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学校へ行こう!

「おかあさんっ!まぁだぁ~っ!?」

「もうちょっと待ってぇ~」

「もう!ずっと待ってるわよっ!」

「あら~、ごめんなさい~髪が上手くまとまらないのよ~」

「は や く!遅れちゃうわよっ!!」

 昨日のタケルの近衛隊入隊式に続き今日はミラの王都学校入学式だ。

 母親の支度に時間がかかるのはどこの世界も同じだ。

 9月の小麦の収穫が終わり、農作業がひと段落すると王国行事や式典等が次々に行われる。一年で一番忙しい主食の収穫と厳しい冬到来前の過ごしやすい時期にまとめて催し物を執り行うのはここローゼンヌ王国だけではなく、他国も同じである。

 ローゼンヌ王国は万年雪のあるヨミル山脈から一番遠いので他の国よりはまだ過ごしやすい方だがそれでも毎年馬車の往来ができなくなるぐらいは雪が積もる。

「ミラ、おまたせ~。こんな感じでどうかしら~?」

 深い青のドレスを着たイネスはミラの前でくるりと回って見せた。

 ミラよりも長いイネスの金色の髪は複雑に編み込まれドレスと同色の鍔の広い帽子の中に納まっている。

「帽子をかぶるならそんなに時間掛けなくてもいいじゃない~!」

「でも~、お上品な貴族の中にはいっていくのよ~。ちょっとでも良くみせたいわ~」

「もう!分かったから早く!」

 ミラの文句はもっともだが、母には母の言い分がある。

「あら?タケルは~?」

「お う こ く ぎょ う じ!。たくさんあって忙しくなるって昨日言ってたでしょ?もうとっくにでかけちゃったわよっ」

 タケルが一緒に行けないのは少し残念だが目一杯オシャレをした母娘は足取り軽く王都学校へ向かった。



 王都学校まで続く並木道は新入生と着飾った貴族の父兄でいっぱいだった。

 学校関係者がこまめに整備しているのだろう綺麗に整えられた背の高い並木道を抜け、守衛のいる門を超えて広々とした敷地に入った。

 これから3年間学ぶ校舎が正面にあり、整えられた樹木に囲まれた緑美しい場所が入学式の会場だ。

 一面芝生の中央に新入生の為と思われるたくさんの木製の椅子が並べられ、それを大勢の貴族が囲んでいた。

 入学式まではまだ時間があり、着席している子はまだまばらだ。

 敷地を見渡すと、着飾った貴族たちがいくつかのグループを作り談笑していた。

 当然イネスとミラに貴族の知り合いなど皆無で二人はタケルの入隊式と同じように敷地の隅で所在なく立っているしかなかった。

「・・・困ったわね・・・」

 特に何か困ったことが起きているわけではないのだが、以前からイネスが心配していた通りの状況で不安から出た言葉だ。

「だ、大丈夫よ、式が始まれば関係ないわっ」

 とミラは威勢よく答えたがイネスには緊張と不安でいっぱいという顔にしか見えなかった。

「やっぱりタケルが一緒にいてくれないと不安ねぇ・・」

「タケルが一緒にいたって何かが変わるわけでもないんじゃない?」

「そ、そうだけど・・・」

 そうだけど、タケルは”いつもなんとかする奴”だ。イネスは特に最近そう思うようになった。

 生活自体は女子二人いればどうとでも暮らしていけるが、タケルが来てからはやっぱり大事な所での男手の存在は大きいと思うようになってきていた。


「こんにちは。間違っていたらすみません、イネス・クルーゾー様と、ミラ・クルーゾー様ではないでしょうか?」

 と、そこへ一人の新入生らしき男の子が声を掛けてきた。

「え?あ、はい、そうですが、どちら様で御座いましょう?何か御用でしょうか?・・・」

 王都学校の制服を着たまだあどけなさの残るおかっぱの男の子だが、イネスもミラも面識はない。

「申し遅れました。僕はルイ・オークレイルと申します」

「え?!あの、オークレイル家の!??」

