ユーゴの秘策~弐
「実は、俺はこの世界の人間じゃないんだ」
テーブルも椅子も無い殺風景な広いだけの部屋にレティシア、メリッサ、ルシアン、ドロテ、セルジュ、イザベル、シルビィが敷物を敷いて車座になって床に座ってユーゴの話を聞いている。
なんとなくは想像していたのだろう、皆それほど驚いた顔はしなかった。魔法が存在するこの世界の住人はユーゴが思っているよりも考え方が柔軟なようだ。
「俺は日本という国の自衛隊という組織に所属していたんだ。こっちでいう騎士団みたいなものだな」
「やっぱりね。そんな気はしていたわ。別世界っていうのはちょっと眉唾だけど」
「はは、俺自身今でも不思議で仕方が無いんだから他の人には信じられない事だろうと思うよ。で、その自衛隊の演習中、あ、演習というのは戦を想定した大規模な修練だな、その演習での偵察中仮想敵に発見されて逃げてた時に偶然古い祠の様なものを見つけたんだ。不思議に思って近づいた途端に飛ばされて気づいたらこちらの世界の森にいたんだ」
「それであの、怪しい姿だったんですね」
「はは。怪しいと言えば怪しいか。あれは戦闘服と言って野戦で敵から発見されにくい為の服装だ」
「そのジエイタイっていうのは装具は着けないのか?」
「うん、自衛隊が扱う兵器、武器はこちらの重装程でも簡単に貫通してしまうから動きにくくなるだけであまり効果が無いからな。当たったらほぼ終わりだから当たらない様に工夫することがまず第一という感じだ」
「お、恐ろしい世界だな・・・」
「でも幸い俺のいた国ではそういった紛争は全くないので戦争で死ぬ人は皆無なんだ」
「戦争がないのにそんな恐ろしい武器があるのか?不思議な国だな」
「抑止力っていうんだ。行使しなくても力があれば喧嘩を売ってくるやつは居ないだろ?」
「なるほどなぁ・・・そういう考え方もあるか・・・」
セルジュが腕組みをした。
「こっちでいう聖騎士みたいなものだな聖騎士っていう超人が一人いる為に大規模な戦闘が抑止されているよね」
言いながらユーゴは聖騎士は核兵器みたいなものだと思ったが核兵器を説明しだしたら時間がいくらあっても足りないし、ユーゴの知識では皆が納得できる説明も出来そうにないので黙っていることにした。
「それであんなに物知りなのね」
「まぁ・・・ね」
「お兄様、元の世界に帰りたいですか?・・・」
「いや、俺はここの生活が気に入ってるし、帰る方法も分からない。それに元の世界にはあまりいい思い出もないからな・・・」
「まあ!良かったわぁ」
「そ、そうか!?ではずっと家にいるのだな?いやぁ、良かった」
レティシアもホッとした表情をした。
「みんな、そういうわけだから、今後も変わらずよろしくな」
「もちろんです!」
「俺はユーゴが居なくなったら困るぞ」
「私だって。チームだって困るわっ約束したんだから勝手に帰っちゃだめよっ」
「はは、わかったよ。じゃあ、作戦会議の続きをやろうか。父さん、母さんお呼びだてしてすみませんでした」
「いやいや、ユーゴの口から事の真相と今後についてきちんと聞けて良かった」
「じゃあ、私たちはこれで失礼しますね。レティ、みなさん頑張ってくださいね」
「はい!お母さま」
「私もユーゴ様がこのまま居てくれる事になってとっても嬉しいです!頑張ってください」
「シルビィも有難う」
「さて、じゃあ装具の弱点の検証を始めようか」
「みんなで手分けして調べるのか?」
「いや、この装具を作って貰う為に図面を書いていた時大体は調べておいたので今からは実際に叩いてみてどうなのかを見る。軽装は露出部分が多いから飛ばして中装から検証していこう」
