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少年達の初勝利~壱

 セルジュは袖をつんつんと引っ張られる感触があり目線を下げると上目遣いのチアラがいた。

「ん?どうしたチアラ、トイレか?トイレならお前の母かイザベルに・・・」

 ルチアは小さくかぶりを振って数メートル先の屋台を指さした。

「”ネジレット焼き”が食べたいのか?」

 チアラは親指を加えたままコクコクと頷いた。

「わ、わかったわかった、そんな顔で私を見るな。皆の分も買いに行こう」

 途端にルチアの顔がぱっと明るくなった。

「ほんと?セルジュのおじちゃん!?」

 三男と四男のアシル、ソラルも駆け寄って来た。

「い、いけませんよ!チアラ!アシル、ソラル!」

 慌てて娘を抱き寄せて諭す母アリシア。

「まあまあ、構いませんぞアリシアさん。ぐずられるよりはご機嫌になってくれた方が連れやすいというもの」

「す、すみません、セルジュ様」

「なになに」

「まあ、セルジュったら、うふふ」

 数日の間ではあるがルシアンの家族を預かることになってどうなるかと思ったが、意外に嬉しそうにしているセルジュをイザベルも微笑ましく思っている。

「シュバリエはいないかー?!」

「シュバリエ殿は居られるかー!?」

 ルチアの手を引きネジレット焼きの屋台に向かおうとするセルジュの耳に自分の家名が飛び込んできて驚き立ち止まった。

「シュバリエの家長は居られぬかーっ?!」

 王国騎士団の制服を着た屈強な男たちが自分を探している?!セルジュは思わず後ずさりした。

「旦那様??」

 メイドのシルビィがセルジュを見た。

 妻イザベルも、ルシアンの母アリシアも兄妹達もセルジュを見た。

「な、何でしょう・・?」

 自分の家名を叫びながら走り回っている騎士に怯えてセルジュに寄り添い辺りを見回すイザベル。

「シュバリエ様ならここに・・・」

 何かやましい事があるわけではないが、セルジュは反射的に四男ソラルの口を押えた。

「モゴモゴ・・・」

 じたばたと手足を動かすソラル。

「なはは・・、何が起こっておるのだ・・・??」

 しかしセルジュの抵抗むなしくソラルの小さな声に反応した一人の騎士が駆け寄って来た。

「失礼ですがシュバリエ殿であられるか?」

「え、えーとですな・・・」

 どう答えたら良いものか?ハンカチで汗を拭きながら目を泳がせて必死で答えを探すセルジュ。

「セルジュ様はシュバリエ様なの、今ネジネジ焼きを買いに行くところなのー」

 にこやかに答えるチアラにギョッとするセルジュ。

「おお!おられたぞー!。シュバリエのご当主だー!」

「なにー?!どこだー!?」

 セルジュの周りに次々に男達が集まって来た。

「な!?何事でしょうか?!わ、私は何もしておりませんぞ!い、そこの屋台に向かおうとしておっただけなのだ!」

「は?屋台?」

 一瞬場にいた全員の頭上に”?”が灯る。

「そんなことよりもユーゴ・シュバリエはセルジュ殿のご子息でしょうか?」

「い、如何にも、ユーゴは私の息子だが・・・」

「!き、騎士様、ユーゴに何かあったのでしょうか?!」

 慌てて騎士に詰め寄るイザベル。

「おお!あなた方が!・・・いえ、何かあったというよりも起こしたと言うべきか」

「??」

「ええい!貴様何を言っているのだ!わたしに代われ!」

 イザベルと話していた若い騎士を後ろに追いやると別の年配と思われる騎士が前に出て来た。

「セルジュ殿!この御前試合が終わりましたら是非ご子息を我が第三十八小隊に!」

「36だと?!何を言って居る!ユーゴ殿は三十一小隊こそ相応しい!」

「いや!待て!お前たち!三十五小隊の私が先に・・・!」

 屈強な男達による押し合い、もみ合いが始まる。

「お、おいおい・・・やめ・・!」

 男達の中心で前後左右から押されるセルジュ。

「うええええええんんんん!!」

 セルジュの足元に居たチアラが泣き出してしまった。

「や、やめんかっ!!」

 これには流石にセルジュも大声を出した。

 男たちははっとして動きを止めた。

「説明をしてくれ!いったい何の騒ぎなのだ?!」

 セルジュは泣くチアラを抱きかかえアリシアに預けた。

「ご、存じなかったのか?それは大変失礼しました!実は先ほど行われた御前試合初戦でご子息が相手チーム全員を一人で倒した事を受けて各小隊の代表者がシュバリエ家当主であられるセルジュ殿に挨拶すべく探し回っていたのです」

