近衛騎士団の記章
天井のとても高い、大広間の中央に10名の見習い騎士達が整列していた。
紺色の制服に身を包み皆緊張の面持ちで直立している。
その最右翼に小柄な少年が居た。
騎士団入隊の10名の少年たちと共に近衛隊の入隊式に臨むタケル・クサナギ17歳だ。
黒を基調とした近衛隊の制服には右肩から胸に豪華な金色の飾緒がゆったりと流れている。
並列している見習い騎士10名は紺色の制服でシルバーの飾緒だ。
上座の高い場所には中央にアデール姫が座り両翼に各ナンバー騎士団の団長、副団長、近衛隊隊長のロランやアルベールといった騎士団のトップが居並ぶ。末席には聖騎士ルイーズの姿もあった。
名立たる貴族達が周囲を取り囲み入隊式に臨む若き獅子達に熱い視線を贈っている。
その中にイネスとミラも居た。
「タケルってば、緊張したカオしちゃって・・」
「ミラ、し!・・・」
「!・・・」
イネスに窘められてミラは口を押えて下を向いた。
貴族数名の祝辞が終わると宰相のフィリップ・ハリス卿が登壇した。
「ではこれより、記章を授与する。名前を呼ばれた者は登壇せよ!」
第一騎士団団長が席を立ち、アデール姫に一礼すると漆黒のトレイを持った従者と共に中央に歩を進めた。
「第一騎士団!レオン・カルダン!」
「はっ!」
レオンはよく通る声で返事をして登壇し、第一騎士団長に対し挙手の敬礼をした。
第一騎士団長も敬礼を返し、直る。
第一騎士団長は従者の持つトレイに乗せられたシルバーの記章を取り、レオンの胸に付けた。
「おおおおお・・・」
拍手が沸き起こった。
平和の象徴とされる国鳥の羽と剣と盾をイメージした記章を第一騎士団長に付けて貰い、レオンは誇らしげに胸を張った。
授与式を見守る貴族達の中で明らかに落ち着きのない中年の男がいた。恐らくはレオンの身内だろう。しきりに口髭をさすり両隣の貴婦人に何事か話しかけている。「あれはワシの息子だ!」と聞こえてきそうだ。
家長が興奮するのも無理もない。王国に300人しかいない騎士団入隊は大変な名誉であり、家の誇りだからだ。
10名の見習い騎士達は記章を授与され、それぞれ各騎士団に配置を言い渡された。
次はタケルの番だ。
ひとつ小さく咳ばらいをしてハリス卿が声を発した。
「では、次に近衛隊!タケル・クサナギ!」
「!ひゃいっ!」
緊張して声が裏返ってしまった。
「おお、今年は近衛隊昇格者がいるのか」
「クサナギ・・・はて?きいたことがありませんな?」
「あの小柄な少年が近衛隊!?」
「随分と若く見えるが・・見習い達と同じぐらいですかな?」
「黒髪とは珍しい、外国の縁者でしょうか?」
・・・・。
タケルの登壇でざわつく観衆。
「タケル、だいじょうぶかな・・・?」
何故か緊張して両手を胸の前で組むミラ。
「ふふ、あなたが緊張してどうするのよ」
最近は本当に兄妹みたいだ。
登壇したタケルを近衛隊長のロランが待っていた。
敬礼したタケルの胸にロランが金色に輝く記章を付けた。
デザインは騎士団と同じだが材質は純金だ。
騎士団、近衛隊の記章は複数贈られ、以後制服や装具、私服にも装着が義務付けられる。
これは「騎士は全ての模範であらねばならない」という今は亡きジョルジュ王の訓示を受け、ロランが決めた事だ。
貴族達はクサナギという聞き慣れない家名と思いの外小さいタケルの容姿にとまどいつつも二年ぶりの近衛隊昇格者に拍手を送った。