「じゃあ、誰かがこれを着るのね」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
皆一斉にルシアンを見た。
「・・・ま、待て・・・」
「ユーゴは叩かないといけないしアンタしかいないでしょ」
「頼みますルシアン」
「お願いルシアン」
「・・・こういう役はいっつも俺だ・・・」
「はは。すまないなルシアン」
ブツブツ文句を言いながらも素直に装具を着けるルシアン。
「準備出来たぞ。どうしたらいい?」
「そのまま自然に立ってくれ」
「分かった」
「上から順番に見ていこう。まず兜だ。軽装と中装の兜は同じだ。修練用の装具は目の周りは目出し帽の様な形状になってて顔面への打撃は禁止となっているが見てわかるように模擬戦用のは上下に開閉できる格子状のアイガードが付いている。開閉式なので当然こめかみの所にはジョイントがあって、ここを叩けば恐らくアイガードは吹き飛ぶ」
「そこを剣で狙って打つのはちょっと厳しそうですね」
「そうだな。でも拳ならどうだ?」
「あ、面打ち≪フック≫ね!?」
「ああ。流石にここを叩いて検証するのは危ないからしないけど、恐らく手甲で数回同じ場所を殴ったら壊せると思う」
「そのアイガードを破壊して目・・を狙うんですか・・・?流石に危険ではないですか?・・・」
「直接攻撃しなくても恐怖を与えられる。そしてアイガードを壊できれば鼻と頬を覆っている薄い鉄板が全部露出するからここを手甲で叩くんだ」
「ああ、これまともに殴ったら変形しそうだな!」
ルシアンはアイガードを上げて装着している兜の頬部分をコンコンと叩いた。
「この鉄板をへこませて顔にくっついた状態でもう一回叩いたら相当痛いでしょうね・・・」
「鼻が折れるかもな・・」
「ひ・・・。それもちょっと躊躇われます・・・」
メリッサは少し身震いした。
「やらなきゃやられるかもしれないのよ?。私はいざとなったら何でもやるわ」
「ドロテが言ったみたいに相手の事を気にしてる余裕なんて学校の模擬戦での勝利条件は相手を行動不能にするか降伏させるかしかない。気持ちは分かるがダメージを与えないと勝てないという事を理解するんだ」
「・・・わかりました・・・」
「次は肩と肘だ」
「肩?一番壊せなさそうですけど・・・」
「肩と肘は覆っている金属プレートは分厚いが稼働領域が一番大きい部分で内側の接合部が意外に小さい。叩き方次第で壊せそうなんだ。俺が考えた通り壊せるかどうか実際に打ってみよう」
ゴクリ・・・。
ルシアンが生唾を飲み込んだ。
「ルシアン、プレートを壊すまでだから大丈夫だ」
「あんた意外に気が小さいのね」
「う、うるさい、じゃあドロテが代われよっ」
「嫌」
「お、おまえなぁ・・・」
「ルシアン頼むよ。ドロテもそう煽るな」
「わ、わかったわよ・・・」
ユーゴが持っていた白墨でルシアンの左肩に印をつけた。
「狙い目は肩の付け根のちょっと浮いている所だ。いくぞ!」
木剣を手にして距離を取ったユーゴは中段の構えから振りかぶり真上から垂直に叩きつけた。
ガンッ!
皆近づいて確認する。
「見た目あまり変わりませんね?」
「ちょっとだけ沈んだかしら?」
今度は横に衝撃を加えてみよう。
ユーゴは狙いを定めて木剣を真横に振った。
「あ!」
衝撃音と共に肩が首の側にずれた。
「動いたわっ」
ドロテが肩を掴んで力を入れると左右にグラグラと動いた。
「何か壊れた感じはあるけど外れはしないわね・・・」
「じゃもう一度上から叩いてみよう」
ユーゴは構え直し印目掛けて木剣を力一杯振り下ろした。
ガキッ!