「な、なんと・・・!」

「ユーゴって誰だ?」

「セルジュ様のご長男っていってたじゃないか」

「あ、そうだっけ?」それで兄ちゃんのチームは勝ったのか?」

「騎士様はユーゴ様の活躍でルシアン兄さんのチームが快勝したとおっしゃっているんだ」

 要領を得ない四男ソラルに次男アシルが丁寧に説明した。

「わー!にいちゃん勝った!兄ちゃん勝ったー!」

 両手を上げてシリルとソラルが小躍りし、皆笑顔になった。

「良かったですね!あなた!」

「う、うむ、さすがはユーゴだ!」

「皆さん有難うございます。しかしまだ騎士団入りが決まったわけではないですし、今日はこうして子供連も沢山釣れておりますのでそういったお話は卒業後お願いできないでしょうか?」

「む、むう、奥様の言われる通りですな、失礼いたしました。今日はこれで引き上げる事にします。お会いできて良かった。後日またお屋敷にお伺いすることになるかもしれませぬがよろしくお願いいたします」

 騎士達は一斉に敬礼すると駆け足で戻って行った。


「ユーゴに二人付けるべきだ!」

「違う、大将の女に二人付けて速攻に決まっているだろう!」

 ユーゴの活躍に色めき立ったのは観衆や騎士だけではなく、対戦チームも同じだ。

 ここはチームHの二戦目の対戦相手となるチームDの天幕。

 チームDは初戦を実力者ぞろいのチームAと戦った為全員が負傷し天幕でヒールをしながら作戦会議をしていた。

 出番に備えてチームHの初戦を後ろで見ていたチームDは誰に二人を差し向けるかで意見が大きく割れていた。

「大将は女だぞ、二人向かわせてさっさと試合を決める方が良いに決まっている」

「ユーゴ相手にひとりでどれだけ時間を稼げるとおもっているんだ?一番強いサニーを大将にぶつけてユーゴには二人だ!」

「さっきの試合を見ただろう!奴に二人付けたところで抑えられると思っているのか?!あっという間に倒されて数で逆転されるのがオチだ!」

「向こうの出方に合わせたら良いんじゃないか?」

「俺達は下位チーム相手に取りこぼさない様にAチームとの初戦は恥を忍んで家族の目の前で早めの降伏で体力を温存をしたのだ!。Hチームに負けたら3位以内が厳しくなるんだぞ!簡単に言うな!」

「わかってるからわめくなっ!」

 ユーゴの狙い通りDチームは誰に二人を差し向けるかで意見が真っ二つに分かれ激しい論争となっており一人多いというアドバンテージを生かす等という話ではなくなっていた。

「それにしてもあの野郎、修練であんな動きしたことは一度も無かったじゃないか・・・!」

「チームD、時間だ!」

 係員に呼ばれた。

「も、もうか?!早過ぎないか?ヒールがまだ終わってないぞ」

「後方待機だからヒールはまだ出来る」

「仕方が無い、行くぞ・・・」


 ユーゴ達チームHは既にCチームとGチームが戦っている後方で待機していた。ユーゴの活躍で消耗やダメージは全くなく、他チームの試合も専用の観戦席から見ることが出来た。

「流石にCは全体的にレベルが高いわね」

「でもとびぬけて強い者もいないから注意しないといけないのはリーダーのイザークだけかな」

「・・・」

 皆チラっとメリッサを見た。イザークはメリッサの妹ジュリアの婚約者でCチームとは明日の一戦目に対戦予定だ。

「私なら大丈夫です。彼と・・・家族と戦う事を選びましたから。みんな心配してくれて有難う」

 皆の視線に気づいたメリッサはにこやかに答えた。

「そう?なら安心ね、一番心配してたのはコイツだけどねー」

 ドロテは笑顔でルシアン小突いた。

「いて・・・お、俺は別に心配なんてしてたぞ全然・・・」

「うふふ。有難うルシアン」

 ルシアンのおかしな言葉に突っ込まず素直に感謝を言うメリッサ。

「メリッサ、こういう時は2~3発殴っておいた方がいいわよ」

「や、やめろ!ただでさえ最近レティがドロテに寄って来てるんだからメリッサまで仲間に引き入れようとするなよな!レティもあんまりドロテ化するとユーゴに嫌われるぞ」

「なにが”ドロテ化”よっ!」

 ぺぺんっ!

