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精霊魔力暴発

 ああああああああああたああああああああれえええええええええええっっっっ!!!!!!!!


 タケルが跳んだ瞬間一陣の風が吹き込む。

 タケルに向かって吹き込んだ風は0.00数秒で渦を巻き、二柱の巨大な竜巻となった。

「う!うああああああ!!」

 直径6~7メートルの竜巻はバディムを軽々と巻き上げ、切り裂き、弾き飛ばした。

 バディムは10メートル程の高さの壁に激しく衝突し、そのまま垂直に落下した。

「ぐはっ!!」


 恐怖で固まっているミラの右手を誰かがギュっと握りしめた。

 振り向くと薄い黄色のドレスを着た少女がいた。

「ア、アデール姫!」

 少女はミラの手を引いて傍らに植わっている庭木の後ろに素早く隠れた。


「うおっ!」

「バ、バディム隊長!」

 突如出現した二柱の竜巻は、黒い装具の一団を次々と巻き込み、弾き飛ばした。

 竜巻は壁に囲まれた中庭を数秒間不規則に暴れまわるとゆっくりと消失した。


「何がどうなった?!、ルイーズ!」

「はい!ここに!」

 錫色と赤のプレートメイルを装着した女性騎士が赤いマントを翻し、素早く駆け寄る。

「姫を!」

「はっ!」

 近衛隊隊長のロランは続けて騎士達に号令する。

「姫を奪還し、敵を捕らえよ!」


 黒い装具の一団はタケルの放った二柱の竜巻で既に壊滅状態となっており、まだ息のあるものは易々と捕らえられ、姫とミラは無事保護された。


 中庭の一角で力なく座り込むバディムにローゼンヌ王国近衛隊隊長のロランがゆっくりと歩み寄る。

 バディムは竜巻によってプレートメイルをズタズタに切り裂かれ、落下のダメージを負い虫の息だ。

 ロランはバディムのボロボロの左腕を掴むと袖の装具を強引に引きはがした。

 ドラゴンの紋章の入れ墨があった。

「オルティエ騎士団、ゴズワールの手の者だな。誤算だったな」

「フ・・・いろいろとな・・・あんな小僧が聖騎士とは・・・ぬかったわ・・・ぐっ・・・」

 バディムはガックリと首を落としこと切れた。

「我が妹もまだ少女と言って良い年齢なんだがな、運がなかったな」


「隊長!」

 ロランが声のする方に振り向くと、騎士達に囲まれた黒髪の少年が目に入った。

 近寄ると、小柄な少年は歯を食いしばり一点を見つめ、刃部が消失し、柄だけになった剣を構えたままピクリとも動かない。

「おい、君!、大丈夫か?!」

 返事がない。ロランは少年の両肩を掴み大きく揺さぶった。

「少年!、終わったんだ、もう大丈夫だ、分かるか??」

 黒髪の少年は一瞬体を震わせると、虚ろな目のままゆっくりとロランの方に顔を向けた。

「タケル!有難う!あなたのおかげで助かったのよ!ありがとう!」

 騎士達を押しのけて後ろからミラがタケルの腰のあたりに抱き着いた。

(・・・!)

 タケルは刃部の消失した剣を床に落とし、ミラの手に自分の手をそっと添える。

 夢と現実の狭間にいるような、そんな感じがしていた。

(・・・あれ?!・・・終わった?ありがとう?・・・そうか、助かったのか・・・)

「・・・ケル・・・」

「タケル!・・・」

(・・・ミラの声だ・・・でも、なんだろう・・・すっごく眠い・・・そういえばこっちに来てからこんなこと多いな・・・)


 タケルは意識を失った。



 気が付くとベッドで寝ていた。

 何処かしらない部屋だ。

 傍らで女性同士の話し声が聞こえる。

 あれ?いつの間にかまた寝ちゃったのかな?と思った。

 思考が徐々に戻って来た。

「!!」

 すこし時間が経ってから中庭で戦っていた事を思い出して跳ね起きた。

「ミラ!」

「あ、タケル!」

 ミラが抱き着いてきた。

「大丈夫か?!、どうなった?!、あれ?!」

「私はなんともないわ!助かったのよ!でもタケルがずっと眠ったままで!」

「騎士団の方を呼んできますね!」

 メイドだろうか?女性が一人慌てて部屋を出て行った。

「ずっとって?・・・あれ?変だな・・・体にチカラが入らない・・・」

「今日で二日目よ、今、お昼だから丸二日寝てたのよ」

「え・・・二日も?!あ!薪割りやってない!」

「へ?!タ、タケルって!もう!アホなのっ?!あんなにカッコよかったのに!」

「カッコ良かった?俺?!」

「な、なんでもないわよっ!!」

「・・・」

 な、なんで怒鳴られたんだろう・・・。

(しかもアホって言われた。なんだか懐かしい感じがする・・・)


