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逆境から始まる乙女ゲーの最強ラスボス兄妹の片割れに転生した僕は妹の運命を変えたいと願う

作者: モミアゲ

「こ、これは一体っ!?」


 大きな屋敷の中庭で僕を囲む大人達が動揺して騒いでいる。ちょっとみっともないとさえ思える反応の理由は僕が手にした懐中時計。針が逆向きに進んでいるのを見ながら心の中で呟く。


 あっ、僕ってゲームの世界に転生したんだ。


 僕の名前はロノス・クヴァイル。年齢は十歳で、さっき思い出した前世では交通事故で死んだ……と思う。八歳上のお姉ちゃんと二歳下の妹と買い物に出掛けた時にトラックが突っ込んで来て、お姉ちゃんが咄嗟に僕達を抱き締めて庇った所までは覚えている。


 それでこの世界なんだけれど、今の僕が持っている記憶や知識と、お姉ちゃんがリビングのテレビで散々やっていた上に知りたくもないのに語っていたゲームの設定とかがまるっきり同じなんだ。


 ゲームのタイトルは『魔女の楽園』……だったかな? この世界じゃ皆何か一つ魔法の属性を持っているんだけれど、悪魔憑きとか魔女とかって怖がられる『闇』を持って生まれた女の子が学園に入って、色々な男の人の好感度を稼いで仲良くなるRPGだった筈。お姉ちゃんは乙女ゲーって言ってた。


 売り文句は”逆境から始まる恋物語”。癒し枠の先生以外のキャラの初期好感度は軒並みマイナスからの開始。その位嫌われているのが闇で、僕だって今の僕の部分が嫌って感じてるよ。


「と、兎に角旦那様にお伝えしなくては!」


 慌てて執事のセバスチャンが走って行く。だって今やっているのは属性を測る儀式なんだけれど、僕が出した結果は認識されているどの属性にも当てはまらないから。


 今、僕は前世と今世が混ざった状態なんだけれど、前世の知識があるせいでロノスの部分が戸惑っている。だって僕の属性は『時』なんだから。



 どうして知っているかって言うとロノスは二人居るラスボスの片方。そして隠し攻略キャラだってお姉ちゃんは語っていた。解放の為には二人同時に挑むルートをクリアしなくちゃ駄目で、ルート限定の隠しボス相手には必要だとか何とか。


 ……面倒だなぁ。隠しボスって実はラスボス兄妹を騙して利用していた神様らしいし、お姉ちゃんが言うには有料の装備アイテムで得る成長ボーナスを注ぎ込んだ上にレベルをカンストさせて漸く勝機が見えるらしいし、そんなのが居る世界って嫌だ。


 それに片方のラスボスだって今の僕の双子の妹だし、前の妹と同じくロノスとの家族仲は悪くなかったし……。


 ああ、そうだ! 今の妹のリアスは『光』を属性として生まれて聖女とかって崇められていた悪役らしいし、僕がゲームとは違う対応をすれば良いのかな? 変に甘やかさないようにしつつ仲良くするんだ。


 だって今の僕は決まったお話を終える間だけ存在するキャラじゃないから、ゲームの話が終わってもロノスとしての人生は続く。前の僕じゃなく、今の僕がどう生きるかが重要だよね。


……十歳でこんな考えが出来るのもロノスの部分のお陰だ。ゲームでは一定ターン何も出来ない時間停止状態に確率でなる全体魔法を使ったり、補助魔法や回復魔法を使うと確率で使用前の状態にして来たりと戦闘面で優秀だけれど、神童って呼ばれていたって設定なのはお姉ちゃんが話していた。あと、先に妹を倒した場合は次のターンから防御不可能の即死攻撃を放って来るらしい。


 そんなロノスの最期は、力を暴走させて死んだ妹の死体に寄り添って崩れるダンジョンに残り続ける。一人で死ぬのは寂しいだろうから一緒に居てやるって言って。唯一二人が生き残るのはロノスのルートだけなんだ。


 お姉ちゃんはゲームを元にした小説をネットに投稿してたけれど、便利キャラとして使い勝手が良いとも言ってたよね。



「前の妹は良い子だったけど、上手く行くかなぁ……」


 僕はお兄ちゃんだけれど妹の運命を変えてやれるのか少し心配。だって最後は死んじゃうもん。僕だけじゃなくてお姉ちゃんや妹も交通事故で死んだと思うと泣きそうなのに、今の妹まで死なせたくないって前の僕もロノスとしての僕も強く思う。


