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タケル奮闘す。

「失礼します!!ロランさんっ!!」

 タケルはこれでもかという笑顔で近衛隊執務室の扉を勢いよく開けた。

「!!」

「き、昨日から騒々しいな・・・」

「今度はなんだい?タケル君」

「あの、王都学校に入学するにはどうしたら良いでしょう?」

「学校に行きたいのか?少年」

「いえ、俺ではなくって、ミラなんですが・・・」

「ああ、ミラちゃんの事か。タケル君、校長は学校に居ると思うので直接申請に行けば良いとは思うが・・・」

「・・・うむ、少年、残念だが入学手続きの期間は既に終了していると思うぞ」

「!!え・・・・・・」

 思ってもないアルベールの言葉に固まるタケル。

「2~3か月前に済ませておくものだからな」

 追い討ちをかけるルイーズ。

「そ、そんな・・・・」

 ロラン、アルベール、ルイーズの3人は顔を見合わせた。

「昨日あんなに喜んでたのに・・・ど、どうしよう・・・」

「まぁまぁ、タケル君、事情を詳しく話してくれないかな?」

 タケルは昨日までの経緯を3人に詳しく話した。


「ふふ・・・なるほど、それで小麦収穫作業をする為の2週間休みだったんだね」

「はぁ・・・近衛隊で給料がもらえるとか知らなくて・・・」

「はっはっは。相変わらずのおっちょこちょいだな少年、しかしちょっと遅かったなぁ・・・」

「・・・」

 しゅんと下を向くタケル。

「そう落ち込むなタケル君。まぁ手が無くもないぞ」

「え!!!ホントですかっ!?」

 一気にパっと明るい顔に戻る。

「忙しいヤツだな・・・」

 半ばあきれ顔のアルベールだ。

「アル、オーモン卿に推薦状を描いてもらってはどうだろう?」

「なるほど。その手がありますな」

「オーモン先生ですか?!」

「そうだ。オーモン卿は王国顧問となる前は王都学校の副校長だったんだ。彼の推薦状があればなんとか一人ぐらいねじ込めるんじゃないかな?」

「お願いしますっ!どうかお願いしますっ!先生はどちらにお住まいなんです?!今から行ってきます!」

「まぁ落ち着けタケル。オーモン卿は現在この王宮の3階に住まわれている。なので・・・」

「3階ですね!有難うございますっ!行ってきます!失礼します!」

「お、お、おい、ちょっと、こら・・・」

 タケルはあっという間に執務室を出て行ってしまった。

「・・・あやつイノシシかっ。どうしていつもああなのだ?・・・」

「剣を持ったときとは別人ですね・・・兄様がいつも言っていますが本当に不器用だ」

「ふふ。ミラちゃんの為にあんなに一生懸命で、妹想いのとても良い奴じゃないか」

 実際にはミラはタケルの妹ではないのだが、その関係性は家族と変わりはない。

「しかし隊長、タケルはともかくクルーゾー家は平民なのでオーモン卿の書状を持参して行ってもすんなり通るとは思えませんぞ」

「うーん・・・そうだなぁ・・・」

 顎に手を当てて少し考えを巡らせるロラン。

「兄様、私が出向いて行ってもよろしいでしょうか?」

 ロランとアルベールはおや?という表情でルイーズを見た。こういう事を自分から言い出すのは珍しい。

「行ってやれるか?ルイーズ」

「はい。では」

 ルイーズは何時ものように短切に返事をして出て行った。

「ルイーズはタケルに対してわだかまりがあった様だが解消されたのかな?」

「どうか分かりませぬが、良い傾向ですな」

「ああ、そうだな」



 エマーブルに戻るとイネスとミラは出かける準備を終えてタケルを待っていた。

