目標は高く
「皆さんお疲れさまでした~お夕食の準備が出来ていますのでどうぞ~」
夕刻水浴びを終えて屋敷に戻って来たユーゴ達をシルビィがにこやかに迎えた。
「ふぅ、やっと一息つけるわね。覚悟はしていたけど毎日ハードねぇ」
「今日の夕飯はなにかなー?」
「あんたはここに来てからそればっかりね」
「い、いいじゃないか、学校のメシよりここの方が美味いんだよ」
「・・・」
「メリッサ、どこか具合が悪いの?」
「いえ、ちょっと食欲が無くて・・・」
「私もちょっとバテ気味で食欲が落ちてるけどちょっとだけでも食べましょう。食べないと持たないわ」
「ええ、わかってるわレティ」
「メリッサ、どうしても調子が悪いなら食後は休んでいてもいいぞ?」
「有難うユーゴ、でもまだ大丈夫です」
「そうか、みんなも無理はするんじゃないぞ。具合が悪い時は休もう」
「分かったー」
「分かったわ」
夏季休暇を利用したシュバリエ家での合宿が始まって一週間がたった。
チームHの一日のスケジュールはこうだ。
日の出と共に起床してランニング、朝8時の朝食後森の修練場まで走って行って12時まで筋トレ、基本打ちの稽古。一番暑い時間帯は休憩し、15時から18時までシュバリエ家の敷地内で打ち込み稽古をして夕食。
その後21時ぐらいまで個人の強化ポイント中心の稽古をして一日終了となる。
強化ポイントとしてレティシアとドロテは体格のハンデを克服する為筋トレを、ルシアンは苦手なディフェンスの稽古ではなく、敢えて格闘を取り入れた打撃の強化をユーゴと一緒に取り組んでいる。レティシアとドロテの持久力は最早ユーゴに迫っているが他より一人少ないチームHは個人の持久力をどれだけ強化しても敵を一人倒さないとイーブンにはならない。ユーゴにはマークが厳しくなる事が予想される為、ルシアンがいかに早く目の前の敵を倒してレティシアとドロテの援護に向かえるかがカギだと考えたからだ。
そしてメリッサはとにかく走らせている。
物心ついた時から野山を駆け回っていたドロテや、祖父の死から独学ながら剣を振って来たレティ、幼いころから農作業で鍛えられた筋肉質のルシアンに比べて、これまで運動とは無縁だったメリッサが体力的に一番不安があるからだ。
「(今が正念場だ。ここを乗り越えたら一段強くなれるはず。頑張ってくれメリッサ・・・)」
メリッサの後ろ姿をユーゴは祈る気持ちで見ていた。
「なあ、シルビィは一緒にメシ食わないのか?」
「・・・」
シルビィは突然振り向いき話しかけてきたルシアンに困惑して下を向いた。
「なぁ?」
ルシアンは壁際に控えっているメイドのシルビィが気になって仕方が無い。
「ルシアン、学校と違って食事は静かに頂くものよ。黙って食べなさい。シルビィも困ってるわ」
「まぁまぁドロテ嬢、確かにその通りだがここには私ら家族と家族同様の者しかいないのだ。ざっくばらんにいこうではないか」
セルジュが笑顔で言った。
「私も久しぶりにこんなに大勢で食卓を囲んでの食事でとても嬉しいわ。是非学校でのお話等も聞かせていただけないかしら?」
「セルジュ様とイザベル様ががそうおっしゃるのでしたら・・・」
厳格な上級貴族の家庭で育ったドロテだが実は自分でもこういった環境の方が性に合っていると思っている。セルジュの提案は内心ちょっと嬉しかった。
「それで、ルシアンは何がそんなに気になっているんだね?」
「いや、シルビィはちゃんとその・・・メシ食えてるのかな・・・と・・・」
「ルシアン、シルビィは仕事でこうして家の事をしてくれているから食事は後になるが給金もきちんと貰っている。それにうちはこの通り少人数の小さな貴族なのでほとんど同じものを食べている。何も心配しなくていい」
「そ、そうなのか?」
「俺も数か月間だが使用人として働いていたからな」
ユーゴの説明した後シルビィはにっこりと微笑んだ。
「ルシアンはそういう所やさしいですよね」
「ちょっと気になっただけだよ・・・」
メリッサが言うとルシアンはとても照れた様子でポリポリと頭を掻いた。
「ところでユーゴ、かなり激しい修練をしているみたいだがあまり無茶はするんじゃないぞ。お前が主導しているという事は他の家のお嬢様を預かっている事でもあるし・・・」
「あなたったら、また・・・」
「セルジュ様、私たちはみんな自分の意思でユーゴに付いていっています。激しい修練は望むところですから御心配には及びませんわ」
