少年達の初勝利~弐
「あ!出て来た!チアラ、ルシアン兄ちゃん出て来たぞ!」
「ほんとだー!」
「どこどこ~?!」
「あそこだって!左の列の前から二番目!」
「みんな一緒だもん・・・わかんない~っ!」
しょーがないなぁと言いながら三男シリルが手すりを乗り越えた。
「おーーーいっ!!ルシアンにいちゃーーーんっ!!」
「シ、シリル、やめなさい!こちらに戻りなさい!」
シリルの大声に隣に陣取っているDチームの家族も一斉にこちらを向いた。
「おおおおいっ!!!」
シリルに気づいたルシアンが兜を取った。
「あああ!いたー!ルシアンにいちゃーーん!」
手すりの上に届かないチアラがしゃがんで下から一生懸命手を振った。
「あそこ!チアラのお兄ちゃんなのー!」
笑顔でぴょんぴょん飛び跳ねて一生懸命アピールする姿に皆クスクス笑った。
「ふふ。随分と賑やかだな」
「う、うちの子がすみません!」
「すみません、ロシュフォール様、もう少し静かにするように言いますので」
イザベルがアリシアの代わりに謝罪した。
「いや、構わない。祭りだからな、全力で応援しよう」
言いながらロシュフォールの次男エリアスはチアラの頭を優しく撫でた。
「エリアス兄貴、兄貴がDなら一人多い状況でどう攻める?」
「そうだな、私なら一番強い者一人ををユーゴに当てて大将に二人だが・・・」
「でもその一人があっという間に倒されたら数的優位もすぐに吹き飛んじまうんじゃないか?」
「うむ、そこが肝なのだ。初戦であれを見せつけられたからな。シュバリエ家のご子息の発案だと思われるがこの先ずっと全チームが悩み続ける事となる。数でハンデのあるチームで実力のある一名が全体をカバーする見事な作戦だ」
隣に陣取るチームDの家族も名門ロシュフォールの次男の解説を難しい顔をして聞き入っていた。
思わぬ形で息子を褒められたセルジュは頬を上気させて嬉しそうに胸を張った。
「む、始まるぞ」
子供たちは身を乗り出し、親たちは両手を組んで祈った。
「おおおおお!!」
「いくぞ!」
チームDは全員が、チームHはユーゴ、ルシアン、メリッサの三人が平原中央に向かって走り出した。
チームDの二人がユーゴにつき、敵大将はレティシア目指して走って行った。
「よし!」
チームH全員の口角が一瞬上がった。こちらとしては一番有難い形になった。
ユーゴは敵の初撃を木銃で受け流すと地面に突き立て、背負っていた木剣を抜いて構えた。
その構えから横方向の動きに制約がある木銃では挟撃されると不利になるという判断だ。
「くそ!や、やりにくいぞ・・」
メリッサに相対している少年Cは攻めあぐねていた。ただでさえ長身のメリッサが腕を伸ばして構えているために剣が全く届かない。
剣を上からたたき、下方から跳ね上げ、何とかして間合いに入ろうとする少年Cをメリッサは易々とあしらっていた。
「(様子をみているのかしら・・?)」
少年Cは我武者羅にメリッサの剣を叩いてくるがスピードも力感もあまり感じない。
上から叩いてきた少年の剣を右に外すと空振りし、頭が前に出て来た。
メリッサは流れで振りかぶり超高度からメンを落とした。
激しい金属音を響かせて少年の動きが止まった。
「(?なにをゆっくりしているんだろう?)」
「メリッサーッ!効いているのよっ!打てーーー!」
敵と対しながらも後方から全員を見ていたレティシアから指示が飛んで来た。
「!」
ハッとしてもう一撃メンを落とした。
「う・・・あ・・・!」
少年Cはメリッサの二撃目を脳天に受けた後随分遅れて頭上に剣を振った。当然の様に空振りし、体が右方向に流れる。
メリッサは体を大きく右に開きゴルフスイングの様に少年Cの左膝外則を打つ。
「~~~!!」
プレートがカバーしていない部位を打たれ左膝が落ちた。
メリッサは間髪入れず剣を引き戻し、半円を描くように振りかぶると右面に強烈な一撃を放った。
切り上げ~袈裟切りの上下のコンビネーション。長身を生かしたメリッサ得意の対角攻撃だ。
少年Cは声を発することなく左下方に頭から倒れ動かなくなった。
「だぁりゃぁ~~~っ!!」
ルシアンは渾身の水平斬りを少年Dの左胴に向けて打ち込んだ。
ガキン!
「むぐ・・!」
少年Dは剣を立てて鎬付近で受ける。
「うぉりゃぁ~~~っ!」
ルシアンは気合と共に今度は右胴を狙う。
ガキン!