「やっと目を覚ましたか」

 ベッドと机がふたつづつある12畳程のさして広くない部屋にわらわらと数人が入って来た。

「初めましてタケル君。私はローゼンヌ王国近衛隊隊長のロラン・ヴェルレイだ。」

 ロランは背が高く金髪でスラっとしていて近衛隊長というよりはモデルみたいだ。

 クセのある長髪を後ろで結んでいる。優しそうな眼をしたイケメンだ。

「隣にいるのが妹のルイーズだ」

 ルイーズも兄と同じく金髪だが腰のあたりまで伸びるキレイなストレートだ。

 身長もロラン程ではないがそれでも180近くはあるように見える。

 兄弟揃って高身長の美男美女・・・色々と不公平な世の中だなと思った。

「は、初めまして、クサナ・・・いえ、タケル・クサナギと言います」

 洋風な自己紹介に慣れずいつもカミカミになる。

「体調はどうかな?」

「はぁ、どこも痛くはないですが手足にチカラが入らないです」

「そうか、しかし大事なく良かった。そういった事を含めて君とは色々と話さないといけないことがあるのだが、まずは先日の礼を言わせてくれ。君の活躍で姫を無事奪還できた。有難う、君のおかげで助かった」

(あの黄色いドレスの子、お姫様だったのか。)

「いえ、その、なんていうかよくわからないんですが・・良かったです・・」

「君の事はここに居るミラさんに色々と聞いたよ。にわかには信じられないのだが、敵対勢力とは関係が無いようで良かった。」

「はぁ・・・」

「まずは君の今の状態だが、精霊魔力を使い果たした結果と思われる」

「精霊魔力ですか?」

「そうだ。精霊魔力とは万物に宿っている超自然的存在の精霊の持つ力で大きく分けて火、水、地、風に分類される。この四元素以外もあるらしいが良くは分かっていない。そしてこの精霊の加護を得た者を我々は特に”聖騎士”と呼んでいる」

「その力を俺が使った?」

「うむ。剣の修練を積んだ者の中から”聖騎士”は選ばれるという。血縁という説もあるが実際のところはっきりとは分かっていない」

「は、はぁ・・・分かっていない事が多いんですね・・・」

「すまんな、聖騎士自体非常に人数が少ない為に、情報も殆ど無いのが現状なのだ。我がローゼンヌも君を除けば聖騎士はこのルイーズ一人しかいない」

(まあ、元居た世界でも電子レンジがどういう仕組みで食べ物を加熱しているのか解ってる人は殆どいないからなぁ・・)

「あ、あの、俺は聖騎士なんですか?」

「そうだ。先日のあの力は間違いなく聖騎士のものだった」

 ロランに変わってルイーズが話し始める。

「精霊魔力は通常12~3歳頃発現し、修練によってその貯蔵量、使用量、力、範囲が徐々に上がって行くのだが、タケルの場合はいきなり魔力が全開放されてしまった為に体にかなりの負担がかかった結果と思われる」

「あ・・・それで・・・」

 話を聞いていたミラが何かに気づいたように呟いた。

「ミラさんにはなにか心当たりがあるみたいだな」

「そうなの?」

「タケルって、ほんとにニブいわよね、あんたちょくちょく夕飯食べずに朝まで寝てる事あったじゃないっ」

「あ・・・はは、あれって、そういう事なのか・・・」

 この世界にきた直後もそうだった。転移も精霊魔力が何か関係しているのだろうか?

