試練の一戦~壱
「難しい顔をしているな、ニルス」
「・・・」
Bチーム対Hチームの一戦を待つ特別席で正面に広がる平原を見つめながらロシュフォール家の三男は顎に手をやって考え込んでいた。
「兄貴はHチームは勝てると思うか?」
「む?お前はどう思うんだ?」
「う~ん・・・さっきから頭の中でいろいろとシミュレーションしてるんだけど、展開が想像できないんだ
。これまでの戦いを見ているとBチームのアルバンの実力はピカイチだろ?。でも、あの変則的な剣術を使うユーゴが相手となるとどういう戦いになるのか全く読めないんだよなぁ・・・」
「ふふ、まあそうだな。さすがは王国一の武闘派グロッソの息子だ。でも、アルバンとユーゴが戦うと決まったわけじゃないだろう?」
「へ?」
ニルスは不思議そうな顔をエリアスに向けた。
「だってそうだろう?対C戦でもアルバンは最後までイザークに向かわなかった。イザークはCの大将でもあるのだから直接潰しに行けば試合は直ぐに終わったはずだ。でもアルバンはそうしなかった。アルバンは見かけによらず慎重な性格なのか他に理由があるのか分からないがな。だから必ずユーゴとアルバンが戦う事になるとは限らないと思うぞ」
「そうか・・・でもHチームとしてはアルバンを抑えたいはずだからユーゴが相手をしにいくんじゃないのか?」
「6対6ならそうなるかもしれない。しかしHは一人少ない5人なのだから相手を誘導することはできない。仮にユーゴがアルバンに行ったとしても横やりが入ればユーゴはそいつと戦わざるを得なくなる。一人多いBはアルバンをフリーに出来るんだからアドバンテージは常にBチームにある」
「なるほど・・・じゃあ対C戦みたいにアルバンは一番潰しやすそうな相手から順番に戦って行くっていう事か」
「多分な」
「?!待て、兄貴、一番組みやすそうな奴って・・・」
ハッと何かに気づいたニルスはエリアスを二度見した。
「恐らく最初のターゲットはドロテだ」
「!」
最初にアルバンと相対したCチームの少年があっという間に倒され滅多打ちにされた光景がニルスの脳裏に甦る。
「・・・ドロテはグロッソの者と戦うと言う意味をわかっているのかな?・・・」
「家同士の事情などドロテにはどうでも良いことかもしれないが面倒なことにならなければよいが・・・」
「ま、そういう事は父上がなんとかするでしょ」
ニルスは両腕を頭の後ろに回してからからと笑った。
「お母さん、ルシアンお兄ちゃん勝つよね?!ね?!」
チアラが不安げな顔で母アリシアの袖に縋った。
幼いチアラには細かな事は分からないがロシュフォール兄弟の話を聞いて厳しい試合になることはなんとなく分かった。
「え、ええ・・・そうね。ルシアンは強いお兄ちゃんだからきっと大丈夫よ」
アリシアはチアラの小さな手を握って自分自身も納得させるように答えた。
木剣を肩に担いだアルバンがユーゴ達の方に歩いてきた。
ユーゴもアルバンに向かって歩いて行った。
「なかなか頑張っているじゃないかユーゴ」
「お陰様でな」
「だが、お前たちの連勝はこれで終わりだ。大怪我する前に降参しろよ」
「はは。さっき戦い方をみせてもらったから降参しなくて済みそうだ。有難う」
「ん?実力差が分からないのか?戦い方を見たぐらいで勝てると思わない事だ」
「もちろん。見たぐらいで勝てると思ったわけじゃないぞ」
「ち・・癇に障る奴だ・・・」
ユーゴとアルバンはお互いに背を向けて自軍の方に帰って行った。
「アルバン、作戦に変更はないか?」
「ああ、普通にやれば勝てるだろう。予定通り俺はロシュフォールの女に行く。ジリは農民に、アンドレはでかい女、トリスとギャスパーは大将の女に、ガットはユーゴだ」
「了解」
「はいよ」
「分かった」
「オーケー」
「おう!」
「分かっていると思うがいつものように無理に倒しに行かずできるだけ弱らせておくんだ。俺が一人ずつ確実に仕留めて行く」
「分かってるって。でも、さっさと倒してきてくれよな。ユーゴは何をしてくるか分からないからな」
「心配するな。ユーゴ以外は大したことは無いからすぐに支援に行ける。お前がユーゴを抑えていればあとはいつも通りだ」
「頼むぜ!アルバン」
ガットが拳でアルバンの胸を軽く突いた。
「ああ、任せておけ」
アルバンは不敵に笑った。
「みんな、こっちに」
ユーゴはレティシアとルシアンの背中に手をやり、皆に集まるように促した。
「丸くなってお互いの肩に手を回すんだ」
「お兄様これはなんでしょう?」
「円陣っていうんだ。チームで物事に当たる時こうして注意事項を確認したり気合を入れたりするんだ」
「へぇぇっ!なんかちょっとカッコいいな!でもメリッサの背が高すぎて肩にとどかないぞ」
ぱんっ!
