新しい力~壱
「気を付けの姿勢から肩幅に左足をまえに出してちょっとだけ腰を落とす。手は鳩尾の前で両手を握って左拳を突き出す。レティ、右の脇はすこしだけ開いて」
「こ、こうかしら??」
「うん、いいぞ。そこから左腰を前に突き出すようにして左拳を突き出す!」
ぶんっ!
ユーゴは鋭く拳を突き出した。左面突き≪左ストレート≫だ。
「えいっ!」
「ふんっ!」
「ドロテ、拳の先を当てようという意識が強すぎると手首が曲がって”猫パンチ”になっちゃうから握り込むのは当たる直前で肘から先が武器だと思って真っすぐ突き出すんだ」
「わ、分かったわ。えいっ!」
「次に右肘をだいたい直角に保ったまま相手の頬を狙って腰を水平に回して打つ!」
ひゅんっ!
右面打ち≪右フック≫。
「あとは打ちたい部位に合わせて腰を落とせば脇腹や鳩尾を打てるが、基本は頭を狙うんだ」
「他の場所ではだめなんですか?」
「よほどのパワーがあれば別だけど装具の上からだからな。兜は分離されているから頬か顎に当てれば首にかなりの衝撃を加えられる」
「なるほど、鉄を被ってるんだもんな。無理やり動かされたら捥げちゃうかもな・・・」
「あんた恐ろしい事言うわね・・」
「次は前蹴り≪フロントキック≫だ。相手との距離が近い場合はその場で、遠い場合は軸足を前足付近まで踏み込んでから左足を真っすぐ上げて蹴る!」
ばっ!
「腿を先にあげて膝から前は少し遅れる感じで蹴ると威力とスピードが増す。狙う場所は、脛、金的、鳩尾、喉、顎だ。」
「き・・ん・・・」
メリッサが顔を赤くして下を向いた。
「メリッサ、意識しすぎだろ・・・」
「わ、分かってます!」
メリッサがからかい半分のルシアンに、向かって蹴りを放った。
ぶんっ!
長身から繰り出される蹴りは豪快だ。
「すごいじゃないメリッサ!そのままルシアンのキ〇〇〇蹴っちゃえばよかったのにっ!」
「お前はもうちょっと恥ずかしがれ!」
「いーーーだ!やーーっ!」
ドロテの蹴りは鋭く頭の上まで持ち上がった。
「わぁ!ドロテすごい!キレイ!」
「そ、そうかな、えへへ」
「凄いぞ、ドロテ、それなら至近距離で顎を狙える。あとは蹴った後バランスを崩さない様に練習するといい」
「ふふん、どう?ルシアン君」
「くそっ!」
「ルシアン、もう少し上げないと相手に当たらないぞ」
「うぬっ!!」
体の堅いルシアンは蹴りが苦手みたいだ。
「あとは相手の頭を両腕で抱え込んで膝だ」
「メリッサの様に背の高い相手には膝蹴りは難しいですね・・・」
「膝蹴りは下を攻めて相手の頭が下がった時がねらい目だからな。最初から決めに行くには難しいが、装具が無ければ一撃で倒せる必殺技にもなる」
「そ、そうなのか!よーし!」
しかしルシアンは膝も水平より上には上げられなかった・・。
「今教えたのが基本だ。もっと沢山の技があるけどこれだけでもしっかり稽古したら攻撃の幅がかなり広がるはずだ。だけど学校の修練では使うんじゃないぞ」
「分かってるわ」
「全ては模擬戦の為ですね」
「ああ、そうだ。後は各個に稽古しててくれ。ルシアンは俺と自稽古だ」
ルシアンはユーゴに正対し構えた。
「まず打って出て鍔迫り合いの形から練習しよう」
「よーし!」
ルシアンはいつも通り剣を大きく担いでユーゴの面を打ち拳同士がぶつかる距離になった。
「ルシアン、利き手はどっちだ?」
「俺は左の方が強いかな」
「そうか。なら丁度いいな」
「??」
剣は右足前で構えるので鍔迫り合いでも右足が前の状態となっている。左足を半歩引いた状態なので左側に距離が出来ている。
「まず、そのまま左手を離して胴打ちだ」
「こうか?」
どんっ!という衝撃が装具を通してユーゴに伝わる。
「うっ・・・(凄いパワーだ・・)いい感じだが、体をもう少し左に捻って下半身から回して打ってみよう」
「こうかっっ!!」
ルシアンは思い切り体を捻り力を溜めて左拳を振りぬいた。
「ぐっ!!」
どかんっ!っというこれまでとは違う打撃音が響き、ユーゴの体が浮き上がり左にブレる。
ユーゴの腰が引けてやや頭が下がった。
「ル、ルシアン、ここで左面打ち≪左フック≫だ・・」
「たあああっ!」
ルシアンは再び体を左に引き絞ると力強い左面打ちを放った。
ガキンッ!