「色々と説明有難うございました、俺、もう動けそうなので帰ります」

「おっと、その事もなのだが、君にはここに居てもらいたい。いや、はっきり言おう、君にはここに居てもらわないととても困るのだ」

「はい?どうしてですか?」

「”聖騎士”は一人で戦局を変えてしまう程の絶大な力がある。先日の中庭での一件もそうだ。君自身は途中で意識を失ってしまったので多くは覚えていないかもしれないが、あの場にいた敵10数人を一瞬で戦闘不能にしたのだ。そういう能力を持つ者を我々は王国外に出すわけにはいかないのだよ。もちろん君が我が王国に敵対するなどとはおもってはいないが、君はそれほどの脅威だということなのだ」

「え?!そんな・・・で、でもそしたら俺はどうしたら?どうなるんですか??」

「まぁ、落ち着いて聞いてほしい。その気になればこの王宮を王都を数分で壊滅させられる力を持った君を我々は強制的に拘束することはこのルーズをもってしても恐らく容易ではない」

「は、はぁ・・・」

「そこで相談というか提案なのだが、近衛隊に入隊してもらいたいのだ」

「近衛隊に入隊ですか・・・」

(ん?)

「はぁああああああ!?」

「えぇええええええ!?」

 タケルとミラが同時に声を上げる。

「我々は、聖騎士の戦力を得られる。君は条件付きではあるがこれまで通りの生活が出来る。そして精霊魔力をコントロールする修練の手助けも我々なら出来る。良い事尽くめだとおもわないか?」

「・・・なんていうか、俺には選択肢は無いという事なのかな・・」

「いや、すまない、言い方が悪かったかもしれん。王国の為にどうか協力してもらえないだろうか?頼む」

「に、兄様!!いけません!!」

 慌てたのはルイーズだ。貴族であり、王国ナンバーワンの近衛隊長が平民のタケルに頭を下げるなどあってはならない。後ろに控える侍女、衛兵をちらりと見やる。

「良いではないか、ルイーズ。どの国も喉から手が出る程欲する貴重な聖騎士を得られるなら安いものだ」

 ルイーズは口を真一文字に結んでキッとタケルをにらみつけた。

「ヒ!・・・・・・・・・・・」

 美人の怒りの表情は恐怖が倍増する。

「タケル!」

 なんとかいいなさいよ!と言いたげにベッドに座るタケルの袖ミラが引っ張る。

「あ、あの!お、俺で良ければ、その、お、お願いします・・」

「おお!引き受けてくれるか?!有難う、歓迎するよ!手続きは全てこちらでやっておく。なに、心配する様な事はは一切ない。食事や着るものを含めて居室も手配する」

「ここに住むんですか?あ、あの!通うわけにはいかないですか?・・家、といっても俺の家ではないですけど・・その、帰りたいです・・・」

「・・・タケル」

 ミラはいろいろな感情が混ざった表情でタケルを見つめた。

 ロランはルイーズの顔を見ながら少し考えた。

「ふむ・・・。ではそのようにしよう。こちらの言い分だけ押し付けるのもフェアではないしな。ただし、家の中まで入ったりはしないが、暫くの間監視は付けさせてもらうよ」

「は、はい!有難うございます」

 少し沈んでいたミラの表情もぱぁっと明るくなった。

「それから、君が聖騎士だという事は暫くは伏せておいてくれたまえ。緘口令を敷いて先日の一件を目撃した兵には全員口止めをしてある。戦略上の措置ということで理解してくれると助かる」

 タケルはまだまだなにかいろいろありそうだなと思った。

「では我々はこれで失礼するよ。ここでしばらくゆっくりしていても良いし、君のタイミングでに自宅に帰っていい」

「は、はい、あの!色々と有難うございました。ロランさん、ルイーズさん」

「うむ。」

「あ、あの!」

 退出しようとしたルイーズをミラが呼び止めた。

「?どうした」

「えっと、その、・・・・」

 ガラにもなくもじもじしているミラの代わりにタケルが答える。

「ミラ、ルイーズさんのファンなんです」

「!!!、な!、そ!え!~~~タ、タケルのばかちんアホしんじゃえ!!!」

 耳まで真っ赤にしながら罵詈雑言を並べ立てるミラ。

「そ、そうか?!そ、それは有難う」

 ルイーズもこういう事にはあまり慣れていないようで人差し指でポリポリと頬を掻いている。

 握手をして貰ったミラは腰が砕けそうになっていた。


 ロランとルイーズが近衛隊の執務室に戻るとガッシリとした体躯の壮年の男が待っていた。

 口ひげを蓄え、特徴的な太い眉がやや吊り上がり眼光も鋭い。

 もみあげの長い茶色でくせ毛の男は近衛隊副隊長のアルベール・カッセル44歳。

 21歳のロラン、19歳のルイーズとは親子程の差があるが立ち位置はロランの部下だ。

「先日の事件の調査の進捗状況はどうだ?」

「はい、捕らえた敵兵はやはりゴズワール王国のオルティエ騎士団で違いないようですな。既に手引きした衛兵1名と侍女1名は捕らえて処刑しました。間者の存在は確認できておりませぬが、近衛隊の帰還情報が漏れていなかったことから中枢には入り込まれてはいないかと思われます」