「どうだった?隊長さんはなんて?」

「ふっふっふ。じゃ~~んっ!」

 タケルは手に持っていた王国の紋章入りの羊皮紙を大げさに広げて見せた。

「それは??」

「オーモン公爵の推薦状!」

「えええ!?、オーモン公爵って、あの王国顧問の?!」

「そう!」

 タケルは得意げに胸を張って鼻を擦った。

 オーモン公爵は快く推薦状を書いてくれたのだ。

「タケル!凄い!エラいっ!」

「へへ。じゃ、王都学校に行こうっ!」

「おーーーっ!」



 王都学校は王宮から南に徒歩30~40分程の場所にある。エマーブルからもそれ程遠くはない。

 手入れの行き届いた一直線の並木道を抜けると至る所に細かな彫刻の施されたベージュ色の3階建ての建物が現れた。王宮程ではないが立派な建物だ。柵は無いが広い敷地の手前に詰め所があり3人の衛兵がいた。

 校長に面会したい旨を伝えると、アポを取っていない者は通せないと言う。

 しかしオーモン卿の推薦状を見せた途端態度が急変して校長室に案内してくれた。

 さすがは王国顧問だ。

 一階にある校長室に入ると、いかにもウデの良い職人が拵えた様な書棚の前にでっぷりとしたお腹の初老の男が立っていた。

「初めまして。イネス・クルーゾーと申します。本日はお忙しい中急にすみません」

「こんにちは、イネスさん。私は王都学校校長のマチュー・マルティネスです。本日はどのようなご用件ですかな?」

「はい、実はこの子、ミラ・クルーゾーの入学をお願いに上がりました」


「ふむ。まあ、お掛けください」

 3人は応接用のふかふかのソファに座った。

「しかしクルーゾーさん、入学手続きの期間は過ぎておりまして、困りましたなぁ」

「存じてはおりますが、このようにオーモン公爵の推薦も頂いておりますのでなんとかお願いできないでしょうか?」

「拝見してよろしいですかな?」

 イネスはオーモン卿の書状を手渡した。

 マチューは薄い頭を前後に動かしてイネスとミラと書状を交互に見た。

「書状は間違いなくオーモン殿の直筆の様ですが、失礼ながらクルーゾーさんは貴族ではないと見受けられます。どの様な経緯でこれを?」

 貴族社会のイヤな所だとタケルは思った。

「その書状は俺が頂いてきました」

「ふむ。君はクルーゾーさんとどういったご関係ですかな?」

「俺はタケル・クサナギと言います。来月近衛隊に正式入隊が決まっています。その縁でオーモン先生に推薦状を書いていただきました。イネスとミラは俺の家族です」

「?では君はクルーゾー家のご長男ということですかな?」

「え・・・いえ、そういうわけでは・・・」

「ふむ・・・何かよく分からない関係ですねぇ・・・」

「あ、でも入学金はきちんと用意してきました。なんなら3年分の授業料も今お支払いします!」

「失礼だがタケル殿の爵位は?」

「お。俺は男爵です」

 マチューは腕組みして考え込んだ。

 イネスとタケルは固唾をのんでマチューを見つめた。

 ミラはカチカチに固まって緊張している。

「申し訳ないですが、今のお話の内容では入学を認めるわけにはまいりませんなぁ」

「!!何故です?!オーモン先生の書状もあるし、必要なお金も今お支払いできるんですよ?!」

 タケルは食い下がった。ここまで漕ぎつけて簡単には退けない。

「まず、第一に身元の分からない者を入学させるわけにはいきませんのでなぁ」

「・・・・」

「第二に、タケル殿は近衛隊だとぉおっしゃるが、私はクサナギという家名を今初めて聞きました。私は立場上、騎士団や近衛隊に知り合いが多いのですが、タケル殿の事は全く存じておりません」