 ……取り敢えず悪い神様に騙されないようにしないとね。お姉ちゃんが語ってくれた事、役立ちそうだから思い出さないと。えっと、確か……。



「ふへへへへ。これで逆ハールート達成! スチル解放!」


 うん。これは役に立たないや。



 それからの僕なんだけれど、魔法のお勉強を頑張る事にしたんだ。この世界の魔法って魔力をイメージで属性の形にするって感じらしいけれど、僕の『時』は古い記録にさえ僅かに残っている位で家庭教師の先生もどう教えて良いのか分からない。


 ……原作でロノスが使う魔法が強力だけれど数が少なかった理由はそれって設定らしい。でも、お姉ちゃんがオタクだったからアニメDVDとか漫画とか沢山持っていたし、それを参考にすれば良いかな?


「お兄ちゃ……お兄様。一緒に頑張ろ……りましょう」


「こらこら。今は良いけど、父上達の前では口調はちゃんとしよう」


「むー! 誰も居ないんだから良いじゃない」


 あっ、そうそう。リアスの心配をしていたけれど無駄だった。えっとね。今の妹って前の妹だったんだ。僕と同じ状態で、記憶が戻ったのは死んだ時と同じ八歳。僕と同じ事を考えてたんだけれど、前世で特徴的な音痴って呼ばれていた僕が何となくアニメソングを口ずさんでいたのを聞いて、もしかしてって確かめたら正解だったんだ。


 そのせいで猫被るのを忘れて前の口調が出ちゃうのが困るよね。でも、八歳からずっと一人で頑張って来たんだ。今のお兄ちゃんとしても前のお兄ちゃんとしても力になってやれなかったのは悔しいな。


「うん。頑張ろう」


 だからこれからは絶対に守るんだ。だってお兄ちゃんだもん!


「悪い神様を倒す為に強くならなくちゃ……ならなくては」


 僕達はゲームの僕達みたいに悪い神様には騙されない。でも、別の人を利用するかも知れないし、だったら主人公と仲良くなって倒しちゃおうって決めたんだ。



「……お姉ちゃんも来ているのかな?」


「案外主人公だったりかも……」


 そうだったら良いのにな。……神様が僕達に接触するのは原作が始まってから。なら、今は原作に出てきた人達と仲良くしつつ強くなるのが先決だ!





 ……だったんだけれど、攻略本見ながら進めれば上手く行くゲームじゃないんだから、同じ会話でも気分とか僅かな状況で相手の受け取り方が変わって来る。バタ……バタフライエフェクト? 確かそんな感じ。だって今の僕達は前の僕達が混ざっているしさ。


 簡単に説明すると僕達は原作の舞台だった”アリエル学院”に入学したんだけれど、留学生だったのを忘れていたから(だって実際プレイしてないし)、他の国の貴族や王族と気軽に出会えないんだ。だって他の国に簡単には行けないし。


 結果、攻略キャラ達とは学園で初対面になるし、クラスも違う上に派閥とか国の兼ね合いとかで色々面倒だ。今の僕が思うにゲームでの僕達は思い上がって後先考えて無かったんだろうね。聖女の名前でねじ伏せられるって楽観視してさ。……無事に終わっても将来はお粗末だったと思うよ。


「……あの、さっきから何か?」


「いや、何でもないよ」


 僕の目の前に座っているのは黒髪で黒い瞳の女の子。少し陰のある感じだけれど可愛い子だよ。リアスが金髪碧眼で明るい感じの可愛さだけれど、この子は落ち着いた感じかな?



「……見ろよ。また魔女が付きまとってるぞ」


「ロノス様もお人好しよね」


 聞こえよがしにヒソヒソ話をする周囲の生徒。はい、そうです。目の前の子が主人公である。名前はアリアさん。あっ、悪口が聞こえて落ち込んで

るね。これは励まさなくては。だって友達だし。


「……嫉妬だと思うよ? 希有な力と高い才能を持った君へのね。ならやるべき事は一つだけ。もっと頑張って才能を磨こうか。絵の上手い友達には嫉妬しても国宝級の画家には嫉妬しないみたいに、嫉妬するのが馬鹿馬鹿しいと思う位にさ」


「は、はい! 頑張ります!」


「じゃあ、放課後はダンジョンで鍛えて、その後でお茶にしようか。リアスが喫茶店に行きたいって言ってたしさ」


「が、頑張ります……」


 アリアさんには悪いけれど、ストーリー上の敵で実際に現れたら不味い奴って闇に弱いのが多いし、強くなって貰わないと。……イベント上で彼女が居ないと死んでたであろう人の中には他の友達だっているしね。



