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勝利への布石~弐

 カンッ!

 ルシアンの全力の打ち込みを相手は簡単に受け止めた。

「くそっ!」

 力の強いルシアンは鍔迫り合いから強引に押しやり手首を返して真横に剣を振った。

 相手はルシアンの押す力に合わせて軽く後方に飛びのいた為ルシアンの水平斬りは空振りした。

「うわぁ・・!」

 ガーンッ!

 目標を失って左方向に体が流れたルシアンは一撃を喰らってしまった。

 相手の打ち込みをまともに兜で受けたルシアンは衝撃で頭を揺らされて足がふらついた。

 ガーンッ!

 無防備になったルシアンは更にもう一撃喰らった。

「(ルシアンは力は強いが技が直線的で躱されやすいな・・・強い腕力を生かせていない)」

 剣術修練ではユーゴはチームメンバーの動きを常に観察している。


 今度は適度に相手に打たせながらユーゴはメリッサに近づいた。

 メリッサの打ち込みは力強さもスピードもないように見えた。・・・剣が相手に当たる瞬間スピードが落ちているみたいだ。

「(遠慮しているのかな?メリッサは気持ちがやさしいからなぁ・・)」

 びゅんっ!

「お?!」

 カンッ!

 下方から上方に剣を振る”斬り上げ”だけはキレがあって鋭い。しかしやはり命中直前に失速してしまい受けられてしまっていた。

「(高い身長と飛びぬけて長い手足を上手く使えば凄い騎士になりそうなんだけど・・・)ええと、次はドロテとレティか」

 二人は近い距離でそれぞれの相手と打ち合っている。


 ユーゴは稽古相手をコントロールしながら移動した。

「えええぃぃぃっ!」

 ドロテの技が肩に命中したが、相手は特にダメージは無いみたいだ。相手の生徒は面倒そうにドロテの剣を払い除けると力任せに横に払った。

「ぎゃんっ!」

 小柄のドロテは尻もちをついた。

「やったわねぇぇぇっ!!」

 直ぐに立ち上がり攻撃する。

「(はは、相変わらず負けん気と度胸はまんてんだな)」

 ドロテは他の女子生徒同様やや軽量の木剣を使ってはいるが、打ち込みの正確さはチームでも一番だ。形の美しさだけなら全生徒の中でも上位に入るだろう。

 しかし打突後軸足がその場に残ってしまう為、技を連続で出せない。

「(あれが一番の改善点だな。それからドロテにはもう少し体捌きを覚えて貰わないといけないな)」

 一方レティシアは男子生徒の重い打撃をしっかりと剣で受け止めているが、なかなか効果的な一撃を繰り出せていない。

「えいっ!」

 踏み込みや打ち込むスピードは遅くはない。しかし特別早くもない。全てが普通だ。

「(問題は攻撃のバリエーションの少なさかな・・・ルシアンにちょっと似た感じだな)」

 相手の意表を突く動きや打突がないのが原因だろう。

「(ふたりとも生真面目だからなぁ・・・)」

 目でフェイントを入れたり、相手の打突機会に一瞬間をあけてはぐらかしたりということはまだ出来ないかもしれない。

「やめぇぇぇぇぃっ!!今日はこれで終わりだ!」

 剣術教官のガスパートの号令が響いた。

「や、やっと一日おわたっ・・」

「はぁはぁ・・・きつい・・・」

 皆素早く兜を取ってその場にしゃがみこんだ。

「お腹すいたわね~。今日もパンとベーコンを余分に貰わないと!」

「そうやって太っていくんだな」

「礼ねっ!ルシアン、誰に向かって言ってるのよ良く見てから言いなさいっ!」

 ドロテはその場でくるっと回って見せた。

 ルシアンはゆっくりとドロテに近づいた。

「な、なによっ!?」

 ルシアンはドロテの胸元をじっと見つめた。

「確かに。もうすこし太った方が・・」

 がんっ!。

「~~~!!な、なにしやがるっ!」

「なんて言ったのよっ!!」

 兜をつけていないルシアンの頭を木剣でドロテが小突いたのだ。