いつものようにドロテが喰い気味にルシアンの後頭部を叩いた。
「アンタが小さいだけでしょうが!女子に失礼でしょ!」
「~~、さ、最近攻撃が早いな・・イテテ・・」
「うふふ」
「メリッサ、笑っていないでこれぐらいやっちゃいなさいよね」
「分かりました次からはそうします。うふ」
「ルシアン、届かなかったら背中か腰にやればいいぞ」
「あ、そうか・・」
「みんな聞いてくれ。アルバンの最初の標的は恐らくドロテだ」
「なんでだ?」
「前のCとの戦いがそうだったがBチームは組みやすいと思う相手から順番に確実に倒していく戦い方だからだ」
「倒しやすいと思われるなんて癪に障るけど私もそう思うわ」
「あんなに強かったら直接大将をたおしにいったら良さそうなものですけど・・」
「大将を最後まで残すのは多分戦いが好きだからなんだろうな」
「・・・そうやって全員を袋叩きにするのね」
「ただのヘンタイ野郎だわ」
「戦法を変えてくるという事はないのかな?」
「それは無いと思う。あのやり方で全部勝ってきているみたいだし、さっきアルバンに戦法についてチラっと振ってみたら自信満々だったからな。間違いなく対Cと同じ戦いを仕掛けてくる」
「戦法を確認しに行ったのですか?さ、さすがですねユーゴ」
「はは、相手に直接確認するのがてっとりばやいだろう?」
「そ、それはそうですが・・・」
堂々としすぎているユーゴにメリッサは舌を巻いた。
「あとは誰に二人くるか・・ね?」
「俺かレティのどちらかだろうな。俺にはまともに挑まないという作戦なら一人つくも二人つくも同じだからレティに二人向かうだろうがそこまではちょっと読めないな」
「Hチーム!何をしている?!早く中央へ来るんだ!」
「お兄様、私達呼ばれていますよ?」
「ちょっとぐらい大丈夫だ、もう少し待ってもらおう。俺達が動かないと試合は始まらないし、これだけ注目を浴びてるんだからちょっとやそっとじゃ没収試合になんて事にはならないだろうからな」
そういうとユーゴはいたずらっぽく笑った。
「え?!うふふ」
ユーゴのあまりに大胆な発言にレティシアは思わず笑ってしまった。
「ユーゴって時々物凄く大物感出すわよね・・・」
ドロテは驚いた表情でユーゴをまじまじと見つめた。
「Bチームは実力がとびぬけているアルバンを全面に押し出して目いっぱい使ってくる手強い相手だ。この一戦は俺達にとって物凄く厳しい戦いになる事は間違いない。」
ゴクリ・・ルシアンは生唾を飲み込んだ。
「でも大丈夫だ。それはBチームの戦法は俺達が一年かけて磨いて来た作戦にピッタリと当てはまるからだ」
「あ・・・そういわれればそうね!」
「た、確かに!」
「稽古通りやれば必ず勝てる!稽古を、自分を、みんなを信じて戦おう!」
「よ、よーし、がんばるぞ」
「やってやろうじゃないっ」
「レティ、勢いをつけるために気合を入れよう!」
「え?」
「勝つぞー!とかやるぞーとか何でもいい、大声で鼓舞するんだ」
「おー、いいわね!」
「えええ?!そ、それは・・ちょっと恥ずかしいです・・・」
「Hチーム!早くしないかっ!!」
監視員の一人がこちらに向かって歩いてきた。
「また呼ばれちゃったし、あのおっちゃんこっちに来るぞ大将」
「頑張ってください、大将」
メリッサが微笑む。
「いいじゃないか、目立つチャンスだぞ大将!」
ユーゴがレティシアの頭をぽんぽんした。
「お、お兄様・・・」
「大将の役割よね!頑張りなさい!」
「きゃんっ!」
ドロテがレティのお尻を叩いた。
「わ、わかりました・・・」
レティシアは眼を瞑りすぅーっと大きく息を吸った。
「いくぞおおおおおおおおっ!!!!」
レティシアが剣を高く突き上げた。
「おおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
4人も剣を天に向かって突き上げた。
「む。声を上げたのはHチームか?若者らしくなかなか良い。チームとしてとてもまとまっているようだな
」
ジェラール王が感心して腕組みをした。
「しかし相手はアルバン率いるBチームですし、結局は個の力での勝負となりますのでいくらチームワークが良くても勝てるとは思えませぬ」
仏頂面の側近ラファエル・クルーゼは表情を変えず異を唱えた。
「なるほど、ラファエルはこう言っているが、お前はどう思う?ユリウス」
「は、ラファエル殿のおっしゃる様にBチームとHチームは実力に差があるように思いますが、Hチームの士気の高さやこれまでの戦いぶりをみると何か策を講じているかもしれません。私は激戦を予想します」
「ふん、剣術は才能と日々の鍛錬が必要なのだ。愚策とやる気でどうにかなるものではあるまい。およそ時期騎士団長の発言とは思えぬな」
お互いの見解が異なり睨み合うラファエルとユリウス。
