そ、そんなこと!・・・いや・・・撤回するよ・・・」

 シリルとソラルに次男アシルも加わりロシュフォール兄弟の解説を嬉しそうに聞き入っていた。






               ~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします(*‘∀‘)~。


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