 ルシアンの額から赤いモノが流れた。

「よ、よく見ろって言ったからよーく見てから感想を言ったんだろ!!ち、血が出たじゃないかっ!!!」

「良かったわね!頭部に血が流れてて!」

「やめなさいよっもうっ!」

 慌てて止めに入るレティシアとメリッサ。

 他の生徒が皆へたり込んでいる中、チームHのメンバーは元気にじゃれあっている。

「はは・・・(いいぞ!みんな)」

 まだまだ稽古が足りないがユーゴは自主練の手ごたえを感じていた。


 夕食後森の特訓場での筋トレを一通り終えた後、ユーゴは皆を集めて車座になった。

「いつもはこの後かかり稽古だけど、授業で模擬戦の説明があったから今日はその対策を含めた話をしよう」

 本来かかり稽古とは短時間全力で打ち合う稽古だが、剣撃とダッシュを交互に繰り返す稽古をユーゴはかかり稽古と言っている。

「お!」

「やっと本題にはいるのね!」

 皆前のめりとなりユーゴの方に顔を向けた。

 数か月前レティシアが自身の事を話した頃から皆やる気が増しているようだ。それぞれに期するところがあったのだろう、あれ以来自主練に音を上げる者は居なくなった。

「皆分かっていると思うが、模擬戦は6対6で行われるため、一人少ないうちは圧倒的に不利だ。なので、今日からその対策に沿った稽古をしていこう」

「勝つためならなんでもやるわっ!」

「私も!」

「私もです!」

「俺も!」

 ユーゴは満足げに頷いた。

「もし、みんなが対戦チームだとしたらチームHに対してどう攻める?」

「そうねぇ、私なら一番強いユーゴに二人充てて、残りは1対1ね」

「俺なら一番弱そうなドロテかレティに二人つけるな」

「ま!私が一番弱そうですって!振り回すだけでちっとも剣が当たらないルシアンのほうがずっと弱いわよ!」

「お前なんていっつも一回打たれただけで倒れてるじゃないかっ!」

「ちょっともう!やめなさいってばっ!」

「ふ、二人とも落ち着け。だれが一番強いか弱いかを決めているわけじゃない。客観的にみてどういう戦いになるかを話し合っているんだ。俺はドロテのいう事もルシアンのいう事もどちらも在り得ると思う」

「ほら見ろ」

「ふんっ!」

 ユーゴは困った顔をしながらも話を続けた。

「レティはどう思う?」

「大将一人を倒しても勝ちという事でしたので私は大将に二人向かわせるかな・・・」

「それもありね」

 ドロテが難しい顔をして頷いた。

「メリッサは?」

「そうですね・・・陣形として各チームは大将を後ろに下げた配置になると思うので、一人少ないうちとでは実際は5対5になるんじゃないかな・・・?」

「ああ、それもあるなぁ。他のチームからしたら大将を温存した上で5対5に出来るもんな」

「という事は敵の取ってくる作戦パターンとしては、1大将を温存して5対5。2一番強いユーゴに二人付けて残りは1対1。一番弱いと見られたメンバーに二人付けて他は1対1。それから大将を倒したら勝ちなので大将に二人付けるという四つのパターンかしら?」

 レティシアが皆の意見を纏めた。

「そうだね。俺もこの四つのパターンになると思う」

「あの。そもそも論ですけど・・・チームで戦う意味ってあるのかしら?」

「どういうこと?」

「だって6対6なら結局1対1とおなじでしょう?ということは全員一騎打ちの総当たり戦でも同じことだと思うの。この方がきっちり順位を付けられるしわかりやすいんじゃないかしら?」

「なるほど。それもそうですね・・・」

レテイシアの意見にメリッサが同意した。

「多分、だけど、チームで戦って一人いなくなった時、必ず誰かが2体1の戦いになるだろ?そうなった場合どう対するかも見たいんじゃないかな?個人戦だと一騎打ちしかないけど、チームだと徐々に戦う人数に差が出てくる。戦場で両軍同数に揃えて戦うなんていうゲームの様な状況はあり得ないからね」