この試合にHチームが勝てば自身が全てを取り上げた家の娘が上位に食い込んできてしまう。ラファエルにとってそれはとても受け入れがたい事だ。
「はっはっは!それぐらいにしておけラファエル。確かにHはユーゴ以外は皆粗さが目立つが常になにかしらやってくれるかもしれないと期待をさせられるチームだ。ラファエルの言う様に勝てる見込みは少ないかもしれないが、私は大いに期待している」
ラファエルはガスパーから目線を外し、正面を見つめて口をへの字に曲げて押し黙った。
「ラファエル殿はHチームの躍進が気に入らない様ですが陛下のおっしゃる様にそこまで否定しなくてもよろしいのでは?ご子息がAチームのリーダーだという事を差し引いても聊か度を越えているように思います」
「むう、そうなのか?ラファエル」
「い、いやそのような事は・・・」
含みを持たせたガスパーの発言とジェラールの問いに目が泳ぎ明らかに動揺するラファエル。
「始まるようです」
試合開始に助けられ、ラファエルも平原に顔を向けた。
「レティ」
後方に下がろうとしたレティシアをユーゴが呼び止めた。
「なんでしょう?お兄様」
「所定の位置に着いたら会敵するまでに足元の長い草をいくつか結んで場所を覚えておくんだ。ほんのちょっとの事だと思うが時間稼ぎにはなる。遠目ではブーツを直しているようにしか見えない。」
僅かな時間稼ぎだが真剣勝負では隙をつく事ができるかもしれない。
「あ・・・”落とし穴”ですね?わかりました!」
ユーゴの座学での発言を思い出し、レティシアは小さな笑顔を見せると後方に駆けて行った。
「はじめ!」
中央に立つ監視員の号令と同時にBチームの少年達が一斉に走り始めた。
Hチームの面々はユーゴを先頭に剣を構え迎え撃つ体制だ。
「やーーーっ!」
「!」
先頭をきって走って来たアルバンにユーゴが木銃を突き出した。
「むん!」
これをアルバンは力強く剣で弾き、体を右に捻って躱した。
「お前はあとでゆっくり相手をしてやる!それまでガットと遊んでいろ!」
アルバンは一瞬引くも直ぐにまた走り出した。
ユーゴもこれぐらいでアルバンを止められるなどとは思っていない。向かう先にはドロテとレティシアがいる。後方への到達を数秒でも遅らせる為の一撃だ。
「たーーーっ!」
ユーゴのすぐ後方にいるルシアンも走って来るアルバンに打ち掛かった。
「ち!」
アルバンは右足に力を込めて急停止して躱し、また走り始める。
「じ、重装のくせに素早い!行ったぞ!メリッサ!」
「えいっ!!」
ルシアンに続きメリッサもアルバンに剣を振った。
「邪魔だっ!」
これもアルバンは剣で受けるが反撃はせず標的に向かって走った。
ユーゴ、ルシアン、メリッサの3人は自軍の後方に走り込んでいくBチームの少年達に対して手当たり次第に剣を振った。後方への到達をすこしでも遅らせる為だ。
「無駄だと分かっているだろうっ!」
Bチームのトリスとギャスパーはルシアンとメリッサの剣を躱し、面倒そうに吐き捨てながらレティシアに向かって行った。
「うぐ!」
ルシアンはメリッサに声を掛けた直後右肩に衝撃を受け、よろめいた。
剣を構え直し正面を向くとアルバン程では無いが長身の少年ジリが立っていた。
「人の心配をしている余裕はないと思うぞ?お前の相手は俺だ」
ユーゴにはガットが、メリッサの前にはアンドレが後方へは行かせまいと立ちはだかった。
トリスとギャスパーはレティシアに、リーダーのアルバンはドロテに向かった。
「(一人少ないHチームに主導権はないか・・・)。でもユーゴの読み通りになったな。ユーゴってやっぱりすごいな!はは!」
「ち!何が可笑しいっ?!」
ジリが肩構えから鋭くルシアンに打ちかかった。
カーンッ!
ルシアンは頭上で受けたがガラ空きの左胴を打たれて右方によろけた。
ルシアンは負けじと右から左に剣を振る。
ぶんっ!
ジリは後方にく飛び退き、これを躱した。
ルシアンの体が左方向に大きく泳いだのを見てジリは再び踏み込みメンに剣を落とした。
「やーーっ!」
ガツンという金属音が響く。頭を大きく揺さぶられたが効いてなんかいないぞ!とルシアンは剣を振る。
しかしこれも躱され今度は右に体が流れる。
そこにまたしてもジリが襲い掛かり、一撃、二撃、三撃加えて大きく退いた。
ルシアンはパワーだけなら学校でも一、二を争う怪力だ。剣のスピードも決して遅くはない。しかし攻撃が単調な上に始動が遅いので躱されやすいという大きな欠点がある。
「くく・・・。分かりやすい奴だ。これなら楽勝だな」
連続で頭を狙われたルシアンはふらつきながらも踏ん張り、剣を構えなおした。
「うぐ・・・」
~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします( ゜Д゜)~