衝撃音とともにユーゴが吹き飛んだ。
「うおっ!!」
「お兄様!?」
「ユーゴ!大丈夫ですか?!」
「・・・これはびっくりだ・・・」
幼いころからの畑仕事で足腰が鍛えられているのだろうか?強烈なパンチ力だ。ルシアンは元々かいな力が強い事は分かっていたが、ひょっとしたら剣術より格闘技の方に素質があるのかもしれない。
「だ大丈夫か?ユーゴ・・・?」
あまりに派手に倒れたユーゴを心配してルシアンが駆け寄った。
「俺は大丈夫だ。凄いぞルシアン、これなら相手が誰でも一撃で倒せる。後は倒した後剣を取り上げるか兜をはぎ取って”参った”を狙うんだ」
「お、おう!」
「次は体当たりを稽古しよう」
「体当たり?」
「ああ、ルシアンならきっと拳を使わなくても相手を倒せる」
再びルシアンは剣を構えてユーゴに打ち込んだ。
「たああああっ!」
打突後ルシアンは剣を胸の前に引き戻し肩から体をぶつけたがユーゴは剣を盾にしてこれを受け止めた。
両足が地面を引きずったがさっきのパンチ程の威力が伝わってこない。
「ルシアン、体当たりはなんとなく当たりに行ってはだめだ。両脇を締めてすこし沈み込みながら体全体を岩の様に考えて真っすぐ当たれ。剣も拳も蹴りも体も同じだ。当たる瞬間だけ思い切り力を入れるんだ」
「当たる瞬間に沈みながら力を入れる・・分かった!」
ルシアンは一度距離を取ってユーゴに突進した。
「おおおおおおおっ!!!!」
右肩に担いだ木剣を更に後ろに引き絞り全力で面に打ち込む。
「だああああああああっ!!!!」
ガキッ!!!
受け止めた手が痺れ、押し込まれる。
「く・・・」
ユーゴの助言で剣による打突も力が増したようだ。
そして体当たり。
「!!!」
ユーゴは自動車に撥ねられたかのように真後ろに数メートルも弾き飛ばされた。
「ひ・・・!!」
「ち、ちょっと!大丈夫なの?!」
「そ、装具がなかったら・・死んでたかもな・・・はは・・」
直ぐに立ち上がったユーゴを見て皆安堵した。
「お、お兄様・・・」
「大丈夫だレティ、来ることが分かっているからちゃんと受け身は取っている」
「し、死んじゃったかと思った」
「イノシシに轢かれて死んだら悔いしか残らないわねっ」
「誰がイノシシだっ!」
レティシアがはっとなにかを思いつく。
「・・・シシアン・・・」
「な、なんだそれはっ!!」
「ユーゴが座学で言っていたように落とし穴を作ったらすぐに落ちますね!うふ」
「メ、メリッサまで、なにが うふ!だっ」
「この後スタッフが美味しく頂きました」
「・・・」
「・・・」
「・・・ユーゴ、すたっふってなんでしょうか?・・・」
「い、いや、なんでもない・・・」
「ふー。今日もつかれたわね・・・」
ドロテが髪を拭きながら先に水浴びを終えたレティの横に腰かけた。
「そうね。でも最近ちょっと慣れて来たわね」
騎士学校の宿舎はチームごとに分かれていて一つの建物に人数分以上の部屋と居間が作られている。
他のチームは使用人を連れてきて身の回りの世話や夜食を作らせたりしているが、チームHのメンバーは皆何かしらの問題を抱えており、祖母から資産を譲り受けたドロテ以外はそういった余裕はない。唯一余裕のあるドロテも特に必要性を感じていないらしく身の回りの事は自分でやっている。
「疲れた疲れた~」
ルシアンとメリッサも居間に来てソファに座った。
「ユーゴは?」
「お兄様は今日は先に休むと言っていました」
「そうね、ユーゴはシシアンに轢かれまくっていたから今日は早めに休んだ方がいいわね」