「ああ!、確かにそうですね。最初は1対1の実力を見て、次に1対複数っていうのも必ず見られますね」

「ふ、深いわねぇ・・・・」

「ところで・・・うちは誰を大将に据えるんですか?ユーゴ?」

「ああ、その事なんだが、俺はレティを大将にしようと思ってる」

「!」

「えええええ?!わ、私?!」

 皆驚いてレティシアとユーゴを交互に見た。

「お、お兄様、私なんかよりも打たれ強いルシアンとか体の大きいメリッサの方が適任ではないでしょうか?・・・私なんて・・・」

「みんなもレティに同じ意見かな?」

「俺はやれと言われれば大将だろうが何だろうがやるけど、大将はユーゴの方が良くないか?」

「私は・・チームの勝敗を背負う大将なんて・・・その自信がないです・・・」

「わたしの名前が出ないのは腹立たしいわねっ」

「ドロテ、大将やる気か?」

「なによっ!私じゃいけないのっ?!」

「別にだめだとは言ってないじゃないか」

「言っているのと同じだわっ」

「ドロテとルシアンはくっつくと直ぐにこうなっちゃうんですねぇ・・・話し合いにならないじゃないですか。ほら、ふたりちょっと離れてください」

 メリッサがドロテとルシアンの間に座り直した。

「ふんっ!」

「へんっ!」

「あ、あはは・・・ま、まぁまぁ。理由を順を追って説明するから落ち着いて聞いてくれ。敵チームはさっきみんなが考えた様な戦法で来ると思う。どのパターンにしろ必ず誰かが複数人を相手に戦わないといけないのはわかるな?」

「うん」

「はい」

「じゃあ、複数人を相手に戦う俺達に一番必要なものはなんだ?」

「・・・チームワークでしょうか?・・・」

「もちろんそれも大事だけど、もっと基本的な事かな」

 レティシアが何かに気づいた様顔を上げた。

「ス、スタミナ・・・」

 あ・・・。

 皆ハッとした。

「そうだ。長時間の戦闘に耐えられる体力と折れない心だ。みんなこの半年間頑張ってやってきた事だ」

「む、無駄じゃなかったのね・・・」

「はは・・・ドロテは無駄だと思いながらやってたのか?」

「そうじゃないけど・・・あんまり成果が感じられないというか・・・」

「俺はものすごく感じているぞ。学校の修練で他の生徒がみんなへばってるのにうちのメンバーだけは平気でじゃれあってるじゃないか」

「た、確かに!」

「そうでした!」

「だって自主練の方がずっときっついからなぁ」

 あはは!

 ルシアンの愚痴に皆クスクス笑った。

「それで、チームHの戦法はこうなる」

 ユーゴは適当な大きさの石を五つ拾って地面に順番に置いて行った。

「まずチーム先頭に俺だ。そしてその後ろにルシアンとメリッサ。その更に後ろにドロテ。最後尾に大将のレティ。こういう配置になる」

「ユーゴが一番前で最初に敵をやっつけちゃおうていう並びなのか?」

「まぁそんな感じだ。まず俺が進んでくる敵の中で一番強いやつに相対する。ルシアンとメリッサが次に強いと思われる敵を選んで攻撃する。俺に二人つかなければ残りの3人は恐らくドロテとレティの所に向かうだろう。女子を狙うのは常套手段だからな」

「げ!私、大変じゃない!」

「レティもだって・・」

「わかってるわよっ」

「そしてここからが重要なポイントだ。前衛の俺とルシアン、メリッサはなるべく早く目の前の敵を倒して複数人を相手にしている後衛二人の所に向かう。後衛の二人で敵三人を倒すのは至難の業なのでドロテとレティはとにかく粘って援護を待つ。絶対に無理をせず、援護にくるメンバーと合流して1対1になるまで防御に徹する。これが俺たちの戦いの基本だ」

「メリッサか俺に敵が二人ついたらどうするんだ?」

「俺は前衛で前を向いて戦っているから多分戦局は見えない。全体を見渡せる位置にいる大将のレティが指示を出してドロテを向かわせるんだ。それから誰かが苦戦していたら皆に知らせるという事も大事だ」

「わ、私にできるでしょうか・・・」

「この中では一番攻守にバランスが良くて適応力があるから大将にレティを選んだんだ。戦いながら皆に指示を出さなければいけない厳しいポジションだが大丈夫だ。おまえなら出来る!」

