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オークレイル家の末っ子

 翌日、ミラはいつもよりちょっと早起きした。

 音速でエマーブルの掃除を終えると光速で家を出た。

 初登校だ。不安もあるが期待で足取りも軽い。つい走り出してしまいそうになるが走るとタケルに買って貰ったピカピカの靴が汚れてしまうし、憧れの王都学校の制服を着ているので持てる力を全て使って自制している。

「ごきげんよう!」

「ご、ごきげんよう・・」

 人見知りの激しいミラだが今日は道行く見知らぬ人にも挨拶が出来てしまうから不思議だ。

 王都学校まで一直線に伸びる並木道を歩く。

 季節は10月になったばかりでまだ寒さは無く風が心地良い。

 衛門で門番のおじさんに挨拶をして校舎に入った。

 3年生は1階、2年生は2階、1年生は3階の教室でそれそれ3クラスある。

「おはよーっ!」

 最初が肝心。元気よく教室に入った。

「おはよー」

「お早うございます」

「お、おはよう・・」

 始業までまだ時間があるがそれでも半数はいるみたいだ。

「えーと・・・」

 机に生徒の名前を書いた紙が置いてあるので探す。

「あった!」

 窓際の最後尾だった。

「3階窓際の一番後ろって、特等席だわ!」

 ルイとは同じクラスになれなかったが”席運”はあるみたいだ。

 眼下は宮廷にも引けを取らない緑の美しい校庭があり、3年間通うことになる並木道のずっと向こうまで見渡せる最高の景色だ。

「私って運があるわっ!」

 教室内に目を戻すと皆子供ながらに貴族の挨拶を交わしていた。

 ○○家のポールだ とか、公爵家のオスカーだとか。

「これさえなければ最高なのに。そんなに爵位ってだいじなのかしら・・・」

 ミラは「はぁ」とため息をついた。

 バタンと、何かが床に倒れた音がしたので目をやると、濃い茶髪でショートヘアの女の子が床に尻もちをついていた。腰に手を置いて見下ろしている少年に押し倒されたらしい。

 女の子は目に涙を溜めて見上げていた。

「おい、コイツ平民だってよっ!」

「えー?誰ー?」

「商人の子供らしいぜ」

「商人って、アレか?人の作ったのを持って来て売るだけの自分では何も作らない卑怯なやつらだろっ?」

 ミラは反射的に立ち上がり倒れている女の子に駆け寄った。

「やめなさいよっ!その子があなた達に何かしたのっ?大丈夫?」

 ミラは手を取り女の子を立たせた。ミラよりも小柄な子だ。

「ありがとう・・・」

「なんだお前?!お前も平民の子か?!」

「へいみんへいみんうっさいわねっ!だから何っ?!」

「う・・・」

 ミラの勢いに押されて少年は一歩引いた。

「その子私しってるわ、食堂の子よ。野菜持ってエマーブルっていう店に入って行くのを何度か見たことがあるわ」

 余計な合いの手を入れる女子までいる。本当に貴族っていうのは面倒だ。

「食堂の娘がどうやって王都学校に入学できたんだ?」

「色仕掛けだったりして」

「だれがこんなガキ相手にするんだよ」

「あはは。それもそうだなぁ」

「親のほうじゃない??」

「やだぁー。えっちねぇ」

「あはは!」

 我慢が限界にきた。

「あんたたちには関係ないでしょう!そんなに私に興味があるわけ?!」

 母までバカにされてキレてしまった。

「なにをっ!」

「そういう自分たちはどうやってお金を稼いでいるか分からない親に学校に行かせて貰っているだけでなにもしてないじゃないっ!自分たちの方こそ何か悪い事をして生活しているんじゃないのっ!?」

「い、言わせておけばコイツっ!」

 自分の親がどんな仕事をしているかなど考えたことも無い。当たり前に住むところがあって、当たり前に毎日メイドが食事を運んでくれる。

 男子生徒がミラを思い切り突き飛ばした。

「キャっ!」

 図星を付かれた思慮の足りない子供がとる最終手段だ。

「お早うございますー!」

 ミラが少年に突き飛ばされたと同時に教室の扉が開いた。

「ルイ!」

「え?!な、なにをやっているんだ!君たちはっ!」

 教室に入って来たルイは床座っているミラを見て一瞬でおおよその状況を把握した。

「な、何って、こいつらが生意気だからっ」

「生意気ってなんですか?!ミラは僕の友人です、乱暴は許さないっ!」

「お、お前も平民かっ?!だ、だったら・・・!」

「や、やめろ・・・オスカー」

「なんだトム!、お前までこいつらの肩をもつのかっ!」

「やめろって!コイ・・彼はオークレイルの三男だ!」

「え?!・・・」

 ミラを取り囲んでいた生徒たちはトムという少年のオークレイルという言葉に一瞬で静かになった。

「大丈夫?!ミラ?」

 ミラはルイの手を借りて立ち上がった。

「う、うん。ありがとう、ルイ」

「クラスが別になっちゃったから昼食は一緒にって伝えにきたのだけど・・」

「あ、うん、そうね・・・」

「じゃあ、昼に食堂で待ってる」

「わかったわ」

「それから、ミラは僕の大切な友人だ!彼女に何かしたら僕が許さないっ!」

「・・・」

「!・・・」

 ルイはやや眉を上げ、オスカーという少年を一瞥して教室を出て行いった。

(ルイってあんな大きい声だすんだ?!あんな顔するんだ?!あれ?!・・・なんだろう・・?)