「し、シシアンて言うなっ。このままみんなが言い出したらレティのせいだからなっ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ふふ。まぁまぁ、でもレティ、ユーゴって本当に何者なんですか?この前も聞いたけれど・・・」
「確かにアイツは普通じゃないわね。練習法とかかくとうじゅつ?とかなんであんなに知ってるのかしら?しかもどっかでちゃんと教わって来てるみたいじゃない?」
「修練では実力を隠しているみたいですしね・・・」
皆不思議そうな顔をレティシアに向けた。
「・・・お兄様と初めて会ったのは一年ぐらい前なの・・」
「初めて会った?やっぱりほんとの兄妹じゃないのか」
「ええ、お母様と王都にお買い物に出かけた帰りに森で賊に襲われた所を助けて貰ったのが最初の出会いよ」
「夜道に女二人だけなんて無防備すぎない?」
「いえ、昼間だったし、馬車に乗っていたのでまさか襲われるなんておもっていなかったの」
「そうなんだ・・・それで居合わせたユーゴに助けてもらったのね?」
ドロテの問いにレティが頷いた。
「お兄様は何か複雑な形をした槍の様な・・・金属の塊みたいな物を持っていて十数人の賊をあっという間に倒してしまったの」
「話の最初の方がイマイチ分からないけど、相当強いんだな」
「ごめんなさい、お兄様は”しょうじゅう”って言っていたのだけれど私もあれが何なのか今でもわからないの」
「それでお姫様の危機に現れた王子様が優しく介抱してくれたのね」
「ドロテ、ちゃちゃ入れるなよな」
「わ、分かったわよ・・」
「でも最初とても怖かったのよ」
「怖かった?顔が?」
「顔はあんたの方が怖いわよ」
「なんだとぅ?!」
「ちょっともう、二人ともやめてください」
「はぁい・・・」
「・・・」
いつものようにメリッサが間に入った。
「ううん、そうじゃなくて、着ている物が、草木をあしらったみたいな柄の・・・布生地だったのだけどなんていうか装具みたいな感じで・・・」
「???。草木をあしらった柄なんてオシャレじゃない?」
「なんで布なのに装具みたいなんだ??」
「どう表現したら良いのかわからないのだけど、なんだか全然違う国か私の知らない世界から来たみたいな姿で怖かったの」
「そうなんだ・・・」
「馬も逃げて行ってしまって足を挫いた私を負ぶって連れて帰ってくれて、それが最初の出会いよ」
「それで養子になったんですね?」
「ええ。そうよ」
「やっぱりただ者じゃなかったのね」
「でもよくそんな得体のしれないのを養子にしたな」
「ルシアン、失礼ですよ!」
「あ、悪い・・・」
「ううん、大丈夫よルシアン、だって私も最初は本当に怖かったんだもの。でも、お兄様はとっても働き者で優しくて、騎士学校に入ってからの言動は全部意味があってとても尊敬しているわ。今はどうしても騎士になりたい私に精霊様が使わしてくれたんだって思ってる。もう何処から来たとかなんてどうでもよくなっちゃったわ」
「確かにあんなに凄い奴そうそういないわね」
「ええ、お兄様についていけばきっと騎士団に入れるって信じてるわ」
「俺はちょっと前からユーゴに付いて行くって決めてたぞ!」
「調子のいい事言うわね」
「私も彼の言うとおりにしていたら強くなれる気がします」
「体力がバケモノ級だから付いて行くのも大変だけどな」
「そうね。うふふ」
「あはは」
~毎週土曜日更新します~よろしくお願いします(*‘∀‘)~