タケルに近衛隊の記章を付けたロランが後方に振り向き、「もう一つ」というジェスチャーをすると、黒塗りのトレイを持った従者がもう一人近づいた。
「???」
「ん???」
「なんですかな??」
予定にないロランの行動に訝しむ出席者達。
「あ、ロラン、それは私にやらせていただけないでしょうか?」
アデール姫が立ち上がり言葉を差し入れた。
「???!」
「姫??」
「何事でしょうかな??」
大広間は更にザワついた。
整列して見守る新兵達も言葉は発しないが顔を見合わせる。
ロランにも想定外だったのだろう、一瞬驚く表情をしたが、にっこりと微笑んでアデール姫に場所を譲った。
「(ええええ?!・・)」
アデール姫はタケルの前に立ち、従者の持つ黒塗りのトレイから新たな記章を取った。
「え?」
「!あ、あれはっ!!」
「ま、まさか!!」
「聖騎士の記章!」
一段高い場所にいる各ナンバー騎士団の団長も驚きの声を上げた。
「ロラン殿、人が悪いですぞ。そうならそうとおっしゃっていただけたらいらぬ面倒など・・・」
第三騎士団長のハイラムが隣の席に戻ったロランに恨み言を言った。
「はは、いや、すまない、色々と事情があってね」
ロランはポリポリと頬を掻きながら小さく笑い、ジト目のハイラムに小声で謝罪した。
「ま、まさか・・・・」
「う、ウソだっ!!!・・・」
大広間の中央で横一列に並んでいる新兵達も驚きのあまり声が漏れてしまった。
騎士団の記章を授与された得意げな表情は消えて失せていた。
大慌ては副長アルベールだ。大声を上げたいのを必死に堪えて「跪け!」のゼスチャーを送る。
「あ!」
姫の御前である。
大げさに手と体を上下させる副長の姿を目にしたタケルは慌てて片膝をついた。
国王は前大戦で命を落とし、政略的事由により公表されてはいないが王妃は重い病により逝去した今、アデール姫は国を統べる女王だ。
出会いの経緯も手伝ってタケルには友達の様な感覚でアデールが一国の王という感覚がない。
「ふぅ・・・」
「あ、あやつはこういったイレギュラーに極端に弱いですからな・・・」
「はは。タケルのコントロールはなかなか難しいね」
アルベールとは対照的にロランは楽しそうだ。
「手のかかるヤツだ・・・」
ハンカチで汗を拭いながら着席するアルベール。
「だ、だいじょうぶでしょうか?」
いつもは冷静沈着なルイーズも不安げな顔そしている。
「・・・」
この先も油断できないと難しい顔でタケルを凝視するアルベール。
「立って下さいな、タケル」
「は、はい」
タケルはガチガチに緊張して立ち上がった。式典前、アルベールと立ち振る舞いの特訓をしたがアデールを前にした練習はしていない。
アデールは聖騎士の記章をタケルの胸に付けた。
「おめでとう、タケル。これから王国をよろしくお願いしますね」
アデールは弾けるような笑顔でタケルに声をかけた。
「~~~!!はい!俺、姫の為にがんばりますっ!」
金色のキレイな長い髪、透き通るような白い肌のアデールのとびきりの笑顔にタケルは舞い上がってしまった。
「え?!」
びっくりしてきょとん顔のアデール。
後方に控える近衛隊の面々も一斉にきょとん顔になる。
「!あ、あの、ばかっ!!”剣となり、盾となり、王国の平和と国民の未来の為にこの身を捧げます”
だっ!!」
口を開けすぎたアルベールはアゴが外れそうだ。
「!!あ・・・」
あれだけ練習したセリフがすっかりヨミル山脈の向こう側に飛んでいってしまった。
(!!し、しまったぁ・・・ど、どうしようっ?!)