 イネスは驚き少し大きな声を出してしまって口を押えた。

「・・・お母さん、オークレイル家・・様・・って??・・・」

「ほら、小麦農場のっ」

 不思議そうなミラの問いにイネスは小声で耳打ちした。

「あ!!」

 ミラもようやく気付いた。

 オークレイル家は近衛隊隊長ロランのヴェルレイ家と並ぶローゼンヌ王国の二大貴族だ。

「こ、これは・・オークレイル様!失礼いたしました。ご、ご機嫌よう・・」

 イネスとミラは慌てて一歩退き挨拶をした。

「あ、どうか、そんな畏まらないでください」

「あの、それで私共にどういった御用でしょうか?」

 突然声を掛けてきた見知らぬ小公子にイネスは困惑して尋ねた。

「はい!実はお二人の事をタケル様からよろしくと言われています!」

「え?!タケルから?」

「はい!ですので、こちらへどうぞ!」

 ルイはにこやかに二人をいざなった。


「父様、クルーゾー様をお連れしました!」

「おお、初めまして。私はこのルイの父アルマン・オークレイルです。」

 恰幅の良いオークレイル家の当主は体格に合わない速度でイネスに近づき挨拶をした。

 巨万の富を持つ上級貴族は意外にも気さくな人柄の様だ。

「は、初めまして・・オークレイル公爵様・・」

 イネスはアルマンに気圧されながらなんとか挨拶をした。

「ごきげんよう、イネスさん、ミラさん。妻のジゼルです。お会いできてうれしいです。タケル様には息子達がとてもお世話になっている様で感謝しております」

「ご、ごきげんようジゼル様。ええと・・・」

 イネスはタケルに世話になっていると言われても、どう説明したら良いか分からず、返答に困った。

「あ、大丈夫ですよ。お二人とタケル様のご関係もだいたいの事はルイから聞いておりますわ」

「お、お気遣いありがとうございます」

 ジゼルの言葉に少しだけ肩の力が抜けた。

「こんにちはイネスさん、ミラさん、入学おめでとう」

 アルマンと一緒にいたもう一人の細身で背の高い貴族がイネスとミラにお祝いを言った。

「初めまして、有難うございます。ええと・・・」

 見覚えのない紳士に戸惑うイネス。

「これは失礼しました。お会いするのは初めてでしたな。私はダニエル・オーモンと申します」

「!オ、オーモン様、し、失礼しました!その節は大変お世話になりました・・ほら、推薦状を書いて頂いた・・ミラもお礼を!」

「あ、有難うございます!」

 入学に際して推薦状を書いてくれた王国顧問のオーモンだと気づき慌ててミラも礼を言った。

「なんと!オーモン卿が推薦状をかかれたのですか?これは珍しい」

「いえいえ推薦状などたいしたことではありませんよ、私よりもタケル殿に感謝するべきでしょう。王宮の居室にいきなり来られて推薦状を書いて欲しいと懇願されましてね。なんの事かとよくよく聞いてみれば、ミラさんを入学させたいという事でした。ロラン殿に知恵を貰って即私の所に来られた様で、若干言葉足らずな所がありますがとても行動力のある方ですね」

 オーモンは愉快そうに話した。

「タ、タケルらしいわ・・・」

 相変わらずの猪突猛進ぶりに思わずイネスが呟いた。

「わっはっは。そうでしたか。私はお会いしたことはまだないが本当に面白い方ですなタケル殿は」

「確かに変わった方ではありますが、頭の良いかたでもありますよ」

「え!?」

 オーモンの思わぬ発言にミラが一番驚いた。

「私は数週間タケル殿に読み書きと歴史をお教えしていたのですが、見知らぬ難解な文字を使いこなして、その上とても覚えが早く、どちらかで高い水準の教育を受けていたのではないかと思います」

 曲がりなりにもタケルは元の世界では高校生だ。

「?!そうなのですか?さすがタケル様、凄いですね!」

 何故かルイが嬉しそうだ。

「そ、そうなんだ・・・(そんな風に感じた事ないけど・・)」

 

