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最下位チームの挑戦

「セルジュ様、私たちはどちらの馬車に乗ったら良いのでしょうか?」

「この扉どうやって開けるんだ?」

「ばかだなぁ、シリル、ドアノブを下げて引くんだよ」

「おじちゃん・・・おしっこ・・・」

「俺だけこっちの馬車に乗ってもいいかな?」

「なんでソラルだけそっちなんだよ!」

「だってこっちの馬車は狭いんだもん!いい?セルジュのおじさん?」

「・・・・み、みんな、すまんが一人づつ話してくれんか?・・・」

 今日は年に一度、ブリュセイユ王国最大のイベントである御前試合(模擬戦)だ。

 前日に迎えたルシアンの家族、モレル家の子供たちに翻弄されてなかなか出発準備が進まない。昨日も慣れないフォークとスプーンで大騒ぎして夕食は大変だった。

「あらあら、大変!うふふ」

 イザベルは末っ子チアラを抱えてどこか楽しそうにしながらトイレに走った。

「す、すみません!イザベル様」

 申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げる子供たちの母アリシア。

「いいのよ~、それよりも二台の馬車にみんなを振り分けて乗せて頂戴~」

 シュバリエ家に加えてモレル家、それに使用人のフォセー父娘という大人数の移動となる為馬車一台では足りず、もう一台借りてきていた。

「はい!みんなこっちに来て並ぶ!。セシル、アシル、シリル、はイザベル奥様と旦那様の馬車へ!。ソラルとチアラは私とアリシアさんと一緒にマティオの馬車!」

「はい!」

「わかったー!」

 モレル家の内訳はこうだ。

 6人の子がいるとは思えない程若々しく美人の母アリシア32歳。

 騎士学校に入学した長男ルシアン16歳。

 おっとりした、母似で優しい長女セシル14歳。

 長男ルシアンが騎士学校に行ってから一家を支えるしっかり者の次男アシル13歳。

 やんちゃな性格の三男シリル

 ちょっとルシアンのようなとぼけたところのある四男ソラル。

 アシル、シリル、ソラルは双子で10歳だ。

 そして愛されキャラの末娘チアラ7歳。


 自分の父を”父さん”と言うとややこしくなるのでマティオと呼び、年齢と性格を考慮してルシアンの兄妹5人を分けてテキパキとそれぞれの馬車に詰め込んでいった。

 母アンヌは留守番だが、シルビィも観戦に連れて行って貰える事になってがぜん張り切っていた。

「おお、シルビィ、助かるぞ・・・」

「ぷ・・・」

 チアラのトイレから戻って来たイザベルが思わず吹き出した。

 当主であるセルジュより小さな13歳のシルビィの方がよっぽどしっかりしている。


 朝6時から準備を始めて午前8時過ぎ二台の馬車は騎士学校へ向けてようやく走り出した。

「今日ルシアンお兄ちゃんに会えるのよね?ね?」

 嬉しそうに母アリシアの袖を引っ張るチアラ。

「そ、そうねぇ、どうなのかしら?」

「今日はチームの皆さんが戦っているところは見られるけどお話は出来ないみたいですよ」

 アリシアの代わりにシルビィが答えた。

「えー?!どうしてぇ?」

「そうなの?」

「うん、なんでも公平を期す為に騎士学校の学生さんは御前試合が終わるまで他の人たちとお話をしてはいけない決まりなんですって」

「シルビィ、こうへいをきすってなあに?」

「う~ん、例えば私だけルシアン様とお話したらチアラだって他の人だってみんなお話したいと思うでしょ?」

「うん!思う!」

「そうしたら国中の人がみーんなお話したいって言い出したら困っちゃうよね?」

「うん、困るー・・・」

「だから今日はお話したいけどみんな我慢しましょうね~っていうことなの。分かったかな?」

「うんわかった!チアラも我慢する!」

「ありがとうシルビィさん、私も分かりました」

「学生の家族が作戦を指示したり知恵を入れたりという事をさせない為だそうですよ。待機場所もチームで分けて厳しく監視がつくんだって旦那様が仰っていました」

「そうなんですね残念ですけど、規則ならしかたがないわね・・・」

 アリシアは”あの日”以来ルシアンとは話をしていない。騎士学校に入学が決まった時も、家を出て行った日も手を振っただけで一言も話をしていなかった。勿論息子を愛しているがどう接して良いか分からず、気持ちの整理もできていない。会えないという規則に少し救われた様な気がした。