頭が真っ白になるとはこの事だ。タケルは数秒固まった後、ハっと思いつき、取り合えず片膝を付いてみた。
「ぷっ!!」
こらけきれずアデールは壇上で両手を口に当てて笑ってしまった。
「む、くっ・・・」
耐えきれずロランも吹いた。
「くっくっく・・・あの聖騎士殿は大丈夫なのか?」
ロランの右隣りに座る第三騎士団長のハイラムも肩を揺すって笑った。
「も、問題ない、大丈夫だ」
片膝を床につけたまま引きつった顔でタケルはちらっと来賓席を見た。
全員下を向いて肩を揺すっている。
いつも冷静沈着なルイーズまで右手で顔を半分隠し、横を向いて上下に揺れていた。
(・・・・やってしまった・・・)
幸いなことに嬉しそうなアデール姫の姿に大広間は大歓声に包まれ、壇上の出来事は来場者には殆ど分かっていないようだった。
式典後は隣接する中庭も開放し立食パーティとなった。
「聖騎士殿、是非我が家のお茶会に!」
「聖騎士様はおいくつで御座いますか?これはうちの二女で御座います!どうぞお見知りおきを!」
我先に新しい聖騎士に取り入ろうとする貴族達にタケルはあっという間に囲まれてしまった。
「いったいどうしたというのだ?!早く聖騎士様にご挨拶に行くのだっ!」
一方で中庭の一角で声を荒らげる者がいた。
あまりの剣幕に驚いて皆が振り向く。
激しく叱責されているのは今日騎士団の記章を授与されたジャン・ウイリーだ。
右頬にバッテン傷のあるやんちゃ坊主は騎士団の記章を授与された晴れの日に父親に叱責され顔色を失ってしまっていた。
ジャンだけではなく、他の新兵達も皆下を向いて小さくなっていた。
「(そういえば、テオさんが言っていたな・・)」
修練場で著しく礼を欠いた彼らがタケルに挨拶等出来るはずもない。
階級社会に於いて王国に数十名しかいない近衛隊という地位の影響力は絶大で聖騎士となれば尚更だ。
自業自得とはいえ一生に一度の式典で叱責されるジャンをタケルは居た堪れない気持ちになってしまった。
そんな中、如何にも上級貴族といういでたちの若い夫婦が人垣をかき分けてタケルの前に立った。
「聖騎士殿、本日は近衛隊入隊おめでとうございます。私はオベール・カレリーナと申します。お見知りおき頂けましたら幸いでございます」
「タ、タケル・クサナギです。こ、こちらこそよろしくお願いいたします」
今日はタケルよりもはるかに年齢が上の貴族達から次々に挨拶されるが、社会経験の全くないタケルにはどう接すれば良いのか分からないので近衛隊副長のアルベールに言われた通り取り合えず挨拶だけ無難に済ませている。
「こちらにいるのは妻のエミリと娘のジュディットでございます」
「初めましてタケル様、オベールの妻のエミリと申します。本日はおめでとうございます」
色白のほっそりとした貴婦人が恭しく挨拶をした。
「タケル・クサナギです。有難うございます」
「・・・」
「?これ!、ジュディット、聖騎士殿に挨拶をしなさい」
父の背に隠れるようにいた少女がオベールに窘められて下を向きながら前に出てきた。
「あ・・・」
何処かで聞いた名前だと思っていたら、一緒に修練していた見習い騎士のジュディだった。
「せ、先日は申し訳ありませんでしたっ!」
「?!!」
「!!!」
タケルの前に出た途端ジュディットは意を決して謝罪の言葉を発し、サラサラのポニーテールを激しく揺らして片膝を付いた。
「な?!お、おまえっジュディ!タケル殿に何をしたのだっ!?」
オベールは突然の出来事に相当驚いた様子でタケルとジュディットを交互に何度も見ながら大声で問いただした。
取り囲む他の貴族達も驚き、困惑してざわついている。
「わ、、私は・・・修練場で・・・も、申し訳ございません!!」
ジュディットは片膝を付き、下を向いていて表情は見えないが全身を小刻みに震わせていた。
オベールはガニ股で娘を見下ろした姿勢で口を大きく開けたまま言葉が出ない。妻のエミリも目を見開き、両手で口を押えたまま固まっている。
「自業自得だ」テオの言葉が再びタケルの脳内を駆け回る。
(そ、それはそうなんだけど・・・)
その場にいる全員が無言となり、誰も言葉を発することが出来ない。
沈黙の数秒がとても長く感じる。
(!!!・・ま、マズい・・・。なんとかしないと・・・)
確かに見習い騎士とは色々あったがこういう雰囲気はニガテでタケル自身も望んでいない。