 そもそも彼女と僕がこんな風に仲良くしている理由だけれど、それは入学当日まで遡るんだ。あれは原作の仲間キャラであろう人達に挨拶をしながら歩いていた時の事だった。


「お兄ちゃ……様。最初の相性イベントは誰になると思います? ゲーム通りに進むならの話ですが」


「そうだね。実は詳しく覚えていないけれど、ストーリー通りに進んだ場合、誰かでルートが変わるから困るよ。……僕達、記憶が穴だらけだし」


 他の人には聞こえない程度の声で話しながら目を向けたのは道の横から伸びた階段。桜っぽい花が咲く木に囲まれていて、あの階段で主人公が足を踏み外して転びそうになるんだ。


 でもゲーム開始時にある相性診断の選択肢によって攻略キャラの一人が助けてくれて、そのキャラの初期好感度は0で済む。キャラの好感度でその後巻き込まれるイベントも変わるし、起きるであろうイベント次第じゃ出方も違って……。


「きゃあっ!?」


「……あれ?」


 今、階段で足を踏み外して転んだのってもしかしてって主人公のアリア? あの黒髪からして間違いないよね? でも、誰も受け止めなかったし、転んだ彼女に手を差し伸べる人も居ない。



「ちょっと大丈夫? ほら、足を見せなさい。捻挫程度なら直ぐに治せるから」


「服が汚れちゃってるね。直ぐに巻き戻すよ。……ついでに傷も戻した方が早かったかな?」


 そう。僕達を除いて。だって目の前で転んだ人が居て、痛そうに呻いているのに助けないって選択肢は無いよね。それにしても誰も受け止めなかったのは……あっ。


 ああ、そうだ。原作の僕は我が儘で傲慢な妹の世話を焼いてばかりで他の人との交流が少なかったけど、僕達は挨拶とかしたからね。ゲーム通りに進んでいた筈だとしても、その変化でタイムラグが生じたんだ。


 まさかのミスだけれど、これを切っ掛けにアリアさんとは仲良くなった。最初は利用する気だったけど、接していたら本当の友達になっちゃうし、友達なら力になりたいじゃないか。



 その結果、今まで迫害同然の扱いをされていたのに優しくされた彼女は僕達と仲良くなり……他の人との親交が深められていないんだ。あっ、先生は別ね。友達と頼れる大人って別物だし。……うーん、どうしよう? 




 ……ああ、ちょっと残念なのはお姉ちゃんらしき人とは出会わない事。アリアさんが実はそれなのを期待していたのにさ。友達相手にこんな事を思うのは最低だな……。



「そう言えばそろそろ一年生歓迎のパーティーですね! あ、あの……」


 何か言いたそうな彼女だけれど、大体分かる。ペアを組んでダンスを踊るんだけれど、余った人は先生とってのは少し恥ずかしいからね。友達だから遠慮なんて不要なのにさ。


「うん。一緒に踊ろうか。……リアスは大変だろうなぁ」


 アリアさんが他の人との仲を深められていないのを心配したリアスは策を講じる事にした。”友達の友達は友達作戦”、まあ、友達になってアリアさんを友達として紹介するって内容なんだけれど、リアス、お姉ちゃんが頑張っていた逆ハールートに進みそうで厄介。将来火種になりそうだな。略奪愛とか修羅場とかさ……。




 それよりも心配なのは隠しボスだよね。そのパーティー当日に兄妹に接触して来るんだ。その名もテュラ。大勢の神様達が封印し忘れ去られた悪神。封印が半分残った状態でも無類に強さを誇る。……敵になった場合、ゲームと違って挑む人数に制限なんてないし、数の力に質も併せて絶対に倒してやる。


 友達の、そして家族の未来は僕達で守るんだ。




 ……そして、その時がやって来た。僕とリアスが二人っきりの時、突然頭の中に声が響いたんだ。







「ふへへへへ! 生ロノスとリアスだ。眼福眼福。……っと、駄目駄目。あの子達が来ているなら探したいし、ちゃんとしないと。折角こんな体で目覚めたんだし利用出来る物は利用するって決めたじゃない。でも、あまり悪い事したら姉として合わせる顔が……こほん。我が名はテュラ。古の神なり」



 ……あれぇ? あの、もしかしてテュラって……。


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[一言] ・・・おっと最後のところは・・・笑
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