「!」
少年Dは剣を立てたまま左から右へ動かしこれも受けた。
「とりゃぁ~~~!!」
右メン、左メン、、右袈裟切り、左袈裟切り。ルシアン渾身の連撃が少年Dを襲う。
「(お、おいおい・・・い、いつまで続くんだ?!)」
少年Dは戦闘開始直後から続くルシアンの攻撃を受け続けていた。最初は「どうせすぐにへばるに決まっている。ある程度打たせた後反撃してやろう」と思っていた。しかし止む気配のないルシアンの連続攻撃に徐々に恐怖を感じ始めていた。
ガキン!カキン!
木剣同士がぶつかり続ける。
ルシアンの攻撃は直線的で予測しやすいが間が開かず、全てが力強い。
「く!」
受け続けてはいるが、ほんの少しでも受けのタイミングがずれると体を持っていかれる。
「ま、マジか!こいつっ!」
「だあああああっ!」
「!」
少年Dは頭の左側に来た水平斬りを剣で受けたが一瞬反応が遅れてふらついた。
「!(今だ!)」
ルシアンは剣を頭上で豪快に旋回させると少年Dの右側頭部に水平斬りを叩きこんだ。
「だーーーーーーーーっっ!!!」
バァァァンッ!
メリッサが少年Cを倒した数秒後、轟音が響き渡り少年Dの兜が数メートルも吹き飛んだ。
破損した兜の金属片が飛び散り白目をむいた少年Dは顔面から平原に沈んだ。
「倒したーーーーっ!!」
「うお!?い、一撃かよっ!」
「あのでっかい姉ちゃんめちゃめちゃつおいっ!
特別席のエリアスとニルスの腰が浮き、子供達が興奮して飛び上がる。
「みたかーーーーーーっ!!」
勝ったことに実感の沸かないメリッサは立ち尽くし、最後まで攻め続けたルシアンは観客席に向かって剣を突き上げ吠えた。
おおおおおお!!
観客席から歓声が沸き上がる。
「メリッサ!ルシアン!前へ!」
レティシアは二人にユーゴの支援に向かう様に指示を出した。
眼前の敵を倒して居ついてしまった二人はハッと我に返り走った。
「やってくれたわね!ルシアン、メリッサ!」
中段構えのドロテは敵少女のメン打ちを左上方に弾き距離を取る。
相手が出てこようというタイミングで一瞬早く出て胴にけん制の突きを入れる。
「この!」
少女は自身の胸に当たった剣を強引に叩きに落とそうとするが、ドロテはこれをクルリと手首を返して空振りさせるともう一度同じ個所を突き、距離を取った。
「はぁはぁ・・・」
ルシアンとは対照的に敵の攻撃を躱し続けるドロテを前に、敵少女はスピードが落ち肩で大きく息をし始めた。
「あら?もうスタミナ切れかしら?じゃあ、そろそろ行くわよっ!」
ドロテは素早く前に出ると同じ個所に突きを入れた。
ピキ・・・
打突部が僅かに変形した。
「(来た来たっ!)たーーーーっ!」
ドロテはしつこくフェイントの突きを見せ少女の剣を空振りさせると面を放ち体をぶつけた。
ガチン!
兜同士がぶつかり一瞬火花が飛び散る。
「やーーーっ!!」
更に反動を利用して右後方に引きながら少女の右胴に水平斬りだ。
「~~~~~あああああっ!!」
ドロテの特徴である正確無比な一撃が”ドシッ”という鈍い音とともに破損個所に食い込むと、堪らず少女が悲鳴を上げた。
「たあああああっ!!」
痛みに負けて前かがみとなった少女にメンを叩き込む。
体当たりで少女の体を”カチあげ”、もう一度右胴の破損個所に剣を叩きこんだ。
「き!!!!・・・・・・!!!」
少女は声も上げられず右わき腹を抑えて転げまわる。
「たあっ!たあっ!たーーーっ!」
尚もドロテは蹲る少女を容赦なく叩き続ける。
「う・・うう・・や、やめて・・・やめ・・・・」
少女はか細い声で呻き、剣を放り投げ身を丸くして動けなくなった。
「待て!それまでだ!」
危険と判断した監視員が慌てて止めに入った。
「ふんっ!私に女子をあてるなんて、なめるんじゃないわよっ!」
一方目前の敵を倒したルシアンとメリッサは二人を相手にしているユーゴの支援に駆け付けた。
「お!早かったな、ルシアン、メリッサ」
ユーゴは敵二人と戦っているとは思えないほど落ち着いた余裕のある口調でダメージは殆ど無いようだ。
しかし敵少年二人はぜぇぜぇと肩で息をしてかなり疲弊していた。
「ユーゴ、遊んでいたのか?」
「はは、遊んでなんかいないぞ、二人が来るのを待ってただけだよ」
「・・・遊んでたんですね・・・」
「あ、あれ??・・・」
「・・・」
「せっかく残しておいてくれたんだ。そんじゃ、貰ってやるぞ!」
天然気味のユーゴを軽く流して天然のルシアンが前に出た。
「たああああっ!!」
突進したルシアンは相手の動きやタイミングには一切構わず少年Aの左胴を狙って力任せに剣を振った。
少年Aは当たり前のように剣を下げて体を右後方に引いて躱したが、動きを予測し、ルシアンの左に移動していたメリッサの剣が遠間から少年Aの額を捕らえた。
ガーーン!