「あ!あああっ。え、え~と!・・・お、俺がジュディさんの木剣を勝手に借りちゃって、その、ま、まだ返してなくって、随分と手に馴染んでいるもんだからつい、返しそびれちゃって・・・か、返して欲しいって言ってたんだよねっ!、ごめんね!また今度返すからもうちょっと待っててくれるかな?!」
ジュディが謝罪しなければいけない様な事ではないし、色々と辻褄の合わない話だが、この場はなんとか収めたい。
「!??」
ジュディは不安そうな表情に疑問符をくっつけた様な複雑な顔をしながらゆっくりと顔を上げた。
「お??お、おお・・??そ、そのような事が?、ジュディ、そんな些細な事は良いではないか?タケル殿、木剣等いくらでも差し上げまずぞ。」
オベールは娘のエディット以上に青い顔をしていたが、安堵の表情に変わり、ハンカチで額の汗を拭ってホっと息を付いた。
「あらまぁ!ほほほ」
「聖騎士様ったらカワイイですわねぇ」
タケルが逆に謝る事で凍り付いていた周囲もなんとか和やかな雰囲気に戻った。
文字通り一騎当千の聖騎士は驚異の存在だ。機嫌を損ねたら家の存続に関わる大事に発展する。
(なんだろう・・イヤな感じだな・・)
「タケル様・・・本当に失礼しました・・・」
落ち着きを取り戻したジュディが再び謝罪した。
「ああ、もうそのいいからさ、あと、様っていうのはやめてくれないかな?タケルでいいから」
まるで腫れ物に触るようなリアクションにタケルは何とも言えない疎外感を覚え始めた。
「い、いえ!その様に呼び捨ては・・」
「あと、ちょっとここから抜け出したいから、ちょっと静か~にしててね。はは・・」
「は、はい?!」
タケルは無表情になりゆっくりと身を沈めて気配を殺し、取り囲み談笑している貴族達の輪をかき分けて抜け出した。
「あ、いた!」
周囲を見回したタケルは中庭の隅にいたイネスとミラを見つけて足音にも気を付けながら駆け寄っていった。
「イネスさん、ミラ、来てくれて有難う!ドレスとっても似合ってますよ!」
「あらぁ、お上手ね~有難う」
イネスは胸元の大きく空いた濃いブルーのドレスのスカート部分をつまみ、嬉しそうに会釈して見せた。
ドレスは時々いる意地の悪い貴族に負けない様にミラの靴と一緒にタケルがプレゼントしたものだ。
「あれ??」
なぜかミラはイネスの影に隠れていた。
「???どうしたの?ミラ?」
「ん~。この子ガラにもなく照れちゃって」
「えええ?!ミラ?」
大概こういう状況になると「そんなことないわよっ!」と、なるのだが、慣れない王国の式典の雰囲気で勝手が違うのだろうかずっとイネスのフルフリの袖に顔を押し付けたままだ。
普段は大胆で物おじしない感じのミラと控えめだと思ってたイネスが入れ替わってしまったかの様でタケルはちょっとおかしくなった。
「凄い記章を二つも付けて今日はタケルがとってもカッコいいからぁ。うふふ」
ミラはチラっとタケルの姿を確認するとすぐにまたイネスの袖に隠れた。
そういえば王都学校の制服を見ていた時も、入学手続きの時に現れた近衛隊の制服を着たルイーズを見た時もハート型の目をしていた。
「(も、もしかしてミラって制服フェチなのでは・・!?)」
「少年、やっと解放されたようだな」
そこへロラン、アルベール、ルイーズの近衛隊幹部がやって来た。
「あ、ロランさん、アルベールさん、ルイーズさん!」
「タケル、さっきは肝を冷やしたぞっ」
記章の授与式での失態だ。
予定ではロランが記章を授与する役だったが、急遽アデール姫に変わっってしまった事で練習したセリフが飛んでしまったのだ。
「姫が笑ったお陰で和やかなまま終わったが、今後は気を付けるように。まあ普段はあまり感情を表に出さないルーズまで笑っていたのだがな。あはは」
「に、兄様・・・」
意図せず話を振られたルイーズが少し顔を赤くし、恨めしそうにタケルに視線を向けた。
「う・・・・・・・」
「近衛隊、聖騎士となったからにはこういった式典への出席の機会はどんどん増えていく。慣れていかないとだな少年」
「す、すみません・・・なんだか頭が真っ白になってしまって・・・」
「まったく相変わらずだな・・。剣術の時は驚くほど冴えるクセにどうして普段はああなのだ??。不思議な奴だ」
「は、はは・・・なんででしょ・・・」
自覚はあるのだが特段意識しているわけではないので如何することもできない。