 丁度その頃騎士学校では全生徒が屋外修練場に整列して剣術教官ガスパーから模擬戦の注意事項を聞いていた。

「ひよっこ共!いよいよ今日という日がやって来た!模擬戦は貴様らの今後の人生を決める大一番だ。全力で戦え!」

 おおおおおおおっ!!!

 ガスパーの激の後メディが生徒の前に立った。

「では模擬戦での注意事項を説明する。よく聞いておくように」

「・・・模擬戦のルールは授業で聞いたぞ?」

「ルシアン、し・・・」

 軽口を叩くルシアンをメリッサが窘めた。

「コホン、今から北平原に移動するのだが、国王をお迎えし、対戦する順番をくじ引きにより決めた後対戦チーム以外は全員学生専用の観覧場所か簡易天幕で待機する事。どちらも厳重な監視がつき、部外者との接触は一切禁止する。宿舎等に行きたいときは必ず監視者に報告し同行してもらう事。今日明日でひとチーム8戦するので装具が破損した場合は監視者か鍛冶師のロジェに報告して予備を手配して貰え。以上だ。何か質問はあるかな?」

「なし!」

「なし!」

「よろしい」

 模擬戦用の装具を装着した生徒達はメディに引率されぞろぞろと歩き出した。

「すっごく厳しい規則だな今日は家族に会えないのかぁ」

「まぁ仕方が無いな、ガスパー教官が言ってたように3位内に入れば王国一の給料取りで昇爵もあるが4位以下だと1/100以下の給金で地方騎士となるかそれ以外の道を探さなくてはいけなくなる。これぐらい厳しい規則で当然だろう」

「まさに天国か地獄かね・・・」

「お、俺は王国騎士団意外に選択肢はないぞ」

 ルシアンはちらりとメリッサを見た。

「私は・・・例え王国騎士団に入れなくてもルシアンに付いて行きます・・・」

「きゃーっ!言ってくれるわねっ!」

「いやん!」

 ドロテはメリッサを軽くつつき、レティは赤らめた頬に両手を当てた。

「はは。ルシアンは負けられない理由が増えたからな。みんなで勝ち取ろう!」

「おう!」

「はい!」

 メディと監視員に囲まれて学校の敷地外に出るともう大勢の人々で賑わっていた。

「す、凄い…人でいっぱいだわ・・」

「いい匂いがすると思ったら屋台がいっぱい出てるぞ!食ったらだめかな・・」

「だめにきまってるでしょ」

 お祭りの縁日みたいだなぁ・・・。

 ユーゴはちょっと懐かしく思った。

「おお!出て来たぞ~、がんばれよ~~!」

「わあ!かっこいいー!」

「俺はBチームに全財産賭けたんだからな!まけるんじゃねぇぞっ!」

「この日の為にダンナと娘婿を質にいれたのよーっ!!」

「娘婿はダメだろーっ!」

「旦那はいいのか?!」

「わっはっは!」

 ふくよかな夫人の大声に周囲がどっと沸いた。

 道中沢山の激励や野次が飛んで来た。

「なんだか、痛い声援も多いわね・・・」

「あのおばちゃんは自分が質に入った方がいいんじゃないか?」


 賑やかな沿道が終わり、平原に出た。

「うわーー!」

「凄いわねー!」

 シロツメクサやカタバミの様な背の低い植物で覆われた”戦場”はとても見通しが良く広大だった。

 そして南側には丘の斜面を利用した木造の巨大な観客席が作られており、見たことも無いほどの数の観衆で埋め尽くされていた。

「(野球やサッカーのスタジアムみたいだ・・・)」

 生徒の一団は平原の中央まで進むとガスパーの号令で足を止め、観客席の方向を向いて”整列休め”で待機となった。

「ブリュセイユ王国ってこんなに人がいるんだな・・」

「中央に見える赤い立派な椅子が玉座でしょうか?」

 王国騎士団の制服を着た屈強な騎士達が居並ぶ中央に赤と白でデザインされた舞台が設えられており、およそ野外会場に似つかわしくない程派手な装飾の施された大きな椅子が三つ設置されていた。

