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交錯する世界

 歴史を感じる古い社殿前で巫女装束の少女が一心に祈りを捧げている。

 少女によって手入れされた境内は薄い青色の玉砂利がまったいらに均され清冽な空気に包まれている。

 少女の名は稲田秋穂。この神社を代々守って来た草薙家の一人息子丈≪タケル≫の幼馴染だ。


「私はこことは違う世界から来たの」

 タケルの祖母ノエルの話は衝撃的でにわかには信じられない内容だったが、弓の師でもあるノエルがいい加減な作り話などするはずもない。

 秋穂は直立し手を合わせたままノエルの告白を思い出していた。


 とある王国の貴族の家に生を受けたノエルは17の時王国で最も影響力のある公爵家に嫁ぎ、子を宿した。

 夫や両親はとても喜んでノエルを気遣ってくれ、出産までは王国の西にある別荘で過ごす事となった。

 別荘での生活ははとてもゆったりとしていて体に負担をかけない程度に毎日周辺を散策していた。

 一番のお気に入りは広大な小麦畑を望める丘で、散策の最後は必ず立ち寄って景色を眺めるのが日課となっていた。

 その日もお気に入りの丘の斜面に腰を下ろして景色をながめていたのだが、急に空が暗くなったのに気付いて立ち上がった時、地面が揺れた。ノエルのいた世界では地震はとても珍しい。

 慌てたノエルが丘を駆け下りた時それは起こった。

 一瞬目の前が真っ白になり、体が僅かにふわりと浮いた。

 着地した感覚と同時に両手両膝を地面についたので転倒はしなかったが、周囲を見回して愕然とした。

 見たこともない場所にいたのだ。

 しばらくは呆然と立ち尽くしていたが、込みあげる不安を感じながら自分の認知できるものを求めてふらふらと歩き始めた。

 すこし目立つようになったお腹を気遣いながら小径を下っていくと開けた場所に出て見たことも無い異国の建物があった。

 不安が更に膨れ上がり、どうして良いか分からなくなって小走りで敷地内を動き回っていると、異国の衣装を纏った小柄な男に声をかけられた。タケルの祖父幸喜であった。

 以後故郷に帰れなくなったノエルは草薙家に保護されて生活を共にするようになる。

 不思議と言葉は通じて、神職ということもあったのだろう幸喜と両親は異国人のノエルの話を真剣に聞いてくれ、とても親切だったので苦労はあまり感じなかった。

 すぐにこちらの世界の生活に慣れはした。しかし元の世界に、別荘に帰りたい一心で毎日神社に通ったのだがなにも変化はなく、月日は流れやがて紅葉の美しい11月に男子を産んだ。

 そして出産から10日程過ぎたある日悲劇が起きた。

 いつものように山頂付近にある摂社に登って来た時、抱えていた赤ん坊が忽然と消えてしまったのだ。

 パニックになったノエルは丸二日昼夜神社のある山の中を探し回った。幸喜も両親も懸命に探したがとうとう見つからなかった。

 絶望し、体調を崩したノエルは数か月間部屋から出られなかった。

 やがて故郷への帰還を諦め、草薙家で生活するうちに誠実な幸喜に惹かれて再婚することとなった。

 そして生まれたのがタケルの母真理である。

 しかし、その真理も高校を卒業してすぐに姿を消す。

 故郷へ帰る事はあきらめたが、腹を痛めて生んだ我が子を諦めるわけにはいかない。ノエルは真理が生まれてからもずっと山頂にある摂社に通っていた。

 事情を知っていた真理と一緒に小さな鳥居をくぐったある日、あろうことか今度は真理が目の前で消えてしまった。

 ノエルはあの場所に安易に真理を連れて行った事を後悔し、自身を責めて再び自室から出られなくなったのだが、半年後驚くべき事が起きた。消えた真理が戻って来たのだ、それも生まれたばかりの赤子を抱いて。

 急に戻って来た真理は、何故かとても急いでいた様で必死に引き止める幸喜とノエルにの腕に「どうしても助けなければいけない人が居るの!この子を、タケルをお願いします!」と強引に赤子を預けて代わりに道場の床の間にあった二振りの日本刀のうち一振りを持ち出し、山頂へと走って行ってしまった。


 真理が二人に預けて行った赤子は誰の子だろうか?真理が居なくなってから半年ほどしかたっておらず、二人は訝しんだが、赤子は成長するにつれて真理にとても良く似て来た為にそういった疑問は持たなくなった。

 その後冷静になっ二人は真理が向こう側の世界とこちらを行き来する方法を何かで知って行き来したのだろうと結論づけた。そして思った。行き来できるという事はいつかまた戻って来る。それまでこの子を大切に育てようと・・・。

 ノエルはタケルが物心ついた時期から山頂の摂社には行くなときつく言ってきたが、何かに誘われるようにタケルは山頂に通うようになり、そして消えた。

「神隠しとでも言うのかな・・・これはもう神と精霊が望まれた事」とノエルは真理とタケルの無事を祈り続けている。

「秋穂ももうここには来ない方が良い」と言われたが、首を振った。

「私はタケルに会いたいの。真理さんは行って戻って来たわ、きっとなにか方法があるはず。私はそれを見つけて必ずタケルを連れ戻すわ」

 ノエルは決意表明をした秋穂を見つめ、何も言わずにそっと手を添えた。



 一礼して拝殿を後にした秋穂は山頂の摂社に向かった。

「絶対に私も行く!だから無事で待っていてタケル!」



 ~~タケルの章 完~~


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