皆ドロテの言う通りだという顔をセルジュに向けた。
「そ、そうか、しかし仮に騎士団に入団が叶わなかったとしても気を落とすんじゃないぞ。親は子が元気でいてくれたら嬉しいものなのだから」
「分かっています。でも皆大丈夫ですわお父様」
「父さん、実は俺の目標は騎士団入団ではありません」
「え?!」
「は?!」
「なに?」
ユーゴの発言に皆驚き食事の手を止めてユーゴを見た。
「お兄様?!どういうことですか?」
「まさかユーゴここまでやっておいて諦めたとでもいうのっ?!」
「そうじゃない」
「じゃあ・・・なんだ??」
「目標は優勝だ」
「えええ!!」
「お、おい・・!」
「マジなの?!」
更なる驚きの発言に皆言葉を失った。
「最初は俺もなんとか3位内、と思っていたんだが既にそのレベルを超えている。騎士団に入るだけなら恐らく余裕だ」
「う、嘘・・」
「ま、またぁ、ユーゴ俺達を喜ばそうと思って・・・」
「はは。嘘なんかつかないぞ俺はそう見ている。それにみんなだって入団だけで満足できないだろう?絶対負けたくない相手がいるはずだ」
言いながらユーゴはレティシアを見た。
「!」
そうだ。アイツだけは、アイツにだけは絶対に負けたくない!血に染まった祖父を見て小躍りして喜ぶユベール親子の姿がレティシアの脳裏に浮かんだ。
「ぎゃふんと言わせたい奴がいるはずだ」
今度はドロテに顔を向けた。
「う・・!」
ドロテは最後まで騎士学校入学を反対した両親、兄達の顔と、祖母の墓前での誓いを思い出し拳を握った。
「成長して強くなったところを見せたい、見せつけたい人がいるだろ?」
メリッサとルシアンを見ながら言った。
そうだ、親の言いなりで惨めな自分を変えて新しい人生を進むのだ。メリッサは体から力が溢れ出るのを感じ、顔を上げた。
自分を信じて送り出してくれた母や弟妹たちは今貧困と戦っている。アイツらにこういうメシを毎日食わせてやるんだ。ルシアンは涙を堪えた。
「ルシアン、もしかして泣いてる?」
「な、泣いたりするもんかっ。今日のメシはちょっと味付けが辛いだけだ」
ルシアンの隣に座っていたメリッサがナイフとフォークを置いて立ち上がった。
「あら?どうしたの?メリッサ」
「ごめんなさい、先に走ってきます」
「え?!」
「え?!待てメリッサ、俺も行く!」
ルシアンも口にパンを無理やり詰め込んでメリッサの後を追った。
「えええ?!レティ、私達も行くわよっ!シシアンなんかに負けていられないわ!」
「お、おいおいみんな・・・」
セルジュは驚きぽかんと口を開けて固まった。
「嗾ける気はなかったんだけどな・・ちょっと皆を煽ったみたいになっちゃったか」
反省しながらユーゴも席を立った。
「あら、ユーゴももう食事はお終い?」
「はは、俺が行かないわけにはいかないでしょう」
「うふふ。そうですね。でもみんな真っすぐで良い仲間ですね」
「はい、母さん、最高のチームです。見ていてください必ず優勝してみせます!」
ユーゴも皆を追って退出して行き、広間にはセルジュとイザベルだけがぽつんと残った。
「ひょっとすると本当に優勝して二人とも騎士団入団しちゃいそうですね。あなた」
「ま、まさかそんな夢みたいな事が起こるのか?」
「慎重な性格のユーゴがああまで言うのですもの、楽しみにしていましょうよ」
「う、うむ・・レティシアが心配で不安しかなかったのだが・・・なんだか10月が待ち遠しくなってきてしまったぞ」
「まあ!あなたったら!ふふふ」
遅れまいと急いででてきたユーゴだったのだが何故か皆玄関に集まっていた。
「あ、ユーゴ、また荷物が届いたみたいなのですが、なんでしょうか?」
「私は防具を発注して受け取ったからこれは知らないわよ」
「ドロテもこう言ってるぞ?」
「お兄様、とても長いものもあります」
「お、やっと来たか。それは俺が頼んだ物で長いのは俺のだ。そっちの大きい袋を開けてみてくれ」
言われてドロテとレティシアが袋を覗き込んだ。
「あ!剣だ。短剣だわっ!」
「鞘つきですね」
「出してみてくれ」
「お、重い!」
「ホントだ、短いけど長剣より重いかも!?」
手に取ったドロテとレティシアがその重さに驚いて声を上げた。
「その剣は芯に鉄ではなく緋色カネが入っているので通常の短剣より重いと思う。ドロテ、レティシア、メリッサの三人は今日からその剣を腰に下げて稽古するんだ」