「騎士団の制服あそこだけじゃなくて他の観客席にもいっぱいいるわね~」

「彼らは一般客と違ってスカウトしないといけないから真剣なのよ。騎士団は毎年試合が始まるとまた他とは違う盛り上がり方をするわ」

「スカウト?」

「そうよ、あら?これは授業で習わなかったっけ?」

「ん?聞いてないと思うぞ」

「そうだったかしら?じゃあ説明してあげるわ。ブリュセイユ王国騎士団は全員が100ぐらいの小隊に分かれて所属していて、能力や功績に応じて順位が上下するの。それで騎士団入団が決まった有望な生徒を現役騎士が自分の小隊に引き入れる為に大勢視察にくるのよ。優秀な生徒には二日目の模擬戦表彰式卒業式が終わった途端に大男達が一斉に群がるわ」

「ひえ・・・恐ろしい・・・」

「詳しいのねドロテ」

「そりゃあそうよ、これでも名門ロシュフォール家の娘よ」

「他の奴だったら名門とか自分で言うか?って思うけどドロテが言うと嫌みがないな」

「そう?あんた珍しく褒めるじゃない」

「おう、ドロテが言うと半分冗談に聞こえ・・・」

 ごんっ!

 ドロテが左腕に抱えていた兜でルシアンの頭を殴った。

「~~~~~いでぇ~~~~っっ!!!」

「ぷ・・・」

「~~!か、兜とは・・新しい・・・おおおお・・・いてぇ・・・!!」

 頭を抱えて蹲るルシアン。

「ふふふふ・・・・!!!」

 メリッサが声を押し殺して腹を抱えて笑っていた。

 レティシアもユーゴも笑っていた。それはルシアンとドロテのやり取りが面白いというより、メリッサが一週間前の精神状態からすっかり回復しただけではなく良く笑うようになった事がとても嬉しかったからだ。結局”ぷろぽーず”は未遂に終わり騎士団入団が決まった後改めてという事にはなったのだがルシアンのお陰でメリッサは吹っ切れた顔になった。

「しかし、小隊配置をそんなざっくりとした決め方で問題ないのか?」

「スカウトされた生徒の方もその小隊が嫌なら断ることができるし、相手はベテランばかりでほぼその生徒の将来性と実力に合った順位の小隊に入る事になるから今まで問題が起きたっていう事は聞いたことは無いわね。全く声の掛からなかった生徒に対しては騎士団が割り振る事になっているから意外と上手く出来ているのよ」

「なるほどね。人数のいらない小隊はスカウトしなければ良いし、より序列の高い小隊に入れば給金も多いから生徒の方からも文句は出ないという事か。」

「でも、例えばその順位の小隊に合わないと判断された騎士はどうなるのですか?」

「そういう者が居たら小隊から出されてこの新戦力が補充される時期に”売りに出される”事になるそうよ。兄が言ってたけど行き場が無くなって騎士団から追い出されて地方騎士っていう人結構多いらしいわ」

「き、厳しい世界だったんだな・・・」

「常に強者を確保する為のシステムで高額な報酬を貰う実力勝負の世界だから仕方のないい事だな」

「なぁ、ドロテ、観客席が満員で立ってる人がずーーと向こうまでいるのに王座の真下の席が空いてて誰も座ってないのはなんでだ?一番近いとこにある特等席だぞ。どっかのお偉いさんが来るのか?」

「それ私も気になってたの。どうしてかしら?」

「あそこは対戦チームの家族席よ」

「家族席?!」

「あんな近くで家族に見られるのか!・・・なんか更にやる気が出て来たぞ!」

「はぁ・・・あんたは単純だからいいわね。有名貴族は家族も必死になるから間近で物凄い激が飛ぶのよ。緊張で動けなくなる生徒も珍しくないのよ。それに対戦チームの親同士が隣り合っているから殴り合いが始まる事も少なくないわ」