「オークレイル様は、その、タケルとはどの様な・・?」

 オーモンとタケルの関係は分かったが巨大な農園を所有する王国一の貴族とタケルとの接点が全く思い当たらず恐る恐る聞いてみた。

「実は、僕は以前にオオカミに襲われていたところをタケル様に救って頂いたのです」

 イネスの問いに隣にいたルイが答えた。

「そ、そんなことがあったのですね・・」

「兄のテオはタケル様に剣術を習っているのだそうで、僕たち兄弟はタケル様には本当にお世話になっているのです」

「ええ?!タケルが剣術を教えてるのっ!?」

 今度はミラが思わず声を上げた。

「あ・・すみません・・」

 自分の知らないタケルの情報が続々と明かされ戸惑い気味のミラだ。

「タケル様は相当にお強いそうです。テオ兄様曰く、『手も足も出なかった』だそうですよ」

「あ!、『近衛隊の秘密兵器』!」

 イネスは店に来る常連客が時々ウワサをしているのを何度か聞いたことがあった。

「あは、よくご存じですね。それは兄が言い始めたみたいです。タケル様は嫌がっていましたが」

「タケルってそんなに強いのね・・・」

 ミラは中庭事件でタケルの実力の一端を垣間見はしたが、教えられるほどとは思っていなかった。


「それにしても、やっぱりミラさんはタケル様の事をタケル様とかお兄様ではなくてタケルって呼ばれるのですね。あはは」

「あ、いえ・・その、なんていうか・・・」

 しまった。いくら近しい間柄でも平民のイネスとミラが爵位を授かり近衛隊となった聖騎士を呼び捨てはこの世界の常識からありえない。

 常識がないと思われてしまっただろうか?ミラは少し反省して下を向いてしまった。

「あはは!大丈夫です。僕も、様とかそんなに畏まった呼び方をしないで欲しいと言われました。とても気さくで面白い方ですよね!」

「うむ。お二人とタケル殿がいかに良い関係だということがわかるというものです。わっはっは」

 アルマンは上を向いて豪快に笑った。

「ぷ・・」

 豪快なアルマンと礼儀正しそうな感じのルイは顔も雰囲気もあまり似てはいないが笑い方は同じみたいだ。ついイネスも釣られて笑ってしまった。


「おや?そろそろ式が始まるみたいですね」

 オーモンが会場に姿を現した校長のマチュー・マルティネスを見つけた

 マチューに続いて教師らしき数人が一列になって会場入りしたのを見て新入生達が席に着き始めた

「僕たちも席につきましょう」

 ルイとミラも会場の中央にに並べられた椅子に他の新入生達に混ざって座った。


 周囲を見渡すと新入生達は賢そうに見え、ミラは急に緊張してきた。

 自宅に家庭教師を呼び読み書きを覚えた後13歳で王都学校に入学するのが一般的だ。ミラは仕事の合間にイネスに読み書きを教わったし、自宅が食堂なので簡単な計算は出来るが貴族の子供のようなきちんとした教育を受けてはいない。

 後ろを振り向くと20メートル程離れた所でイネスとジゼルがなにやら楽し気に話をしていた。

 今度は隣に座るルイを見た。自分よりも少しばかり幼い顔立ちだが、とてもしっかりしている印象だ。

「どうしました?」

 あたりを見回して何事か考え込んでいるミラにルイが話しかけた。

「ちょと緊張してきちゃったのと・・・」

「のと?・・・」

「・・・タケルって、凄いなって思って・・・」

「そりゃあ聖騎士様ですから。色々と言われていますが基本精霊魔力は剣の修練を重ねた者にしか発現しないというのが共通認識です」

「違うの。そうじゃなくって、タケルってうちに来てから2か月ぐらいしかたってないのに物凄く沢山友達作ってて凄いなって・・・」

「あは。僕や兄様がタケル様の友人の中にはいっているかはわかりませんが、タケル様の性格が人を集めるのではないでしょうか?」

「タケルの性格?」

「うん。タケル様って、誰にでも同じように話しますよね?近衛隊長のロラン様や副長のアルベール様とも友人の様に話をしていたと兄様が驚いていました」

 そういわれると思い当たるところがある。

「でも無礼な言葉遣いをするわけではないという所が接しやすいのではないかな?。あと、オーモン様に突撃したみたいに必要とあればどんどん前に出るという性格も影響しているんじゃないかな?」

「そうね、普段大人しくしているのに何故か目立つのよね・・・」

「あはは。そうそう。不思議な方ですよね!」

「私はあんなに沢山友達作れるかな?・・・」

「それでさっきから周囲を気にしたりして落ち着かないかんじなのかな?」

「うん。みんな貴族の子だし。その、ルイ君も」

「僕をミラさんの友達にしてくれないんですか?」

 ミラはえ?という表情でルイを見つめた。

「私は貴族じゃないけど・・それでも良いの?」

「そういう事を一生懸命気にして生きているオトナもいっぱいいるけど、僕はタケル様の様な生き方をしたいと思っています。是非ミラさんの一人目の友達にしてください」

「あ・・・」

 こんな事を言われたことがないミラは顔を赤くして黙ってしまった。

「あの、ダメかな・・?」

「あ、ううん、有難う」

 内心飛び上がるほど嬉しかったが、なんだかとても恥ずかしくなったので平静を装い小さく返事をした。

「じゃ、今から君とかさんとかはナシにしましょう!」

「う、うん、わかったわ」

「ところで、ミラは僕の事をタケル様からなにか聞いてはいないのですか?」

「んーと、学校の知り合いに心当たりがあるって」

「えええ!?それだけ??!」

「うん、それだけ」

「オーモン様の言っていたタケル様の言葉足らずの部分ですね!あは」

「そうね。あはは」

「コラッ!そこ、しーずーかーにーっ!」

「す、すみませんっ!」

 反射的にルイが起立して元気よく謝った。全く聞いてなかったが校長の訓話中だった。

 クスクスとを押し殺した笑い声が聞こえる。

「ぷ・・」

 指摘されて一瞬固まってしまったが、ルイのリアクションが良すぎてミラも小さく吹いた。


 貴族の子供ばかりの所に飛び込むので嫌な事もあるだろうという事は覚悟している。しかしルイと出会えて楽しみも増えた。

「よし!」

 明日から勉強も頑張ろう!と気合を入れたミラだった。


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