 ミラはいじめられたことや突き飛ばされた事よりルイの言動に驚き、何故か顔がとても熱くなるのを感じた。



「ええ・・・と・・どこかな・・」

「おーいっ。ミラーっ」

 昼休み、広い食堂で迷っているミラを先に来ていたルイが見つけてくれた。

 王都学校の敷地内には遠方から学びに来る生徒の為の寄宿舎があり、その一階に食堂がある。

「待たせちゃったかな?」

「いや、今来たとこだよ」

「あの、私もご一緒してもよろしいのでしょうか・・・?」

 ミラはショートヘアの小柄な女の子を連れて来ていた。

「君はさっきの?」

「は、はい、ア、アネット申します・・・」

「大歓迎だよ」

 小柄でやや日に焼けた肌のアネットをルイは笑顔で受け入れた。

 ミラとアネットが席に着くと専属の給仕が食事を運んで来た。

「なんだかちょっと落ち着かないわね」

 ミラとアネットはルイの向かいに座ったのだが、2メートル程もある距離に戸惑い周囲を見渡した。

 壁や柱は切り出した乳白色の石に細かな彫刻がほどこされており、床はピカピカに磨かれた正方形の御影石が敷き詰められている。

 食堂と言ってもエマーブルの様に庶民的ではなく、ホールの広さもテーブルの大きさもケタ違いで宮廷にも引けを取らない”貴族仕様”だ。

「ははは、お金がかかっている学校だからね。そのうち慣れると思うよ。」

 ミラとアネットは見慣れない形状のフォークとナイフを持って緊張気味に食事を始めた。

「ルイ、さっきは凄かったね!ありがとう」

「凄かった?」

「うん、だってルイの一言でみんな黙っちゃうんだもの!」

「ああ、あれは父の、オークレイルという家のお陰さ。僕自身が凄いわけじゃないよ」

「そんなことないわ。なんていうか、タケルが言っていた気合?気迫?っていうのかな。びっくりしちゃった!」

「テオ兄さんから教わったことがあるんだ。実力で勝る敵と戦う時必要なのは勝てなくても向かっていくぞ!っていう気持ちで困った顔やしまった!っていう顔を絶対に見せない事なんだって。僕は兄さん達と違って剣術はぜんぜんダメだけどね。あはは」

「でもかっこよかったわよ」

「そ、そうかな・・ありがとう」

 ルイは少し照れた顔をした。

 ふと見ると横にいるアネットがルイをじっと見つめていて一瞬ルイと目が合い下を向いてしまった。

「アネットどうしました?」

「い、いえ、すみません、オークレイル様・・・」

「?」

「あの、貴族の方と一緒に食事をするのは、は、初めてで・・・」

「そんなこと言い出したら私だって初めてだわっ」

「あは。ルイでいいよ。僕もアネットって呼ぶから」

「アネットは商人の子なんだって」

「そうなんだ?屋号はなんていうの?」

「あの・・・セロー商会といいます」

「ああ!君はセローさんのとこの!?」

「ルイはアネットのお父さんの事を知っているの?」

「ああ、アネットのお父さんとは直接会ったことは無いけどセロー商会はうちとも取引があって、ゴズワール王国やニネ公国にも出入りして手広く商売をしている有名な商社なんだ」

「へー!凄いのね!じゃあ、アネットも外国にいったことがあるんだ?!」

「は、はい、あの・・・入学前は父と一緒に色々と・・・」

「いいな~、私も行ってみたいな~」

「ミラは外国に行ってなにをしたいの?」

「え?・・そ、そんなの・・・色々よっ!色々っ!」

「例えば?」

「た、た、例えば、ニネ公国に行けばたくさんの獣人に会えるのよね?獣人の子と仲良くなりたいわ!」

 獣人の居住圏はヨミル山脈にあり、山脈から一番遠いローゼンヌ王国ではあまり見かけることは無い種族で、ミラは子供の獣人を見たことがない。

「あは。ミラらしいね!でもその前に学校でいっぱい友達をつくらないとね」

「わ、わかってるわよ・・意地悪ねっ」

 ぷいッと横を向いて少し頬を膨らませるミラ。

「と、友達できるかな・・・」

 初日に虐めに遭ったアネットが不安そうに小声で呟いた。

「できるわよっ!もう三人と友達じゃない」

「そうだね!」

「あの・・有難うございます・・・」

 終始下を向いているアネットだが、日に焼けた顔をちょっとだけ上げてはにかんだ笑顔を見せた。

「そうだ、今度の日曜にうちで茶会をしようと思ってるんだけど、二人もどうかな?」

「お茶会?!私も誘ってくれるの!?」

「もちろん!」

「あ・・・でも、私、公爵様のお茶会に行けるようなドレスとか持ってないわ・・」

「あの・・・私も・・・」

「着るものなんてなんでもいいとおもうけど」

「だって、貴族の子がいっぱいくるんでしょ?私とアネットだけ・・・その、イヤよ・・」

「う~ん・・・」

 流石に親やタケルに買ってもらえとまでは言えない。しかしどうしてもミラを誘いたいルイは考えを巡らせた。

「そうだ!、じゃあ、制服でおいでよ!」

「え、この制服で?」

「うん、僕も制服で参加するから、他の子もみんな一年生だから、制服でお茶会しよう!」

「大丈夫かな・・」

 またいじめられたりしないかとちょっと心配だ。

「意地の悪い子は呼ばないから大丈夫」

「それなら・・・」

「じゃあ、決まり!ね。今度の日曜日待ってるね!アネットもね」

「あ、あの・・・はい・・・」

(お茶会お茶会お茶会・・・お呼ばれされちゃった!お茶会ってどんなことをするんだろう??どんな話をしたら良いんだろう?どんな子がくるのかな?)

 ミラの頭の中はお茶会の事でいっぱいになった。

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