「それから、タケルは正式入隊となったのだから、ロランさん、アルベールさんではなく、今日から隊長、副長と呼ぶのだ」
「わ、分かりましたルイーズさん。あの、先日は助けていただいて有難うございました」
「身元引受人にまでなっていただいて、なんとお礼をしたら良いか・・・本当にありがとうございました」
イネスも礼を言った。
「ん?ああ、入学の件か。問題ない」
「ほら!ミラもお礼を」
その場の全員がイネスの右袖あたりに視線を向けるともじもじしながらミラが顔を出した。
「君の事はタケルから聞いているよ。入学おめでとう」
「うむ、我々もタケルには少々振り回されたがな。はっはっは」
「タケルは普段は本当に不器用だからな」
「す、すみません、副長、ルイーズさん・・・」
はぁ、とタケルは肩を落とした。自分でももう少し上手く立ち回りたいとは思っているがどうしようもない。
「ロラン様、アルベール様、有難うございます。ル、ルイーズ様、先日はありがとうございました」
ミラはイネスの後ろに半分隠れながらもお辞儀をし礼をした。
「ああ。で、母の影に隠れてしまって今日はどうしたのだ??」
「・・・」
憧れの聖騎士ルイーズを前にしてさらに小さくなってしまっている。
「すみません、この子照れてしまって・・」
本当に今日は別人の様に塩らしいミラだ。
「あ!そうだ、ミラ!王都学校の制服着てるんだろ?見せてよ。俺は明日一緒に行けないし」
一瞬間があったが、ミラはぴょこんと小さくジャンプしてイネスの隣に並んだ。
純白のブラウスと紺のスカートは腰の部分が少し締まっていてドレスの様だ。
足元はタケルと一緒に買いに行ったちょっとだけかかとの高いピッカピカの黒い靴。キレイに束ねたおさげ髪と相まってとても初々しい新一年生だ。
「か、カワイイじゃん!」
「うむ。とても似合っている」
タケルの言葉にルイーズも頷いた。
ミラは一瞬で顔を赤らめ下を向いてしまった。
「それにしてもこんな隅の方ではなくて真ん中の方で食事をされては如何ですかな?」
アルベールの指摘したようにタケル達がいるのは中庭の端っこだ。
「そうですね、イネス殿とミラさんはタケルの家族だ。それにせっかくイネス殿もドレスアップされているのですから堂々と中央に行かれるのが良いと思います」
「有難うございます、アルベール様、ルイーズ様、でも、やっぱり私たちは貴族ではありませんので、こちらで・・・こういった式典に出席出来るだけで一生の思い出です」
タケルは自分がもしイネスの立場でも同じように辞退しただろうなと思った。貴族社会は気が休まらない。
「むう・・・そうですか、では何か飲み物を取ってこさせましょう」
「あ、いえ、その様な・・ルイーズ様お構いなく・・」
「みなさん楽しそうですわね、私も混ぜてくださいな」
そこへ侍女を連れたアデールがやってきた。
「おお、姫様」
「!アデール姫様」
全員が一歩退き礼をした。
「そのままで構いませんわ。何処を探しても見当たらないとおもったら皆さんこんな隅の方にいらしたのですね~。イネスさん、ミラさん久しぶりですわね」
「あ、アデール姫様、ご、ごきげんうるわしく・・・」
「ひ、ひめさまご、きげんよよう・・」
突然のアデールの登場に挨拶がぎこちないイネスとミラ。
「そんなに気を使わなくても大丈夫ですわ。一緒にさらわれた仲ではないですか」
「ぶ・・・」
(どんな仲ですか・・・)
「ひ、姫、その様な表現は・・・はは・・」
国の一大事を笑顔でサラッと言ってしまうアデールに流石のロランも苦笑いだ。
アデールが言い出すまで忘れていたがアデール、ミラ、タケルの3人はゴズワール王国のオルティエ騎士団によってここで拉致されかけたのだ。
(あれからだいたい2か月ぐらいかな・・)
タケルは取り巻く環境が猛烈なスピードで変化していく中よく対応できている方じゃないかと思った。
「おお、姫様と聖騎士様はこちらですぞっ!」
(あ・・・見つかった・・)
見知らぬ老貴族の一声でタケルは再び取り囲まれてしまった。
「あ、そうだ、少年、お前には茶会や式典への出席依頼が早くも沢山来ている。明日から忙しくなるので覚悟しておくのだっ!」
押し寄せる人の波に攫われながらアルベールは必要な事を伝えた。
「!!えええ・・・わ、分かりました・・・」
その日ミラはずっとルイーズとタケルの横にいてとても嬉しそうにしていた。