「そ、それは・・・」

「三つめはその入学金をお支払いになるタケル殿とぉクルーゾーさんとの繋がりがぁ分からない」

「・・・」

 貴族特有のハナに突く冷たい言い方が頭に来るが、言っていることは正しい。

 タケルはミラをチラっと見た。下を向いて悲しそうな顔をしている。

「で、でもっ!!・・・」

「タケル、有難う・・・もういいから・・・・」

 ミラが言葉を絞り出した。

「く!・・・・」

「では。そういう事でよろしいですかなぁ?私も色々と忙しい・・」

 コンコン。

 マチューが席を立とうとしたとき校長室のドアがノックされてさっきタケルたちを案内した衛兵が顔を出した。

「お話中すみません。校長に面会したいという方が・・・」

「ふむ。今日は急な来客が多いな。こちらの方との話はすぐに終わるのでぇ、少し待ってもらいなさい」

「あの、それが・・・」

「どうしたのだ?」

「あ!・・・」

「失礼します」

 衛兵が何故か慌てて扉の後ろに下がると見慣れた女性が入れ替わって入室した。

「!!!」

「!!!」

「ルイーズさんっ!」

「こ、これはルイーズ殿!どうなされたのですかっ!?」

 突然の聖騎士の登場にさすがのマチューも立ち上がって迎えた。

 タケルもイネスもミラも驚いて立ち上がる。

 ルイーズは見慣れた装具≪プレートメイル≫や服装ではなく、黒で統一された近衛隊の制服を着ていた。

「・・すてき・・・」

 状況を忘れてミラが思わず呟いた。

「い、今しばらくお待ちいただけたらこの者たちはすぐに帰りますので・・・」

 タケルたちには嫌な言い方をする。

「いや、今日はミラさんの入学の件で来たのだ。このまま話を聞いてはもらえないだろうか?」

「え?!あ、ああ、は、はい、ど、どうぞこちらへ・・・」

 驚き狼狽えるマチュー。

「そこのタケル・クサナギは来月の式典で姫様から記章を授与されて近衛隊に入隊となり、侯爵に陞爵する」

「!!!!」

「そしてミラ・クルーゾーの身元はヴェルレイ家が保証する」

「!なんとっ!!!」

 マチューは腰が砕け、ソファーに埋もれた。

「王室顧問の推薦状があり、入学金と授業料は近衛隊の騎士が支払う。そして学生の身元は我がヴェルレイ家が保証する。これ以外に必要なものがあれば言っていただきたい」

「そ!そんなっ!じ、十分でごさいますっ!!!す、すぐに書類を・・・て、は、いを・・・!」

「では、そういう事でよろしく頼みますマチュー殿」

「は、はは~~~・・・!!」

 水戸黄門にひれ伏す悪代官みたいだ。

「ミラさん、励むのだぞ」

「はい!有難うございます!」

「ルイーズさん、有難うございました!」

 ルイーズはミラに優しく微笑んで校長室を後にした。

 さすが王国一の上級貴族だ。あっという間に話をまとめて去っていった。

「(か、格が違いすぎる・・・)」

 直後マチューは部屋中を駆け回りあれこれ書類を並べてあっという間に手続きが完了した。


「す、少しお聞きしてよろしいですかな・・」

「?なんでしょう?」

「タケル殿は何者なのですか?・・・」

「あらあら~、タケルは近衛隊の秘密兵器ですのよ」

「???」

「!うぐぅ・・・(テ、テオさん・・・・)」


 ルイーズの絶大な影響力もあってミラの入学手続きはあっという間に終わった。

 帰りの道中ミラは終始ご機嫌でイネスの横をスキップしながら歩いている。

 その理由は大事そうに両手で抱えている王都学校の制服だ。

 一週間後に入学式を控えており、採寸をして貰ったが仕立てた制服は間に合わないためサイズの近い予備の制服を一着貰ったのだ。

「タケルー!はやくっ!おーそーいーっ!」

 二人の5~6メートル程後を歩いているとミラが大声で急かした。

 多分はやく帰って制服を着てみたいのだろう。

「はぁ・・・ついさっきまでしゅんってなってたのに・・・忙しいやつだなぁ・・」

「む。なんか言った?」