「ま、マジか・・・・」

「国王の真下で殴り合いなんて起きるのか?」

「現国王のジェラール陛下は死者が出ない程度までは黙認しているっていう話よ。そういうのも全部含めて一年に一度、生徒にとっては生涯最初で最後、全ての国民が一番楽しみにしている王国最大のイベントっていう事ね」

「酔狂というか豪快というか・・・」

 死以外はなんでもありということか?。いや、死もあってのイベントという事なのだろう。ユーゴは異世界にいることを再認識したドロテの言葉だった。

「死傷者が沢山出るって聞いてはいたけど・・・ここにきてだんだん怖くなってきちゃったわ・・・」

 レティがブルっと小さく身震いした。

「大丈夫だ。俺がついてる」

「え?!」

 顔を赤くして振り返るレティシア。

「・・・って言わないのか?ユーゴ」

「る、ルシ・・・・!」

 ごんっ!ごんっ!

 両サイドから兜が飛んで来た。

「そこ!何をしておる?!具合が悪いのか?」

 蹲っているルシアンを見たガスパーが声を掛けた。

「教官!彼は朝ちょっと食べ過ぎただけですっ!」

 わっはっは!

「模擬戦直前だというのに余裕だな!」

「戦っている最中にゲロ吐くなよ!」

 ユーゴの返事に生徒達はどっと沸いた。

「ん?そうか。間もなく陛下がおいでになる。もう少し我慢しろ!」

「はい!」

 ルシアンの代わりにまたユーゴが返事をした。

「ゆ、ユーゴ、俺、みんなにただの大食らいだと思われたぞきっと・・・」

「合ってるじゃない」

「あは。合ってるわね」

「酷いぞみんな・・・」

「気を付けーーーっ!!」

「!!」

 ガスパーの号令で緊張が走る。

 騎士学校の生徒だけではなく、観客全員が起立しそれまでの喧騒がウソのようにしんと静まり返った。

 そして濃紺のマントを纏った王が従者と共に姿を現した。

 若く見事な体躯のジェラール王の後に赤いマントの幼い王子と肌の色がとても白い美しい王妃が続き、玉座の前に立った。

「敬礼!」

 ジェラール王は生徒達を見渡し答礼した。

「直れっ!」

「騎士学校の生徒諸君!厳しい修練によくぞ今日まで耐え抜いた!しかし、今日より二日間が真の修練である!ブリュセイユ王国は強者を求めている!親兄弟、親族、王国国民の見守る中で持てる力の全てを出し切り地位と名誉をつかみ取れ!」

「敬礼!・・・・・・・・・・・直れー!」

 ジェラール王が着席するとガスパーが回れ右をして生徒達に向き直った。

「今から対戦チームを決めるくじ引きをする。チームの代表者は前へ!」

「レティ」

「え?!わ、私?!」

「大将だからな」

 レティシアの左腕には事前に配られたチームの大将を示す赤いリボンが巻かれている。

「そうね。ユーゴよりずっとくじ運ありそうだしね」

「はは、酷いなドロテ」

「レティ、頑張ってください!」

「いいとこ頼むぞっ、レティ」

「チームH!早くしろ!」

「は、はいっ!・・・」

 レティシアは慌てて走って行った。


 くじを引いたレティが振り返り、ちらっとユーゴ達を見た。その顔は目を丸くして口が横に広がっていた。

「どうだったんだろ?」

「なんだ?今の顔は・・・」

「笑って・・・いたんじゃないみたい?・・・」

「すっごいヘンな顔してたわね」

 くじ引きで生徒たちの前に出ていた8人がガスパーと一緒に回れ右をして生徒達の方を向いた。


「第一試合!チームE対チームH!」

 ガスパーの野太い声が平原に響き渡った。


                


~毎週土曜日更新します。

(うっかり忘れていて日曜日更新しましたよろしくお願いします(;'∀'))

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