「が、頑張ります!お兄様!」

 腕力ではルシアンには敵わない。メリッサの様な体格を生かした戦い方は出来ない。ドロテ程の機敏さは自分にはない。皆と比べて秀でた所が無い自分に焦りを感じていたが、ユーゴは長所を見てくれていたのだ。

 嬉しかった。絶対に期待に応えて見せる。レティは拳を握りしめた。

「なるほど、ドロテだったら『自分の事は自分でなんとかしなさいよっ!』って言いそうだもんな」

 ドロテはルシアンを睨んだ後、ユーゴが地面に並べたルシアンの位置の石をつまんで茂みに放り投げた。

「わーっ!俺の石がっ!」

 ルシアンは茂みに走って行った。

「お、お前はワンコかっ!」

「ぷ。うふふ」

 間に座っているメリッサがたまらず吹き出した。


「だいたいの流れはわかったか?」

「はい!」

「分かったわ」

「おう!」

「分かりました」

「じゃあ、今日からは体力づくりに加えてルシアンとメリッサの攻撃力強化とドロテとレティの防御力強化を始めていこう。まずはルシアンからだ」

「な、なにをするんだ?!」

 真っ先に指名されたルシアンが緊張しながら立ち上がった。

「装具を付けて構えるんだ」


 ルシアンは修練用の装具≪プレートメイル≫を付けてユーゴに相対した。

「打って来い」

「よぉーし!えんりょしないからな!」

「いつもの空振りが遠慮してるみたいな言い方ね」

「う、うるさい!。たーーーーっ!」

 ルシアンは大きく振りかぶると力任せにユーゴに斬りかかった。

 ガシッ!

 ユーゴは真正面で受ける。

「(さすがにパワーだけは物凄いな)」

 手に衝撃が伝わり、受け止めた後もやや剣が押し込まれた。

「ぬんっ!」

 ルシアンは今度は剣を真横に引き絞って胴を狙った。

 ガッ!

 ユーゴは右拳と左拳の間の柄でこれを受け止めた。

「ルシアンに足りないのは意表を突いた攻撃だ」

 密着した鍔迫り合いの状態で話しかける。

「いひょうをつくって、なんだ?!」

「今日の修練終わりにドロテに簡単に頭をたたかれていただろう?避けられなかったのか?」

「あんな、兜も付けていないところに木剣で殴って来るなんて誰もお思わないだろっ?!」

「なるほど。じゃあ、こんなのはどうだ?」

 ユーゴはやや腰を落として木剣から右手を離し、肘を90度に曲げてルシアンの顔面に拳を振り抜いた。

 ガキンッ!!

「ぐあっ!!?」

 左頬を強打されたルシアンは右方向に吹っ飛んでばんざいの格好で派手に倒れた。

「えええ?!」

「な!?なにすんだっ!!」

 ルシアンだけではなく見ていたメリッサ、ドロテ、レティシアも驚いて立ち上がる。

「こういうのを意表を突くっていうんだ」

 ユーゴはニっと笑った。

「な、おまえっ・・・で、でも、殴るなんて・・・・!」

「あああ!?」

 突然ドロテが叫び声をあげた。

「ど、どうしたの?ドロテ?」

「ユーゴ、座学で聞いてたじゃない!殴ってもいいか?って!」

「あ・・・!」

「全生徒と教官がいる前で堂々とOKを貰ったんだ、そんなの反則だとか、聞いてなかったなんて誰にも言わせないぞ」

 皆唖然とユーゴを見た。

「使える武器は全て木製で、斬ったり刺したりは出来ない。模擬戦では相手を”倒す”ことが一番勝に繋がる。特に重装≪ヘビーメイル≫を装着している者は一度倒されると立ち上がるまで時間がかかるから効果的だ。降参するまで上から剣でも拳でも殴り続けたら良い」

「ユーゴ!それ教えろ!」

 殴り倒されたルシアンだったがとても楽しそうな顔をしていた。



               ~毎週土曜日更新します~よろしくお願いいたします(*‘∀‘)~

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