「こちらの情報を得る為と、あわよくばアデール姫を強奪して我が王国を一気に弱体化を狙ったというところか」

「アデール姫には・・例の血筋の件も関係しているのかと」

「そうだな、強硬策に出てきたという事はなにか確証があったのか」

「確証を得るため、かもしれませぬな」

「いずれにせよブリュセイユに新たな聖騎士が出現したという情報を確かめに急遽戻って来たのが幸いしましたね兄様」

「うむ。同時期にこちらにも新たに聖騎士がという偶然、これが行幸だと良いのだが・・我々が戻らなくてもタケルが介入していたとしたら結果は同じだったかもしれんがな」

「で、隊長その例の少年は如何でしたかな?」

「まぁ私の見た所では至って普通の少年だ。一緒にいたミラという少女の話を全て信じる事はなかなか難しいが、節度も礼儀もある。何かを画策しているような雰囲気は一切なかったので予定通り私が預かる事にした。今後はよろしく頼むよ副長」

「なるほど承知しました」

「ルイーズもね」

「はい・・・」

「どうした?なにか言いたげだな」

「はい、しかし兄様先ほどのアレはいけません」

「ふふ、まだ怒っているのか?まあ良いではないかそう気にするな。私が頭を下げたからといって態度を変えたりするような少年ではないと思うぞ」

「分かりました、ですが今後は自重して頂きたいです。何かあれば私が言って聞かせます」

「はは、分かった分かった、お手柔らかにな」

 ルイーズはどこまでも頑なで扱いが難しい妹だが、兄である自分を尊敬して慕ってくれている。ロランが一番信頼する存在だ。

「ところでアデール姫はどうしておられるかな?」

「はぁ、それが、あの少年に会いたいと・・・」

「ずっと駄々をこねて居られるのか」

「少年はまだ静養しているという事でなんとか納得していただいておりますが、例え回復したとしても魔力のコントロールが効かぬ者と姫を会わせるわけにはいかない故・・・」

「そうだな、わたしとルイーズでもう一度話をしておこう」

 言いながらロランは口角を上げ、フっと笑った。

「どうされました?兄様」

「いや、あの少年、先日の一騎打ちの時と先ほどの感じが全く別人でおかしくてな。ちょっと思い出してしまった。ははは。なにか楽しくなりそうだな」

「兄様、その様な呑気な・・・」

「まあまあ、お前も”弟分”が出来てうれしいだろう?」

「わ、私は別に・・・」

 おや?怒っていた割りに意外にまんざらでもないようだ。

 少し慌てた顔をしたルイーズにロランはにっこり微笑んだ。


「ただいま~!」

 タケルとミラはエマーブルに帰って来た。

 道中ミラはずっとご機嫌で拉致事件に巻き込まれたことや、タケルが二日間寝ていた事、近衛隊に入隊した事など全て何処かに吹き飛んでしまったかのようだ。

「おかえりなさい!!」

「イネスさん、ただいま、その色々心配をかけてしまったみたいで・・・」

「なに言ってるの!タケルが元気になってほんとによかった~!」

 イネスはタケルをギュっと抱きしめた。

 母親にも抱かれた記憶の無いタケルは赤くなって照れてしまった。

「タケル!お母さんにヘンな気持ちになったらグーでぶつわよっ!!」

 な、なるかよっっ!

「お母さん!今日ね、ルイーズ様と握手しちゃった!」

「あら~良かったわね~」

「間近でみると一段とキレイだったの~っ!ね!タケル、ルイーズ様美人だったわよねっ!」

「あ?ああ。ルイーズさん、キレイなひとだったね、ちょっと怖かったけど・・」

「”ルイーズ様”ねっ!」

 キッとにらみつけて訂正するミラ。

「お、俺もその”聖騎士様”らしいのですが・・・」

「なにか言った?!!」

「い、いえなんでもございませんお嬢様・・・」


 タケルは祖父、祖母、秋穂には会いたいが、この世界の生活も、この家庭もなんだかとても居心地が良いと思った。


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