木剣が金属に当たる音と何かが折れた様な音が同時に響いた。
「ああ?!」
「外れたわっ!」
肩のおわん型の部分は脱落はして居らす、まだ肩に乗ったままだが外側に大きくずれた。
「でもまだ落ちないですね」
「引っ張ってみましょうか?」
「そうだな」
「えいっ!」
レティシアは肩部の縁に指をかけて前に思い切り引いた。
「きゃっ!」
「おっと!」
肩部はレティシアの力で簡単に外れ、勢いあまって後ろに跳んだところをユーゴが支えた。
おわん型の肩部は内側にある皮紐で右腕付近にぶら下がり、ルシアンの左肩が露になった。
「あ、有難うございますお兄様」
「落ちたー!」
「落ちましたね!」
「わりと簡単に外れたな・・・」
自身のぶら下がった装具を右手で持ち、まじまじと観察しながらルシアンが呟いた。
「ユーゴが全力できっちり狙って三打もかかったんだもの、そんなに簡単じゃないと思うわ」
「でも今のやり方で外れる事はわかりましたね!」
「おー!」
皆俄然やる気が出て来た。
「よし、次は肘叩いてみよう」
「どっちの肘にするんだ?」
「肩構えだと左肘が前になるからそっちだな。ルシアン、今度は構えてみてくれ」
ルシアンは木剣を右肩に担ぐように構えた。左肘が前に出る。
肘関節の部分は筒状の鉄板をタテ半分に割った様な形状の装具がカバーしている。
「狙いは肘の内側・・・ここだ」
内肘のほんのすこしだけ盛り上がった部分にユーゴが印を付けた。
「あー、確かにここくっついてますって感じに見えるわね」
「随分的が小さいですね。上手く打てるかしら?」
「私やってみたい!」
「じゃ、ドロテやってみてくれ」
「ど、ドロテが打つのか?!」
「なによ?私じゃ不満なの?」
「へ、変なとこ打たないでくれよ・・・痛いのは勘弁だ・・」
「どっか違うとこに当たって痛かったらそれはそれで狙い目になるじゃない、早く構えなさいよ」
「うふふ。ドロテの言う通りね」
「ううう・・・」
ルシアンは渋々構えた。
「どう打ったらいいかな・・・」
「そうだな・・・打ち下ろすよりも右から左に水平斬りがいいんじゃないかな?」
「動かないでよ?動いたら検証にならないんだからね」
「分かったよ!早くやってくれ」
「行くわよっ!えい!」
ガッ!
「うぉ・・!」
ドロテの水平斬りが印に命中し、何かが弾け飛んだ。
ドロテの一撃で木剣から離れたルシアンの左手の装具の位置が僅かにずれている。
「なんか飛んでったけど、装具は外れてないみたいですね・・・」
「腕はぐ装具がぐるっと巻いてありますからねぇ・・」
「でも狙い通りにはなったぞ」
ユーゴはルシアンの肘を掴むと継ぎ目に木剣を当てた。
「!!!」
「あ!丁度剣が当たる分だけ隙間が出来てるわっ!」
「的が小さいから当てるのが難しそう・・・」
「でもここは打ちやすいから一気に勝負を決められるかもしれませんね!」
「~~!・・・」
ルシアンが腕を振り、顔を歪めて痛がっている。
「あら?痛かった?」
「ものすっごい痛ぇぞっ!ここ!」
「痛がるの遅・・・」
ちょっとびっくりした顔で呟くレティシア。
「ぷ・・・・あはは!」
「わ、笑い事じゃねえっ!」
「ここは一か所止めてある部分が内側に出っ張ってるんだ。・・・はは」
「分かってたんなら先に言えよっ!」
「あんたアホねぇ、それ言ってたら打たせないでしょ?」
「・・・そ、それもそうか・・・」
納得すんのかいっ!
「じ、じゃあ次行こう・・・。次は脇腹だ」
「脇ですか。でもけっこう堅そうですよ?」
ルシアンの腕を持ち上げ、屈んで観察するメリッサ。
「脇は腹のパーツと背のパーツに挟まれているんだけど、一か所だけ更に上下で分かれている部分がある・・・ここだ」
皆のぞき込んだ。
「ああ、ここだけ皮紐で繋がってるのがちょっと見えますね」
「ま、また痛いのか?!」
「う~ん、どうかな・・」
「もう覚悟を決めなさい」
「嫌がったやつが言うなっ」
「はは、わかったわかった、じゃあ最初はちょっと軽めで打ってみよう」
「た、頼むぞユーゴ・・・」
ユーゴは振りかぶり、ルシアンの左胴を狙ってやや袈裟に振り下ろした。
カンと軽い金属音がして木剣は弾かれた。
「ルシアン衝撃は来たか?」
「いや、殆ど何も感じない」
「じゃもう一度行くぞ」
今度は踏み込みもやや素早く、力を入れて振り下ろした。
カッ!