「え?俺にはなにもないのか?ひどいぞユーゴ・・・」
「その代わりにルシアンは左手だけ重装の手甲をつけるんだ」
「なるほど、ルシアンの腕力を生かすのね」
「ああ!そうか!俺は左利きだしな、さすがユーゴだ」
「あんたってホントに調子良いんだから・・」
「でも、その短剣はどう使うんだ?」
「みんなも修練で経験があると思うけど、長剣を落としたりすることがあるよな?それに俺達は拳を使って攻撃する稽古もしている。いざ両手を使うために剣を手放した後の保険だ。でも重さを増してあるのでそれ自体で攻撃しても結構なダメージを与えられると思う。それからレティとドロテは盾替わりに使ってもいいと思う。使い方は色々あるのでみんなそれぞれ考えて使ってくれ」
「ひょっとして防御だけなら長剣よりも扱いやすいかも?」
「そうかもしれないわね」
女子3人は短剣を振り感触を確かめた。
緋色カネとはユーゴの世界ではレアメタルと呼ばれている比重の重い金属の一種で、こちらの世界では魔力を効率よく媒介する為主に杖等に使われており、聖騎士も剣に仕込んでいる。ユーゴはこの緋色カネの重さを利用することにしたのだ。
「で、ユーゴが持ってるその長いのはなんなんだ?」
「ああ、これか。これは・・・」
ユーゴは長い布製の袋を手繰って中身を取り出して見せた。
「長っ!」
「それは槍?でしょうか?」
「でも反対側のカタチがおかしいぞ?」
「これは木銃っていうんだ」
「モクジュウ・・・ですか?」
「ああ、本当は俺はこれを使った剣術が一番得意なんだ」
「そうなんだ?!」
「お兄様のいた世界には色々な剣術があるんですね!」
ユーゴは半身で構えて直突を放ってみた。
シュッ!シュッ!
「うん、重さも持ち手のあたりもなかなか良い感じに仕上がってる」
「へええ・・」
木銃の長さは既定で166センチと決まっているが、ユーゴが作らせた物は鉄芯入りで全長が200ミリ程長い。更に床尾には緋色カネが入っていて破壊力が上がっている。装具と対剣術を想定した造りだ。
「よーし!じゃ、特訓場まで走るわよっ!」
「おー!」
「あ、悪いんだが暫く夕食後の稽古はみんなでやってくれ、俺はこいつの稽古をしておきたい」
「分かりましたお兄様、行ってきます」
「仕方ないわね、みんな行くわよ!」
「頑張ってくれ」
夕暮れ時、レティシア、ドロテ、ルシアン、メリッサの四人が森の特訓場に向かって馬車の轍が伸びる道を走る。
「装具を壊す作戦とか鉄の代わりに緋色カネを入れて重量を増すとかユーゴの発想はすごいですね」
「そうね、本当に優勝できるかも?」
「でも、重装に対してはどうするんだろう?」
装具の検証をした日重装も全員で見てみた。造りは中装と同じだったのだが金属プレートが分厚くユーゴの打撃でも同一個所を5~6回叩かないと破壊できず、対重装ではなんとか二人以上で囲むのが一番良いだろうという結論となったのだ。
「倒されたら勝敗が決してしまう大将以外は殆ど中装じゃないかっていう事だから他をさっさと倒しちゃうしかないわね」
「責任重大よ、ルシアン」
「お。俺ぇ?」
「そりゃそうでしょ。最初からそういう作戦で稽古してるんだもの」
「ぐぬぬ・・・が、頑張る・・」
「それにしてもユーゴってば稽古ならみんなと一緒にしたらいいんじゃないのしら?」
「ずっと私達に指導してきましたから、一人になりたかったのでしょうか?」
「そうねぇ、一人の方が集中出来る事もあるけど、どうなのかしら?」
「多分、危険だからじゃないかな?」
「危険?」
「ええ、以前、盗賊から守ってくれた時の剣術について聞いたことがあるのですが、”禁じ手”を初めて人相手に使って内心ドキドキしていたって言ってたので・・・」
「マ、マジかよ・・・」
驚いてレティシアを二度見するルシアン。
「・・・ユーゴって、底が知れないですね・・・」
「模擬戦でも一人で全員倒しちゃったりして・・・」
「あ、あり得なくもないわね・・・でもそれじゃあ困るわ」
「なんでだ?」
「私の見せ場が無くなるじゃない」
「見せるモノがあるみたいな言い方・・・だーーーーっ!!」
ドロテが木剣でルシアンの頭を後ろから叩いた。
「それは禁じ手にしろっ!!」
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