「い、いえなんでもございません・・お嬢様・・」

「あらあら~タケルだって喜怒哀楽はとってもわかりやすい方だとおもうわよ~」

「え・・・そ、そうかな・・そうなのかな・・?」

「そうよ~。ふふふ。タケルとミラってとっても似てるとおもうの~」

「!!似てないわよっ!」

「!!似てないですよっ!」

「ほらね~」

「あ・・・」

「・・・・」

 イネスさんには敵わないな・・。

「タケル、ミラの為に色々本当にありがとうね」

「え?いえ、今日はほとんどルイーズさんのお陰のようなものですし、はは」

「そんなことないわ、本当にありがとう」

「いえ・・・そんな・・・」

 こんなに感謝されるとちょっと気恥ずかしい。

「あ、そうだ。イネスさん」

「なあに?」

「俺、ミラの入学式には行けないかもです・・・」

「えーーーっ?なんでよ?せっかく私のカワイイ制服姿見せてあげようとおもってたのにぃ」

 ミラがすかさず反応した。

「・・・・」

「なんで黙るのよっ!」

 いや、ここは黙るところでしょ・・。

「何か事情があるのかしら」

「実は俺の近衛隊入隊式がミラの入学式の前日で、とても忙しくなるから式典後2週間程は何も予定を入れるなってアルベールさんに言われてて・・・」

「あらあら、そうなのねぇ残念ねぇ・・・」

「すみません・・・」

「謝る事なんてないわ、でも困ったわねぇ」

「何が困ったの?お母さん」

「だってミラ、入学式は殆ど貴族の方達ばっかりで誰も知り合いもいないのよ。タケルがいないとちょっと不安だわ・・・」

 イネスの不安ももっともだ。さっきの校長の態度もそうだが貴族社会はなにかと面倒事が多い。憧れの王都学校に入学は出来たがミラはこの先そういった苦労に直面していく事になる。

「う~ん・・・知り合いかぁ・・・騎士団にはけっこう知り合いができたんだけどなぁ・・・」

 またカオの広そうなテオさんのツテでなんとか・・・。

「・・・は!。いた!」

「ん?」

「??」

「知り合い!イネスさんとミラをよろしくって頼んでおくよ!」

「タケル、学校に知り合いなんているの??」

「うん!大丈夫、何とかなると思う。それよりミラ、靴を買いに行こう!」

「え?靴?!買ってくれるの?!」

「うん、制服にサンダルじゃ合わないからな」

 ミラはびっくりしたように目を見開き、飛び上がって喜んだ。

「流石近衛隊お金持ちねっ!」

「はっはっは。イネスさんの服もね!」

「ええ?私のもいいの?」

「だって、入学式にミラだけ着飾っていくのもおかしいでしょ?」

「・・・有難うねタケル」

「いえいえ、あはは」

「タケル、私からひとつお願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」

「なんですか??」

「その、私に敬語を使うのはやめてほしいの。タケルはいつもとの世界に帰るかわからないけど、ここに居る間は家族だから」

「あ・・・ああ・・・、わかりました・・じゃなくて、わかった。そうするよ。有難うイネスさん」

「あら~、”お母さん”でもいいのよ~?」

「そ、それは・・・ちょっと、なんていうか恥ずかしいっていうか・・・」

 ”お母さん”という言葉は母親を知らないタケルにはなかなか言いづらい。抵抗があるわけではないが、何とも言えない恥ずかしさがある。

「あーーっ!タケル、顔が赤くなったっ!」

「う、うるさいっ!!」

「私には敬語でよろしくってよ?」

 ミラがタケルの右腕に両手を絡めて言った。

「お、お嬢様、オヘソが曲がっておいでですよ」

「ムキ!なんですってっ!」

 タケルの耳を引っ張るミラ。

「いててててっっ!!」

「うふふ」

 本当の兄妹みたいに仲良くなった二人をイネスは微笑ましく、嬉しく思った。



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