「いで・・・!」

 ドロテとレティシアのダブル平手がルシアンの後頭部に炸裂した。

「む、また突いたぞ」

 四人のじゃれ合いをよそにC対Gの戦いを真剣な表情で見ていたユーゴが呟いた。

「倒したぞ」

 見るとイザークが連続突きで相手の大将を倒し、その後も喉元を突きまくって降伏させた。

「やはりイザークは突きだ。メリッサ、稽古はしていたが油断するな」

「私?・・・」

突然ユーゴに名前を呼ばれてメリッサは驚いた顔をした。

「多分メリッサと戦う事になると思うぞ。メリッサの話からするとそうする事が色々な事に決着をつけられる手っ取り早い方法だと思うし向こうもそう考えるんじゃないか?」

と、ルシアン。

「そうね、私なら自分から向かっていくけどね」

「来たぞ」

 試合を終えたCチームがユーゴ達の方にゆっくりと歩いてきた。

「ご活躍の様ですねユーゴ、Eになんて勝ったぐらいでいい気になるなよ」

 すれ違いざまイザークが囁いた。

「あんた達こそ首を洗ってまってなさい」

 持ち前の気の強さを発揮したドロテがユーゴに代わって言い返す。

「ふん、残念な末娘や家を追い出されたお姉様には興味ありませんね。下級貴族や平民と一緒にせいぜい頑張って下さい。ああ失礼、もうお姉様でもありませんね、ははは」

「イザーク、男爵家を追い出されたっていう事は平民になるのか?」

 一緒にいたチームCの少年が余計な一言を吐き出した。

「ああ、そうなのかな?僕には分からないからその背の高い方に聞いてみて下さい」

「平民と話しをするのは御免だ」

「こ、このっ・・・!」

 ユーゴがドロテとルシアンの手を抑えた。

「はははははは!」

 小ばかにした甲高い笑い声と共にイザーク達Cチームは立ち去った。

 ぱぁんっ!

「むかつくわねぇっ!!」

「い、痛いぞドロテ・・・」

「当事者のメリッサが我慢してるんだ、この怒りは明日の試合でぶつけよう。今は目の前の敵だ」

「分かったわ・・・」

「そ、そうね・・・」

「お兄様、作戦はどうします?」

「初戦みたいにユーゴ一人で勝てちゃうんじゃないのか?凄すぎてなにがなんだか分からなかったけど」

「はは。あれは意表を突いた奇襲だったから上手くいっただけだ。今回は相手もそれなりに身構えているだろうからそうはいかない」

「そういうもんか?」

「ああ。今回は上位チームとの対戦を考えて手の内はなるべく隠して正面から打ち合おう」

「大丈夫でしょうか・・・?」

「どうしたレティ、自信が無いか?」

「い、いえそんなことは無いけど・・・」

「ユーゴの指示で学校の修練でも他の生徒とはまともに打ち合ったことが無いですから、そこが少し不安と言えば不安ですね」

「ああ、そうだったな。でもみんななら大丈夫だ、今日まで歯を食いしばって頑張って来た自分を信じろ。稽古通り出来れば問題なく勝てる」

「ユーゴばっかりに頼ってたらいざ騎士団入団になった時にケチをつける輩が絶対に出てくるんだから、目立っておかないとダメよっ!」

 ドロテが皆を鼓舞する

「それに今回はいっぱい応援もいるみたいですしね!」

 特別席を見ると遠めだがセルジュやルシアンの家族の姿が確認できた。

「ほんとだ!・・・セシル、アシル、シリル、ソラル、チアラも・・・母さんもいるっ!」

 ルシアンの顔つきがみるみる変わっていった。

「うふ。気合が入って来たみたいですね」

「今の今まで人任せにしようと思ってたくせに」

「強くなったとこを見せないとね!ルシアン」

 監視員の一人がチームHの待機場所へ向かってきた。

「チームH!前へ!」

「行くぞ!」

「おお!」

 ユーゴ達Hチームは再び戦場に立った。





                ~毎週土曜日更新します。よろしくお願いします(*‘∀‘)~

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