「!!」
少年Aがのけぞるとルシアンが再び間合いを詰めて左胴に水平斬りを放った。
「うわ!」
強打をまともに受けた少年Aは上体をやや左に曲げながら体を右方向に弾かれた。
そこへ今度はメリッサの水平斬りが右胴に炸裂する。
「やーーーっ!」
そしてルシアンの左メン、メリッサの右メンと左右から交互に強烈な攻撃が少年Aにヒットすると、あっという間に野に伏した。
「っしゃあぁぁぁ!」
背の低いルシアンが飛び上がりながらメリッサとハイタッチし、「どんなもんだ!」とユーゴを見やると既に少年Bを組み伏せていた。
「余裕みたいですね・・」
「ちぇ・・・」
レティシアが戦っている大将マークを付けた少年Eもまた持久戦に持ち込まれて他の少年同様スタミナが切れ、足が止まっていた。
「(さすがお兄様、240から300ぐらいでみんな動けなくなるのね!)」
入学当初から自主練で徹底的に走り込んだ成果が確実に差として出ていた。
240、300というのは秒の事で1時間を4で割ったより短い時間の概念の無いこの世界の少年達にゆっくりと数を数えるようにとユーゴが教えたものだ。
「ああああ!!」
少年Eは苦しそうに剣を振ったがレティシアはこれを易々と頭上で受け止め、手首を返し、剣道の小手打ちの様に右腕関節に打ち下ろした。
「うあっ!!」
少年Eは金属プレートのない部分を打たれ苦痛に顔を歪めるも至近距離のレティシアのメンを返そうと振りかぶる。
ドッ!
しかし腹部に衝撃が走り、少年Eは振りかぶったまま体が後方に弾かれた。
”小手”を打った後のレティシアの剣は少年の眼前にある。
レティシアの前蹴りが腹部に綺麗に決まったのだ。
「(な?!何が起きた?!)」
状況が理解できず、無理やり間合いを開けられた少年の右腕関節に再びレティシアの剣が打ち下ろされた。
「やああああっ!」
「~~~~!!」
痛みで少年Eの右手が剣から離れ、空を見上げて擦れたうめき声をあげた。
「やああああああっ!!」
レティシアは続けて左腕関節に打ち下ろす。
「うあああああ!!」
耐えきれず剣を落とし、棒立ちになった少年Eの左右の腕関節を狙ってレティシアは更に剣を打ち下ろす。
「ぐあああ・・・・」
少年Eは仲間に助けを求めるように振り返り駆けだしたが、二歩三歩進んだところで歩みを止めた。
「!!」
仲間の姿は既に無く、兜の”アイガード”を上げたチームHの少年達が余裕の表情でこちらを見ていたのだ。
「ま・・・参った・・・」
敵大将は両腕をだらりと下げたまま地に膝を着いた。
おおおおおおおおおおおお!!
おおおおおおおおおおおお!!
平原に歓声が響き渡る。
「完敗だと・・?!」
「う、うちはランクDのチームだぞ・・・なぜH等に・・・」
がっくりとうなだれるDチームの特別席とは対照的にHチームの側は大盛り上がりだ。
「あなた!見ました?!レティがっ!」
「み、見たが信じられん!」
セルジュとイザベルが話しているのはレテイシアが敵大将の心を折る一撃の一つ前の攻撃だ。
「お嬢様、け、蹴りましたよね?」
「シ、シルビィにもそう見えたのだな?あれはやはり、蹴ったのだな?!」
目を丸くして周囲に確認を取るセルジュ。
「はは・・・間違いない。物凄い蹴りだったぞ」
隣に座るニルスも半ば驚きながら同意した。
「うむ、しかもあれはただ蹴っただけじゃなく鍛えられた蹴りだ。自分より大きな相手の前進を止めるだけではなく微動だにせず押し込んだのだからな」
ロシュフォールの兄弟は勝負が決した後も立つことなく腕組みをして平原を見つめていた。
「ルシアン兄ちゃん、二人もやっつけたの!二人も!」
末っ子のチアラは食べかけのネジレット焼きを手に持ったまま長女のセシルに抱き着いた。
「きゃあ!チアラ、それは食べちゃいなさいっ!」
「あの小さい姉ちゃん、ちょっと怖かったな・・」
「そ、ソラル!後ろにご兄弟がいらっしゃるんだぞっ!」
次男アシルが慌てて四男ソラルの耳元に囁く。
「あ・・・」
「はっはっは。気にするな、俺達もそう思ったのだ」
「うむ、意外と出来るじゃないかドロテの奴。最後何故相手が蹲ったのか分からなかったがな」
装具を破壊しての攻撃は観客席からは分からなかったようだ。
「兄貴!こりゃあもしかすると大穴くるかもしれねぇぞっ!!」
「!。お、お前・・・まさかHに賭けたのか?!」
ニルスは鼻を擦るとニカっと白い歯を見せた。
~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします(*‘∀‘)~