「あ・・・」
「ん?」
「挟まったんですか?」
「あ、ああ。つなぎ目に噛み込んだらしい」
ユーゴは木剣を押したり引いたりしてみるがなかなか外れない。
「ルシアン、脇に当たった感じはあったか?」
「うん、ちょっとだけな。取れない感じか?」
「む、仕方が無い」
「?」
ユーゴは木剣を逆手に持ち替えて体を半身にするとルシアンの腹を蹴り飛ばした。
「どわーーっ!!」
ルシアンは広い部屋の床を5メートル程尻で滑って止まった。
「な!なにするんだっ!」
「とれたわね」
「とれたわね。じゃあ無ぇっ!!」
「す、すまん。装具の上からだから大丈夫だと思って」
「ユ、ユーゴってけっこう大胆な人なんですね・・」
「こうでもしなければ外れそうになかったんで・・す、すまない」
尻もちをついたルシアンはユーゴの手を借りて立ち上がった。
「全く・・・」
「脇は?どうなってるの?」
「肘みたくちょっとだけパーツの継ぎ目が広がってますね!」
ユーゴが木剣を当てた。
「剣が脇に当たってる感じがあるぞ」
「お、じゃあここも有効だな」
「兜、肩、肘、脇で4か所ね。覚えたわ」
「お兄様、これで全部ですか?」
「後は金属プレートが使われていない部分だな。一つは肘の内側、もう一か所は膝裏だ」
「どっちも分厚い布の様なものが使われてるわね。でも膝裏はちょっと打てないかな・・・」
「俺の知ってる殆どの剣術は足元への攻撃が無い。この装具も足元への攻撃を想定して作られていないので、脛の作りが甘い」
「そう言われれば・・・脛当ての幅がちょっと足りない気もしますね」
「メリッサなら上手く攻撃できるんじゃないかな」
「わ、私?!」
突然話を振られて動揺するメリッサ。
「メリッサは多分肩回りがとても柔らかいんだろうな、斬り上げや水平斬りといった横方向の技のキレが鋭い。他のみんなには難しいが、長い手足を生かせば上手くダメージを与えられるかもしれない」
「そ、そうでしょうか・・・」
「例えば・・・剣をもってみてくれ」
メリッサはユーゴから木剣を受け取り構えた。
「もう少し前、そう、腕を伸ばしてルシアンのメン、兜の頭に切っ先を乗せて、うんそこ。この間合いで右足を横に大きく開いて左足を惹きつける」
メリッサはルシアンの右側に大きく移動した。
「歩幅が大きいから物凄く立ち位置が変ったわね」
「ほんとだ!」
「で、両肘を大きく右側に引いてルシアンの左膝の外側を打つ」
ビュッ!
メリッサはユーゴに言われるままルシアンの頭上から円弧を描くように剣を振った。
「~~~ってぇぇぇぇっっ!!!」
「あ!・・・・・」
ルシアンは木剣を放り投げて左足を両手で抱え、床に転がった。
「ご、ごめんなさい!、なにも考えてなかった・・・」
「メ、メリッサ、加減!・・・痛ぇ・・・!」
「凄い!軽く振っただけなのにシシアンを倒したわっ!」
「ひ、人を猛獣みたいに言うなっ!」
「ルシアン、何処に当たったの?」
「膝のウラだよ!」
「これは使えるわね!」
「メリッサ凄いわ!」
「わ、私・・・」
「ああいう打ち方は俺には出来ない。メリッサは自分の体格と特性を発揮出来ればそのへんの生徒なんて手も足も出ないぐらい強いんだぞ。もっと自分を信じるんだ」
「そうよ、私なんてどんなに頑張ってもメリッサに剣が届かないんだもの、メリッサと稽古する時はいつも不公平とも戦っているのよ!」
「それはドロテが小さすぎる・・・・」
「うぉっ!!」
ドロテがノールックで座っているルシアンの膝を蹴った。
「~~~!!」
無言で転げまわるルシアン。
「つ、次は重装を見てみよう」
「ルシアンっ!」
「ま、また俺ぇ?!」
「あんた意外に誰がやるのよ、早くしなさい!」
「わ、悪いな、ルシアン」
「お願い、ルシアン」
「すみません、ルシアン」
「ううう・・・」
ルシアンは恨めしそうな目をユーゴに向けながら装具の換装を始めた。
~毎週土曜日更新します。よろしくおねがいします(*‘∀‘)~




